変わらないために変わり続けた

 旧友に久しぶりに会って「やっぱり気が合う」「好きだな」って思うような、懐かしくて嬉しい気持ちです。ヤマハSR400に乗ることができました。


 SR400がデビューしたのは1978年のこと。ほとんど変わらない姿のまま43年ものロングセラーを続けましたが、環境規制などの影響もあり2021年、惜しまれつつも長い歴史の最後を飾る「ファイナルエディション」をもって生産を終了しました。


 写真は1978年式のSR400。最終型と見比べても、そのスタイルに大きな違いはありません。初代は燃料タンクが細身で、容量は12リットル。“ナロータンク”とか“スリムタンク”と呼ばれるものでした。フロントホイールは19インチで、初期型だけはグラブバーが備わっていません。

 こうした詳細解説は、自他ともに認めるSRフリークである佐賀山さんの記事がメチャクチャわかりやすいので、興味のある人は最後にリンクを貼っておきますのでぜひ読んでください。

2018年に発売されたヤマハSR400 40周年アニバーサリーエディション。

▲2018年に発売された40周年アニバーサリーエディション。


 国内向けに累計12万台以上生産されたヤマハSR。40年以上つくり続けられるなかで大きく変わったことといえば、前輪のホイール径が1985年に19→18インチ化したことや、その年式から2000年式まではフロントブレーキがドラム式であったことなど、大雑把に見ればフォルムはさほど変わっていません。

 もちろん正確に(専門的に)言えば、毎年のように仕様変更が繰り返されてきました。できる限り伝統を継承しつつ、時代の流れにフィットさせるという姿勢を開発チームで共有しつつ、仕様変更が繰り返されてきたのです。

SR400ファイナルエディションのフューエルインジェクションシステム。4型=2010年式からキャブレターをFI化しています。

▲SR400ファイナルエディションのフューエルインジェクションシステム。4型=2010年式からキャブレターをFI化しています。


 大きな節目として挙げるのなら2009年。キャブレターだった燃料供給方式をフューエルインジェクションにしました。繰り返しになりますが、大きな変更はその程度でしかなく、年代を問わずSRの“カタチ”に違いはないのです。

 とまぁ、それはあくまでも“ルックス”のハナシであり、詳しく仕様の違いを見れば1〜5型(最終型)まで存在し、詳しいファンらの間ではそれぞれを別モノとして扱うことも付け加えておきましょう。

若い世代にも高い人気

 さて、下のグラフはヤマハが2021年2月に発表した『SR400』購入者の年齢分布を表したものです。幅広い世代から偏りなく支持を受けていることがわかります。


 注目は20代の29.6%という高いスコアです。日本自動車工業会「2019年度二輪車市場動向調査」によると、オンロード251~400㏄モデルの購入者のうち20代は11%で、比較すれば3倍にも迫る数字であることがわかります。

 見るからに“アナログ”で、昭和のムード漂うSR。←※良い意味で!

 それを、生まれたときからインターネットが普及しているデジタルネイティブ=“Z世代”を含むヤングジェネレーションにも高く評価されているのは興味深いところであり、SRは新たなライダーを生み出し、ベテランはもちろん老若男女、幅広い層に愛されていることがわかるのでした。

バイクでは珍しいセル生産


 さて、今回乗ったのはファイナルエディション。限定5000台が最終年に生産され、2021年3月に発売されるとオーダーが殺到し、瞬く間に完売となったことは記憶に新しいところでしょう。

 最終年は『SR400ファイナルエディション』が5000台、さらにサンバースト塗装の『SR400ファイナルエディションリミテッド』も限定1000台で発売されました。

 職人が手作業で塗り上げるサンバースト塗装は、黒を基調にタンク側面にブラウン系のグラデーションが入り、音叉エンブレムは専用の真鍮製となっています。


 ツートーンの専用シートや文字盤をブラックにしたメーターなど、“リミテッド”の名にふさわしい特別な装備で、あっという間に完売となりました。


 引っ張りだこの人気で、入手困難となった車両ですから、ありがたく乗らせていただきます。まずは車体をじっくり眺めます。

 もはやそこにあるだけで、只者ならぬオーラを感じずにはいられません。ヤマハの感性と美意識、クラフトマンシップがそこには込められているのです。


 直立したシリンダーに刻まれる冷却フィンがなんと美しいことか、空冷SOHC2バルブ単気筒エンジンは一貫して守り抜かれたアイデンティティ。キャブレターがインジェクションになろうとも、蒸発ガソリンの大気排出を抑えるキャニスター、各種センサーが追加されようともSRらしさはこの心臓部に凝縮されているのです。

 組み立ては高級腕時計のように、ひとりの熟練工がゼロから完成までのすべてを担います。「セル生産」と呼ばれ、オートバイの量産工場においては極めて稀有だったのは説明するまでもありません。

技能の伝承を繰り返したSR専用工区

 美しい曲線を描くエキゾーストパイプは、ヤマハ発動機の協力会社であるサクラ工業によるものです。工場では明るくクリーンな施設の中で、ロボットアームをはじめとする製造設備が慌ただしく、時には繊細な動きを見せながら、あらゆる二輪車製品の排気系システムを製造していますが、その工場の片隅に、まるでタイムスリップでもしたような感覚さえ覚える一角があり、2019年にヤマハによって写真が公開されました。


 こここそ“SR専用の工区”であり、ヤマハSRに43年の歴史があるなら、サクラ工業にとっても同じだけの歴史があります。技能の伝承を繰り返して、2019年の時点で11万7000本以上のSR用エキゾーストパイプが職人的技能者により曲げられてきましたので、その後2021年のファイナルエディションまでを加えれば、それ以上の膨大な数です。

 一本の鉄パイプが複雑な曲線を描くまでには、いくつもの「手」が加えられ、中空部分をつぶさずに曲げるため、鉄の粒子をまんべんなく詰め込む工程もそのうちの一つ。年季の入った機械を用いておこなわれる3段階の曲げ工程も、金属の戻りを計算した職人的経験と技が欠かせません。


 SR専用の工区でパイプを握ることのできる技能者は、数名しか存在しなかったそうですから、まさに“匠の技”と言えます。ファイナルエディションの美しく弧を描くエキパイ、そしてまっすぐに伸びるマフラーをボクはニタニタしながら眺めるのでした。

隅々まで美しく上質


 燃料タンクは歴代モデルを彷彿させるグラフィックパターンを採用するシンプルで質感の高いダークグレー。Final Editionの文字がニーグリップした際にさり気なく見えるのも心憎いです。


 クロススポーク仕様のホイールが美しく、リムに汚れがついているのを見ると磨きたくなって仕方がありません。スチール製の前後フェンダーもまた然りで、クロームメッキがなめらかな深い光沢を放っています。 

 シンプルなアナログ式の二眼メーターもSRの伝統です。ブラックからホワイトに文字盤を変更したのは2018年式で、ファイナルエディションも踏襲しています。

 バイクもLEDが当たり前になりつつあるヘッドライトですが、SRはもちろんH4バルブ。ヤマハがSRにこだわる熱意はものすごくて、2018年式でガラスレンズをわざわざ新作しました。法規対応のためにプラスチックレンズに変更する案もあったものの、結論は「ガラスレンズこそSRだ」となったのでした。クロームメッキの上質感といい、ライト周りも惚れ惚れします。
 クロームの美しいスチール製フェンダーに四角いテールライト、張り出した真ん丸ウインカー、リヤエンドもひと目でSRとわかるもの。シートカウルにはYAMAHAエンブレム。隅々まで細部を見ても、オーナーになれば所有感を満たしてくれそうです。
 とまぁ、SR400ファイナルエディションの車体をじっくり見ているうちに、けっこうな長文になっていましたので、今回は【前編】としてココまで。【後編】ではお楽しみの“儀式”、キックスタートでエンジンをかけて走り出そうと思います!

 冒頭でも述べましたが、SRの詳細解説は佐賀山さんの解説記事が詳しいので、そちらもぜひご覧ください。

 今回も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。次週もお楽しみに!!

 

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