高校生のために県が開催するバイク講習会

▲朝一番の受付(8:40~9:00)の様子。講習会の資料や啓発グッズ、冷えた飲料と熱中症予防タブレットなどが配布されている。任意だが実技講習中の事故に備えた保険加入(200円)への説明も行われる


2019年に三ない運動から交通安全教育に転換した埼玉県。埼玉県教育委員会(県教委)主催による講習会「高校生の自動二輪車等の交通安全講習 」も6年目を迎えている。

講習内容は昨年度から大きな変更はなく踏襲する形となったので、ここでは詳しい説明はしない。気になる方は昨年の掲載記事を読んでほしい。

【昨年度(2023年)記事】
5年目を迎えた埼玉県の高校生講習! 改善と進化が続く!<前編>
5年目を迎えた埼玉県の高校生講習! 改善と進化が続く!<後編>
【埼玉県】高校生の交通安全講習 ’23年は電動キックボードも題材に

本記事で紹介したいのは、主催の埼玉県教育委員会と後援の埼玉県警察本部がその場で何を伝えようとしているのかということだ。約38年間という長い年月、強固に三ない運動を実施してきた埼玉県が、いま生徒に何を伝えているのかを知ってほしい。

▲秩父地域はバイク通学が許可されているので複数回にわたって講習会が行われる。バイク通学は原付一種に限られているが、プライベートで乗っている125~400ccクラスで参加する生徒もいる


なお、本講習会の建て付け・メンバーについても記しておく。
○主催:埼玉県教育委員会
○共催:一般社団法人 埼玉県指定自動車教習所協会
○後援:埼玉県警察本部、一般財団法人 埼玉県交通安全協会、一般社団法人 埼玉県二輪車普及安全協会、埼玉県高等学校安全教育研究会、埼玉県交通安全対策協議会

開校式で教育委員会が生徒に伝えたことは?

▲開校式では埼玉県教育委員会からの挨拶の中で県内の事故状況や講習の狙い・目的について説明が行われる


講習会の始めに行われる開校式では、毎回、県教委からの挨拶がある。ここでは昨年の県内事故状況、講習会の狙いや目的が参加生徒に伝えられる。短い挨拶だが、大切なことが全て詰まっているので要約して書き記す。

「令和5年中、県内における二輪車の交通事故はなんと2,331件ありました。1日あたり6件以上発生している計算になります。さらに残念ながら33名の方が亡くなっています。幸いにも昨年は高校生の二輪車事故による死亡事故は発生していません(2年連続)。事故件数も減少傾向です。

この講習は皆さんに交通社会の一員としての自覚を持ってもらうことより安全にバイクの運転をしてもらうこといざという時のために人を助けられる必要な知識や技能を身につけてもらうこと。この3点を目的として、実技講習のほかに交通安全に関する講義や救急救命法の実習も用意しています。

そして何よりも大切なことは、自分の命を守ると同時に他人の命を守ることです。

ぜひ今日は、バイクを安全に運転するための知識や技能をしっかり身につけてください。」

▲埼玉県警察本部による講義の中ではグラフを用いて説明された


開校式で県教委が生徒に伝えた内容は以上となる。講習会の内容にも反映されている3つの目的と、何よりも大切なこととして、自分と他人の命を守ることを伝えている。乗り物に乗って公道に出るということは、自分の命や他人の命のことを常に考える必要があり(自覚)、そのために安全運転のための知識や技能が求められるということだ。

警察本部が教えていることは多岐に渡る

▲グループ分けが行われたあとにビブスを着けて実技講習が始まる。教えてくれるのは交通部交通機動隊の白バイ隊員


次に、埼玉県警察本部が生徒に伝えていること、教えていることについて説明したい。警察本部は実技講習と講義の両方を担当している。

実技講習(90分)

▲ニーグリップをすることでバイクが安定し、上半身(特に頭・目線)を自由にすることができるようになる


実技講習は「ブタと燃料」を主とした日常点検と乗車姿勢について、自動二輪と原付のそれぞれのポイントを踏まえつつ行われる。

さらに、安全装具のポイントについても説明があり、ヘルメットのあごひも締結の重要性とポイント、胸部などプロテクターの重要性、エアバッグベストの実演体験(代表者)なども行われる。

▲ヘルメットのあごひもをしっかり結び、転倒・事故時にヘルメットが脱落しないようにしておくことの重要性を教える

 

▲代表生徒がエアバッグベストの作動を実体験。エアバッグは車体とワイヤーで連結されており、体が車体から離れた瞬間にガス圧で瞬間膨張する仕組み


体操の後は、埼玉県交通安全協会二輪車安全運転推進委員会(二推)の二輪車安全運転指導員が主となりバイクの運転講習となる。

▲全員でコースを歩きながら各課題の説明を受ける。お手本は白バイ隊員が自動二輪と原付一種の両方で見せてくれる(写真は定速旋回)


教習所のコースを使って、ブレーキング(目標制動)、バランス(低速走行 ※遅乗り)、パイロンスラローム、パイロン千鳥走行、坂道発進、Uターン、コーナリング(定速旋回)、右直・出会い頭事故の想定(交差点で再現 ※一時停止・左右確認等)が盛り込まれたコースを時間のある限り体験・練習する。

▲見通しの悪い交差点で左折する際のお手本。停止線がある場合は一時停止してからゆっくりと進み左右を確認してから発進

 

▲右直事故を想定したデモンストレーションの様子。右折待ちのトラックのそばを通過する際の確認(歩行者や対向右折四輪車)をしてから交差点に進入する

講義(45分)

▲教習所の教室で行われる講義「二輪車安全講習」の講義は埼玉県警察本部交通部交通総務課が担当している


講義では、県内交通事故の現状、交通事故を起こした場合の3つの責任(刑事的・民事的・行政的)、二輪車の特性に応じた運転(速度、死角と内輪差)、交通事故を起こした場合の措置のほか参考として特定原付(特定小型原動機付自転車)の仕様・保安基準と道交法上のルール、動画危険予測トレーニング(運転のメカニズムと事故原因)が行われる。

▲電動キックボードなど16歳以上は免許不要で乗ることができる特定原付車両の保安基準や交通ルール(交通反則通告制度と放置違反金制度の対象となる等)についても教わった


動画危険予測トレーニングでは、認知・判断・操作を状況に合わせて行うこと、危険源を予見・回避することとそこに過失があった場合に事故に至るという事故発生のメカニズムについても学び、実際にインタラクティブムービーを活用してバイクの運転者目線で進む動画の中に潜む危険についてリモコン操作によって生徒一人ひとりが参加する。

▲ライダー視点での市街地走行動画を用いた危険予測トレーニング(KYT)。生徒はリモコンを使って危険を感じたタイミングでボタンを押し、公道に潜んでいる危険について全員で共有する


この後は、自動車教習所の職員による応急救護の講習も行われ、閉校式ののち講習は終了となる。

▲AED(自動体外式除細動器)の使い方や心肺蘇生法なども学ぶ。教えてくれたのは自動車教習所の職員

「三ない運動から教育へ」に必要なコトとは?

▲パイロン千鳥のワンシーン。大切なのは課題が上手にできるようになることではなく、低速走行が難しいということを体験してもらうこと。まさに危険を安全に体験できる機会なのだ


三ない運動は、組織だった全国的な運動こそ終了したものの、地域や各校に根付いてしまっていることも多く、高校生の移動課題改善の足かせにもなっている。

では、三ない運動をやめてバイク等のモビリティを活用していくためには何が必要なのか、何をするべきなのかのヒントが埼玉県教育委員会が主催する交通安全講習会から見て取れる。

バイクに限ったことではないが、モビリティに乗る活用するということは、安全運転が常にセットでなければならない。交通安全教育が万全ならば法律で許されているモビリティの利用を制限する必要など本来はない。

特定原付という免許不要の自走モビリティが施行されたいま、教育現場は道路交通法をしっかりと教え、免許がなくても公道を安全に利用できる社会にしていく必要(責務)があるのではないか。

モビリティを必要としている生徒がバイクや特定原付(電動キックボード等)に乗れるようになることでQOLをより良いものとできるよう祈るばかりだ。

※写真は全て2024年6月16日(日)に秩父自動車学校で開催された「令和6年度 高校生の自動二輪車等の安全運転講習」のもの

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