那須モータースポーツランド(MSL)のステップアップ試乗会に登場したヤマハの人気モデル、XSR900。'22年型で初のフルチェンジを受けた本モデルを改めてサーキットで試乗し、その魅力を探った!

兄弟車のMT-09とは異なる、独自の味付けが美味!

GSX-8SVストローム800DEに続いて、XSR900を試乗した。
'21年型以前のXSRは圧倒的な速さと軽さに加え、ベース車のMT-09よりもクセのない乗り味でお気に入りのバイクだった。

初代XSR900がデビューしたのは'16年。軽量パワフルな3気筒+アルミフレームで構成された現代的ファイターのMT-09を基盤に、丸眼ライトなどのネオレトロなスタイルを与えた。同時に足まわりのセッティングを変更し、ベース車のMT-09より落ち着きのある走りが特徴だった。

現行型のXSR900は、'20年型でフルチェンジしたMT-09のエンジンと車体を受け継いでリニューアル。より精緻なトラクションコントロールなどを実現する6軸IMU、上下対応クイックシフター、クルーズコントロールまで標準で備える。

↑デザインは、往年のバイクの様々なエッセンスを融合した先代に対し、'80年代のレーサーからカウルを剥ぎ取ったようなデザインに。クイックファスナー仕様のサイドカバーなどもレーシーだ。実にオリジナリティがあり、ハートに刺さるオジサマも多いのでは?


120psの888cc水冷3気筒とアルミフレームはMTと共通ながら、兄弟車のトレーサー900GTと同じスイングアームを採用。ホイールベースは65mm長い1495mmとしている。アーム単体ではMTより55mm長く、先代比でホイールベースが55mmロングだ。さらにシートレールも専用設計となる。

↑水冷トリプルは現行MT-09譲りの最新版。3mmのストロークアップで排気量を845→888ccに拡大し、4ps&0.6kg-m増を実現している。エンジン高は抑えつつ、軽量化も果たした。電子制御スロットルは、セミ→フルライドバイワイヤとなり、6軸IMUを獲得。アシスト&スリッパークラッチは従来から継続する。


そして現行型もサスセッティングが専用。バネレートを上げ、ストローク感を残しつつ、余計な動きを抑えた設定に。またライポジも独自で、ハンドル位置は低く前方、着座位置はやや後方となる。

↑フロントはフル調整式の倒立フォークとADVICS製モノブロックキャリパーで武装。これに鍛造並みの強度と軽さを実現した鋳造のスピンフォージドホイールを組み合わせる。

↑フロントブレーキのマスターシリンダーは、垂直方向に力が加わるラジアルポンプ式。MT-09がニッシン製なのに対し、ハイグレードなブレンボ製としている。

ドギャンと弾ける加速はよりパワーアップ、されど安心感も

まず跨ってみるとライポジがやや独特だ。フラットで低いバーハンドルと、長いタンクによって、腕が伸びて上体がやや前傾する。現代のスーパースポーツとも一般的なネイキッドとも異なる、一昔前のスポーツモデルのような設定だ。

↑後ろ寄りの着座位置と、やや低いバーハンドルにより上体はやや前傾する。ステップ位置は適度にバック気味で、街乗りもスポーツもできる設定だ。

↑身長177cm&体重65kgのライダーで足着きは余裕。車体がスリムな上に股下の部分が絞られている。ビッグバイクながら車体が軽く、取り回しもしやすい。


ヤマハの公道モデルで初となるバーエンドミラーは、視認性は悪くなく、特別なモデルに乗っている感じがするものの、なかなか慣れなかったことを付け加えておきたい(笑)。

走り出すと、フルチェンジ前のギュルギュルしたフィーリングこそ薄らいだものの、やっぱり強烈に速い。走行モードは4パターン用意され、最もパワフルなモード1を選択。スムーズに回転が上昇し、右手を開けただけダイレクトに路面を蹴るような感覚だ。大きめにスロットルを開けると「ドギャン」と弾けるような加速感があり、思わず慎重になってしまう。

過去記事で乗ったGSX-8Sもかなり過激な味付けだったが、 XSR900はそれ以上。特に5000rpm程度からの加速は(記憶の中の)先代モデルを上回る。そしてクロスプレーン3気筒ならではの振動やサウンドも気持ちいい。ただし、バンク角やウイリーを検知する電脳サポートが充実しているせいか、コントロールしやすさは増しており、精神的な安心感もある。

この加速感に疲れたらレスポンスが穏やかになるモード2に変更(それでもかなりパワフル)。雨天やのんびり走りたい時はモード3や4でマッタリ走りたい。

旋回中のライン変更もイージー、自由自在のハンドリング!

XSR900の真骨頂はハンドリングと言える。

コーナーへのアプローチではブレーキのコントロール性が重要だが、XSR900はまずここからイイ。
MT-09もラジアルマスターシリンダーを採用するが、XSRではよりグレードの高いブレンボ製を採用。レバーの握り込みに応じて自在に制動力を調整できるのはもちろん、ブレーキングでFフォークを縮めたままコーナーに入り、徐々にブレーキをリリースして車体を倒しこんでいくアプローチがしやすい。

これは旋回力を引き出すテクニックだが、ブレーキのコントロール性がいいほどやりやすい。その点XSRは実に優秀だ。

さらに軽やかにバンクできる上に、コーナリング中はピタッと路面へ吸い付くように安定。軽快なのに軽薄ではなく、しっとりした趣があり、安心してスロットルを開けていけるのだ。これはギャップを吸収して余計な動きをしないサス設定に加え、重心の低さとロングスイングアーム、前傾ライポジによりフロント荷重が適度にかかることが理由だろう。

そのため狙ったラインを思い通りに描ける。加えて、コーナリング中のライン変更もしやすい。これは回転域に関わらずトルクが湧き出る特性の恩恵も大きい。

安心感を伴い、人馬一体になって自由自在に曲がれる感覚。これはまさに私の考える「ヤマハハンドリング」だ。個人的には試乗経験がある同じくヤマハのXJRシリーズ、そして最終型のTZR250を思い起こさせるものだった。

今回、那須MSLで乗った3車の中で最もこのコースにマッチし、楽しかったのがXSR900だったと正直に言っておこう。

↑インにつくか、アウトに抜けるか・・・・・・この状態からのライン変更もイージー。このハンドリングはサーキットはもちろん、公道でも大きな武器となる。そして何より楽しい!

個人的に△なのはハンドル切れ角と・・・・・・

ただし、ハンドル切れ角が少ないのでUターンではやや大回りしてしまう。また質感は高いものの、デザインが個性的なので人を選ぶかもしれない(個人的には悪くないけど、もう少し大人しいイメージの方が好みかも)。

とはいえ、そんなポイントが気にならないほどXSR900は魅力に溢れたバイクだ。900cc前後のネイキッドで120psのハイパワーと、193kgの軽い車重を兼ね備えたモデルは貴重。その上、121万円とヘリテイジ系のライバルより価格が安い。コスパ優先でスポーティ重視の走りが欲しい人にぜひオススメしたい1台だ。

2022年型 XSR900 主要諸元
・全長×全幅×全高:2155×790×1155mm
・ホイールベース:1495mm
・シート高:810mm
・車重:193kg
・エンジン:水冷4ストローク並列3気筒DOHC4バルブ 888cc
・内径×行程:78.0×62.0mm
・最高出力:120ps/10000rpm
・最大トルク:9.5kgf・m/7000rpm
・燃料タンク容量:14L
・キャスター/トレール:25°/108mm
・ブレーキ:F=Wディスク R=ディスク
・タイヤ:F=120/70ZR17 R=180/55ZR17

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