300㎞/h到達も夢じゃない超高性能を流麗なフルカウルボディに包み込み、大ヒットモデルとなったカワサキZZ-R1100。1990年に登場するや従来の常識を塗り替えていった伝説については過去に述べたとおりですが、今回からはより身近な400、そして250にフォーカスしてご紹介してまいりましょう。カワサキは“ブランド”造りが本当に上手いッ!

【カワサキにおいて“究極”という意味がある「Z」が2つ! ZZ-Rの読み方は「ゼットゼットアール」(商標登録上はゼットゼットアアル)というのが正しいとされていますが、「ズィーズィーアール」でも「ダブルジーアール」でも構わないそうです。なお、表記に関しては「ZZ-R」と「ZZR」が混在していましたが、2003年の段階でカワサキから表記統一が公式に発表され「ZZR」に一本化されました。ですが今回のコラムでは筆者の思い入れがある「ZZ-R」で始めさせていただきます】

絢爛豪華な“バブルモーターショー”で初披露された!

もう33年も前の話なんですね~! 1989年の第28回東京モーターショーは……。

千葉県・幕張メッセのこけら落としイベントともなった会場内は、バブル真っ盛りの勢いそのままに熱気ムンムン連日お祭り騒ぎの様相を呈していました。

バブルのイメージ

●1986年12月から巻き起こったバブル経済は史上空前の好景気を後押し。大学生だった筆者は増ページし続けるアルバイト情報誌と時給の上がりっぶりでタダならぬその流れを感じていました。余裕のできたクルマ&バイク各メーカーも意欲的な高出力モデルを連発したものです

 

平成になって初のショーでは10月26日からの12日間で201万8500人が来場したというのですから、その混み具合や熱気を想像してみてください……。もちろんこの入場者数は以降30余年、1度も抜かされておりません

そんなイケイケドンドンな会期中、カワサキブースの一番目立つ場所で華やかなスポットライトを浴びていたのが、翌年登場予定の参考出品車「ZZ-R400&250」だったのです。

ZZR400初期型

●キャンディカーディナルレッド×ルミナスローズオペラの塗色も艶めかしいこの仕様が、ZZ-R1100の前でドーンと展示されていました。「ニイちゃん、これ何シーシー?」と問われたときも、その気になれば「(0.4)リッターバイクっスよ、ハッハッハ〜」と“ナンシーおじさん”を楽勝で煙に巻くこともできた威風堂々たる体躯。GPZ400Rに感じたテールの寸詰まり感も解消されて、伸びやかさを感じさせます

 

ちなみにシリーズの旗艦たるZZ-R1100は正規販売できない逆輸入車という立場だったため、弟たちを引き立てる“背景”と化していました(涙)。

先代GPXシリーズの不振で得た教訓をフィードバック

さて、ここからは話を400に絞ってまいりますが、カワサキの「ZZ-R400」にかける意気込みには並々ならぬものがありました。というのも、1987年に満を持してリリースした「GPX400R」は開発陣が目論んだどおりの支持をユーザーから得られなかったため。

GPX400R

●グラブバー装着、低シート高化、軽量化などなど大ヒット作GPZ400Rに寄せられていた要改善ポイントをガッツリ満たして世に放たれたGPX400R。しかし、「代わり映えしないデザイン」「Ninjaじゃないの?」「何で今さら鉄フレームなのか」ほか、さんざんな言われようで轟沈してしまいました。鉄フレームとはいえ乾燥重量で174㎏とGPZ400Rより2㎏軽くなっていたのに! 当時はまだアルミフレーム絶対主義が根強かったのです……

 

そのまた先代、1985年にデビューしていた「GPZ400R」のほうがGPX発売後も圧倒的な人気を維持し続け、しまいにはGPX400R向けに改良されたパーツ(足周りやシリンダーヘッドなど)が1989年型のGPZ400Rに還元&装着されて販売される……というワケの分からない事態にまでなっていたのです。

GPZ400R

●登場した1985年、そして翌年も400㏄クラスのベストセラーに輝いたGPZ400R。1987年にGPX400Rがデビューしたあとも併売されてヒットを続け、最終(大改良を受けた)1989年型までキッチリ売れ続けたドル箱モデル。大学の後輩が購入したので借りたこともあるのですが、非常にエキサイティングで面白かったですね。「Ninjaに乗っている!」という不思議な満足感もアリアリ(笑)

 

1100から250まで一本筋の通ったラインアップを形成

心機一転。1990年から攻勢をかけるZZ-Rシリーズは、フラッグシップたる1100から欧州向けミドルクラスの600(一部地域向けに500も存在)、

2003年ZZR600

●こちらは相当に時を経た2003年式の「ZZR600」カタログなのですが、ZZR400と変わらぬ姿形というのは一目瞭然ですね。そんな600の最高出力はなんと100馬力! ほぼ倍近いパワーを受け止める車体を400は持っていたというわけで、走りに余裕があるのは当たり前だったんですね……。なお、筆者がモーターサイクリスト編集部員時代に大変お世話になったカメラマンがZZR600にゾッコンでして、今なお楽しんでらっしゃるとか。その模様はコチラ

 

日本市場においてメイン排気量(当時)である400、そして車検もない入門版との位置付けも持つ250に至るまで、スポーツツアラーとしての王道をいく空力特性にも優れるフルカウルを装備した同じ“シリーズ”として、きっちりと各車に最適な車体の構成とキャラクターが作り込まれていました。

中でも失敗の許されない“ヨンヒャク”は、GPZ400R同様の「アルクロスフレーム」を完全新設計しつつ採用し、スタイリング面でも強調

ZZR400アルクロス

●GPZ400Rとは比較にならないほど骨太なアルミツインチューブをベースに、エンジンシリンダーを囲むように伸びるアルミパイプを追加して、GPZ400R同様の「AL-X(アルクロス)フレーム」が完成!

 

端正かつ大柄なカウリングボディには長兄譲りのビルトインウインカー吸気導入孔(まだラムエアシステムではない)、格納式荷掛けフックグラブバーなどを設定してZZ-Rの血統を誇示します。

ZZR400ライト部拡大

●おお、ZZ-R1100ソックリなボリューム感あふれるヘッドライト周り……なのですが、その下にエアダクトがないのが初期型ZZ-R400の判別点。フレッシュな外気をキャブレター近くへ導く外気取り入れ口は、ウインカーの下に設定されていました。いやしかし、このカラーリングだとホントに1100と見間違えてしまいますね……

 

ぶっちゃけてしまいますと、400の車体まわりは欧州&北米戦略車である次男坊、つまり「ZZ-R600」とほぼ共通。エンジンも600用のボアとストロークをともにダウンして、日本市場に合致する399㏄へ仕様を変更したものだったのです。

その当時では珍しかったジェントルな吹け上がり

八重洲出版モーターサイクリスト誌のアルバイトスタッフとして何度となく初期型ZZ-R400にはまたがったのですけれど、最高出力58馬力を1万2000回転で、最大トルク3.7㎏mを1万回転で発生しているとは信じられない、とても穏やかな出力特性に驚いたことが記憶に残っています。

ZZR400メーター

●メーター周りもZZ-R1100ソックリ……なのですけれど、当然ながら速度計の数字表記は180㎞/hまで。320㎞/hまで記載されていた1100とは、そりゃ違いますよね。それでも数多くの“中免”戦士はタンクの上にヘルメットのアゴをべったり付け、ウインドシールドの向こうに谷田部・高速周回路の45度バンクを夢想していたのです

 

同排気量の59馬力(実際にはそれどころではなかったとか!?)レーサーレプリカ軍団と峠道などで同時比較してしまうと、パンチのなさに「ふーん」状態だったのですが、取材の帰り道、いざ高速道路を淡々とクルージングするようなシチュエーションだと、その優しい回転上昇感と豊かな低中速トルクのハーモニーが非常に心地よく、レプリカ軍団とは段違いの快適性を発揮してくれるではありませんか。

もちろん、考え尽くされた適切なウインドプロテクション能力も移動の安楽さに大きく寄与。

そんな巡航中に振り返ってみれば、ワインディングでも600譲りの余裕ありまくりなシャシー性能によって何の不安もなくコーナーをクリアしていたことが思い出され、

ZZR400足周り

●2枚の大径ローターをトキコ製ブレーキキャリパーがしっかりと挟み込む、強力かつコントローラブルなフロントダブルディスクブレーキも600譲り。なお、1980年代に流行ったアンチノーズダイブ機構は、テレスコピックサスの性能が底上げされたため全メーカー的に消え去っていきました

 

「ムムムムッ!? 派手さこそないけれど実はコイツ、とんでもなく凄いバイクなのでは……?」と、まさしくZZ-R1100の世界試乗会で著名なバイクジャーナリストたちが察知したのと同じ印象を、時給ン百円だった筆者も僭越ながらZZ-R400から感じとったのでありました。

はたして、谷田部最高速チャレンジなどで長兄ZZ-R1100の人気がうなぎ上りになっていくのと同調して、ZZ-R400の注目度も急上昇していきます。

ZZR400テールカウル

●タンデムシートの上にゴム製のひもorネットで荷物をくくりつけることが当たり前だった時代。格納式の荷掛けフックは「カワサキさん、分かってるぅ〜」と旅好きライダーをニヤニヤさせるに値する粋な装備だったのですよ

 

憧れの旗艦モデルに乗っている雰囲気を味わえた

大型二輪免許……もとい(中型二輪)限定解除のハードルが非常に高かった当時、ビッグバイクには憧れつつも試験場での一発試験をなかなかクリアできず、“チューメン”に留まらざるを得なかった人は本当に多かったのです。

そんな“ビッグバイクにいつか乗り隊”にとって、ZZ-R400はドンピシャリ! 

リアルに600と兄弟車ゆえの大柄でご立派なボディ、取りまわしこそ少し苦労するけれど抜群の走行安定性も生み出す重めのウエイト(乾燥重量で193㎏)、センタースタンドも標準装備ですので、限定解除の事前審査に向けた練習もバッチリ行なえます(笑)。

ZZR400センタースタンド

●センタースタンドが最初から付いていることの素晴らしさは、一度でも体験した人なら十二分に分かっていることでしょう。ちなみに筆者はホンダVTZ250に小柄な友人を乗せて、事前審査クリアに向けたセンタースタンド掛けの練習を敢行……(危険なのでマネしないでください)

 

開発陣の願いどおりZZ-R400は順調なスタートを切り、ロングセラー街道を快走し始めました……。

あ、というわけで人気車ZZ-R400はタマ数が多めで、比較的お求め安い価格にて中古車市場に出回っております。全国300店舗以上の直営ネットワークで圧倒的な在庫量を持つレッドバロンなら、アフターサービスも万全な良質な中古車が選び放題。ぜひお近くの店舗へ足を運んでスタッフに相談してみましょう!

(つづく)

ZZR400という高汎用性万能車【中編】はコチラ

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