クラウドファンディングから始まった

片岡義男の小説

1980年代、バイクが登場する作品を数多く発表し、当時の“バイクブーム”に大きな影響を与えた作家、片岡義男。僕がいかにして片岡小説に出会い、影響を受けてきたか、ということは以前「片岡義男さんとバイク雑誌のこと」という記事で書いた。

そしてこのたび、バイク乗りとしての自分の原点である片岡義男作品を、丸ごと一冊特集した『片岡義男を旅する一冊。』という雑誌をつくり、発売した。この本は全国の書店に一斉に並ぶものではなく、富士山マガジンサービスなどのネットや協力書店などを通じて販売されるものなので、なかなか目にすることはないかもしれない。ここで紹介させてもらいたい。

まずはどうしてこの本をつくることになったのかという経緯を簡単に。かつて雑誌『MOTO NAVI』で『片岡義男とオートバイの旅』『片岡義男とオートバイの夏』という2回の特集を企画した僕が「今度は一冊ぜんぶ片岡義男作品のことを扱う本をつくりたい」と思ったのは1年ほど前だ。まずそのアイデアを出版社に相談したところ、企画に対する共感は得られたのだけれど、「いま単発の雑誌を出すのはとても難しい。実績のない本を書店が置いてくれるかどうかわからないし、広告もアテにできない、いかに片岡義男さんの本とはいえ、採算を取るのは厳しいかもしれない」という話になった。僕自身もその意見は納得できた。とにかくいまは雑誌が売れない時代だし、書店だってどんどん少なくなっている。

オートバイ雑誌の片岡義男特集号

その状況を突破する方法として考えたのが「クラウドファンディング」を使う、ということだった。クラウドファンディングによる支援でお金が集まれば、雑誌制作費(の一部)が賄えるし、この本がどれだけ注目されるか、欲しいと思う人がいるのか、ということも知ることができる。出版社と相談し、クラウドファンディングで目標額に達したら企画はゴー。達することができなければ潔く諦めよう、ということになった。そしてこの3月末、プロジェクトがスタートしたのだった。

いちどは諦めかけた、そのとき……

目標金額は200万円、期間は45日間。じつはこの金額では今回つくろうと思っている雑誌の制作費には足りないのだが(コストを抑えてもこの倍以上はかかるのです……)、とはいえあまり目標を上げすぎても達成が難しくなる。足りない分は広告費や雑誌自体の売り上げを見込むとして、まずはスタートを切れる金額を、ということで設定したのがこの額だった。

クラウドファンディングのウェブサイト

出足は順調。支援額は数日で30万、40万、50万と伸びたが……。2週間ほどで頭打ちとなり、伸び悩んでしまった。募集期間の半分を過ぎたところで目標の100万円にも届いていない。このときは、正直に言うと「やはり、難しいのかな…」と思っていた。片岡作品の人気、影響力が絶大なのは間違いないが、残念ながら僕自身の発信力が足りていない。このクラウドファンディングのことが多くの人に伝わっていない、と感じたのだ。

しかし、諦めかけていたとき、それを察したのか、僕のまわりの片岡ファンたちが、さまざまなカタチで協力を申し出てくれた。メディアで取り上げてくれた人、クラウドファンディングのリターン(支援に対する返礼)に提供してくれた人、そして多くの人たちがSNSやクチコミで情報を拡散してくれた。すると流れが変わった。〆切りまで残り10日を切った辺りから、支援がグングン伸びはじめたのだ。最終的には目標の200万円を大きく越え、200人以上の人による300万円近くの支援が集まり、プロジェクトは成立した。

雑誌とは“雑多”である、ということ

そしてついに制作がはじまった。しかし資金は集まったものの、僕はそのことについてのプレッシャーも感じていて、じつはなかなか具体的に動き出すことができなかった。長年雑誌の編集に携わってきたけれど、今回のように事前に読者から支援を集める、というのは初めて。「どうしたら期待に応えられるのか」という気持ち、そして片岡作品のテーマはバイクだけでなく、クルマ、サーフィン、音楽、酒、文具、旅、アメリカ文化など……とても多岐にわたっているから、僕の知識や興味の範囲ではとてもカバーしきれない、という不安もあった。

片岡義男を旅する一冊

しかし、こう考えを切り替えることで乗り越えることができた。この本を自分の力でどうにかしようというのは難しい、だが片岡作品を愛し、影響を受けたプロフェッショナルたちの力を借りれば、できるはずだと。バイクやクルマはもとより、サーフィン、音楽、カルチャー、ファッション、さまざまな世界に通じた雑誌編集者、ライター、クリエイターなどに協力をお願いすると、みな快く引き受けてくれた。

片岡義男を旅する一冊

誌面全体にあえて統一感をもたせようとはせず、デザインもフリーフォーマットにした。あくまで“雑誌”であることにこだわった。僕が考える雑誌とは「雑多である」ということだ。片岡義男という、膨大な知識、知見、こだわりを持つ作家の魅力を伝えるために、スペシャリストたちの力を集結させ、僕はそれを取りまとめるだけだ。

片岡義男を旅する一冊

インディーズのような販売方法

『片岡義男を旅する一冊。」というタイトルは、本を制作するなかで思いついたものだ。さまざまなジャンルに広がっていく片岡義男の作品を読むという行為は、広い世界を“旅する”ことに似ているな、と思ったのだ。この本にはバイクのこともたくさん出てくるけれど、それだけではなく、片岡作品の魅力を多面的に取り上げようと試みている。言わば“保存版”というべき一冊になっているとおモノで、かつて「片岡小説を読んだ」という人にも、たまたま触れて来なかったという人にも、ぜひページを開いてもらえると嬉しい。

この『片岡義男を旅する一冊。』は、販売の方法もふつうの雑誌とは異なる。取次会社と呼ばれる本の問屋を通して全国の書店に並べることはせず、ウェブ(富士山マガジンサービス)および協力書店、ショップ、あるいはイベントなどのみで販売する。音楽でいえばインディーズレーベルからリリースするようなやり方かもしれないが、少しでも多くの片岡義男ファンに届くことを願っている。富士山マガジンサービスで扱ってもらい、そのほか協力書店やショップなどで販売してもらう。ぜひチェックしてみてください。

片岡義男を旅する一冊

旅のはじめに

最後にこの本の紹介として、冒頭に僕が書いた短文を掲載します。

旅のはじめに

片岡義男とは、過去でも未来でもなく、ひとつの時代だ。

作品を読むことは、単なる読書ではなく “片岡義男の世界”を生きることでもある。

その世界はとても広いエリアにわたり、全貌を知るのはとても難しい。

その世界の片隅に住む僕らは、果てしなき片岡ワールドに思いを馳せる。

この本は、そんな片岡義男の世界を旅したいと願い、つくった一冊だ。

片岡義男とその作品を愛する、多くの住人の想いを燃料に変え、時間や空間を超えて、まだ見ぬ“あの場所”へとトリップしよう。

片岡義男はこれまでも、これからも、僕らをあたらしい世界へいざなう。

そして、旅は続いていく。

片岡義男を旅する一冊

 

 

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