2008年4月5日、税込み49万8000円という悪魔的プライスタグを引っさげて市場に投入されたニンジャ250Rは、カワサキの目論見どおり(以上の!?)一大旋風を巻き起こします。ひと昔前ならネガティブな要素になったはずの鉄フレーム、並列2気筒エンジン、低い馬力なども全て当時の時代背景とフルフェアリングが覆い隠してしまったのですから!
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“ニーゴーニンジャ”大フィーバーの背景を紐解いていくと
突然ですが、これまで過去の名車を振り返るとき、何度となく出てきては重要な役割……というか大抵において“生産終了”のきっかけとして出てくる「環境諸規制」というパワーワードがございます。
その中身をザックリ中のザックリで紹介すると【騒音規制】と【排出ガス規制】の2つがあるということは、皆さんご存じのとおりかと。
騒音……これは分かりやすいですね。度を越した爆音は単純に社会のメーワクですので、バイクに対する規制はなんと1951(昭和26)年からスタートしており、以降1971年、1976年、1979年、1987年、2001年……と段階を追ってクリアすべき数値は厳しくなってまいりました。
特に2001(平成13)年の加速騒音73dB(デシベル)というのは、1971(昭和46)年の加速騒音86dB(※小型二輪。軽二輪は84dB)と比べると雲泥の差。
単純に数字だけを見ると「13dB下がっただけでしょ?」と思われるかもしれませんが音の大きさというのは複雑でして、13dB下げるというのは音の大きさを実質“20分の1”にしなければ達成できないとんでもない数値なのです。
日本の各メーカーは、それこそサイレンサーの内部構造を工夫したり大きくしたり、スプロケットや冷却フィンにゴムを挟み込んだり、不細工になるのを知りつつエンジン横に樹脂カバーを追加したり、サーボモーターで動く排気デバイスを装着したりするなど涙ぐましい努力をして、なんとか対応をしてきました。
そしてキャブレター車も2ストモデルも消えていった……
しかし、さらに輪をかけて大変だったのが【排出ガス規制】で、こちらによってトドメを刺されてきたバイクはとんでもない数にのぼります。
ガソリンと空気との混合気が燃焼することによって、どうしても発生する有害物質を減らしていこうというバイクの排出ガス規制は1998年が最初という意外にも直近のスタート。
とはいえご存じのとおり、こちらの施行によってNSR、TZR、RGV-Γ、CRM、DT、RMX、KDX……といった素晴らしき性能の2ストロークモデルが軒並み姿を消していきます。
そして2006年、恐るべきセカンドインパクトがバイク業界を襲いました。
排ガス規制ではCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)の量が測定されるのですけれど、1998年規制(4ストローク)のCO値は13.0だったのにそれが一気に2.0へ!
12.0ではありませんよ、2.0ですよ!!
以下同様にHC値は2.0→0.3に。NOx値は0.3→0.15という、思わず「ウソッ!」と叫んでしまうほど厳しいレベルの目標へ激変したのです。
さらにメーカーを窮地に追い込んだのが測定方法の変更で、従来は排ガスを浄化する触媒が暖まってから計測を開始(ホットスタート)できたのですが、その2006年規制からは冷間始動……つまりエンジンも触媒も冷え切った状態から測定を開始(コールドスタート)して、なおかつ前述した非常に厳しい規制値をパスしなくてはならなくなりました。
正直、基本的に水冷エンジン(空冷だと冷却のため混合気を“濃く”する必要アリ)で、FI(フューエルインジェクション:電子制御式燃料噴射装置)とキャタライザー(触媒=排ガスと高価な貴金属とを接触させることで有害成分を無害化する装置)を装備していないと到底クリアできないレベル!
というわけで、XJR400Rやゼファーχほか、空冷車やキャブレター車はここで軒並み撃沈されて、あえなく生産終了の憂き目に……。
なお、パフォーマンスを追求しないネオレトロ系のシングルエンジンなどは、FIと触媒を導入することで空冷エンジンのまま規制を通過する場合もありましたが、どちらにせよ大幅な価格上昇は避けられません。
人気を鑑みた費用対効果の観点から命脈が途絶えたモデルもまた数多かったのです。
バイク雑誌には“やれば必ず売れる”定番企画として「国産車オールアルバム」というものがあるのですけれど、2006年あたりから数年間は各社のモデルラインアップが激減してしまい、従来のページ数のままではスッカスカになるため、台割(1ページに何台を入れ込むか考える雑誌の設計図)作りには苦労させられたものです。
“生産終了車”を「市場にはまだ在庫がある!」と言い張って掲載しだしたのも、この頃からですね(汗)。
その者 緑の衣をまといて 単(気筒)色の野に降り立つべし
さて、前置きがとても長くなってしまいましたが、このような時代背景があったからこそニンジャ250Rの大ヒットが巻き起こったとも言えるのです。
騒音&排ガス規制の非常にキビシーイッ!(by財津一郎さん)洗礼を受けた250㏄クラスは2008年当時、右を見ても左を見てもトラッカーかネオレトロかスクーターといった単気筒モデルばかり……。
ほんのひと昔、いやふた昔前のレーサーレプリカ百花繚乱時代を知るベテランライダーにとっても、当時リッタークラスやミドルクラスでCBR-RR、YZF-R、GSX-R、Ninja ZX-Rらが繰り広げていたスーパースポーツ超バトルに心躍らせるヤングメンにとっても、欲求不満ばかりがつのる意気消沈した水墨画のようなモノクロの景色が広がっていたわけですね。
そこに突然、萌える若葉のようなライムグリーンを身にまとった(黒と青も同時発売)精悍なフルフェアリングモデル「ニンジャ250R」が現れたのですから、そりゃぁもう大変な騒ぎですよ。
ニンジャ250R特需発生! そして誰もが幸せになった……
色めきたったのはバイク雑誌屋とオーナー(予備軍)だけではなく、マフラーやバックステップほか走行性能向上を目指すアフターパーツメーカー、ツーリング用途の快適性を向上させる各種用品を製造する多彩なショップらがこぞって期待のニューカマーへ対応する新製品を開発していきました。
ちょうどバイク用ETC車載器実用化とスマートフォンが爆発的に人気を集めた時期とも重なり、便利なデバイスを車体へ導入するための電装系グレードアップが本格的に始まったのも、まさしくニンジャ250Rが大ヒットしていく過程の最中でしたね。
もちろん遠い目で「なんでアルミフレームじゃないの?」、「並列2気筒エンジンなんて直4に比べるとショボいじゃん」と過ぎ去った過去の栄光を懐かしがる勢力が少なからず存在していたことは事実ですが、衝撃的な“50万円切り価格”がネガティブな意見をほとんどを吹き飛ばしてしまいました。
流麗なフルフェアリングモデルですから、フレームもエンジンもろくすっぽ見えませんし(笑)。
環境諸規制の猛威が吹き荒れる(なおかつそれに対抗する技術が開発途上だった)当時、250の精悍なロードスポーツモデルを求めていた人々にとって、まさしく待ち望んでいた車両を具現化したのが「ニンジャニーゴーアール」だったのですね。
過激さは皆無、しかし奥の深い走りを実現した高い完成度
いや、実際に本当に良くできていたバイクでした。
180度クランクの心地よいパルス感とともに軽快かつ力感を伴って吹け上がっていくパラレルツインは、適切なパワーを右手の操作とおりに生み出してくれるためワインディングが本当に楽しい!
ハンドリングも素直そのもので、視線で狙ったとおりに前輪がベストラインをトレースしてくれますから、マシンと対話しつつ「もう少し上」を目指していけるのですね。
取材に同行し、初代ニンジャ250Rで伊豆スカイラインを元気に駆け抜けたときの楽しさは、長かったバイク雑誌編集部員生活のなかでも間違いなく十指に入るほど、かけがえのない記憶となっております。
さて、2008年4月に発売されるや、当然のごとく大ヒットモデルとなったニンジャ250R。
納車まで1年待ち……は大げさでも半年待ちはザラだったほどの品薄が続いていきます。
なお、実のところ衝撃の50万円切りを果たしていたのは初年度モデルだけで、翌2009年型からはサクッと値上げされてSTDが52万3000円となり、追加されたスペシャルエディションが53万8000円に。
そのまた翌年、2010年型はSTDが52万8000円(SEは54万8000円)へ。
2011年型は同53万3000円(SE:55万3000円)……と、毎年のように価格が上昇していきます。
タイ王国での生産ゆえ円高の影響もあったのでしょうけれど、実際のところ初年度の50万円切り価格は市場の動向を探るための採算度外視☆超絶☆特大☆バーゲンプライスだった……と考えるのが妥当なところでしょう。
いざ出してみたらライバル不在で市場の人気総取り状態となったので、原資をキッチリ回収していくのは企業として当然のことかと。ガシガシ値上げしていっても売れ続けたのですからタイしたものです。
しかし、そんな一強ぶりを放っておくほど国産他メーカーは甘くありません。
2011年にはホンダからCBR250Rが、2014年にはヤマハよりYZF-R25が登場してきます。
次回はそれらとのガチンコ対決ぶりとニンジャ250への道のりを紹介してまいりましょう!
あ、というわけで250クラスを再び燃え上がらせたニンジャとそのライバルたちは、バイクライフのスタートにも最適な乗りやすさを備えております。国内直営300店舗オーバーのレッドバロンが提供する良質な中古車なら、アフターサービスの心配もご無用。ぜひお近くの店舗に行ってイントラネット検索システムにて豊富すぎる在庫を確認してみてくださいね!
(つづく)