ゼファーという革命【前編】を読む

ゼファーという革命【中編】を読む

「ゼファーに続け!」とばかりにホンダCB400スーパーフォア、ヤマハXJR400、スズキGSX400インパルス、そして本家カワサキからは水冷エンジンのZRXも登場。往年の名車をリスペクトしつつ現代的な解釈で端正なスタイリングを得たモデル群が400㏄クラス、ビッグバイククラスで高い人気を集めます。そして当のゼファーも第二形態へと変身……!

それはまさに烈風吹き荒れる超巨大台風のごとく

1990年、大学4年目なのにナゼか新3年生となった筆者は、縁あって八重洲出版モーターサイクリスト編集部に学生アルバイトとして潜り込みます。

大先輩編集部員諸氏の厳しくも温かい指導の下、アンケートハガキ整理からプレゼント発送、広報車両の引き取り&返却、取材のサポート要員など、ありとあらゆる仕事をこなしていくなかで、まさに“ネイキッドブーム”の恐るべき盛り上がりを肌で感じることができました。

ゼファーカタログ写真

●本当に今思い返してみても1990年、1991年は「ゼファーの年」でした。筆者もゼファーを中心としたロングランテストやツーリング取材に何度となく参加させてもらい、その奥深い乗り味に感動したものです。レッドゾーン付近まで回すとエキゾーストノートだけでなくエンジンの鼓動や吸気音までが渾然一体となって、乗り手の心を高揚させてくれるのには脱帽! それは偶然なのか計算尽くされた演出なのか……間違いなく後者だったのでしょう

 

すでに西からのそよ風……ゼファーは恐るべき暴風と化しており、企画のためバイク屋さんへ納車状況を尋ねる電話をしてみれば、どこも車両は売り切れ&入荷待ち状態。

シンプルな外観と構造だからこそ有名無名を問わずカスタムショップとパーツメーカーは思うがままに腕をふるい、それらを紹介するコンテンツは雑誌のカラーページを占有する勢い。渇望するユーザー予備軍の「手に入れたらああしたいこうしたい」心へさらに火と油を注ぎ込みます。

お手軽カスタムからフルチューンまで対応する素材

今風で言えば非常に“映(ば)える”空冷4発を引き立たせるためにもマフラー交換は当たり前で、GPz400系のパーツをうまく流用すれば目覚ましいパワーアップも難しい話ではありません。

GPz400F

●1983年に登場したカワサキGPz400F。1982年にZ400FX(43馬力)の後継として登場したZ400GP(48馬力)は翌年1993年にGPz400(51馬力)となり、そのわずか8ヵ月後にこのGPz400F(54馬力)がリリースされました。レーサーレプリカブームに空冷マルチで対抗するべくパワーアップを繰り返してきましたが、こちらが最高到達点。400㏄旗艦としてのポジションは水冷59馬力エンジンを搭載するGPZ400R(1985年)が引き継ぐこととなったのです

 

金色、黄色、青、赤、白、緑……2本サスだからこそ“交換=超目立つ”という図式となった市販リヤショックユニットのカラフルな色合いも、持ち主のこだわりを感じさせるポイントとなりました。

各ショップが工夫と熱意を凝らした外装、塗装、チューニング、新作パーツの情報や、モチーフとなった“Z”の歴史、ライバルとの比較試乗、ロングランテスト、胸たぎる開発秘話、オーナーの入手時ドタバタ劇(笑)&カスタムレポートetc。

Z2

●通称Z2こと「750RS」。ゼファーに惹かれた当時のナウなヤングが「火の玉タンク」などのキーワードから過去のレジェンドモデルに興味を持ち、いつしか往年のカワサキ名車道へと突き進んでしまう……という例も数多く見てきました。現在カワサキにゾッコンなシニアライダー諸兄諸姉でゼファーがきっかけだった、という人は相当に多いのでは?

 

いくらでも出てくる多彩な切り口を記事にしていけば、そのたび発行部数がハネ上がりますのでバイク雑誌もゼファーのことを頻繁に大ボリュームで取り上げざるを得ません。

速さを否定する当時の風潮も追い風にして……

400クラスのゼファーだけでもお祭り状態でしたのに、同1990年8月にはゼファー750までリリースされたのですから、もはやリオのカーニバル状態です。筆者がアルバイトとして諸先輩を手伝う仕事も、毎日ほとんどゼファーシリーズがらみ……という期間が長く続きました。

ゼファー750広告

●400のゼファーよりZ1/Z2へ寄せた曲線基調のスタイリングで登場した「ZEPHYR750」。税抜きのデビュー当時価格(以下同)は65万9000円。GPz750Fに使われていた(77馬力)空冷2バルブエンジンはゼファー向けに最適化されて68馬力に。“ナナハン”はシリーズの中でもベストバランスとの声も多く、長年乗り続ける人が筆者の周囲にもたくさんいました。中高大時代のバイク舌戦同志カワサキ派(だけでなく!)も次々にゼファーの軍門にくだっていったのです(笑)。1996年にはスポークホイール仕様のRSが登場(2002年型で終了)。1999年以降、往年のレジェンドカラーリングを積極的に導入するようになり、STDであるキャストホイール版は2007年のファイナルエディションまで命脈を保ちました

 

大きな時代のうねりもゼファーを後押しします。

250㏄クラスでは45馬力、400㏄だと59馬力、750㏄なら77馬力などとバイクメーカーが自主的に排気量に応じた馬力の上限を設定していた“馬力自主規制値”が1992年に引き下げられ、250㏄は40馬力、400㏄が53馬力となりました。

この厳格な規制によりハイパワーであることに大きな価値が見いだされていたレーサーレプリカブームはとどめを刺されたカタチとなり、以降沈静化の一途をたどります。

対照的に同じ1992年の3月、国内のオーバーナナハン解禁を受けたゼファー1100が満を持して登場し、「二度あることは三度ある」を地でいく大ヒットモデルへ成り上がる姿を近くで見ていると、平家物語冒頭の一節が頭の中をぐるぐるとリフレインしたものでした。

ゼファー1100

●威風堂々! そして紛れもなくゼファー! という絶妙なスタイリングで登場した「ZEPHYR1100」(84万9000円)。しっかりといたゼファー三匹目のドジョウは重厚長大でした。圧倒的な存在感で鎮座する93馬力の1062㏄空冷4ストDOHC2バルブ(ツインプラグ採用+一軸二次バランサー付き)エンジンは、海外向け大型ツアラー“ボイジャー”用水冷エンジンをわざわざボアダウンして空冷化した……という珍しい生い立ちを持つもの。1996年にはスポークホイール仕様のRSも登場(2003年生産分が最終型)。キャストホイール版はナナハンと同じく1999年以降にタイガーカラーや火の玉カラーなどを積極展開していき、ナナハン同様、2007年のファイナルエディションにて大団円を迎えました

自らのスタイルは変えない堂々の横綱相撲で君臨

さて、話を400㏄クラスに戻しますと馬力規制の騒ぎなどどこ吹く風のゼファーは、ただひたすらにゼファーなままでベストセラー街道を突き進みます。

車体色は色味こそ変更されますが、赤系統と黒(紺)系統の2色展開は不変なまま(最終型のC7……1995年モデルのみ青が追加され3色展開になりましたが)。

メーターの二眼化や立体エンブレムの採用ほか細部の改良も最小限にとどめられ、46馬力ほかの主要諸元はほぼ変わらず……。なおかつ、52万9000円という税抜き車両本体価格は生産されていた7年間まったく変更を受けませんでした。

ライバルメーカーもゼファーを徹底的に検証したのち、遅ればせながら追撃態勢を整えます。

1992年3月にはホンダCB400スーパーフォアが、

CB400スーパーフォア

●2022年は「CBR-RRファイアーブレード」30周年記念の年であると同時に、こちらの「CB400スーパーフォア」シリーズも30周年、ついでに言えば520万円で市販された、あの「NR」も30周年を迎えるのですね。すごかったなぁ1992年。というわけで「PROJECT BIG-1」の旗印のもと、レーサーレプリカCBR400RR譲りの水冷強心臓をわざわざカムギヤトレインから一般的なカムチェーンとしてネイキッドモデルに最適化し、オーソドックスかつレース使用にも耐えうる高剛性シャシーへ搭載。ボリューミーかつスタイリッシュな外観も実現していたため一躍人気モデルへと駆け上がります。当時価格は58万9000円(ツートンカラーは1万円高)。現在でも400㏄クラス唯一の並列4気筒モデルとして君臨していますが、生産終了のウワサも……!?

 

1993年3月にはヤマハXJR400が、

ヤマハXJR400

●往年のXJ400をリスペクトしつつ文句のつけようがないカッコよさで登場した「XJR400」(57万9000円)。一部地域では「ペケジェイアール」と呼ばれていますが、正しくはもちろん「エックスジェイアール」です。新たに設計された空冷並列4気筒DOHC4バルブエンジンはもちろん規制上限の53馬力。オーリンズのリヤサスやブレンボのブレーキキャリパーを積極的に導入して高い人気を維持するとともに、薄型角目ヘッドライト+ビキニカウルの“RⅡ”も出すなど挑戦的な試みも行っていました(同様の仕様を持つCB400SF バージョンRともども不人気モデルの烙印を押されてしまいましたけれど……)。1998年には「XJR400R」に一本化された第2世代となり細かな改良を重ねていきますが、2007年モデルで生産終了となりました

 

1994年2月にはスズキGSX400インパルスが相次いでデビューし、

GSX400インパルス

●あの“東京タワー”から8年、正統派ネイキッドスタイルを身にまとい“インパルス”が三たび登場いたしました。1989年にバンディット400が登場したのは前述のとおりですが、1992年には「GSX400S KATANA」もデビューしてある程度の人気を集めたもののゼファーとがっぷり四つを組むまでには至らず。ガチンコの対抗モデルとして企画されたのがこの車両でした(55万9000円)。往年の名車GS1000イメージ満点な丸目ビキニカウル仕様のSモデルを指名買いするユーザーも多かったものです。なおスズキは1995年に「バンディット400シリーズ」をまさかのフルモデルチェンジ、1997年には油冷エンジンの「イナズマ400」をデビューさせ、2004年には「インパルス400」が4度目の登場、2006年にはアルミフレームの「GSR400」をリリースするなど、幅広いユーザーに向けたバラエティ溢れる400ネイキッドを乱発していきました

 

どの車両も往年の名車をリスペクトした端正なスタイリングと400㏄クラスの自主規制値いっぱいの53馬力を発生するエンジンを携えてゼファーの待ち構える土俵へとのぼり、互角以上の戦いを繰り広げていきます。

ザンザス

●ゼファー旋風が吹き荒れていた1992年、ZEPHYR以上にコレ何て読むの?と頭を抱えたニューカマー「XANTHUS(ザンザス)」が突然のデビューをはたします(62万9000円)。ZXR400ベースのエンジンを低速寄りにセッティングした上に減速比も思いっきりローギアード化してプレス材を活用したアルミフレームに搭載。“シグナルグランプリではクラス上のモデルにも負けない”ことを目指して開発され、キャッチコピーはズバリ「音速伝説。」……。今となっては異端児的な立ち位置になっていますが、「Z1000」(2003年)から現在へ続く、新時代“水冷Z”の始祖とも呼べるモデルなのかもしれません

ゼファーも幕引きかと思っていたらχ(カイ)が出た!

が、カワサキもさるもの。1994年2月には“角Z”らしさ全開のスタイリッシュな外観に水冷53馬力エンジンを搭載した「ZRX」をリリースして、ゼファーとの超強力な布陣を形成。過熱するばかりのネイキッド戦線に双璧を築き上げたのです。

ZRX

●みんな大好き“ローソンレプリカ”で広く知られる「Z1000R」をモチーフにした、タメ息の出る美しさを持つ新規開発ボディにZZR400ベースのエンジンを積んだ走りのネイキッド(当時価格59万9000円)。翌1995年には丸目ヘッドライトのZRX-Ⅱも登場して盤石の体制となり、しばらくは単色での展開でしたが、1996年からグラフィックモデルを次々に導入していき、中でもローソンレプリカに近づけたライムグリーン仕様は引く手あまたに(1996年には兄貴分のZRX1100も登場)。この手のバリエーションモデルにしては珍しく丸目ZRX-Ⅱも息の長い人気を誇り、ZRXはSTDとⅡが仲良く2008年モデルで生産終了となりました

 

……とはいえ、目新しいライバルとZRXの躍進により、役目を終えたかのような雰囲気すら漂っていた1990年代中盤のゼファー。

「このままフェードアウトしてしまうんかのぅ?」と、ともに上京してきた高校時代のバイク口(くち)プロレス(←舌戦)仲間と出たばかりの発泡酒を酌み交わしつつ寂しがっておりましたら、まさかの展開に!

忘れもしない1996年3月、空冷であることはそのままに4バルブ化された53馬力エンジンを、より流麗なスタイリングとなったボディに搭載する「ZEPHYR χ(カイ←無限の可能性を示すギリシャ文字)」がデビューし、バイク業界は再び色めき立ちます。

ゼファーカイ

●興味のない人にとってはサイゼリヤのお子様メニュー並みの間違い探しかもしれませんが、これはゼファーχです。無印ゼファーではありません。しかし、バイク好きからすれば、思わず唸ってしまう変更点の数々! カワサキの空冷インライン4で4バルブ化されたのは後にも先にもこのχだけ。デザインもしっかりトレンドを押さえてきて、テールカウルはゼファーより切れ上がった小ぶりなものへ変貌。下で紹介しているZ900RSとの関連も考察すると、それでだけで筆者はゴハン10杯いけてしまいます。偉大な先輩にならい、しばらくはシンプルな単色での展開が続いたのですが(タンクの上に白いストライプが入った仕様もありましたけれど)、1999年にゼファー10周年を記念した火の玉カラーを登場させてからは毎年のように“丸Z”のレジェンドグラフィックを導入し、ユーザー(予備軍)の心を惑わせ……いや酔わせていきます

 

高い人気を維持したまま20余年を駆け抜けて……

一新されたパワーユニットだけでなくタイヤ、足周り、電装系、マフラー構造ほか7年分の進化を反映した多岐にわたる大改良でフルモデルチェンジと言っても過言ではない内容。それでいて発売当時の税抜き車両本体価格は58万円と値上げ幅は5万1000円のみに抑えられていました。

初代登場時とは異なりCB400スーパーフォアを筆頭として魅力的なネイキッドモデルのひしめき合う状況下では、何もかも吹き飛ばすような暴風……にはなれませんでしたが、厳しくなる一方の環境諸規制に対する真摯な改良や商品性を向上させる小変更を欠かさず、俗にいう火の玉カラーやタイガーカラーといった伝説的なグラフィックも矢継ぎ早に投入したこともあり、ずっと人気モデルであり続けたのです。

2009年、さらに厳しくなった排ガス規制の関係でファイナルエディションが登場し、一大ブームいや“時代”を作った革命的な存在であるゼファーの20年余りにわたる航海は終わりを告げました。

ゼファーカイファイナル

●こちらは2009年モデルのファイナルエディション(65万5000円)。「限定○○台!」という車両ではありませんでしたので、買い求めるファンが殺到したというニュースを覚えている人もいらっしゃるのではないでしょうか。私の知り合いも購入して大切に乗っていましたが、諸事情により泣く泣く手放したとき、驚くほどの買い取り金額が付いたことを報告してきました。今ならもっと……いやいや、バイクは投機の材料ではございません。元気に走らせてナンボ!

 

しかし現在、ゼファーシリーズの中古車はとんでもなく高い人気を維持し、そのスタイリング文法を色濃くまとったZ900RSはベストセラーモデルとして君臨中。

Z900RS

●ストリートファイター然とした「Z900」がベースとは思えないほど、ネオレトロな雰囲気をまとって2018年に登場した「Z900RS」(123万円)。すぐにビキニカウルをまとった“CAFE”も追加され(125万円)、ベストセラー街道を爆進中なことはご存じのとおり。948㏄水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジンは111馬力を発揮! ABSもトラクションコントロールもスリッパークラッチもLEDヘッドライトもフロント倒立フォークもリヤの1本サスも装備され、走行&快適&安全性能にスキはありません。……が、あえて正立フォーク化や、リヤ2本サス化をするカスタムもメディアを賑わしており、車両が備える懐の深さを感じます

 

ゼファーシリーズと覇を競ったCB400スーパーフォアはいまだ現役ですし、数多の海外メーカーさえネイキッド……いまどきは“ネオレトロ”と呼称するようなジャンルに次々と新車を送り出して人気を集めています。

眺めてよし、磨いてよし、タンデムによし、旅によし、ゆっくり走ってよし、たまに気合を入れてももちろんよし。少なくとも日本でこの方向性のバイクを深く定着させたゼファーの功績は未来永劫、称えられるべきだと考えている筆者なのでした。

そんな、バイクの基本とも呼べるネイキッドモデル、ゼファー。低年式の中古車でもパーツ供給の心配がいらないレッドバロンで、ぜひじっくりと探してみてください!

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