編集長のつらさを軽減してくれたのはBMWボクサーツインの「禅」効果?

ふらっと出発してさっと帰宅するツーリングに『ヤングマシン』編集長時代によく行っていた。私は千葉出身で、気の向くままに走る時はどうしても千葉にしか足が向かず、いつの間にかお決まりのルートが確立していた。R100GSのボクサーツインの鼓動を感じながら無心になれる時間にかなり救われていたのだと、今振り返るとそう思う。

この鼓動感は「パルス感」とも表現できるもので、もっぱらR100GSに乗る時間はこれを味わうことが目的だった。近年ビジネスマンに流行しているというカジュアルな禅=マインドフルネスは、雑念を捨て去り自分の呼吸など「今ここ」にのみに意識を集中させるそうだが、GSとの時間はまさにそれ。鼓動感にのみ集中して走る「禅」効果がストレスを軽減してくれたのだ。

私のR100GSは1988年式で、見ての通りエンジンは水平対向2気筒のボクサーツインを搭載している。この世代のエンジンはOHV2バルブなのでOHVや2バルブボクサーと呼ばれる。

初めてボクサーツインのフィーリングに感動したのは、1998年に『ビッグバイククルージン(BBC)』のBMW特集で駆り出された時。「パルス感」はその時の諸先輩の表現を借りたもので、ハーレーやSRのようにドコドコしたものではない。といって並列4気筒のような高周波のビリビリしたものでもない。表現するならビョーンという感じだ。

まるでバイクがゴムひもに引っ張られるようにビョーンと息の長い加速をしていき、ボクサーツインのエンジンから比較的細かい振動が伝わるのだ。特に気に入ったR1100GSとR1100RTは防風性に優れ、高速巡行でも体に負担を受けずにこの気持ちよさが味わえるのでずっと走り続けていたいと本気で思った。また、それまでバイクでそのような体験をしたことがなかったので、強烈に印象に残ったことを憶えている。

BBCでの経験から後にR1100RSを購入。同車に乗りツーリング記事を掲載していた『ライダースクラブ』の根本健編集長(当時)の記事にも影響されたと思う。

4気筒モデルが充実し廃盤になるともウワサされたボクサーツインだが、BMWは継続を決断し1993年に新世代ボクサーツインを搭載したR1100RS(右)が登場。後の私の愛車である。

全面アップデートされた新世代ボクサーは、縦置きクランク&コンパクトドライブの伝統を受け継ぎつつ吸気をFIとしOHC4バルブヘッドで高性能化された。R1100RSは1085ccで90PSを発揮。

「俺はOHVボクサーの方がいい!」という 辻司さんの主張を確かめたい

しかし、R1100系は気持ちよさが味わえる速度域が高く、「日本でBMWを味わうには免許証が危険」ともBBC取材時に和智カメラマンは言っていた。ビョーンという加速、淡々と走るクルージングと一体で味わえるパルス感はバイクを開発しているその土地で醸成されるものとも知ったのだ。

和智さんはBMWの良さを認めつつ、ハーレーに乗っていた。それぞれのバイクには気持ち良く走れる速度域があり、ハーレーはアメリカの制限速度に合わせた55マイル(88km/h)が基準だという。これなら日本の交通事情でも狙ったフィーリングが存分に味わえるという訳だ(これは1990年代末の話で今のハーレーは結構速い)。

ハーレーとは対照的にBMWはドイツの製品。アウトバーンがあり、1日1000kmもの距離をツーリングすることがあるという欧州のスタイルに合わせたモデルなので、いくらいいフィーリングでも日本の交通事情では味わい切れない部分が残されてしまう。

取材時に「俺はOHVの方がいい!」とつぶやいていた辻司さんの言いたいことは、こういうことだったのだと思う。諸先輩方は「うんうん」という反応。BBC編集長の高橋さんは、アウトバーンでの取材でR100RSがバルブサージングを起こしたエピソードを語り出し、2時間に渡る対談を原稿にまとめた私の頭にOHVボクサーが刷り込まれたのだ。

発売されたBBCは1998年12月発行のNo.41。表紙はジャーナリストの辻司さんで撮影は和智カメラマン。ボクサーツインは「古くさい」と捨てられかけた後に1100で復活し、再び勢力を拡大していた頃の特集だ。

こちらは旧世代のOHV2バルブボクサー。1990年代まで生き残ったR100Rのもので私のR100GSとほぼ同じ仕様。取材を通して過去のモデルに興味が湧くことはよくある。

ボクサーツインってエンジンが横に張り出してジャマじゃないの?

BBCの取材から15年後、R1100RSを経てついに私はOHVボクサーのR100GSを手に入れた。当時取材した企画は「BMWの本質」というタイトルで誌面化されたが、ミイラ取りがミイラになるとはこの事で編集者の私が最も影響された読者になったと思う。なぜGSにしたかというと、辻さんがR100GSパリダカールに乗っていた影響がかなり大きい。

そして、OHVボクサーは4バルブに比べると「俺はOHVの方がいい!」と辻さんが主張していた通りだと思う。設計が古くても日本の交通事情プラスアルファの性能があるので、決して遅すぎない。高速では法定速度で余裕のある走りができる上、一般道の方が高速よりも楽しめるのが素晴らしい。一番はパルス感が4バルブよりも味わいが濃く、どんな場面で走っていてもとにかく気持ちがいいのだ。

余談としてもう一つ付け加えると、ボクサーツインにはロマンがある。バイクで航空機由来のメーカーはカワサキとBMWしかなく、ボクサーツインはその技術を受け継ぐ末裔と言える存在。BMWのエンブレムは回転するプロペラがモチーフと言われており、プロペラ機が搭載していた星形エンジンをシンプルにした形がボクサーツインなのだ。

そんな思い込みもあってボクサーの左右に張り出したエンジンは決してジャマではなく、これはかつて空を飛んでいたことの貴重な名残、これがなくては意味がないとすら感じられるようになった。排気音が「ブ~~ン」と耳に響くのはメカニズムが星形エンジンに近いからなのか、プロペラ機に乗っているような気分になれるところもボクサーツインならでは楽しさと言える。

こちらは1923年のR32から90周年を迎えた2013年に発行されたBMWモトラッド記念冊子の一枚。エンジンが横に張り出しているからこそ、こんな気分に浸れる!

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