レッドバロンがメディア向けに開催した試乗会に、コンディション良好な数々の絶版車が登場! メカの解説と当時の思い出を交えつつ、現代目線からのインプレをお届けしよう。第2弾はVMAX1200! '80~'90年代に大ブームとなったパワードラッガーのお通りだ。
取材協力:ヤングマシン

当時最強の145psを引っ提げて登場したV4ドラッガー

フルパワー145ps! 1985年に北米専用車してデビューしたヤマハのVMAX1200は、当時最強クラスの馬力でゼロヨン10秒台の加速力を誇り、センセーションを巻き起こした1台だ。

↑試乗車は1988年型。1987年型からフロントがディッシュホイール化され、ダクトカバーがブラックになっている。走行距離は7万3000kmと走り込んでいるが、外観、コンディションとも上々だった。

心臓部の1198cc水冷V型4気筒エンジンは、1983年に登場した輸出専用の大型ツアラー、ベンチャーロイヤルがベース。ベース車は最高出力97psだったが、VMAXは+48psもの大幅パワーアップを果たしている。

そのキモとなったのが「Vブーストシステム」。1気筒あたり2つのキャブレターから混合気を送り込むシステムで、エンジン回転数が6000rpmを超えた時点でインテークマニホールドのバルブが徐々に開いて8500rpmで全開に。これによって怒涛の加速を得られるのだ。それにしても、車名の「VMAX」といい、この「Vブースト」といい、ネーミングが実に素晴らしい……!

憧れのバイクを地獄の押し歩き! VMAXにまつわる思ひ出

このVMAXは個人的な思い入れが深い。私が免許を取った'80年代末から既に「憧れのバイク」として崇められていた記憶がある。'90年にVMAXの国内仕様が発売されるが、それまでは逆輸入車しかなく、悪名高い限定解除も存在して、とにかく乗るためのハードルが高かった。

その後、'95年に私はヤングマシン編集部に在籍することになったのだけど、VMAXは上司のK先輩(後の編集長)の愛車でもあった。ある日、編集部にK先輩から電話があって「今、秋葉原にいるから来てくれ」という。詳しく話を聞いてみると、VMAXがガス欠になったから編集部まで押すのを手伝え、というのだ!? 

トランポが取材で出ていたのか、重くて乗せられなかったのかは忘れたが、編集部のある御徒町(秋葉原の隣駅)まで、K先輩はハンドルを持ち、私はVMAXのゴツいグラブバーを押しまくった(苦笑)。軽いバイクならまだしもVMAXは250kgオーバーと非常に重い。腕がパンパンになり、息が切れてゼーゼーしたのをよく覚えている……。

これはもちろん仕事中の出来事。バイク雑誌の編集部なんてソンナモノと言ってしまえばそれまでだが、大らかな時代だったのだ(笑)。

そして'96年に教習所で大型二輪免許教習がスタートし、ビッグバイクへのハードルがグッと下がった。中でも人気が高まったのがVMAX。中古車も相当数が流通しており、あちこちで見る機会が増えたものだった。

↑ベンチャーロイヤルがベースの1198cc水冷V4エンジンは70度の挟み角で独特な爆発タイミングとしている。駆動方式はシャフトだ。

↑シンボルと言えるダクトカバーはアルミ製。Vブースト用のエアダクトと思われがちだけど実はダミーだ。タンクもダミーでエアボックスとなっている。

↑ディッシュホイールにφ40mm正立Fフォークと1ポットキャリパーの組み合わせ。'93年型からφ43mmFフォークと4ポットキャリパーに変更された。

↑丸1眼スピードメーターをハンドル側に、タコメーター&燃料計などをタンク側に搭載した特徴的な計器類。速度計はマイルとkm/h表示を併記しており、試乗車は北米仕様と思われる。

ドロドロした乗り味はまさにアメ車、意外にもハンドリングは自然だ

さて、令和の時代に実物を前にしても、やはり独自性がある。『魔神』という広告のキャッチコピーがあったように、一般的なクルーザーともアメリカンとも違う独特な造形だ。デザインされたのは既に40年も前(!)にもかかわらず、今見ても色褪せず、カッコイイと思う。

20年ほど前に、VMAXのデザインを手がけたGKダイナミックスの一条厚さんに取材させていただいたことがある。その記事を探したけど見つからなかったので記憶を頼りに思い出してみると「VMAXはアメリカンスピリッツがテーマ」で、力強さと美しさを表現したとのこと。また、サイドの象徴的なエアダクトは「ジェット機のエアインテーク」がモチーフと仰っていた。

↑身長177cm&体重61kgのライダーでは、上体が起き、腕にも余裕アリ。ステップ位置は自然で、リラックスしたライポジだ。ただし殿様ポジションとは違い、若干のスポーティさが漂う。

↑車体の幅を感じるものの、シートが低いため、足着き性は非常に良好。傾くとズシリと重さを感じるが、余裕で足を踏ん張れるのが嬉しい。

 

実際に走らせてみると、常用域でのドロドロしたアメ車的な鼓動感がとてもイイ。ここで車体の重さが効いてくる。どっしりと安定し、アップハンドルとお尻を包み込むガンファイターシートが実に「アメリカン」な雰囲気。昔、大型二輪免許を取得して、すぐVMAXに乗る機会を得たのだけど、この乗り味に感動したことを覚えている。スロットルに対するレスポンスもよく、トルクフルだ。

この巨体ながらハンドリングはニュートラル。低速での切れ込みが少なく、街乗りでも不都合はないだろう。トルクたっぷりのエンジンを活かせば活発に走らせることも可能だ。サスはソフトで乗り心地もいい。

一方、トルクがかなりドンッと出るし、速度を上げてコーナリングしていくと車体の重さが顔を出す。またシャフトドライブのため、コーナリング中にスロットルを開けるとテールが持ち上がり、もう一寝かしする必要がある。

フロントは1ポットキャリパーで、初期からタッチが優しくて使いやすいものの、速度を出すと少々心許ない(自分が購入したらブレーキをカスタムしたいと思う)。飛ばすと気をつかう場面が出てくるので、やはりキャラクターとしてはクルージング向きだ。

↑ステアリングが軽く、自然に曲がれる。マッシブなイメージながら、低速域での走りもしっかりこなす。

Vブースト発動! 一瞬だけだったけど加速は強烈だ

↑6000rpm程度からVブーストが発動し始め、急激に加速! 巨体を前に前に押し出す。

 

仕向地によってはVブーストがオミットされている場合もあるが、この車両はVブースト付き。ならば試さない手はない……のだけど、今回試乗したコースは直線距離が短く、ほんの一瞬だけ体感できた。

6000rpm程度からドロドロした低音が甲高いサウンドに変化し、強烈な加速を見せる。思わずハンドルにしがみつくほどの爆発的な加速力だ。よっぽど前方がクリアで安全な直線でなければ、これ以上スロットルを開け続けられないだろう。

どこまで使いきれるかはわからないが、このパワーが宿っていると考えるだけで胸が昂る。VMAXはロマンの塊なのだ。

VMAXの魅力を再確認、ただしガス欠にはご用心(笑)

VMAXは今まで何度も購入を考えつつ、ついぞ所有したことはなかったが、改めてイイと思ってしまった。ただ、ちょっと気になるのは、よく言われる通り航続距離が短いということ(実質150km程度と聞いた)。ガス欠に気を配る必要がある。でないと秋葉原から押すハメになってしまう(笑)。

とはいえ、存在感と走りはコイツならではの醍醐味。のんびりクルージングはもちろん、気分転換にその辺を流すのにいいなぁ、と思う。

VMAX1200 主要諸元

・全長×全幅×全高:2300×795×1160(mm)
・ホイールベース:1590mm
・シート高:765mm
・車両重量:274kg(装備)
・エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブV型4気筒1198cc
・最高出力:145ps/9000rpm
・最大トルク:12.4kg·m/7500rpm
・燃料タンク容量:15L
・ブレーキ:F=ダブルディスク、R=ディスク
・タイヤ:F=110/90V18 R=150/90V15
※諸元は'85北米仕様

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