みんな大好き!『ゆるキャン△』という作品について今さらながら考えてみた。漫画、アニメ、ドラマ、映画、さらには数えきれないほどのコラボレーションやタイアップイベントなど、その展開・拡大力には衰える気配が全くない。

アウトドア業界からも「冬のキャンプを変えた」「オフシーズンがなくなった」という声が聞かれるほど、この作品の影響力は大きい。これはバイク業界にも当てはまることで、第12世代バイクブームの若者やバイクとは無縁だった新規需要層がバイクに興味を持つきっかけにもなっている。

今回は、芳文社発行の原作漫画を基に、この『ゆるキャン△』について考察したい。

『ゆるキャン△』とは何か? あらすじは?

『ゆるキャン△』(芳文社):コミックス11巻・表紙カバーより引用

原作は芳文社「まんがタイムきららフォワード」で2015年から連載を始め、現在は同社の漫画配信サイト「COMIC FUZ」に移籍して連載を継続中だ。漫画単行本は現時点で14巻、アニメ映画化や実写ドラマ化もされており、TVアニメは第3期が制作決定したところだ。

なので、ネタバレになるようなことは書けないが、どんな物語なのか “今北産業”で言うと…

山梨県の女子高生が
キャンプを楽しむ
ゆるふわ日常系マンガ

ということになるだろう。
主人公は「志摩リン」というソロキャンプが好きなクールタイプの女子高生。本栖湖畔でのキャンプ中に山梨県に引っ越してきたばかりの同級生「各務原(かがみはら)なでしこ」と出会うことで物語が始まっていく。

主人公の志摩リン/『ゆるキャン△』(芳文社):コミックス1巻・3ページより引用

もうひとりの主人公、各務原なでしこ/『ゆるキャン△』(芳文社):コミックス5巻・3ページより引用

さらに、同じ学校に通う野外活動サークル(通称、野クル)の「大垣千明」「犬山あおい」、志摩リンの友人「斉藤恵那」といった女の子たちが、キャンプやアウトドアを楽しみながらいろいろなことを経験して少しずつ成長していくという日常系ストーリーだ。

これまでのマンガとは、ここが違う!

『ゆるキャン△』(芳文社):コミックス2巻・25ページより引用

特筆すべきは、志摩リンがソロキャンパーとして、あくまで個の存在で立っていること。こういう作品のお約束だと、登場人物が次々に野クルのメンバーになって、そこを中心に話が進んでいくものだが、志摩リンはそのメンバーには入らない。なので話の舞台はほとんどが学外で、学校中心にはならない。

けれど、志摩リンは野クルのメンバーらと一緒にキャンプをすることもある。ローンウルフというわけでもない。自分のポリシーやひとりの時間を大事にしつつも、SNSを使ってやり取りするし、他者の提案につき合うといった寛容さも備えている。適度な距離を置きながら仲間を増やしていくというのが、まさに今風の主人公だ。

この辺が、これまでのアウトドア系かつ大人(おじさん)の趣味系作品とは大きく違うなと感じる。同級生の中ではベテランソロキャンパーという視点で描かれる志摩リンの言動には、ベテランツーリングライダーが共感できるようなことも多く、そのコミュニケーション力から学ぶ点も多い。

『ゆるキャン△』(芳文社):コミックス2巻・35ページより引用

一方、野クルのメンバーとなったなでしこの言動からは、ビギナーキャンパーという立場から描かれる自然な発見や感動が、それまでキャンプに関心がなかった人にも「自分もやってみようかな」と思わせてくれ、こちらも併せて魅力的だ。

移動の足もない、お金もない、普通に考えれば大変なことが多いのに、彼女らはアルバイトをしながらキャンプ用品を買い、山梨県を飛び出して近隣他県にも出かけていく。高校生にとってはちょっとした冒険だが、そうした日常があくまでもゆるっとまったりと心地よく描かれていく。

fろ先生の描く絵のタッチ、線の使い方も独特で、光や空気、風が感じられる印象的なものだ。この空気感は漫画でないと体感できないと思うので、まだアニメしか見ていないという方は、ぜひ漫画原作も読んでみてほしい。ライダーやキャンパーが普段感じている景色やそこに漂う空気感に癒されるはずだ。

『ゆるキャン△』のここがスゴい!

『ゆるキャン△』(芳文社):コミックス1巻・129ページより引用

この作品は凄いところが多すぎて、ここでは書き切れないけれど、特に以下の3つを挙げたい。なんかやたらと凄そうに書いちゃったけど、こうした描写や設定がしっかり現実感を持って落とし込まれているので、読み手も自然に受け入れられるし、キャンプやバイクを始めようという人にも無理がない。

キャンプの価値観を変えた

アニメ放送のあと、冬場のキャンプ場の利用者数が全国で増えたという。当たり前だけど冬場のキャンプはかなりしんどい。「虫がいない」「汗をかかない」「雨が少なく晴れが多い」といったメリットもあるが、とにかく「寒い」からだ。

こうした点については、作品中でもキャラクターにしっかりとした使用温度設定のシュラフ(マイナス気温でも快適に寝られる寝袋)を用意させるなど、難しい冬キャンプのノウハウを数多く描くことでフォローされている。

ソロ派(おひとり様)の価値観を変えた

志摩リンはひとりで行動することが多いのでソロキャンプの描写がメインになるし、原付スクーターで出かけるようになると、ソロキャンプツーリングの描写が増えていく。日常系マンガで、女の子がひとりでキャンプツーリングをする。この描写が若年層に与えた影響は計り知れないだろう。

キャンプは楽しくワイワイ、なんなら「時代はグランピングだぜ!(by陽キャ)」となっていた近年のキャンプイメージに対して、まさにカウンターカルチャーとも言うべき衝撃を与えたのだ。

なお、『ゆるキャン△』ブーム以降は、キャンプ用品の各社ラインナップにもソロ用のものが目に見えて充実するようになった。これはツーリングライダーにも嬉しい恩恵だった。

環境設定がリアル! 山梨県の交通事情も反映?

志摩リンはバイク一家で育っている。両親はもともとバイク乗りで、志摩リンがバイクに乗ることを案じてもいるが、止めることはない。母方の祖父は大型バイクでキャンプツーリングを楽しむヒゲの紳士で、キャンプやバイクに関して志摩リンをサポートしてくれる存在だ。

ちなみに、現実世界の話をすると、山梨県の高校生の原付免許取得率は全国1位(26%・2020年)だが、これは公共交通の不便さの裏返しでもある。志摩リンやなでしこらもこうした環境で生活しており、この作品には、自転車、バイク、クルマといった日常生活の足が登場人物の移動の足、レジャーの足としてしっかり描写されている。

作者のあfろ先生は実際に山梨県の甲府市在住ということで、日常的な風景をしっかり漫画に落とし込んでいることがリアルな設定につながっているのだろう。

『ゆるキャン△』が来れば人も来る! アニメツーリズムの騎手

舞台の中心となるのは山梨県の身延町(みのぶちょう)とその周辺。物語に出てくるお店や施設の名称は一部を書き換える形で使われているが、モデルとなった建物などは実物とほぼ同じ外観で描写されており、いわゆる聖地巡礼でも迷うことはないだろう。

登場する各施設には、実際にあfろ先生が取材に行っているようで、周辺の道路や景色などの描写はかなり緻密だ。上の写真は、志摩リンが訪れた山梨県の峡南地区、早川町にある「町営 奈良田の里温泉 女帝の湯」。早川町は南アルプスの東側に位置する日本で一番人口の少ない町で、陸の孤島のようなどん詰まりに位置するが、ここにもファンが大勢訪れているという。梨っ子町めぐり「ご当地ステッカー」(下写真)の販売場所にもなっていた。
犬山あおいのアルバイト先という設定のスーパー「フレスポみのぶ(作中ではスーパーマーケット ゼブラ)」には、ゆるキャン関連グッズのコーナーまで置かれており、他ではまず見られない光景となっていて、ファン垂涎のスポットになっている。

 山梨県から隣県へ! 波及効果が広がっていく

原作の話が進むにつれ、志摩リンらは活動範囲を広げていく。バイクどころの浜松市や秘境の宝庫である奥静岡(オクシズ)、ライダーの聖地伊豆半島といった県外エリアも登場するが、登場人物が立ち寄ったスポットやお店にもすでに多くのファンが訪れており、観光振興や地域活性化への影響が非常に大きい作品として認知されている。

『ゆるキャン△』(芳文社):コミックス9巻・43ページより引用

遠く離れた西伊豆でも、メンバーらが食事をした「堂ヶ島食堂(作中では西伊豆食堂)」には単行本が並んでいた。オーナーの鈴木さんの話では、あfろ先生が取材に来ていたことは知らなかったとのこと。ちなみに、鈴木さんは濃~いバイク乗りで、ライダーズスポットでもある。

作品に登場! バイク業界もビッグウェーブに乗る!?

「アニメ『ゆるキャン△』シリーズ公式」ツイッター(2018年10月29日ツイート)より引用

『ゆるキャン△』とバイクと言えば、志摩リンの愛車のモデルになっているヤマハ「ビーノ」。ヤマハは志摩リン仕様のビーノを製作してキャンペーンプレゼントを企画したり(上写真)、サウナ企画では志摩リン×トリシティの専用漫画をあfろ先生に描き下ろしで依頼するなど、しっかりこのビッグウェーブに乗っている感じだ。

【関連リンク】ゆるキャン△SPECIAL EPISODE サウナとごはんと三輪バイク

なお、なでしこの浜松在住時の友人「土岐綾乃」はホンダ「エイプ100」をモデルとした原付二種バイクに乗っているが、ホンダが乗っかる気配はない。ただし、土岐綾乃はツイッター界隈ではめちゃめちゃ人気があることで知られている(おしるこ的に)。

2人でオクシズツーリングを楽しむ土岐綾乃(エイプ100)と志摩リン(ビーノ)/『ゆるキャン△』(芳文社):コミックス11巻・109ページより引用

また、2022年に公開された映画『ゆるキャン△』では、約10年後の世界が描かれており、社会人となった志摩リンは祖父から譲り受けたトライアンフ「スラクストン1200R」をモデルとした愛車に乗り、なでしこはスズキ「ジムニーXC」をモデルとしたクルマに乗っている。

ちなみに、土岐綾乃はナップス(劇中ではHAPS)をモデルとしたバイク用品店で働いていて、バイク乗りならついニンマリしてしまうシーンもある(笑) あfろ先生はバイク好き、クルマ好きということなので、バイク・クルマ関連の描写とそのディティールにはこだわりが見られ、そういう視点でも話題となっている。

個人的に好きな点は「バイクが自然に利用されている」こと

 最後に、この作品全体を通して個人的に好きな点を挙げたい。それは、志摩リンが自転車から原付一種スクーターに乗り換え、行動範囲を広げてキャンプを楽しんでいる描写がとても自然に描かれていること。つまりは、バイクが自然に利用されていることだ。

免許取得時の描写はないので、なぜ、どのように志摩リンが免許を取ったのかはわからないが、バイク通学を思わせるシーンがあるので、山梨県の高校生の実情に沿った設定と言えるだろう。

生活に必要な足として、さらには行動範囲を広げてキャンプやレジャーもスケールアップして楽しませてくれる。小さな原付一種スクーターの存在の大きさを改めて見せてくれたのが志摩リンとビーノなのだ。

映画版の設定が原作版の将来像ならば、志摩リンは大型二輪免許を取得して、高速道路を使ったロングツーリングも楽しんでいるようで、今後の展開に期待がもてるのも嬉しい。

ただひとつ、志摩リンが名古屋の出版社に勤めて、営業部(広告?)から編集部に異動し、真っ暗なオフィスでひとり残業している姿にはちょっとドキドキしてしまった。「志摩リン、編集部に来ちゃだめだよ~。お休みなくなってキャンプできなくなっちゃうよ~!」と心の中で叫んだのは内緒だ(笑)

【参考リンク】
●アニメ『ゆるキャン△』ポータルサイト https://yurucamp.jp/
●映画『ゆるキャン△』公式サイト https://yurucamp.jp/cinema/
●芳文社の作品紹介サイトはコチラ

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