1973年にデビューしたカワサキの並列4気筒ナナハンモデル「750RS(ROADSTERの意味)」“Z2”とはその型式名で、兄貴分として同様に“Z1”と呼ばれる903㏄の「900 Super4」が存在し、ともに高い人気を誇り……といった情報は書籍やネットで語り尽くされております。こちらでは不肖オガワがZ2を横目で見てきた思い出話をひとくさり。

やっぱり「あいつとララバイ」の影響はメガトン級

「いっけぇ~ッ! オレのゼッツー!!」

ノーヘル上等の不良?高校生がハマ(横浜)を颯爽と駆け抜ける……。言わずと知れた楠みちはる先生の大ヒット作品「あいつとララバイ」で主人公の菱木研二クンが走らせていた相棒こそカワサキ750RSなのです。

……と正式な車名で書いてしまうと全くイメージが変わりますね。週刊少年マガジンではなくモーニングでの連載で「取締役 島耕作」的な雰囲気も出てきてしまいますので、以下バイク紹介時は“Z2”と表記させていただきましょう。

750RS広報写真

●輸出向けに開発されたZ1こと「900 Super4」の姿はそのまま、日本国内市場のために排気量を746㏄として細部改良も施され登場したZ2こと「750RS」。当時価格は41万8000円。現在の貨幣価値でいくと60万円〜70万円といったイメージでしょうか。発売されるや大ヒットを記録したのは当然ですね。本当にカッコいい……

 

さてその「あいつとララバイ」

あいつとララバイ

●1982年1月18日に発売された講談社コミックス「あいつとララバイ」第1巻の表紙……懐かしい! もう筆者の気分は中学1年生の冬にタイムトリップ。しっかりと750RS……もといZ2も描かれております。もちろん現在でも入手可能(講談社コミックプラス)。電子版もいいですが、やっぱり紙をペラペラとめくって読む快感は捨てがたい〜。どうですか、大人買い

 

1981年の連載開始からしばらくはラブコメ路線でZ2は小道具扱い。それが中期の暴走族抗争編でググッと存在感が明確となり、1989年の連載終了まで猪突猛進した後期のバイクバトル編でバイク好き……少なくとも筆者のココロを鷲づかみにしたのがフルチューンドされていくZ2だったのです。

あいつとララバイ37巻表紙

●1989年6月12日に発売された「あいつとララバイ」第37巻の表紙。新書版の講談社コミックスは全39巻で完結ですので、まさにもう大詰め! GPZ900Rを駆るカズ&アキ(スターダストブラザーズ)とのバトルが最高潮となるストーリーが収められています。ちなみに向こうの車線に描かれているクルマは初代ホンダシティですね(笑)

 

二束三文で叩き売られていた時代もあった!?

主要二輪車メーカー間で技術開発競争が激化していく1970年代中盤から後半、そして1980年から始まる空前のバイクブーム

そんな追い風を受けて始まった「あいつとララバイ」でしたが、実のところ研二クンと並ぶ主役でもあるZ2は、1980年代初頭には死んでいた(誰ひとりとして見向きもしないような)状態の車両でした。

幽霊イメージ

●世はまさにレーサーレプリカ全盛期へ。性能向上も著しい魅力的な新型車群を前に、あらゆるバイクがすぐ陳腐化していく異常な時代でもあったのです……

 

繰り返しますがZ2の登場は1973年

エンジンは1972年にリリースされたZ1用をベースとしながらボアもストロークもクランクシャフトもキャブレターなどなどにも750㏄用に最適化した専用品をおごって高性能が確保されており、当然のごとく大ヒットを記録しました。

Z2エンジン部分

●市販ナナハン初のDOHCヘッドを引っさげて表舞台に登場するや、他を圧倒する人気を誇ったZ2ことカワサキ750RS。Z1のボア×ストロークが66×66㎜だったのに対し、Z2は64×58㎜。当然、クランクシャフトは別物。キャブレターもミクニVM26SS(Z1はVM28SS)へ換装。あと㎞表示のメーター、速度警告灯、固定ステップ、ハロゲンライト、タンデムベルトあり……など細部まで日本市場へ最適化がなされた仕様となってました

 

しかし、2年後の1975年から“限定解除”制度がスタートしたため、以降新たなナナハン免許取得者がなかなか増えていかない状況に……。

そして、こぞってZ2を購入していた層は1970年代中盤からより新しく高性能な車両へとガンガン乗り換えていったため、中古車市場にZ2があふれかえるという今となってはフィクションのような事態になっていたのです。

エッジの立った第2世代“角Z”が全盛期に

私が中学2年生でモーターサイクリスト誌を読み始めた1982年ごろ、すでに1978年に衝撃的デビューをはたしたZ1-Rに端を発し、Z1000Mk.Ⅱ→Z750FX→Z1000J→Z1100GP→トドメのZ1000R(いわゆるローソンレプリカですね)といった“角Z”シリーズが大人気を博しておりました。

Z1-R

●1977年、カワサキはライバルの台頭に対抗して1015㏄まで排気量をアップした「Z1000」を登場させるも地味な印象は拭えず。ならば、とばかり翌1978年に目の覚めるようなカクカクデザインで一世を風靡したのがこの「Z1-R」。当時流行していたカフェレーサーイメージを直線を多用して表現するという斬新な手法は世に広く受け入れられ、以降しばらく続く「カワサキ、角の時代」の着火点となったのです

 

そのため当時なんとなく「時代後れ」との烙印を押されていた“丸Z”であるZ2は、相当な上物で20万円台、ヘタをすると10万円台で叩き売られていた……というウソにしか思えない中古車市況が筆者の脳裏に残っております。

Z2横向き写真

●今となっては信じられませんが、この流麗なるスタイリングが「もう古いっしょ!」のひと言で片付けられていた時代もあったのです……

 

実際、1981年に「あいつとララバイ」の連載を始めた楠みちはる先生のところには「なんで今さらZ2なんだ」という辛辣な意見が編集部経由で数多く届いたとか(あと「ノーヘルはけしからん」という声も[苦笑])。

しかし、頭文字DにおけるAE86の例を出すまでもなく、人気漫画の力は絶大です。

1980年代後半に描かれたバイクバトル編で市井の名チューナー“ボンバーのオヤッさん”によってZ2の潜在能力が次々に引き出されていき、GSX750Sやドゥカティ900SS、ニンジャ(GPZ900R)などと互角以上のバトルをする研二クン+Z2の姿に酔いしれ、胸が熱くなった読者は筆者だけではありますまい。

虚構を現実化できる実力を内包していたZ2

実際、カワサキ入魂のZ1/Z2エンジンは基本構造が非常にしっかりしており、相当に高度なチューニングまで許容する強固な素質を有しておりました。

ボアアップキット、ハイリフトカムシャフト、集合マフラー、オイルクーラー、軽量ホイール、スペシャルキャブレター、強化ブレーキ、前後サスペンションのグレードアップ、フレーム補強……etc。

ベースとなったZ1が全世界的な人気車だけにカスタムパーツも豊富に用意され、総合的な性能向上を行うプロショップも林立

Z2の4本出しマフラー

●オリジナルのZ2は4本出しマフラーにリヤブレーキはドラム式。このまま大切に乗るのもアリですし、集合マフラーやディスクブレーキの導入、いっそスイングアームをアルミ化するなど、思いのままのカスタムができるのも人気の一因なのです

 

リアルワールドで研二クンのZ2再現、もしくはそれ以上を目指す趣味人が数多く現れたせいか、連載が大団円を迎えるころにはZ2の中古車が50万円~60万円程度という適正+若干のプレミア価格?という相場に戻していたことが印象的でした。

ゼファーとの相乗効果で不死鳥は永遠に羽ばたく

タイミング、というものはあるもので、「あいつとララバイ」が空冷カワサキへの羨望渇望をあおりきって完走した1989年にゼファー(400㏄)が発売開始され、レーサーレプリカブームにトドメを刺す大ムーブメントに。

その後、750、1100と怒濤のシリーズ展開を果たしたことは奇跡のような巡り合わせとも言えます。

若いライダーもゼファーをきっかけに空冷カワサキの魅力に触れ、そのルーツを探っていった(雑誌でもゼファーの記事を展開するときは、必ずといっていいほどZ1/Z2までさかのぼる振り返り企画をしておりました)数%の人々は「やはりオリジンたるモデルを所有したい!」とZ1/Z2を手に入れることに情熱を燃やし、ここから相場は上がっていく一方となっていきます。

Z2タンク

●金曜ロードショーにおける宮崎駿アニメのごとく「何度目だ!」と言いたくなるくらいリフレイン登場してきた“火の玉タンク”。ゼファーχ、ゼファー750、ゼファー1100、そしてZ900RS、Z650RS……。いい〜んです、コレ!を欲しい人が確実にいるのですから。ファンの心を確実にすくい上げるカワサキの戦略は近年も冴え渡っておりますね

 

1996年には「東大入試より難しい」と揶揄された限定解除も廃止され、教習所でも大型二輪免許が取得可能になり、ビッグバイクがとても身近な存在に……。

すると「昔メチャクチャ憧れたけれど免許の関係で敷居の高かったZ1/Z2に、我らも乗ることができるじゃないか!」と青春プレイバック世代も争奪戦に参入したため中古車相場はさらにヒートアップ。

2010年代には総じて相場の平均が100万円を超え、ほほぉ~っと驚いていたのですが、今や……!! 

いや、いい〜んです(楽天カードマン……もとい川平慈英風に)。

需要と供給が価格を決定するのは自由経済の大前提ですから、購入者が納得して購入し、幸せになれば全くもって問題はないのです。

Z2エンブレム

●本当に欲しいモノを手に入れたときの喜びはプライスレス! ただし、半世紀近く前の工業製品であることは重々認識の上で前向きにご検討を。もろもろの諸条件を吟味した結果、どうしてもガマンできなければ……「いっけぇ~ッ!」

 

とはいえZ1の登場は実に50年前(Z 50周年記念サイト)! 

補修パーツの供給やアフターサービスに不安のない、レッドバロンのようなお店を選んで積年の思いを実現させてまいりましょう。

なお現在、レッドバロンでバイクを購入された方にはZ2の「ミニレプリカ」を進呈中とのこと。数量限定につき、欲しい方はお近くのレッドバロンへ急ぐべし!

Z2ミニレプリカ

●まさしくZ1/Z2を購入した記念に。それがまだ難しければ夢を実現させる妄想力強化のアイテムとして霊験あらたかなことは間違いのない「Z2ミニレプリカ」。よく見えるところに鎮座させ、たまにはずっしりした重みを手に感じつつ遊びましょう(笑)

 

750RSという偶像【後編】 ~半世紀前のモデルが現在進行形で愛される理由~ を読む

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