’21年4月中旬に国内発売されたホンダGB350は、夏頃にはすでに「今年の分は完売!?」なんて声も聞こえてきたほどの人気。そして7月には、派生型となるスポーティなGB350Sも登場した。’21新車系の話題を一身に集めていると言っていいGB350/Sを、ヤングマシンメインテスターとしておなじみの丸山浩氏が徹底乗り比べ。その違いを詳報しよう!

●まとめ:ヤングマシン編集部(田宮徹) ●写真:長谷川徹 ●外部リンク:ホンダ

【テスター:丸山浩】もはや説明不要なヤングマシンメインテスターで、現在はYouTube等でも大活躍。元全日本レーサーの肩書きも持つが、実は若い頃はバリバリの旅好きだった。

走りを比べてみれば分かる、派生のワケ!

’21年7月にSTDの派生版として追加されたGB350S(以下S)。その乗り味や、スタンダード(以下STD)との違いについて、この記事では詳しくお伝えしたい。

そこでまずは、先行発売されたSTDのおさらいをしよう。インドのハイネスCB350をベースに開発され、熊本製作所で組み立てられるこのモデルは、トラディショナルスタイルの新世代スタンダードスポーツ。エンジンを含め新設計されている。単気筒348ccということを考えると、車格は大きくて600ccクラスの雰囲気。ライディングポジションは、ハンドルグリップ位置がかなり手前、逆にステップ位置は車体前方にあるのが特徴だ。 

シリンダーが垂直方向に伸びたバーチカルシングルエンジンは、クラシカルなルックスだけど、古めかしい振動は皆無に近く、あるのは楽しさを生む鼓動感のみ。高いギヤを使って、低い回転で多めにスロットルを開けると、そのパルスに浸りやすい。速度域としては40〜60km/hがとくにオススメだ。

前輪19インチ径の特性もあり、コーナリングでクイックに向きを変えるような旋回力を生む感覚はなく、まるで椅子にでも座っているかのようなポジションなので、ライダーとしてもそのような操作をする気にはならない。ベタッと車体が寝るまでは比較的早いが、そこでワンテンポある。

しかしこれが、ツーリング先で出会ったワインディングで左右にゆったりバンクさせながら走るときに、ちょうどいい心地よさ。このときも、もちろん雑味のない鼓動感は健在。エンジンのパルスこそが、このバイクが持つ最大の魅力だ。

【‘21 HONDA GB350】主要諸元■全長2180 全幅800 全高1105 軸距1440 シート高800(各mm) 車重180kg(装備) ■空冷4ストローク単気筒OHC2バルブ 348cc ボア×ストローク70mm×90.5mm 圧縮比9.5 20ps/5500rpm 3.0kg-m/3000rpm 変速機5段 燃料タンク容量15L ■タイヤサイズF=100/90-19 R=130/70-18 ●価格:55万円

とまあ、STDに関してはこのような感じなのだが、追加されたSもエンジンと車体の基本部分はSTDとほぼ同一なので、エンジンが主役という傾向に変わりはない。

「エンジンマップも専用化され、Sのほうが低速トルクをより太く感じられるような仕様」とのことだが、パッと乗り替えたときにそれが明確にわかるような差は感じられなかった。それよりは、とくにアイドリングやブリッピングで伝わってくる排気音のほうが、違いを感じやすいかも。STDに対して、Sの方がやや抜けがよくパンチのある音質だ。ただし、STDでもかなりサウンドチューニングはされており、いい音を奏でているので、Sになって音が大きくなったというわけではない。

前後サスペンションは同一とのことだが、ライディングポジションとタイヤの仕様(Sはリヤを18インチから17インチとし、ワイドラジアルタイヤ化)が異なるため、コーナリングの雰囲気には意外と違いが感じられる。

ワインディングを走ると、Sの方がSTDよりフロントタイヤがインに向いていこうとするのが速く、回頭性が高い。この違いにもっとも影響しているのはステップ位置で、次にハンドルポジション。ライダーが積極的に操作をするという雰囲気ではないSTDに対して、Sはバイクをスポーティーに走らせる基本操作をしながら車体を操る乗り物という感じ。むしろSの方がバイクとしてはオーソドックスな仕様とも言える。

そこにプラスして、リヤの17インチ化とラジアルタイヤ化、それに伴うタイヤの銘柄変更でさらにスポーティーな味つけを加えているのだが、純正装着されているメッツラー製ツアランスネクストはアドベンチャーモデルのオンロードユースを想定して開発されたタイヤで、このバイクの車重や速度域だと、タイヤから受けるイメージがちょっとカタい感じもある。

【’21 HONDA GB350S】主要諸元■全長2175 全幅800 全高1100 軸距1440 シート高800(各mm) 車重178kg(装備) ■タイヤサイズF=100/90-19 R=150/70R17 ●価格:59万4000円

より”普通”に感じられるのは、実はSの方だ

タイヤから受ける”カタさ”という印象の点で、バイク全体のまとまり感としてはSTDのほうが上。エンジンのパワーや特性、車体の剛性、サスペンションのグレードなど、どれもスゴいわけではないのだけれど、ちょうどよくバランスされている。

ただし、すでにバイクを知っている日本人ライダーなら、ライディングポジションやそれが生み出す操作フィーリングなどに対して、より”普通”に感じられるのはSの方。その部分に着目するなら、バランスがよいのはSになるわけで、このあたりの判断は難しそうだ。

ちなみに私(丸山)の場合、STDだとこのままでも納得できるのに、Sだともっと走りのよさを求めてカスタムしたくなっちゃう印象。STDは”乗せられている感”があり、エンジンを回す気にすらならない。対してSは”操りたくなる”ので、結果的に私のライディングレベルだとエンジンが物足りないとか足まわりが…なんて始まるのだ。

つまりそれらは、バイクをよく知るベテランの感性であり、このシリーズが大きなターゲット層にしている”初めてバイクに乗る人”や、しばらくバイクを離れていたリターンライダーからすると、まずはバイクに乗るのか、それとも最初からアクティブに乗るのかで、どちらを選ぶのが適しているか変わるだろうし、だからこそホンダも2バリエーションを用意してきたことは非常に理解できる。

日本で趣味としてバイクに乗るなら、半分くらいのユーザーがスポーツ性を重視してSを選んだとしても、むしろそれは正常なことだと思うのだ。

峠だけでなく、高速道路でもテスト。20psとはいえ高速道路では100km/h巡航も十分にこなすし、新東名高速などの120km/h区間でも制限速度に達する。ただし、高速道路よりも一般道のほうがやはり得意。Sのほうが風圧に強いライディングポジションだ。

違いをひと言で表現するなら”ライフ”か”スポーツ”か

それにしても、Sが登場した上であらためてSTDに乗ると、スゴく生活感のあるバイクだと思える。もちろん、日本で生活の道具としてバイクに乗る人は少ないことは理解しているが、STDに感じるのは”ライフ”だ。STDでも、スポーティーに走らせることはできるのだが、そういう細かいことは抜きにして”まずは乗る/移動する”というフィーリングがあり、その中でシングルエンジンがもたらす鼓動感が楽しさを演出している。シーソー式のチェンジペダルも、”生活”を象徴するパーツのひとつと言えるだろう。

対してSに感じるのは”スポーツ”。まあ、日本でこれまでバイクに乗ってきた人にとっては、”スポーツ”ではなくこれこそが”普通”なのだけど、STDとの比較ではやはりスポーツ性を感じることになる。

とりあえずSTDで乗り始めて、スポーツ方向に振るならパーツを替えて…なんて思うかもしれないが、Sの乗り味に近づけるためにはステップも変更しなければならないし、それ以上にリヤホイール&タイヤの変更にコストがかかる。やっぱり、購入時には”ライフ”か”スポーツ”なのかを選ばなければならない。

これまでバイクに乗ってきた人なら、Sの方が慣れ親しんだ雰囲気があることは間違いない。そしてこれよりも守備範囲を広く、若者からおじいちゃんおばあちゃんまで、ツーリングから日常の足まで、ソロでもタンデムでも対応するよう設計され、逆に操るという要素を削ったのがSTDだと言える。

「とくにSTDに乗ったときには、これが誕生したインドで、バイクがある生活をイメージしやすい」と丸山氏。つまり、市街地との親和性に優れているのだ。

もっとも、これからバイクに乗る人たちは、”ライフ”だの”スポーツ”だの言われても理解不能かもしれない。だとしたら、例えば中学校のクラブ活動が文科系だったらSTD、運動部だったらSという感じに、ノリで選んでもらっても大丈夫。

スポーツ好きの人だとSTDでは物足りないかもしれないし、逆に多くの人がバイクという乗り物に触れるためにはSTDのような仕様も必要なのかもしれない。

ちょっとした差だよな…なんて乗り始めたが、深く掘ってみると、STDとSには意外に大きな差があったのだ。

〈参考〉試乗時の実測燃費チェック!!

下表は、東京都内から高速道路を往復して、箱根方面でワインディングと市街地を走行したテストの実測データ。Sの方がやや燃費が悪い結果だが、これはテストのために峠道を走った距離が長かったことも影響しているはず。

燃料タンクはSTDとSで共通。15L容量と、このクラスの単気筒エンジンとしては大きめで、450km以上の実走航続距離となる。

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