唯一の国産V型4気筒モデルであるVFR800F/Xが排ガス規制により2022年10月末で生産終了となった。これで40年の歴史を持つホンダV4が、ついに終焉を迎えたことになる……。偉大なる足跡を振り返りつつ、ややマイナーながら名車の誉れ高いVFR800をプレイバックしよう。

通算40年! 栄光のホンダV4が終焉の時を迎えた

現行のVFR800Fが登場したのは'14年。前モデルが'08年型で国内販売終了してから約6年後の出来事だった。

それから約8年後、'22年型で生産終了を迎えるとは誰も考えていなかったハズ。ホンダが「終了」を告知した'22年4月末、ライダーや業界に衝撃が走ったことを覚えている。販売期間はわずか8年に過ぎないが、ホンダのV型4気筒モデルは実に40年もの歴史を持っているからだ。

理由は、当記事でもさんざん触れているとおり、'22年11月から令和2年排ガス規制が全面適用されたため。これに適応せず、幕を閉じることになった。

VFR800Fは、バルブ休止システムのハイパーVTECを搭載したV4スポーツツアラー。アルミフレームと片持ち式『プロプロアーム』の車体も豪華で、優れた運動性能を持ちながら旅の快適さまで兼ね備えたモデルだった。

そして派生モデルとしてクロスオーバーのVFR800Xを'15年型から展開。アップハンドルとロングストロークサスを与え、より巡航性能を高めている。こちらもベースのVFR800Fと同様にファイナルとなった。

↑スポーツ志向の強いツアラーであるVFR800Fは、180度クランクを採用した伝統の781cc水冷90度V4を搭載。後輪駆動力を2レベル+オフに選択できるセレクタブルトルクコントロール(HSTC トラコン)も採用する。144万5400~152万2400円。

↑兄弟車のVFR800X。サスストロークはフロント145mm、リア148mmに延長され、手動で5段階調整が可能なスクリーンを採用する。150万400円。

[ヒストリー1]レースから始まったV4、市販車は'82デビュー

「V型4気筒エンジン」と言えば、1980年代にはヤマハのVMAXがあり、2000年代に入るとアプリリアとドゥカティが開発したとはいえ、やはりホンダの専売特許に近いイメージがあった。

ホンダがV4を初めて送り込んだのは1979年。2ストローク500ccで争うWGP500に、4ストロークV4のNR500で参戦したのが始まりだ。

NRは、1気筒あたり8バルブという革新的な楕円ピストンを採用。1982年12月には、楕円ピストンこそ採用しなかったが、NRの経験を生かしたV4を積んだVF750Fがデビューする。

↑'82年に登場したVF750Fは、クルーザーのVF750セイバー/マグナに次いで登場したスーパースポーツ。360度クランクのV4エンジンを搭載していた。レースでも強く、ライバルの直4マシンを圧倒。


楕円ピストンこそ採用しなかったが、90度V型4気筒は一次振動を解消でき、2気筒並みにスリムなエンジン幅がメリット。モーターのようにフラットな出力特性も特徴で、レース向けの性格だった。
翌'83年のデイトナ100マイルレースで優勝。さらに2ストロークでもV4のNSR500が'84シーズンから登場し、圧倒的な戦闘力を発揮していく。

そして'87年、ホンダの4ストロークV4を世界に知らしめた市販車、VFR750R(RC30)が誕生する。'85~'86年に世界耐久選手権を2連覇したワークスレーサー、RVF750の技術を活かし、チタンコンロッドを採用したエンジンや片持ち式スイングアーム『プロアーム』などを踏襲。市販車ながらワークス勢を喰らう実力を見せつけた。

この4ストロークV4の血統はMotoGPにも活かされ、現在のRC213Vにまで受け継がれている。

↑今も伝説的なVFR750R(RC30)はまさにロードゴーイングレーサー。当時としては高額な148万円の価格が割安に感じるほどの性能だった。

[ヒストリー2]750に続き、'98で800ccの元祖「VFR」が登場

ホンダV4の市販モデルは、RC30などのレース直系に対し、スポーツツアラーの血統も存在する。それが1986年4月に発売されたVFR750F(RC24)を始祖とするシリーズだ。

↑初代VFR750Fはエアロカウルに身を包んだスポーツツアラー。落ち着いた大人向けのモデルだった。

ツアラーとはいえスポーツ性能が自慢で、レース系譲りのカムギアトレーンを採用。一般的にはチェーンやベルトで駆動させるカムを、ギアを使用することで高回転&高出力化を可能にしたもの。ただし高い精度とコストがかかり、ホンダのほぼ独壇場と言えるメカだ。

VFR750Fは1990年型でフルチェンジを受け、RC30と同様のプロアームを導入。2眼ヘッドライトほか外装も刷新した。

↑'90年型VFR750F(RC36)は、シリンダーヘッドのコンパクト化と軽量化を実現。フレームも新設計になった。

そして1998年にフルモデルチェンジを受け、排気量を従来の748→781ccに拡大し、車名を「VFR」としたRC46がデビューする。

これが2022年型まで販売されたVFR800Fの元祖。エンジンはRVF/RC45ベースのサイドカムギアトレーンに変更し、FI、サイドラジエター、ピボットレスフレームなど新技術を満載していた。

↑'98年にフルモデルチェンジを受け、排気量を従来の748→781ccに拡大。車名を「VFR」に変更した。


そして'02年型(RC46後期型)でカムギアトレーンを廃止し、カムチェーンに変更。同時にCB400SFのハイパーVTECと同様のV4 VTECを採用すると同時に、当時流行していたセンターアップマフラーも投入した。

↑'02年型(RC46後期型)でセンターアップマフラーの採用とともに外装を一新。スラントした顔とビルドインウインカーなどを採用し、近未来的なイメージとなった。

[ヒストリー3]'14年型としてLED+一本出しマフラーで復活


国内では'08で販売終了していたが、メイン市場の欧州では販売を継続。'10年に新エンジンを採用したVFR1200シリーズも登場している。

そして'14年、現行型のベースである「VFR800F」がデビュー。
従来型のVFRに対し、久々に排気量と「F」が車名に復活。LEDヘッドライトなどでデザインを一新したほか、マフラーが右1本出しに。シートレールをアルミダイキャスト製とすることで軽量化し、プロアームの剛性を最適化した。

エンジンは従来型を踏襲するが、ラジエターをサイドから前方配置に戻し、トラコン、ETC車載器、グリップヒーター、オートキャンセルウインカーといった便利デバイスも標準で備えている。

↑国内モデルとしては久々に登場した'14年型。サイレンサーが真円タイプで、赤と黒の2色設定だった。


'15年型でVFR800Xも追加。同モデルの旧型は欧州で販売されており、国内にはVFR800X MUGENとしてM-TEC(無限)が輸入していた。これがVFR800Fのフルチェンジとともに刷新され、国内にも正式導入されることになったのだ。

'17年型でF、Xとも平成28年排ガス規制に適合し、従来の105ps/1万250rpm&7.6kg-m/8500rpmに対し、107ps/1万250rpm&7.9kg-m/8500rpmとパワーアップ。マフラー内部構造を3室→2室構造としてコンパクト化した。また左カウルに電源ソケット、タイヤのエアバルブをL字タイプとするなど熟成が進んでいる。

'19年型ではETC2.0車載器を標準採用するとともに、VFR800Fに1980年代のAMAスーパーバイクで活躍したVFR750F インターセプターをイメージしたカラーを投入。これと赤の2色が'22年型まで継続販売された。

↑'22年型が最終モデルに。'19年型で登場したインターセプターカラーが実質的なファイナルモデルとなり、'17年型から継続販売していた赤も選べる。

 

↑上位モデルのVFR1200Fは'10年に登場。完全新設計の1236cc水冷V4を搭載し、2輪初のDCT搭載バージョンも設定。クロスオーバーのXも存在したが、両車とも2016年に生産終了がアナウンスされた。

V4ユニットの個性は他に代え難い味がある

'14年型以降のVFR800Fはライポジがやや前傾し、スポーツモデルに近い雰囲気。V4は"台形パワー”と称されるように、右手の動きに連動したようなレスポンスが楽しい。不等間隔爆発による独特なドゥリューンとしたサウンドと鼓動感も愉快だ。
直4の二次曲線的に吹け上がる感じこそないものの、淡々と長距離を走るのにも向いている。

約6500rpmを境にVTECが作動し、2バルブから4バルブへと切り替わる。より加速感がアップするものの、現代のモデルのパワーモードに比べると変化は乏しい。

車重は243kgとかなりヘビーながら常に安定感があり、旋回中も安心して体を預けられるのが持ち味だ。

とにかくエンジンが魅力的で、虜になる人も多い。'98以降のVFRをベテランライダーが評価する声をよく聞いたものだ。

ただしVFRの人気は徐々に凋落することになった。これはV4スポーツのVFRに対し、並列4気筒のCBR-RRシリーズに人気が集中した面が大きい。'04年のCBR1000RR以降は市販車レースでも直4モデルが主力となり、MotoGPを除いてV4が活躍する場所がなくなっていったからだ。

ホンダとしても栄光のV4に幕を降ろすことは苦渋の決断だったに違いない。残念だが、これも時代の流れなのだろう。
今後、国産V4が再登場するかはわからないが、恐らくVFR800F/Xがラスト。中古車もプレミア相場になっておらず、状態の良いVFRが欲しい人は今が買い時かもしれない。

2022年型 VFR800F 主要諸元
・全長×全幅×全高:2140×750×1210mm
・ホイールベース:1460mm
・シート高:809/789mm
・車重:243kg
・エンジン:水冷4ストロークV型4気筒DOHC4バルブ 781cc
・内径×行程:72.0×48.0mm
・最高出力:107ps/10250rpm
・最大トルク:7.9kg-m/8500rpm
・燃料タンク容量:21L
・キャスター/トレール:25°30′/95mm
・ブレーキ:F=Wディスク R=ディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17 R=180/55ZR17

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