過ぎ去った夏を取り戻す……!?
こんにちは青木タカオです。夏の間、ずっと「バイクでどこかへ行きたいなぁ〜」と思いつつ、原稿の執筆や取材に追われて、自分の愛車『カワサキW1SA』(1971年式)でゆっくり走ることができなかったボク。
バーチカルツインのエンジンを目覚めさせ、あてもなく走り出したのでした。
この“あてもなく”というのが、ボクにとってはとても重要で、ダブワンを愉しむときに欠かせない条件なのです。
というのも、バイクライター/編集者という仕事柄、新旧いろいろなカテゴリーのバイクにいつも乗らせていただき、試乗インプレッションなどをいろいろなメディアに寄稿させていただいておりますが、自分のダブワンで走る時間は少なく、それはボクにとってとても大切で特別な時間。だから、取材や撮影の待ち合わせで急かされたりするのがイヤ、100パーセント仕事抜きにしたいのです。
そんなわけで、30年間近く所有する『W1SA』ですが、気がつけば乗る機会が減りつつあり、締め切り明けなどはその反動から乗りたくてウズウズする次第。ダブワンに乗ることが、ボクにとってなによりも癒やしタイム、イチバン幸せな時間なのです。
ダブワンに乗りたい衝動とともに、頭の中を埋め尽くすのが片岡義男小説のコトバたち。特に夏は、片岡小説で描かれることの多い季節で、入道雲や夕立の雨の匂いなんかを感じると、ダブワンで走って片岡義男ワールドにどっぷり浸りたくなるのでした。
「夏は単なる季節ではない。それは心の状態だ。」
そうだ、夏はまだ終わっていない! そう思うと、もう我慢ができなくなりました。
そして目的地を決めないまま走り出し、なんとなくたどり着いたのが、歴史と伝統が息づくまち茨城県の古河(こが)でした。
途中、セイコーマートに立ち寄って、いま自分が古河にいることがわかり、“小京都”とも呼ばれる古い町並みを見たくて足を運びたくなったのです。前置きが長くなりました。というのが、前回までのハナシです。今回はその後編となります。
風情ある旧城下町の街並み
情緒あるステキな建物に惹かれて、ダブワンを停めたのが、茨城県古河市中央町にある『篆刻(てんこく)美術館』でした。「こんな世界があるんだなぁー」って、よくわからないまま、普段は目にする機会が少ない篆刻を見学。
旧城下町の石町通りは趣があり、『篆刻美術館』のすぐ近くには『古河街角美術館』もありました。平日午後の遅い時間。古河の街は、ゆったりとした時間が流れ、リラックスのできる雰囲気です。
お土産は鮒の甘露煮
なにか食べようかと考えましたが、中途半端な時間で開いている飲食店がありません。全国チェーンのファミレスには入らず、なるべく地元の食堂などを利用したいボクとしては、ローカルなお店を探します。
気になったのが、趣のある店構え『木村屋甘露煮店』(茨城県古河市中央町1丁目)です。食堂ではありませんが、入ってみたくてたまりません!
店内もどこか懐かしく、いいムード。ショーケースの中にサンプルがあり、向かって左側に注文し、お会計をするカウンターがあります。
手作りの甘露煮が数種類売られていました。甘露煮を買う機会って、ほとんどありません。せっかくですから、家族へのお土産にしようと思います。
「情緒のある、とてもいい建物ですね。甘露煮は最近食べる機会が減ったので、買って帰ります」と、店主さんにご挨拶。
「昔からのままで、やっております」と、微笑んでくださいました。
ボクが選んだのが「ふな」「わかさぎ」「昆布」の3つ。背負ってきたリュックに入れて、持って帰ります。
伝統の味は帰宅後、お酒とともに
利根川・渡良瀬川に面し、江戸への定期船も運行されていた東国一円の重要拠点であり、奥州街道要衝の宿場街として古くから栄えた古河。郷土料理のひとつに名物『鮒の甘露煮』があります。
正月料理や贈答品として親しまれていますが、近年は若者の川魚料理離れもあり、ボクたち昭和生まれ世代であっても「鮒」を食べる機会は減っているのではないでしょうか。
市内には甘露煮の老舗がいくつかあり、古河鮒甘露煮組合は「伝統の味を伝えたい」と、2019年から市内の中学校給食で生徒たちに味わってもらうなど、伝統の味を将来へ残すための活動もしているそうです。
『鮒の甘露煮』は大きなサイズでも軟らかく、骨まで丸ごと食べられます。帰宅後、ボクはビールやお酒と一緒に味わいました。妻や子どもには、昆布の佃煮の評判が良かったです。
江戸時代から古河の川魚料理は、渡良瀬川が豊かな漁場だったことから発展。『鮒の甘露煮』は伝統の味です。
いにしえの武家屋敷も見学
甘露煮を買って、また風情のある通りに戻りました。石畳の道にあったのが、『鷹見泉石記念館』(茨城県古河市中央町)です。「大塩平八郎の乱」で鎮圧にあたるなど、大きな働きをした鷹見泉石(たかみせんせき)。古河藩の家老で、隠居後は蘭学にいそしみました。晩年の住まいを改修し、公開しています。
屋敷全体は東西に長く、現在の4倍以上もあったらしく、門構えも立派。1633年(寛永10年)に、古河城の残り材を使って建てたと伝えられています。
映画やドラマ、CM等の撮影にも活用されているのも納得の美しさ。一見の価値ありです。
三県の中心で愛を叫ぶ!?
日が暮れかかっていますが、もう少し先へ足を伸ばします。『道の駅かぞわたらせ』(埼玉県加須市小野袋)です。
栃木県栃木市、群馬県板倉町、埼玉県加須市の『三県境』が徒歩5分の場所にあり、三県の中心で愛を叫ぶのもいいでしょう。売店には、それぞれの特産品がならんでいます。
建物の屋上からは、渡良瀬遊水地が見渡せます。栃木、群馬、埼玉、茨城の4県にまたがる渡良瀬遊水地は、面積33キロ平方メートル、総貯水容量2億立方メートルと巨大で、日本最大の遊水地。東京ドーム700個分の広さがあります。
地図を見ると、ハート型であることがわかります。
ハートのオブジェが設置され、「恋人の聖地」としても人気です。ひとり寂しく訪れましたが、きっと休日にはたくさんのカップルがココに来るのでしょう。
『大阪王将』の関東工場が群馬県にあることから、冷凍餃子が買える『餃子自販機』が置いてあります。工場直売でこれもまた人気みたいです。
ボクの他にライダーはおりませんでした。
渡良瀬遊水地に近づきたくて、中央エントランスにある駐車場へ移動しました。すると、17時にゲートが閉まると放送が流れ、すぐに撤退。利用時間は9時30分~17時までで、11月1日~11月30日は16時30分まで、12月1日~2月末日は16時までとなっています。何度か訪れたことがありますが、ココへたどり着くのはいつも閉門時間が迫る時間です。
▲『道の駅かぞわたらせ』は、東北自動車道佐野藤岡ICよりバイクで約20分です。
帰りも下道だけで!
高速道路でサクッと帰る手もありましたが、それでは仕事帰りのようで面白くありません。やはり一般道で、スマホのナビアプリも見ないままテキトーに走りつつ、家へ戻ります。
ボクが住む東京の東エリアから、ダブワンで江戸川沿いに北上し続け、渡良瀬遊水地まで来たのはこれが初めてではなく、なんとなく道がわかっています。
途中にまた寄ったのが『道の駅 さかい』(茨城県猿島郡境町)で、ここもまた駐車場が広い。そして、道の駅よりクルマが多く入っていくのが、お隣りにある商業施設で、とても賑わっている様子です。
このあたりは利根川と江戸川が分岐するところで、河川敷の存在を確かめつつ川に沿って帰ろうと、地図も見ないで南下したところ、東京からどんどん離れてしまったことが昔ありました。
というわけで、千葉県側に渡って江戸川を見つけたら、あとはひたすら下流方向へ。
わずか半日のプチツーリングでしたが、自由気ままに走ることができてリフレッシュ。
帰宅後はダブワンのサウンドや振動を身体に残しつつ、風呂上がりに鮒の甘露煮でビールをグビグビっと! 片岡義男の小説も本棚から出して読んで、ひとり悦に入るのでした。
今回もしょうもないハナシに、最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました!