1996年から1999年まで(サドルシートorロングシート)×(前輪ディスクブレーキorドラムブレーキ)という4つの仕様が選べたエストレヤ。なおかつ各車種ごとに凝ったカラーバリエーションが複数あったのですからカワサキ、気を吐きすぎ(笑)。選ぶ方も大変ということか2000年に車種統合が行われるも、壮大なマーケティング検証の結果でもあり高い人気は維持されました!
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トコトコ20馬力レトロチックモデルの盟友来たる!
前回は「BE(Before ESTRELLA)」……エストレヤが生まれる(1992年)前に、どのような250シングルロードスポーツがあったのかを頼まれてもいないのにズラズラ紹介していきましたが(汗)、「AE(After ESTRELLA)」を語る上で、どうしても取り上げておかねばならないガチのライバル車が1994年11月に登場しております。そう、スズキ「ボルティー」です。
1982年2月にデビューしたデュアルパーパス「DR250S」、その1ヵ月遅れで登場したクルーザ……いや当時風に言うならアメリカン(ジャメリカン!?)モデル「GN250E」と同系統の空冷4スト単気筒OHC4バルブエンジンを搭載したシンプルかつ上質なバイク。
……なのですが、何よりリリース時に注目されたのはその価格でした。
GN250Eからエンジンだけでなくフレーム、フォーク、サスペンション、マフラーなど多くのパーツを流用し、外装のみを一新して販売することで開発費を徹底的に圧縮したのです。
おかげで「TypeⅠ」と名付けられた黒一色のモデルは税抜き当時価格で29万8000円を達成!
同時期のエストレヤが45万円、GB250クラブマンは42万8000円でしたから“ニッキュッパ”のインパクトは相当なものがありました。
「価格破壊バイク!」、「アルト47万円の衝撃再び!」なんて安直な見出しを経済系新聞や雑誌などで何度か見かけましたね。
実際のところ車両の仕上がり具合は“安かろう悪かろう”では全くなく、真逆の“安かろう良かろう!”でしたので人気は(スズキ車としては珍しく!?)すぐに着火してボーボーと燃えさかりました。
モーターサイクリスト誌でもメインライター川島賢三郎さん率いるバイクショップ「KENZ SPORTS」と組んで、ボルティーのカスタム車両をガシガシと紹介していったもの。
それもあってか、ボルティー向けスクランブラータイプのマフラーやアルミタンクなどが大ヒットを記録して、東京都杉並区の五日市街道沿いにあった借金コンクリ……いや鉄筋コンクリート造KENZ!旧社屋の「ローン返済がはかどったわ~」と川島さん本人から豪語された覚えがございます(笑)。
ともあれ、これでトコトコ20馬力レトロ軍団は全身にこだわり懐古主義フルスロットルの「エストレヤ」と、レトロ……というより可愛らしくカスタムベースとしても最適なお求めやすい「ボルティー」とでうまく棲み分けもでき、両車は順調に販売台数を伸ばしていったのです。
お隣の土俵では4メーカーの仁義なき戦いが激化!
ただ……トコトコ20馬力レ(以下略)ジャンルはこの2台が二大勢力となり、非常にうまく並び立ってしまったためヤマハとホンダの参入も(しばらく)なく、カテゴリーとしては落ち着いたものになりました。
対してヒートアップしたのが「TW200」の大ブレイクから火の付いたトラッカーブームです。
“トラッカー”の厳密な定義は意外と難しいのですが、軽量&スリムな車体に幅広ハンドル+太い前後タイヤを備えていたフラットトラック(ダートトラック)レース用マシンをお手本にした車両やカスタムをフワッとそんなくくりにしていましたね、当時のバイク雑誌屋は。
1990年代後半から世紀をまたいで洗練され、土臭さが薄まっていくと“ストリート系”なんて呼び名も定着してきたのは皆さんご存じのとおり。
そんなブームはホンダ「FTR250」の中古車市場価格を爆上げさせ、スズキも「グラストラッカー」(2000年)&「グラストラッカー ビッグボーイ」(2001年)でスルリとバトル参戦。
エストレヤのエンジンを活用した新生250TR登場!
ブームが最高潮を迎えるなか、カワサキもエストレヤのエンジンを流用したトラッカー(と言い切っていいものかは諸説ありますが)モデルをデビューさせてきました。
そちらが2002年1月から発売が開始された「250TR」だったのです。
いやぁ、そのころ筆者はモーターサイクリスト編集部から異動して八重洲出版の姉妹誌「ドライバー」誌にてクルマまみれの編集生活を送っていたのですが、「カワサキがまたまたやりましたよ、先輩!」と可愛い後輩からの御注進を受けて情報解禁日に資料を見に行ったところ、またしても「こうきたか、カワサキ~!」と勝手に盛り上がった記憶がございます。
名前からしてズルい……。
「250TR」と言えば1970年に発売された2ストオフロードモデルの称号ではないですか(その精悍なる姿は「250TRバイソン」で画像検索してみてください)。
その面影をスリムなタンクやフロント&リヤフェンダー、サイドカバーやシートの形状に落とし込み、カワサキならではのトラッカースタイルを形作っていたことには素直に感動しました。
黒塗りされたとはいえバーチカル単気筒エンジンからは圧倒的な存在感が放たれており、そのちょっとしたアンバランスさがまたスタイリングのスパイスとなっていてナイスですね~(某映像カントク風に)!
はたして250TRは登場するやいなやブームの大波へうまく乗ることができ、負けじとヤマハTWもセローの223㏄エンジンを搭載した「TW225E」へと進化して2000年代前半のトラッカージャンルは4メーカーが入り乱れる熱い土俵へと成長していきました。
それでいて絶対的な走行性能はどこも追い求めないという、ニッポンバイク史上稀に見る安穏平和な“見た目勝負”の4メーカーセールスバトルが繰り広げられていったのです。
そんな兄弟車たちの静かなるバトルロワイヤルを横目に、毎年目の覚めるようなカラーリングを披露して安定した販売台数を維持するエストレヤと、キャリヤやダブルシートやセンタースタンドなどの装備を取捨選択したバリエーション展開で幅広い層の支持を得たボルティーの2台は、250クラスの選んで間違いのない定番モデルとして君臨。
ただ、スズキは2003年に「ST250/Eタイプ」をリリースして、ボルティーは惜しまれつつフェードアウトしていきました。
フューエルインジェクションを得て寿命はさらに延長
さて、不特定多数の老若男女が自由闊達に活用する公道……そこを通る車両が耳をつんざく爆音や体に悪影響を及ぼす有害物質を無条件にまき散らすことは許されません。
ゆえに騒音や排ガスなどに国の定める厳しい基準が設けられ、そのハードルを越えられないバイクやクルマは販売することができなくなるのです。とりわけバイク業界にも大きな影響を与えたのが“平成18(2006)年自動車排出ガス規制”でした(こちらの記事内で詳細解説)。
XJR400Rやゼファーχ(カイ)ほか、対応の難しい空冷高性能車やキャブレター車がドカスカ撃沈=生産終了していった魔の時期を覚えていらっしゃる方も多いはず。
どのメーカーのラインアップも車種が激減してしまい、バイク雑誌の超人気鉄板企画“国産車オールアルバム”など往年から半分以下のページ数にしてもスッカスカ感が拭えなくなってしまい編集担当者としては頭を抱えることに……。
そんなことはともかく、押しも押されもしない人気車エストレヤは規制の数値は厳しいものの対応は十分に可能との判断から継続が決定され、2月に発売された2007年モデルより燃料供給装置にフューエルインジェクション(FI)が採用されたのです。
同時にサドルシートとフロントドラムブレーキの仕様が消えて、ロングシートと2ポットキャリパータイプのフロントディスクブレーキを持つ「エストレヤ」1車種のみの展開へ選択と集中を実施。
メーターに回転計が追加されるなど細部も改良され、完成度を高めてのリスタートとなったのです。
税込み価格こそ2006年型の48万3000円(5%消費税抜き=46万円)から51万8000円となりましたが内容を考えれば十分にリーズナブル。
その後のエストレヤは1~2年ごとのカラーリングチェンジを繰り返していき、2014年型でアイドルスピードコントロールの新採用、さらに前後サスペンションのスプリングレートや減衰力設定の最適化を図るなどのマイナーチェンジを行って熟成の極致へ……。
以降は車体各部をブラック仕上げとした「Special Edition」も、以降毎年登場させて好調なセールスを続けていったのです。
トコトコ四半世紀を駆け抜け感涙もののフィナーレへ
しかし、そんなエストレヤへ引導を渡す“平成28(2016)年自動車排出ガス規制”がついに襲来してしまいました。
この規制では排ガス規制値の厳しさアップのみならず車載式故障診断装置(OBD=電気系統の断線などによる機能不良を監視するシステム)の装備義務化、そして燃料蒸発ガス対策の実施が盛り込まれており、
●欧州の排ガス規制(EURO4)と歩調を合わせた規制値が厳しいのはもちろん、開発時には想定すらしていなかった新たな電子機器の追加が義務化されたことにより、モハヤコレマデ……
20数年前に開発された空冷エンジンと車体ゆえに、そんじょそこいらの改造では新規制への対策が追いつかないと判断されたか(=劇的なコストアップと同義)、排ガス規制の時間的猶予が切れる2017年型をもって生産終了することが決まったのです。
最後を飾る「Final Edition」は、往年の名車「650-RS(W3)」をモチーフにしたカラーリングをまとい、販売されるや速攻でソールドアウト!
平成から令和へ元号をまたぐことこそできませんでしたが見事に25年間というカワサキ最長不倒ブランドとしての責務をまっとうしてエストレヤは姿を消していきました。
それから6年……。
2023(令和5)年現在、ホンダGB350/Sの高い人気ぶりを見るにつけ、250クラスにも再びクリーンかつテイスティな空冷単気筒モデルが出てくれば……、そしてそれはカワサキが実現してくれるのでは……?、といった妄想も広がりますけれど過度な期待は不幸のモト(笑)。
吉報はのんびりトコトコと待つことにいたしましょう。
あ、というわけでエストレヤの最終型は令和元年まであと2年(惜しい!)という2017(平成29)年モデルでありました。熟成に熟成が重ねられた高年式のイイ出物があれば衝動買いしても後悔のない“走る文化遺産”とも言えます。しかし、(ライバル車を含め)たとえ低年式だとしてもレッドバロンの良質な中古車なら、消耗部品の心配などがないばかりかリコール対策なども万全。ぜひお近くのレッドバロンにて、かけがえのない1台を探してみてくださいね!