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バイクラブフォーラムが埼玉県小鹿野町で開催!

▲会場となった小鹿野文化センター。バイクラブフォーラムのシンポジウムには一般の方も参加できる
9月19日(金)、元祖“ライダー歓迎の町”として知られる埼玉県小鹿野町(おがのまち)の小鹿野文化センターで、二輪業界によるシンポジウム「バイクラブフォーラム in 埼玉・おがの」が開催された。
【公式YouTube】バイクラブフォーラム in 埼玉・おがの
バイクラブフォーラムとは、国(経済産業省)、日本自動車工業会と関連団体、地方自治体らが参加して、策定したロードマップのもと二輪車に関わる産業振興、市場の発展などを図っていく取り組みで、年に1度場所を変えながらシンポジウムを開催している。

▲「二輪車産業政策ロードマップ 2030」への取組状況については経済産業省と二輪関連団体から発表が行われた
シンポジウムは、コロナ禍ではイベント開催が中止になったりオンラインで行われたりもしたが、今回で13回目を迎え、すっかり二輪業界の風物詩ともなっている。
テーマはいま話題の“ライダー誘致による町おこし”

▲シンポジウムの翌日には、国民宿舎両神荘前広場で「BIKE LOVE FORUM in埼玉・おがの関連イベント『寄ってけ~な!おがの ツーリングキャンペーン』開催記念ステージ」も行われ盛り上がった
さて、今回のテーマは、開催地が小鹿野町ということからもわかるように「『バイクの力で盛り上げよう』ライダーを歓迎する小鹿野町の取り組み」というもの。この4.5年だろうか、各地の地方自治体が「ライダーを誘致しよう」「ライダーやバイクで町おこしをしよう」という動きを活発化させており、まさに旬の話題と言えるだろう。
新たな来訪者層として「ライダーを誘客したい」「通過しているライダーを町内で回遊させたい」「ライダーならではの観光資源を発掘して活用したい」、こんな狙いでライダー誘致に取り組む自治体は随分と増えているのだ。
そして、その元祖とも言えるのが埼玉県の小鹿野町であり、今回のシンポジウムでもメインステージとして施策の紹介や関係者によるトーク対談を行った。また同様に「バイクのふるさと浜松」を毎年開催する静岡県浜松市、スズキのハヤブサオーナーが数千人も集まる「隼駅まつり」で知られる鳥取県八頭町(やずちょう)の関係者も登壇した。

▲浜松市と八頭町、MFJもライダー誘致やモトツーリズムについて発表を行った
さらには、コロナ禍以降活発化しているインバウンド・ツーリングをも踏まえたモトツーリズムについてMFJ(日本モーターサイクルスポーツ協会)からの発表・説明も行われた。
立ち上げ関係者らが語るライダー誘致の苦労話!

▲左からMCの柴田直美さん、Ogano Moto GirlsのAYAさんとsizucaさん、強矢立家さん、吉田 朗さん、山口良一さん、小鹿野警察署副署長の篠永 作さん
さて、シンポジウムでは、二輪業界やメーカー・団体らの取り組みとロードマップの進捗状況なども発表されたが、今回はライダー誘致のテーマに沿った小鹿野町の発表内容に焦点を当てて紹介する。
小鹿野町は、東京モーターサイクルショーやバイクの日イベントにもブースを出展しており、関東圏のライダーにはすっかりお馴染みの自治体だが、ここに至るまでには多くの苦労があったようで、ステージではかなり生々しい話も披露された。
「ウエルカムライダーズおがの×地域振興 まちおこしプロジェクト『ウエルカムライダーズおがの』の取組み」と題したトーク対談では、2005年に両神村(りょうかみむら)との合併を機に始まった地域活性化を目的としたライダー誘致「オートバイによる町おこし」事業(2006年事業開始)の関係者が揃って登壇した。

▲「ウエルカムライダーズおがの」初代代表でロゴマークのデザインも担当した吉田 朗さん(左)と、バイク愛好家で奥様がお隣の秩父市出身という小鹿野町観光大使のタレント・山口良一さん(右)
ウエルカムライダーズ実行委員会の発足経緯や苦労話については、初代代表の吉田 朗(あきら)さん、現代表で当時は役場の職員だった強矢立家(すねや たつや)さん、タレントで小鹿野町観光大使の山口良一さんらが当時を思い出すように語ってくれた。
ライダーだった職員が発案し、ライダー誘致へ

▲プロジェクト開始当時は役場の担当職員だった強矢立家さん。現在は「ウエルカムライダーズおがの」の代表として活動されている
きっかけは強矢さん自身がライダーであり、町内を通り過ぎていく大勢のライダーを見ていて、「彼らを街中にとどめて回遊してもらいたい、ライダーの来訪を地域活性化につなげたい」と考えたこと。ツーリングライダーがわらじかつ丼を目当てに町内の店舗を訪れていたこと、大型二輪免許の教習所解禁(1996年)、リターンライダーや女性ライダーによるツーリングブームなども後押しした。
そのために何をすべきかを吉田さんらと話し合い、商店街に屋根・ロッカー付きの二輪駐車場を新設し、バイクを駐めたライダーが歩いて街中を観光できるようにするなど環境整備に取り組んだ。

▲開催自治体からの挨拶を述べる埼玉県の大野元裕知事。「世界トップクラスの品質や知名度を誇るヘルメットメーカーも県内に本社を置いており、本県とバイク産業にはかねてより深いものがあります。ライダーの皆様におかれましてはぜひジェントルな走行で、小鹿野町、秩父地域をはじめ県内各地を巡り、埼玉県の魅力を満喫いただければと思います(要約)」
役場主導で始まったこのプロジェクトでは予算がネックとなったが、埼玉県が用意していた県下市町村への助成金「ふるさと創造資金」を活用し、ウエルカムライダーズ実行委員会の立ち上げやホームページの制作をまかなった。さらには町内外のライダーら民間ボランティアの力も広く借りて「おがのライダー宿」などのライダー向けイベントを継続開催し、現在に至っている。

▲小鹿野町が具体的に取り組んだ施策の数々。町内のツーリングマップ作成のほかテーマソングまで制作している。町内協力店でのライダー向け特典も用意された
安全運転とマナーアップで、来訪ライダーの質を変化

▲翌日の「おがのライダー宿 Vol.16 / JAPAN RIDERS CAFE」等のイベントに来場したライダー
では、こうした過程で何に苦労したのか? それは近年のライダー誘致施策でも争点となっている、ライダーが集まることでの「騒音」「ゴミ」「交通事故」への対応だった。
小鹿野町には高校生が原付通学を行ってきた歴史があり、地域住民の生活の足として原付バイクが根付いているような土地だが、ライダーやバイクを呼び込むことに対して不安や反対を示した地域住民は少なくなかった。役場の強矢さんのもとにはクレームの電話が鳴り響き、目標とする商店街の飲食店からも反対の意見が相次いだ。
そこで小鹿野町が取り組んだのが、来訪ライダーの質を変化させることだった。強矢さんらはおがのライダー宿などのイベントを開催する際には地域の小鹿野町警察署に協力を仰ぐことで安全運転の醸成に務めることにした。これにより、当初訪れていたやんちゃなライダーを退けつつ、ライダーのマナーアップキャンペーンを展開し、紳士的で良質なジェントルライダーへと徐々に客層転換を図っていった。

▲小鹿野警察署の取り組みと町内の交通死亡事故ゼロ5000日達成(25年6月21日)について話す篠永 作 副署長
こうした地域の警察との連携を経て、町内へのライダー入込客数は増え続け、元祖“バイク神社”とも呼ばれる小鹿(おしか)神社など町内観光スポットへの周遊や、わらじかつ丼を代表とする飲食店の売り上げアップなど地域経済の活性化にも成果を上げることができた。

▲翌日のイベントには多数の飲食店が出店した。写真はレストランイデウラの「わらじかつどん」(1,200円)
町をあげてライダーを歓迎してくれる“おがの”

▲現在は民間ボランティア団体の取り組みとして引き継がれている「ウエルカムライダーズおがの」の活動。今後もジェントルライダーの誘致を推進し地域活性化に取り組んでいく
現在では「来やすく、居やすく、また来たくなる町」「オートバイライダーの聖地」の2つを理念として町を上げてライダーを歓迎している。また、ライダーが多く訪れるなかでも小鹿野町内の交通死亡事故ゼロは5000日を超えていることも報告された。
ライダー誘致のために必要なものは、安全運転とマナーアップの推進であり、そのために必要な施策の積み上げにより良質なライダーが訪れるようになったのだ。

▲ステージでの発表が終わり総評を述べた自工会二輪車委員会の設楽元文委員長。「ウエルカムライダーズおがのによる町民、警察、行政が連携したライダー歓迎の取組みは印象深く、交通死亡事故ゼロ5000日超は真に驚き。フォーラムの目的である『世界に誇れるバイク文化の創造』につながるものと思う」
以上、埼玉県小鹿野町によるライダー誘致への取り組みを紹介した。他の自治体にもぜひ参考にしてほしい取り組み事例だ。
なお、来年のシンポジウム開催地は熊本県の大津町(おおづまち)ということも発表された。2026年に創業50周年を迎えるホンダの熊本製作所がどうからんでくるのか。来年のバイクラブフォーラムにも期待したい。
