ゼファーという革命【前編】を読む

 

ゼファーの爆発的ヒットを生み出す下地にもなった、レーサーレプリカブームの異様な盛り上がりぶり。カワサキ以外のメーカーも“祭りの後”に向けて様々なモデルを提案していきましたが、結局はゼファー(シリーズ)が作り上げた“ユーザーの求める最適解”にならった姿へと収れんされていきました。そして空前の「ネイキッドブーム」が到来するのです!

フルカウル車の廉価版として登場した“ネイキッド”

実のところ、ゼファー以前にもノンカウルのスポーツバイクは一定数存在していました。

ゼファーカタログ表紙

●ゼファーは広告戦略も実に巧みでした。絶対的な高性能を誇示できない点を逆手に取り、ライダーの感性へ訴える方向にフルスイング。日本の四季、絶景、史跡、文化遺産などを効果的にカタログなどへ挿入することで、「乗り手へ寄り添う相棒」感をうまく演出していったのです

 

流麗なハーフカウルを取り去ったカワサキGPz400F-Ⅱ(1983年)、“NSRという奇跡”でも紹介したホンダNS250F(1984年)や、メーカーが公式に「NとはNaked(ネイキッド……つまり裸)のNです」とアナウンスしたヤマハFZ400N(1985年)。

●丸目二眼を持つ正統派レーサーレプリカの顔も凜々しいハーフカウル版FZ400Rから、雰囲気がガラッと変わったカウルレスバージョン「FZ400N」。教習所仕様である「FZ400L」のベース車両にもなっていました。金色のエンジンヘッドカバー、クランクケースカバーが泣かせます。FZ400R比で1㎏軽くなり、2万9000円安い56万9000円で発売されていました

 

ほかにも、見事1985-86年の400㏄クラスベストセラーに輝いたGPZ400Rをベースにストリートへ特化したカワサキFX400R(1985年)、印象的な丸型2灯ライトを採用したホンダVFR400Z(1986年)らは、カウルありきのバイクからカウルをはぎ取った本来の正しい意味での裸……いや、ネイキッドモデルでしょう。

少々毛色は違うもののヤマハがSRとは違う方向性を模索したシングルスポーツSRX[250と400と600あり](1985年)や、狭角Vツインをアルミフレームに搭載したホンダBROS[400と650あり](1988年)なども一部熱心なファンを獲得していたものです。

あ、スズキの“東京タワー”ことGSX-400Xインパルス(1986年)も忘れてはなりませんね(笑)。

1984 GSX-400Xインパルス

●あのGSX1100Sカタナをデザインしたターゲット・デザイン所属のハンス・ムートさんが六本木をイメージして作り上げたという超絶デザインが魅力的な「GSX-400Xインパルス」(当時車両価格:56万9000円)。フレームの朱色とそれにつながるライトステーの造形は、やはり“東京タワー”を想起させてしまいますね。なお、右下に小さく載っているのはスズキが社内でデザインしたハーフカウル仕様の「GSX-400XSインパルス」(同:59万5000円)

 

ポストレプリカとして求められたのは“フツーのバイク”

そしてゼファーと同じ1989年に登場したがゆえに、どうしても引き合いに出されてしまうのがスズキのバンディット400とホンダCB-1。

前者はXインパルスと同じくGSX-R400のエンジンを新開発のスチール製パイプダイヤモンドフレームに搭載したスタイリッシュなアーバンスポーツ。

バンディット400

●正直ひいき目もありますが(汗)、ゼファーに負けず劣らずカッコいいと筆者は考えているバンディット400。当時の税抜き車両本体価格はコンチハンドル仕様が57万9000円、スタンダードが59万5000円、ハーフカウル付きのリミテッドが66万6000円。1991年登場の可変バルブタイミング機能付きのVモデルは63万6000円、そのリミテッド版は72万7000円でした

 

CB-1はCBR400RRのエンジンを低中速寄りにファインチューンしたものをスチール製ツインチューブ式ダイヤモンドフレームに積んだ、今風で言えばストリートファイター的なモデル。

CB-1

●筆者の周りでは「シビイチ」とも呼称されていたホンダCB-1。1989年登場の初期モデルは64万6000円(税別、以下同)。1990年3月に登場したサスペンションなどを改良した仕様は60万9000円。1991年にはセミアップハンドルのtypeⅡも同価格の60万9000円で追加された。こちらはSTDより燃料タンク容量が2ℓ増やされた13ℓとなっていました……ってコスト計算が絶対におかしい

 

ともに当時の定番メカニズムでもあるリヤの1本サスを備え、レーサーレプリカ譲りの強心臓による卓越した走行性能を謳っていました。

……が、まったくもってゼファーには太刀打ちできず。

やはりそこには単に“安い”というだけでなく、歴代「Z」へのオマージュが込められた絶妙かつ秀逸なスタイリングの力がゼファーにはあったからでしょう。

俗にいうZ1……900スーパー4からの“丸Z”、Z1-RやZ1000Rなどに代表される“角Z”、それら両方のデザインエッセンスが400㏄クラスという車格の中で見事に具現化されており、改めてバイク雑誌の写真を見たとき「ふーん、なんで今さら」とやはり冷笑をしつつも「……意外にカッコいいかも」と好感を得た記憶はかすかに残っていました。

Z1

●1972年に登場した究極のZこと「900スーパー4」。Z1は型式であくまで車名は900スーパー4……なのですが、Z1のほうが通りがいいという(汗)。ちなみに国内仕様の750㏄版はよくZ2(ゼッツー)と呼ばれていますが、正式な車名は「750RS」です。RSとはロードスターの略称ですね。ため息しか出ないこの美しいデザインが、多くのカワサキファンを生んできました

 

Z1-R

●上の900スーパー4から6年後の1978年、美しいティアドロップ型タンクに始まる曲線美を全否定するかのように直線的でエッジが立ちまくっている「Z1-R」が登場。大胆な方向性の転換はカワサキにしても大きな賭けでしたが全世界的に好評を持って受け入れられ、Z1000MKⅡ、Z1000R、そして後のFXやZRXシリーズに通じる、“角Z”のデザインテイストが確立したのです

微風がいつしか強風へ。ついには世界を一変させる烈風に!

ひっそり静かに出航したゼファーですが、港を出るやいなや強い追い風を受けることになります。

10%になっている現在から考えれば「わずか」と付けたくなってしまう3%の消費税ではありますが、それまでゼロだったところに買い物をするたび3%を上乗せして支払わなければならないというプレッシャーは当時相当なものがありました。

まだバブル経済ははじけていませんでしたが、価値のあるものをリーズナブルに入手したいという機運が高まっていたことは事実。そして50万円台前半という価格で往年の「Z」を彷彿とさせるカッコいい新車が手に入る……好きな人にとっては夢のような話です。

「浮いたお金でカスタムでもするかぁ」となるのはしごく当然の流れかと。

ゼファー

●ゼファーが大ブームを巻き起こすや、“Z1/Z2”ルック獲得や“FX”に先祖戻り(?)できる外装キットが山ほど発売されました。そんなレトロな雰囲気を出すのにもリヤの2本ショックは最適だったのです。そんな改造を代行してくれるカスタムショップもマフラーメーカーもチューニング屋さんもゼファー特需に沸きました。大ヒットモデルは関連する多くの人を幸せにしたのです

 

なおかつ、「速く走らなければならない」という強迫観念から解き放たれた存在というのも見逃せないポイントでしょう。

最新鋭の同排気量59馬力マシンが隣に並んだところで、こちとら(ゼファー側)はたったの46馬力。対抗心を起こす必要すらありません。

それでいて当時最新の思想と技術で設計されたダブルクレードルフレームや軽量な角断面アルミスイングアームなど、シャシーにはしっかり近代的な技術が投入されておりますので、1970年代モデルのようなクセは全くなく、乗りやすさも抜群!

ゼファーリヤビュー

●チェーンアジャスターはカワサキ十八番のエキセントリックカラー(偏心カム)式。シャフト部分の上下を入れ替えて、シートの高さを変えるという裏技も広まったものです。ビギナーの方でも気負うことなく駆ることができ、スキルが向上すればするだけ速く走らせることも可能……。どこかの記事で読んだ覚えがある「4気筒のSR」という表現が、いまだ頭の中にこびりついております

水をも漏らさぬ上方展開で盤石の体制を築いた“ゼファー”

このような“ザ・バイク”が人気を集めないはずがありません。

あれよあれよと販売台数はうなぎ上りに増えていき、1989年は実質5月からの発売にもかかわらず400㏄販売ランキングの2位に輝き、翌1990年にはクラストップセラーの座をゆうゆう獲得。

機を見るに敏なカワサキは同1990年にゼファー750を、1993年にはゼファー1100を市場へ投入して、ネイキッドブームを完全定着させることに成功しました。

ちょうどそのころ、アルバイトとしてモーターサイクリスト編集部に潜り込んだ筆者は、寝ても覚めてもゼファーシリーズ、そして打倒ゼファーに燃えるライバル車の記事作成を手伝っていたような気がいたします(笑)。

では次回、燃え上がるネイキッド戦線とゼファーχ(カイ)につきまして述べさせていただきますのでお楽しみに!

ゼファーX

●ZRXが出てからも人気を維持していたとはいえ、大きな変更もなく7年間生産されてきた初代ゼファー。そのままフェードアウトかと思っていたら驚きの第二章が始まったのです……

 

ゼファーという革命【後編】を読む

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