悩ましい。共通テーマとして出された、このお題。「バイクならなんでもいい」と思う自分にとって、実に悩ましい(他の執筆者も同じなんじゃないかなぁ)。
それでも頭に浮かんだバイクを並べてみると、「5」では足りなかったが、自分の思い出に関わるものを中心に厳選してみました。

①天上天下唯我独尊「マントラ」

マントラ

「マントラ」――真言(しんごん)。
「真言」――《(梵)mantraの訳》いつわりのない真実の言葉。密教で、仏・菩薩 (ぼさつ) などの真実の言葉、また、その働きを表す秘密の言葉をいう。明 (みょう) ・陀羅尼 (だらに) ・呪 (じゅ) などともいう。 ※「デジタル大辞泉」より

イタリアのビルダーであるビモータが1995年、初めてリリースしたネイキッドモデルがマントラ(db-3)だ。
選出理由は「デザイン」に尽きる。フランス人デザイナーの手によるものだが、エスプリ、反骨精神、茶目っ気をカンジさせ、とにかく奇天烈だ。

言われてみれば、顔まわりはマントラの車名に相応しく、「神社仏閣」や「仏具」をイメージさせる(ようなそうでもないような)。不思議なヘッドライトから水平に伸びてタンクへと流れるライン。その途中から丸いカーボン製メーターカバーがニョッキリ生えている(写真は前期型で、後期型はスクリーンが付く)。さらにメーターパネルは木目調! これも仏教っぽい。
フレームもフロントフェンダーもステップホルダーも形状がヤバい。しかもマフラーが4本出しで、当時珍しいリヤタイヤフェンダーにナンバープレートがマウントされる(振動で割れないか?)
なお、フロントからタンク横の部分はカバーではなく全て本物の燃料タンク! 「ウソみたいだろ。タンクなんだぜ。それで……」と言っておきたい。さらに小物入れまで付いているのだ(NC750の先取り!)。

実物は2回見たことがある。ファーストコンタクトは1995年頃、ヤングマシン編集部が試乗用に借りていた車両だ(黄色だった)。2度目はレッドバロンの本社工場を取材した時。レッドバロンがビモータを取り扱っていた時期があり、在庫として保管していたのだろうが、10台ほど並んだマントラに驚喜した記憶がある。

デザイン自体は正直カッコイイかと言われると、ウームと首をひねってしまう。特撮の「戦隊物」に出てきそうだ(カワサキのNinja H2SXに近い趣も感じる)。
しかし、「誰に何と言われようがこれがカッコイイんだ!」ととことん自分を貫き通したコンセプトは文句なしにカッコよく、見ているだけでワクワクしてくる。その心意気は、なぜかミュージシャンのプリンスを連想してしまう。ただしプリンスは多くの人に支持されたが、マントラはわずか3年で生産終了に……。それでも、マントラの心意気は私を惹き付けてやまないのだ。

ちなみにデザインに反して、中身はかなりまとものようだ。残念ながら乗車経験はないが、新車当時のインプレで走りは好評だったと記憶している。ドゥカティ製900SSの空冷2バルブLツインを独自の楕円アルミパイプのトレリスフレームに搭載し、車重は驚異の172kg(乾燥)。軽~。ホイールベースも1370mmでレプリカ並みだ。
前後サスはパイオリ製。ブレーキはブレンボ、ホイールはマルケジーニ(前期型のみ)と足まわりが非常に充実しており、ワインディングが楽しそう。
このようにブッ飛んだ外観に対して、中身がマジメなのもポイントが高い!

②甘~い、官能的な極上スイーツ「F4RR」

F4RR

マントラが長くなってしまったが、お次はMVアグスタのF4 1000シリーズ。中でも乗車した経験のあるF4RRを挙げたい(またイタリア車になってしまった)。

言わずと知れた「走る宝石」の異名を誇る、高級マシンのF4 1000シリーズ。フラッグシップであるRRは、2012年にデビューし、2017年型がラストだ。新車価格は税込300万円オーバーの高級車となる。
車体構成は、TIG溶接を用いた鋼管トレリスフレームに、チタンコンロッドを採用した998cc並列4気筒を搭載。可変管長インテークシステムやφ50mm大径スロットルボディも備え、200.8馬力&11.3kg-m(本国仕様)をマークする。足まわりのオーリンズ製セミアクティブサスも自慢だ。

750ccのF4がデビューした1999年当時から、どんな乗り味なのか興味を持っていたが、乗車する機会がないまま時が過ぎていった。
数年前に行われた那須MSL外国車試乗会でようやく念願の初体験をして、驚いた。

スイート(V・ロッシ風)なのである。心地良い振動とともにズオォォッというサウンドを伴いながら、右手の動きに従順にパワーがジュワーッと湧き出る。その出方に唐突さが全くなく、厚みがある。また、スーパースポーツは車体や足まわりがガッチガチなのに対し、そんな雰囲気もない。ライポジも当然前傾するが、さほどキツくないのがうれしい。
車体もヒラヒラ軽く、コーナーでは思いのままにラインを描ける。たかが50~60km/h程度の走行だったが、乗っているだけでここまで心地良い気分にさせるバイクは他に知らない。

③地味男、かと思ったら、実はイケメンな「GS750」

打って変わって今度はジャパニーズクラシックのスズキ・GS750。1970年代の空冷直4マシンは、Z2を筆頭に価格が高騰している車種ばかりだが、GS750は明らかに安く、100万円台中盤ぐらいから入手できる。その価格がまずイイ。

GS750

↑スズキ初の4スト750として1976年にデビュー。空冷4スト並列4気筒DOHC2バルブを積み、重量は223kgとライバルよりやや軽い。Wディスク+キャストホイールのEなどを追加しながら、4年目にDOHC4バルブのGSX750Eにバトンタッチしている。


スタイルも好みだ。
昔はZ1/2命で、GSは全く意識していなかったけど、少し前に雑誌で眺めていたら、Zよりカッコよく見えてきたのだ(スズキファンの人ゴメンナサイ)。
ヘッドライト位置がライバルより若干低めだったり、テールカウルが尻下がりのGS1000に対し、ピョコッと盛り上がっていたり、とフォルムにまとまりがある。
実に地味……、じゃなくて正統派スタイルで、クセがない(マントラと正反対!)。

恥ずかしながら乗ったことはないけど、トータルバランスに優れ、走りは軽快らしい。スズキ初の直4というステイタスもあるし、純正部品もそれなりに出ると聞く。やっぱり欲しい……!

④巨象? バイクってスゲエと思ったキッカケ「Z1300」

1980年代初頭、北関東の田舎で小学生をしていた私は、放課後、アーケードゲームが置いてある自転車屋に時折寄っていた。駄菓子もあった気がするが、何屋だったのか? (当時の田舎はそういう多角経営の店が多かった気がする)。
自分では滅多にカネを出さず、友達がプレイするパックマンやペンゴを眺めているのが常だった。小学5年生だったと思うが、久々に寄ってみると、店の隅に見慣れない巨大な物体が! 小学生にとって、その迫力はとんでもなく、「いったい誰が乗るんだ」(本田宗一郎風)と思ったものだ。
さらに、平穏な田舎では目にすることのない、機械の発する荒々しくも禍々しいオーラに心を打たれた。
いくら田舎でも当時走っていなかったわけはないが、明確に「バイク」という乗り物を意識したのはこの時が初めてだったと思う。私は、サイドカバーにある「KZ1300」の文字を見逃さなかった。

もっとデカいバイクは存在するけど、「水冷6発」は今でもインパクトが十分ある。同じく6気筒のCBXもいいけど、やはり思い出補正で欲しいのはZになってしまう!

 

Z1300

↑水冷4スト並列6気筒1286ccのモンスター。6500rpmで120psを発生。車重は297kg(乾燥)もある! 駆動方式はシャフトで、ツアラーとしてまったり乗れそう。海外で1979年に登場し、10年以上販売された。

⑤ギラギラした走りと外観がたまりません「Ninja H2」

「まだ絶版じゃないよね?」というツッコミを入れた人もおいでかもしれないが、2021年モデルで生産終了……。受注期間限定モデルのため、既に店頭在庫のみとなっているのだ。

NinjaH2

↑2015年に世界初のスーパーチャージドバイクとして登場したNinja H2。2017年に205ps、2019年モデル以降は驚異の231psを発生する(ラムエア加圧時は242ps!)。2021年型はNinja H2 CARBONの車名で、新車価格363万円也。


選出理由は、スーパーチャージャー搭載機で唯一の本気スポーツだから。ツアラー寄りのH2SXや、ネイキッドのZ H2は現役だが、スポーツ性能ではやはり元祖のH2が上回る。
試乗したのは205psの2018年型だが、H2SXと比べてもやはり加速力が飛び抜けている。どこまでもパワーがあふれ出て昇天しそうな勢いは初体験だった。

鏡を思わせる塗装も美しい。まさに特別なバイクと言えるだろう。
生産終了すると欲しくなるのはありがちだが、今なら程度のいいタマがありそう。情報を聞いていると、復活する可能性がゼロではなさそうではあるものの、買うなら今かもしれない。

<まとめ>250で欲しいのもあるんですヨ

高額な新旧フラッグシップと変態系が並ぶ結果に……。他にはない独自性や、憧れを抱かせてくれるバイクにはやはり惹かれてしまうようだ。他に、TDR250やバンディット250Vも候補だったが、今所有しているのが250のせいか、ビッグバイクばかり選んでしまった。皆様、いいタマがありましたら、ぜひ格安でお譲り下さい! とはいうものの、バイクならなんでもいいのはやっぱり変わらないかな(笑)。

 

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