東京オリンピックの実施期間中、首都高速でバイクを含む乗用車に通常から+1000円の値上げが行われた。さらに今後こうした「ロードプライシング」を普段から行う方針が明らかに。値上げは即実行するのに、一方で「システム改修が困難」として割高な2輪料金の値下げは後回しにされてきた…。怒りも込めつつ関係者を直撃した!

五輪上乗せからロードプライシング日常化へ!? 今後は緑ナンバーも値上げの対象になる?

“中止すべきでは?”という世論を半ば無視する形で開催された東京オリンピック&パラリンピック。大会期間中(7月19日〜8月9日および8月24日〜9月5日)の6〜22時、バイクを含む乗用車に対し、首都高速の料金が1000円上乗せされている。

常日頃、都内でクルマやバイクを業務などで使用する人たちにとって、大ブーイングの規制である。目的は五輪関係者の移動を円滑にすることで、実際、首都高はガラガラだったが、五輪会場の周辺などの一般道で大渋滞が起きた。こんな規制が日常茶飯事ではたまったものではない。

【一般道では渋滞が最大25%増!】東京五輪期間中、バイクを含む乗用車は首都高で1000円上乗せされた(図の赤い範囲)。これはETC車の場合で、現金払いはさらに上乗せの区間が広い…。また、外苑や晴海など4か所の入口は常時閉鎖し、混雑が解消できなければ別の入口なども閉鎖した。警視庁によると、新型コロナの影響がなかった2年前の平均と比べ、首都高の渋滞が68〜96%減少。期間中の17日間すべてで減少した。一般道は渋滞が6日間増加し、最大で25%増。他は10%ほど増加した。減少した日は2〜48%減。大混乱はなかったようだが、会場周辺や首都高と並走する国道246号線などが慢性的に渋滞していたとの声も。これは期間限定ゆえにクルマ利用を控えた人が多かった側面も大きいだろう。こんな状態が常態化すれば、都内が走りにくくなること必至だ。

 

そんな中、国土交通相の諮問機関である国土幹線道路部会が、7月27日に高速道路の在り方に関する中間答申案をまとめた。なんと答申案では、今回の首都高1000円上乗せのように、今後も渋滞状況に応じて料金を変動させる制度を提言。東京/大阪/名古屋などの大都市圏における渋滞発生区間で、時間帯や曜日に応じて値上げや割引を行う方針だ。

このように、混雑の状況に応じて高速料金の上げ下げを行う制度を「ロードプライシング」(以下、ロープラ)と呼ぶ。まるで人をコマのように操ろうとする施策に筆者は反感を覚える。また、低所得者や零細企業は高速道路を利用しにくくなり、不公平感が強い…。そこで、ロープラを管轄する国土交通省の担当者に取材を試みた。

まず気になるのは、7月発表の答申案が五輪での”1000円上乗せ”を踏まえた内容なのか。答えは「ノー」で、「五輪前から粛々と議論を進めてきた」と言う。五輪開催期間中、事業用登録車(緑ナンバー)は値上げの対象外だったが、今後も同様にこれらが除外されるか否かは「検討中」とのことだ。

値上げによって高速が利用しにくくなる点に関して尋ねると、「利用者から理解を得られるような料金設定とし、目的に応じて検討していきます」。あくまで目的は”渋滞解消”で、道路会社の増収が目的ではないと言う。

渋滞解消の点において、バイクはクルマより専有スペースが小さいため、そもそも渋滞を起こしにくい。「ロープラでバイクの高速料金を下げれば、バイクの利用者が増え、結果的に渋滞が減るのでは?」と筆者が提案すると、「(ロープラでは)車種によって値下げするなどの設定も視野に入れている」とのことだった。

ロードプライシングに新たな動き。軽が値上げされる案も浮上!?

ライダーとして五輪開催期間および今後のロープラで気になるのは、”柔軟に料金設定を変更する”点だ。現在、軽自動車とバイクは同じ料金設定。バイクは前述のとおり道路の専有面積が小さく、路面に与える損耗も少ないが、理不尽にも高額な料金を強いられている。

20年以上前から業界や自民党二輪車問題プロジェクトチームらが2輪料金の独立化を訴え続け、ようやく’22年4月からバイクの高速料金を普通自動車の半額に割引する定率プランが開始されることになったのは既報の通り。土日祝日限定で走行距離100km超、事前申請したETC搭載車のみなどの条件はつくが、ようやく事態の解決に一歩踏み出した格好だ。

今まで議論を進める中で、最大の障壁だったのが「料金システムの改修が困難」「費用が200億円かかる」という国交省担当者の弁だった。

その一方でロープラのような”値上げ”は即実行するという矛盾。五輪の1000円上乗せは、’20年2月に決定されたものだが、本来の予定通り同7月に五輪が開催されたなら、わずか5か月でシステムが改修できた計算になる(実際は延期で17か月後)。値下げは渋るのに、値上げは嬉々として即行う…と見えるのだ。

さらに取材を進め、首都高速道路会社に今回のロープラでシステム改修にかかった費用を尋ねると、国交省では「把握していない」というのだから呆れる。そこで首都高速道路会社に聞いてみると、「大会期間中のため精査できておらず不明」と回答。改修のコストは「料金上乗せで増収した分を充当する予定」と言う。

こうした改修にかかる期間や費用は「内容によって異なる」と国交省。「現在の5車種区分(筆者注・2輪を含む軽自動車/普通4輪/中型車/大型車/特大車)を変えずに、特定の時間だけ料金を変動させるのはある程度対応しやすい。一方、区間ごとの料金テーブルを全部書き換えたり、車種区分が増えるのは難しい」という。加えて、バイク専用の区分を新設することと今回のロープラとは、「まったく別の話」「担当外」と強調していた。

しかし五輪の件で、今までの障壁だったシステム改修が”容易にできる”とわかった今、やる気さえあれば2輪料金の新設が可能なのは明白だ。自民党PTとともに2輪環境改善に努めてきた全国オートバイ協同組合連合会の大村会長は、「システムの改修が可能と明らかになり、2輪料金の独立化を勝ち取るチャンス」と意欲を見せる。

【ロープラは2輪料金独立のチャンス】AJの大村会長に話を聞くと、「2輪料金の新設について20年ほど主張を続けてきましたが、当初はシステムが古く改修ができないため、2輪料金は新設できないと国交省に抵抗されてきました。近年は話が変化しつつありましたが、今回、明確にシステム改修ができるとわかり、2輪専用料金の独立化を勝ち取るチャンスだと思っています」 ロープラに関しては「国民的議論をすべき。行政主導ではなく、使う方が納得できる形で進めるべき」と話す。
【AJ 大村直幸会長】全国の2輪車販売店で構成されるAJ(全国オートバイ協同組合連合会)は’92年に発足。バイクの健全な普及を目的に利用環境の改善に動き、指定教習所での大型2輪免許取得/高速2人乗り解禁など多くの実績がある。中でも2輪料金の正常化は長年の悲願だ。

 

さらに、答申案では「バイクと軽の差が拡大しており、今後の車種区分のあり方について検討する必要がある」との記述もあった(下記参照)。

これは実に朗報だが、関係者筋によると”軽自動車の値上げ”も検討されているらしい。つまり軽とバイクの料金区分が分離されたとしても、バイクは値下げされずにそのままで、”軽の値上げ”で終わる可能性があるのだ。「相対的にバイクは値下げしただろ」と強弁されるのは最悪の事態。軽ユーザーや業界からの反発は必至だし、ライダーもこんな結末は望んでいない! 注意深く動向を見守り、我々も声を挙げていく必要がある。

【朗報:バイクと軽、分離検討の文言はあるが…】7月27日、国交相の諮問機関である国土幹線道路部会がまとめた中間答申案に、「バイクと軽の高速料金区分を見直す必要がある」旨の提言が明記された(下

高速料金が現在の体系になったのは’88年。まだ軽の排気量&車格が小さい時代だった。しかし’98年に軽は+110ccの660cc上限となり、車格も大型化。近頃は車重も普通車に近づきつつある。バイクとの差は大きく広がったのが現状だ。

時代の変化に合わせて見直しが行われるのは大歓迎だが、懸念も。「軽が現状から値上げとなり、バイクはそのまま」という可能性だ。2輪料金が独立化したことにはなるが、これではゴマカシに過ぎない。政府はシンプルに”2輪の値下げ”をすべきだ。

 

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●まとめ:(ヤングマシン編集部:沼尾宏明)

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