レッドバロンのメディア試乗会でゼファーΧに乗り、僕が初めて購入したバイク「ゼファー」にまつわる思い出がありありと蘇って来た。乗り始めたのは19歳、もう30年以上昔だ。皆々様、興味がある人もない人も・・・・・・50歳を過ぎたオッサンの思い出話に少々付き合っていただこうか!

ピッカピカのゼファーΧに試乗したら、記憶のフタが開いてしまい・・・・・・

誰かが「いい」「面白い」と思っているものを、他人が「それはダメだ」「つまらない」と言うのは社会常識としてNGだ。ネットの世界ではこうした絡み方をしてくる人がいて問題になったりするのはご存知のとおり。自分は自分、他人は他人。その人が楽しんでいれば、他人が難癖をつける筋合いはないのだ。

だが、ジャーナリズムの世界はそうもいかない。可能な限り客観的に良し悪しを指摘する「批評」は、物事を、引いては社会をよりよくするために必要な行為だ(客観的な行為というものが本当に可能どうかは置いておくとして)。

妙に堅い書き出しになってしまったが、要は「昔、愛車だったゼファーに業界人からダメ出しされた」という話だ(笑)。ダメ出し具合は凄まじく、体感的には90%ぐらいの人が否定的だった気がする。

ゼファーのことを思い出したのは、レッドバロンのメディア試乗会で後継の「ゼファーΧ(カイ)」に乗ったからだ。その車両は'98年製ながら、レッドバロンならではの「譲渡車検」によって外見はピカピカ、走りも完調だった。

ゼファーΧのデビューは1996年。エンジンは2→4バルブ化などで大幅にリニューアルされ、46→53psにパワーアップを果たした。マフラーやサスは新作で、ライポジも変更されている。
車体はコンパクトながら、跨ると意外とズシリとした重厚感がある。走り出すと、空冷直4の唸りが快感。発進加速はかなり穏やかだが、中高回転まで叩き込めば十分加速してくれる。ハンドリングは大らか。前後輪が一体となって曲がっていくような自然なフィーリング、かつ安定志向なので安心して体を預けて倒しこんでいける。

↑レッドバロンのメディア試乗会に用意されたゼファーΧ(カワサキ '98年型)。■全長2085 軸距1440 シート高775(各mm)■車重183kg(乾)■水冷4スト並列4気筒DOHC4バルブ398cc 53ps/11000rpm 3.6kg-m/9500rpm■タイヤF=120/70ZR17 R=150/70ZR17

 

↑リラックスした乗り味で、気負わないゼファーΧの走り。個人的にはゼファーとの差異はさほど感じない。※写真:山内潤也 協力:ヤングマシン

ゼファーは乗りやすく、懐の深いキャラだった

私が乗っていたのは先代の「ゼファー」で、デビュー年の'89年型(C1)だった。レーサーレプリカ全盛の時代、往年のZ2を思わせるフォルムに回帰し、ネイキッドブームの火付け役になったのは周知の事実だ。

直接乗り比べした経験がないので、記憶の中の走りを思い出してみると、ゼファーΧとゼファーはさほど大きな差はない。ただ、発進加速はゼファーの方が力強かったと思う。400クラスとして決して速い部類ではないのだが、2バルブのおかげかΧよりは低速域がパワフルだった印象がある。回転上昇はモッサリしているが、さすがに46psあるので、6000rpmも回せば十分なパワーが立ち上がってくる。高回転域はゼファーΧの方が逞しいが、Χと劇的な差はないと思う。

今になって感心するのは、走りの優しさだ。総じてスロットルの開閉やブレーキング、体重移動などライダーの働きかけに対して挙動が穏やか。フレームやサスなどの設定を含め、乗り味が全体的に柔らかい。ライポジもリラックスしており、アップハンドルと、ゼファーΧに比べてやや後ろにあるステップが特徴だ。

スポーツ走行向きではないものの、身構えずにリラックスして走れる。またビギナーにありがちな「急」のつく操作をしても、大事に至らず何とか収まってしまう。このように尖った点がないため、逆に何にでも使える懐の深さがある。こうしたバイクはカワサキに多い気がするのだ。

もちろんスタイルもいい。『あいつとララバイ』を愛読し、空冷Zに憧れていた僕にとって不満があるはずはなかった(テールがもっと丸い方がいいとか、本当はZ2が欲しいなァとは思っていた笑)。不満は、雨が降るとシートに水が染み込むことぐらいだった。

↑'89年の初期型ゼファー。メーターがメッキ砲弾タイプではなく、タッパーのような異型2眼で、ロゴがステッカーだった。僕が乗っていたのも紺で、紫がかったロゴがたまらない。■全長2100 軸距1440 シート高770(各mm)■車重177kg(乾)■空冷4スト並列4気筒DOHC2バルブ399cc 46ps/11000rpm 3.1kg-m/10500rpm■タイヤF=110/80-17 R=140/70-18

 

↑'94年型のカタログより。デビュー2年目の'90年型でタンクのエンブレムが金属製になり、'91年型から砲弾型メーターを採用した。

 

↑'95年型のカタログ。ゼファーはカタログが凝っていて、美麗な写真が数多く掲載されていた。

思い出がいっぱい。魔改造されたけど乗り続けた


僕がゼファーを手に入れたのは1990年、19歳だった。当時は原付から徐々に排気量を上げていく人が多かったけど、僕の場合、初めて購入したバイクが400ccだった。
大学の先輩の友人から、確か30万円で手に入れた。新車価格が52万9000円で、まだ発売2年目だったから、かなり安く買わせてもらったのだ。田舎から上京して一人暮らしをしていた僕は常に金欠だったので、とてもありがたかったが、貯金はゼロになり、しばらく実家から送られてきた白米と梅干しでしのいだ記憶がある。

街乗り、通学、ツーリング、デートと本当に何にでも使った。思い出深い初めてのツーリングは、練馬から箱根に向かって走り出し、5分でエンストして立ちゴケ! 渋滞の道をすり抜けしていたため、車と接触するという始末だった・・・・・・。気を取り直して再出発しようとしたが、バッテリー上がりで再始動できず、結局ツーリングを諦めた。そんな苦い思い出もあるが、とても気に入っていた。

その2年後の年末に盗難され、遠く離れた利根川の河川敷で発見されたのも思い出深い。サイレンサーをブッタ切った直管、ハンドルを強引に絞った鬼ハン、スポンジを削ったラクダシート、白いスプレーで汚く塗装された車体、という無残な姿に変わり果てていたが・・・・・・。雪の日、友人と軽トラで引き上げた。雪と白い車体が似合っていた、とは全く思わない。

その後も修理して乗り続け、何とか4年で大学を卒業した。1年間会社に勤めた後、23歳で出版社に転職。希望通り二輪雑誌「ヤングマシン」編集部に配属された。これが1995年3月の出来事だ。

業界からは評判が悪かったベストセラー車

もちろん当時もゼファーに乗っていた。編集部の先輩、年上のライターやカメラマンと話しているうち、ゼファーに対する評価が「微妙」であることに気づいた。いや、微妙はかなりオブラートにくるんだ表現だ。

車両に関しては、例えば「遅い」「Zのパチモノ」「カッコだけ」。乗っている人に対しては「ニワカ」「素人」「なぜゼファーなんだ?」などなど。
既にゼファーは爆発的にヒットしており、雑誌の記事でも概ね好評だったので、ここまで評判が悪いとは思わなかった。ちなみに「全開で走ると白煙が出る」という記事を読んだ覚えがあるけど、これは個体差だろう。

最もよく言われたのが「遅い」だった。
確かにレプリカ系やCB400SFのような水冷ネイキッドに比べれば遅いのだが、回せば十分速い。それに低回転時のレスポンスがマイルドなのは、コーナリング中のパーシャルや立ち上がりで安心感につながっているはずだ。

ライポジに関しても、アップハンドルとややバック気味のステップが「チグハグ」との声がよく聞かれた。確かにステップはやや後ろ目だけど、スポーティに走りたい時に意外とマッチするし、私は全く気にならなかった(ほぼゼファーしか知らなかったし笑)。なおステップ位置はゼファーΧで変更され、前寄りになっている。

ちなみに、全く同じような境遇だった二輪ライターの方がいる(その方も最初の愛車がゼファーだった)。最近、記事を読んで驚いた次第だ。

↑'90年代後半はまだまだ400ネイキッド人気が継続中。写真は'96年頃のものだ。ちなみにフルチェンジしたバンディット400/250の試乗が私の初取材だった。※写真:ヤングマシン


周囲の悪評にも関わらず、僕はゼファーに乗り続けた。愛車への思いは全く揺らがなかった、と言えばウソになる。正直に言えば、グラグラ揺れまくりで「こんなバイク」という気持ちが心の片隅にあったのは事実だ。業界からの評価は耳に入れつつ、自分が「いい」と思うなら、論理的に反論するなり、他人などどこ吹く風とばかりに自分を貫き通せばよかった。しかし、そこまでの覚悟も自信もなかった。

ただ、それは仕方がないことだ。バイクだけではなく、あらゆる経験と見識が乏しく、良し悪しを判断する自分の評価軸がなかったからだ。それから27年。少しは経験を積んだ今だからこそゼファーはやっぱりいいバイクだ! と胸を張って言える。

現在ゼファーの中古車価格が高騰しているのご存知のとおり。バイクの価値は決して価格では決まらないが、少しだけ、ほんの少しだけ誇らしい。

・・・・・・では今欲しいかと言われると、実はさほどでもない(笑)。決してゼファーが嫌なのではなく、個人的に他にもっと乗りたいバイクがあるというだけだ(無論、頂戴できるなら断る理由は微塵もありません、レッドバロン様!)。

続編はコチラ。ここまで読んだ奇特な方はもう少しお付き合いください。

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