「生産終了」が決定したモデルが相次いでいる昨今。殿堂入りを惜しみつつヒストリーを紹介していくのが当コーナーだ。第3回はヤマハのスポーツツアラー「FJR1300」をお届けしたい。
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地道に熟成し続けた直4ツアラーが、ついにファイナル
てっきり継続する。
――そう思っていたのに、ヤマハの旗艦スポーツツアラーFJR1300は2021年に欧州で生産終了。続いて国内でも2022年型の現行モデルをもってラストとなることが発表された。
殿堂入りの主な理由は、やはり排ガス規制の強化で、ユーロ5(国内では令和2年二輪車排ガス規制)が原因となった。
日本での人気は正直、今一つだったものの、欧州では2001年のデビュー以来、多くのファンを獲得。2015年には世界累計10万台を超える出荷数を記録していた。加えて、初代以来、地道に改良を続け、ヤマハとしても“特別な1台”として大事に育ててきた印象があった。それゆえに、今回の排ガス規制も乗り切ってくれると思っていたのだ(フルチェンジで継続するとの噂を耳にしたこともあった)。
国内仕様のラストモデルとして、通常のFJR1300SA/Aのほか、誕生20周年を記念した「20th Anniversary Edition」も登場。特に後者は、記念エンブレムをタンク天面にあしらったほか、車体色のブラックに挿し色のゴールドが美しい仕上がりで、ファイナルに相応しい雰囲気となっている。
Aは6速マニュアルの標準仕様。ASはクラッチレバーがなく左ボタンとシフトペダルで変速できる電子制御シフト=YCC-Sや、コーナリングランプを備える上級版だ。ちなみにASはクラッチレバーの操作がないので、AT限定の大型免許で乗れてしまう!
大陸横断できてスポーティさも兼備、驚異のフレキシビリティ
FJR1300は、現行モデルの直列4気筒エンジンでは珍しいリッターオーバーの1297ccユニットを搭載。直4フルカウルツアラーでリッター超級なのは、現在スズキのハヤブサ(1339cc)のみだ(ハーフカウルならCB1300SBもあり)。
このエンジンをアルミフレームに搭載し、メンテナンスの手間を大幅に削減するシャフトドライブを採用。電子制御スロットルと2種類のパワーモードをはじめ、トラコン、クルーズコントロール、電動スクリーンと電子デバイスも豊富だ。さらにASは前述の通りセミオートマ機構や電子調整式サス、コーナリングランプまで備える。
乗り味はとにかく力強く上質。滑らかなフィーリングとともに幅広い回転域で太いトルクが涌き出す様子は、まさにシルキーという言葉が似合う。そして、6速で歩くような極低速域でも粘るほど柔軟なパワー特性を誇る。
車体は跨った瞬間から重厚長大さを感じる。しかし高速クルージングではピタリと安定し、サスの衝撃吸収性も優秀。ハンドリングは素直で、視線と体重移動でスッと向きを変えてくれる。なおかつ旋回中でも安定感が高いので安心して車体に身を委ねられるのだ。
エンジンが静かで低振動なのも特徴。AS仕様は、クラッチを握らずに済む上に、エンストしないのがいい。また、ライポジは上体がほぼ直立し、スクリーンを最も高く設定すると上体への風が大幅に緩和される。
これら様々な美点の積み重ねが、ロングランでの疲労軽減に大きく貢献してくれる。実際に走ったわけではないが、1日600km以上の移動も余裕だろう。
大陸横断はもちろん、峠道でもハイスピードで駆け抜けられる稀有なキャラクター。欧州で人気があったのも頷ける完成度だ。
【ヒストリー】2001年以来、4世代にわたって進化
2001年型
カワサキ Ninja ZX-12Rとスズキ ハヤブサのメガスポーツが火花を散らしていた2001年。ヤマハが欧州市場に投入したのがFJR1300だった。馬力と最高速が重視されていた時代にFJRは144psで登場。最高速よりも高速域での快適性を求め、ツアラーとしての側面を強調していた。そのキャラクターのルーツは1984年登場のFJ1100にまでさかのぼることができる。
主要ターゲットは欧州で、タンデムを含めたツアラー性能、ストレスのない快適性と走行性を狙いに開発。「2人乗りで10日間、合計3000kmのツーリングを快適に過ごせる」がコンセプトだった。当時、欧州市場に登場していた大型ツアラーの乾燥重量は約300kg程度だったが、FJRは乾燥重量237kgと軽量なのも特徴だ。
2003年にはABS仕様を追加。海外2輪誌のスポーツツーリング部門で数々の賞を授賞している。
2006年型
第2世代は“世界最高水準の欧州縦断ツアラー”をコンセプトに進化。AS仕様が初めて追加されたほか、湾曲型ラジエター、稼動範囲を拡大したスクリーン、可動式ミドルカウル、ライポジ調整機能、前後連動ブレーキなどを採用した。
さらに、外装は面とラインを組み合わせた洗練デザインに。より快適になったモデルをデザインでも表現している。
2008年には低速域での操作感を向上したほか、2009年にはスロットル制御に改良を加えるなど細やかな熟成も進んだ。
2013年型
第3世代では、一挙に電子制御の導入が進んだ。電制スロットルのYCC-Tによって、スムーズなレスポンスを実現。さらにヤマハD-MODE(走行モード切り替え)、トラコン、クルコンなどの導入が可能になった。
加えて吸排気系の変更で、最高出力3ps増&最大トルク0.4kg-m増の147ps&14.1kg-mに到達。直メッキシリンダーなどでフリクションロスも低減した。
車体は、新設計のフロントフォーク、動きが滑らかになった電動スクリーンを採用したほか、よりダイナミックな外装デザインに一新している。
さらにASは停止時に自動的に1速になるストップモードを採用。倒立フォークの導入とともに電動調整式サスも獲得し、ボタンで減衰力調整が可能になった。
そして2013年12月、ついに国内でFJR1300の正規販売がスタート。クルコンはヤマハ国内モデル初の採用だった。
2016年型
ラストまで販売されたのが、第4世代に進化した2016年型だ。
ミッションは従来の5速から6速となり、ヤマハ初のセパレートドッグ構造を導入。ギアとドッグを別体とすることで軽量化でき、回転方向に対して歯が傾斜したヘリカルギアの導入が可能に。これにより従来の寸法を維持したまま6速化が可能になった。
外観ではフルLEDを投入し、ASには国産メーカー初のコーナリングランプを採用した。コーナリングランプは、バンク角に応じてヘッドライト上部のランプがイン側前方を照らし、峠道などの夜間走行で視界を確保してくれる。バンク角はYZF-R1/Mにも搭載のIMU(慣性サンサー)が検出する。
【まとめ】高額なイメージながら実はコスパも優秀
カワサキのZX-14Rが姿を消し、そしてFJR1300も生産終了が決定した。リッターオーバーの直4ツアラーは寂しくなるばかりだ。FJRは、似たキャラクターのBMW R1250RT(310万5000円~)より圧倒的にリーズナブルでコスパが優秀。近頃流行のアドベンチャーとも異なる高速安定性とスポーツ性を併せ持つ。
現在は新車、中古車ともプレミア相場がない模様。ヤマハが熟成を重ね続けた旗艦スポーツツアラーを今ならまだ手に入れやすいはずだ。
2022年型 FJR1300AS/A 主要諸元
・全長×全幅×全高:2230×750×1325mm
・ホイールベース:1545mm
・シート高:805/825mm
・車重:289[296]kg
・エンジン:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ 1297cc
・内径×行程:79.0×66.2mm
・最高出力:147ps/8000rpm
・最大トルク:14.1kgf-m/7000rpm
・燃料タンク容量:25L
・キャスター/トレール:26°00′/109mm
・ブレーキ:F=Wディスク R=ディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17 R=180/55ZR17
※[]内はAS
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