“Z1”ことカワサキ「900 Super4」が誕生した背景にはホンダCB750FOURの存在があり、“Z2”こと「750RS」はZ1の単なる廉価版ではなく、ナナハンという排気量での最高性能を追求した意欲作……といった情報は書籍やネットで語り尽くされております。今回は不肖オガワがZ1/Z2に直接見て、触れ、乗ったときのインプレッションをひとくさり。
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Z1登場時、アナタはもう生まれていましたか?
考えてもみてください。Z1が登場したのは1972年、ちょうど50年も前の話なのですよ。
前世紀(20世紀)で昭和でいうと47年。
第一次田中角栄内閣が発足し、連合赤軍によるあさま山荘事件が起こり、横井庄一さんが帰還され、カンカンとランランが来日し、「太陽にほえろ」がスタートしたころ、川崎重工業株式会社・明石工場内の生産ラインで次々に生み出された工業製品が、いまや数百万円(場合によっては1000万円台!)という価値を認められ、商取り引きされている……。
本当に素晴らしいことです。筆者もバイク雑誌編集部員時代に、そんなZ1/Z2をほんの少しでも体験できたことは実に僥倖でした。
Z1の迫力あるエキゾーストノートに心を鷲づかみ!
まずZ1に触れたのはモーターサイクリスト誌の編集部員時代(1994年あたり)。
まさにZ1のテストライダーも務められ、その後数々のレースで輝かしい成績を収めた“ミスターカワサキ”こと清原明彦さんを兵庫からお招きして、Z1で箱根を走っていただくという企画のとき、一般オーナーからお借りした車両に接することができたのです。
愛情をたっぷりと注がれていた欧州向けイエローボール(火の玉カラーリングの黄色版)仕様は、走り込んでいることが伝わるいいヤレ具合で全身からはオーラが立ち上っていました(笑)。
すでに発売時から20年以上経過していた車両でしたが、セル一発で鼓動を開始し、軽く空ぶかしするだけで野太い排気音が周囲の空気を震わせます。
いざ走り出しても、とにかく排気音が気持ちいい!
取材基地をスタートして撮影ポイントを3箇所ほど移動するだけで、走行できた距離は数㎞程度だったのですけれど、迫力あるエキゾーストノート、意外なほどのトルクフルさ、そして思ったより軽快だった切り返しが強く印象に残っています。
“ゼッツー”ならではの吹け上がりに超絶感動!
そして今コラムの主役であるZ2について。
こちらを体験できたのは別冊モータサイクリスト時代(2013年ころ)で、いつも誌面制作を支えていただいた別冊MC読者ネットワークのツテでお借りできたフルノーマルの極上車! まさに純正・正統・憧憬の火の玉カラーが、40年前に明石工場をラインオフしたとは思えない艶っぽさを放っていました。
さて、諸般やむを得ぬ事情によりエンジンの排気量を減らしたいとき、シリンダーのボア(内径)だけを小さくするのが手間とコストの比較的かからない方法とされています。しかしこちらは回転が重だるくなるなどのデメリットも発生しがち……。
カワサキ開発陣はナナハン販売が上限だった日本国内市場にも最高の性能を!と発奮し、ボアだけでなくストロークまで変更して最適化を敢行。
当然、シリンダーやピストン、クランクシャフトは別物でキャブレターの仕様なども細部まで変わっているのです。その効果はエンジンを掛けた瞬間から一発で分かるほど。
Z1より明らかに“回り”が軽快で音量も静かめ(あくまでZ1との比較ですけれど)です。
古さを感じさせない、しっかりとした走行性能
いざ走り出しても吹け上がりがスピーディで、回していくほどガツンとパワーも出てきます。
まぁ、このあたりは個体差による違いも大きいのですけれど、Z1、Z2どちらのオーナーも小まめなメンテナンスやセッティングにこだわっていた方なので、基本的な素性は誕生時からあまり変化することなく維持されていたはず。受けた印象は大きく外れてはいないでしょう。
ハンドリングは素直そのもの。
フロントタイヤが19インチ(リヤは18インチ)と、現在のアドベンチャーモデルのような大径ホイールを装着しているので、ジャイロ効果は絶大なものがあったのでしょう。
コーナリング時の安定感は「ほっほ~」と声が思わず出てしまうほど際立っておりました。
ただし、約50年前のバイクであるということを感じさせる部分もチラホラと散見。
メインフレーム、フロントフォーク、スイングアームといった骨格部分が“細い”がゆえに体に伝わる「たわみ」というか「しなり」というか、シャシーを構成する鋼管のバネのような動きが低速域でも伝わってきます。
とはいえ一般公道を気持ちよく走る分にはまったく問題なく、逆に“味”と称してもいいような挙動が面白く、折り返すべきポイントからついついカーブを5〜6個越えた先まで足を伸ばしてしまったものです。
弱点に対処するノウハウもパーツも星の数!
時代の流れを如実に感じたのはブレーキの部分でした。
フロントは油圧式のシングルディスクブレーキ、リヤは機械式リーディングトレーリング……つまりはドラムブレーキですね。単に制動力だけで言えばドラムの実力は侮れないのですが、放熱性の低さと効きの唐突さが弱点。ゆえに大型スポーツ車では1980年代を待たずにリヤのディスクブレーキ化が進みました。
というわけでスタンダードなZ2の要注意ポイントはフロント制動力の甘さ。
ゼファー1100を走らせているような感覚でブレーキレバーを操作すると,想像以上に速度が落ちないため試乗始めは少々狼狽するほど。
まぁ、「こういうものだ」と体が理解して対応すればいいだけの話なのですけれど……。このオリジナルの姿を維持すべくパッドやローターにこだわる人もいれば、あっさり最新ブレーキシステムに交換する人も……。オーナー諸兄諸姉にもいろいろいらっしゃるとか(笑)。
Z1/Z2は「次の50年」に向かって走り出している!
前述のようにフロント19インチホイールが生み出す鷹揚なハンドリングフィールと極上のZ2サウンドに酔いしれつつ峠道を快走したのが、もう約10年前の出来事だなんて信じられません。
「品質過剰」と感嘆されたエンジンは基本的に丈夫そのもので、たとえくたびれたとしてもオーバーホールするたびに復活します。
そしてメインフレームほかシャシー補強のノウハウはほぼ確立されており、前後サスペンションやブレーキ、ホイールなど各部は意のままのグレードアップが可能。そしてそれぞれに用意されているパーツは星の数……と、世界的な大ヒットモデルゆえの好循環がいまだにグルングルンと元気よく回り続けていることこそがZ1/Z2の大きな魅力だとも言えますね。
その“Z1/Z2オーナーズ”の一員となるために、「今」がいつもラストチャンスなのかもしれません。思い立ったら吉日! ぜひ一度、お近くのレッドバロンで相談してみてくださいね!