2008年に海外向け車両がデビュー。翌年には国内仕様も登場し最終型となった2017年モデルまで粛々と販売が続けられた2代目「VMAX」なのですが、まさに重複する期間においてヤマハ発動機は創業以来の危機に直面しながらも奇跡的なV時回復を実現。勢いそのままに現在まで続く快進撃の礎となったのがシン・魔神の存在だと筆者は考えます!

●2015年に開催された第44回東京モーターショーのヤマハブースにおいて鎮座していた2代目「VMAX」。すぐ横には1970年代からの命脈を誇る「SR400」が配置されており、さながらアンモナイトと機械獣(byマジンガーZ)といった趣きを感じさせました(^^ゞ
Contents
貧すれば〜 まず切られるのが バイクかな〜(詠み人知らず)
さて、当欄愛読者にとってはもう耳タコかもしれませんが今一度「世界金融危機」の話をば。

●「耳にタコができる」……何度も同じことを聞かされて嫌になる様を表す慣用句ですが、タコはタコでもイラストの蛸ではなく胼胝のほうなのですね。筆者は「おかしいなぁ」と思いつつ、40年以上蛸のほうだとばかり……
2007年9月ころから「マジでヤベェぞヤベェぞ……」とささやかれ始め、次第に顕在化していった米国サブプライム(低所得者層向け)住宅ローンのバブル崩壊が発端となり2008年9月には大手投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営ハターン!

●♪ショック! ショック! ショック! リーマンショック! ……とシブがき隊代表曲の替え歌が聞こえてきそうですが、実際のところマジで笑い事ではなかったのですよ……
そこからドミノ倒しのごとくワールドワイドな超絶不景気が始まったことは、地球人のコモンセンス(常識)として覚えておいてくださいませ。
そんなこんなでニンゲン、手持ちの使えるお金が一気に少なくなるとどうなるか……?
当然、食費や上下水道、ガス、電気、通信など生活(生存!?)に必須な費用を最優先して、とりあえず生きるのには困らないモノやコトを削っていくのが一般ピーポーのコモンセンス。

●「金がないのは首がないのと一緒」とはよくいったもので……。確かに何もできない大変な状態ですわな
つ・ま・り、遊びのために使うバイクなんざ、真っ先にショッピングリストから除外されてしまうのですヨ。
まず米国市場においてバイクメーカーの飯の種……主食であるゴハンとも言えるオフロード競技用モデル需要が一気に冷え込み、

●写真は2011年型ヤマハモトクロッサー「YZ450F」。筆者も昔、関係者に話を聞いてようやく認識を改めたのですけれど広大な土地を持つ米国ではナンバーの要らない競技用車両が飛ぶように売れ、台数的には日本市場とケタが数個違うほど……。だからこそ各メーカーはスーパークロスほかの全米シリーズ戦で鎬を削りあい、毎年毎年アップデートを重ねているのです。かくいう莫大な収益を上げていたジャンルが突然のごとく縮小したら……
欧州マーケットでは趣味性の高いビッグバイクの売れ行きに大ブレーキがかかり、日本市場は排出ガス規制の強化もあって空冷4発ネイキッドなど売れスジ車両が大量絶滅……などなど、一概に金融危機だけが原因とは言えない部分もあるのですけれど、とにかく当時は二輪ギョーカイへ非常に非情なる逆風が吹き荒れたものです。

●2007年型「XJR400R」……。環境諸規制の荒波を受けて、こちらがヤマハのヨンヒャク空冷4発最後の勇姿となりました。ほぼ時を同じくしてカスタムビルダーが過激さを競い合ったビッグスクーターのブームも終焉に向かい、メーカーとしては「何を売りゃいいの?」状態へ。ラインアップがスッカスカとなったためバイク雑誌の「アルバム号」担当者は頭を抱えていましたねぇ(←筆者)
史上空前の赤字決算となったヤマハ発動機の明日はどっちだ!?
四輪の乗用車や軽自動車もやってるところや巨大コンツェルンに属しているようなメーカーはともかく、ヤマハ発動機はATVやゴルフカート、スノーモビル、水上バイク、ボートに船外機ほか趣味性に全開フルスロットルな商品群がフルラインアップしている感動創造企業。
実のところ2025年もヤマハ「VMAX」は健在、なおかつ国内市場でも……(下写真キャプション参照(^^ゞ)!?

●ハイ、失礼しました。バスボート専用船外機に「VMAXシリーズ」があるという話デス m(_ _)m。写真はフラッグシップの「F275B」で4169㏄6気筒エンジンは275馬力を発揮! 価格は税込み271万4140円!! もっと言えば過去には2スト800㏄エンジンを搭載した「VMAX-4」というスノーモビルもあったとか〜
かくいう会社ゆえに世知辛い不景気風をモロに受けて2009年12月期には2161億円もの純損失を計上してしまいます。
あのHY戦争に敗北を喫したときの1984年度決算でも赤字は200億円ほどだったと言われていますから、その10倍以上の大大大大赤字ィィィですよ!?

●1984年つーたら、4月にこの「RZV500R」が発売されるなどHY戦争の痛手を推進力に変えてヤマハらしさ全開のバイクが出たり、スタンバっていた時期……。翌1985年には2ストレプリカの概念を変える「TZR250」や45馬力クオーター4発の先駆け「FZ250フェーザー」、ジェネシス思想を具現化した「FZ750」などエポックメイキングなモデルがゾクゾク登場! ケニー&平の8耐参戦もあって4ストもヤマハというイメージが爆上がりしました!
冗談抜きでヤマハはとんでもない業績悪化に直面し、2009年から2010年にかけて半年足らずのうちに社長が3回も交代する(!)というチョー混乱ぶりも披露……!
これにはバイク雑誌屋稼業の末席にいた身として「一体どうなっちゃうんだろう……!?」とドキがムネムネしていたものです。
駄菓子菓子!
このピンチをヤマハはチャンスへとコペルニクス的転回させました。

●2009年に国内デビューを果たした2代目「VMAX」は数年間ほど放置プレイ状態に……。「このまま消えてしまうのか?」とも思われましたが、2012年モデルとしてカラーチェンジが行われてホッとしたものです……。しかし新興国市場の爆発的な成長という神風(?)が吹き2010年12月期には黒字転換(たった1年で! 恐るべきV字回復っぷり)。以降も続いた奇跡的な業績回復がなかったら、本当にどうなっていたことやら……
魅力的なモデルを素早く、かつ数多く出すことのできる戦略を実現!
2010年3月に社長に就任した柳 弘之氏は矢継ぎ早に数々の対策を実施していったのですけれど、中でも絶大なる効果を発揮したなぁ~と筆者さえ唸ったのが、『基本プラットフォームをベースにしたバリエーション展開の拡大』……つまりは製品のプラットフォーム化です。
こちら、簡単に言ってしまえば莫大な開発費のかかるエンジン、そして車両の骨格たるフレームなどをしっかり作り上げたら、それらを極力流用しつつバラエティに富むモデルを次々リリースしていく手法のこと。

●これは欧米メーカーが得意としている手法でもありまして、例えばBMWなら気合いの入った水平対向2気筒エンジンを写真の「R1200GS(2010年型)」といったアドベンチャーモデルから、ロードスポーツ、スーパースポーツ、ネオレトロ、ツアラー、クルーザーなどへ幅広く展開。ひとまわりしたら改良版エンジンをまたGSシリーズから投入していく〜というアッパレな戦略をとっております……
どれもこれも専用パーツの集合体だった2代目「VMAX」ようなモデルとは完全に真逆の方向へと舵を切ったのです。
「高コスト上等! そのモデルごとに拘り全開!」で生み出されようとしていた車両群は全て開発をストップ。

●同時に長期間の在庫を抱えるリスクを徹底的にカットして、生産設備の再構築も行ったとか
ヤマハらしさとは何か?をゼロから考え抜いた驚きのエンジンが構築されていき、2014年4月、ついにヤマハ・プラットフォーム戦略の嚆矢が世に放たれます。

●嚆矢(こうし)=物事の始まりという意味でござる。昔、合戦の始まりを独特な音を出す鏑矢(かぶらや)を放って知らせたことから生まれた言葉で候(^^ゞ
そう、それが皆さんご存じの「MT-09」だったのです!

●2014年型ヤマハ「MT-09」。いやぁ、マジでブッ飛びましたわ〜。クロスプレーン・コンセプトに基づく完全新開発の846㏄水冷4スト並列3気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力110馬力/9000rpm、最大トルク8.9kgm/8500rpmを発揮。変速機は6速リターン。燃料タンク容量14ℓ、シート高815㎜、車両重量188㎏(ABS仕様車は191㎏)。消費税8%込みの当時販売価格は84万9960円(ABS=89万9640円)とリーズナブルだったことも大きな話題となりました。エンジン制御マップは3つから選べ、中でもAモードの過激さは語り草に……
MT-09シリーズ以降の快進撃にギョーカイも色めきたった……
独特な鼓動感とともに過激にもジェントルにも駆ることのできるクロスプレーン3気筒エンジン搭載車は、

●1976年に発売された「GX750」から38年後に登場した新生☆並列3気筒は、ヤマハの持てるノウハウを総動員して作り上げられた名エンジン。現在は888㏄で120馬力/9.5㎏mを誇り、自動変速機構「Y-AMT」を搭載する仕様も追加設定されております。いやもうセルボタンを押した瞬間から味わい深く、変幻自在の出力特性を楽しめるパワーユニットです。太鼓判!
ネイキッドスポーツ「MT-09」から始まって、今やアドベンチャージャンルの「MT-09 トレーサー(現「トレーサー9 GT」シリーズ)」、スポーツヘリテージ「XSR900/GP」、3輪ツーリングスポーツ「ナイケンGT」、そしてスーパースポーツ「YZF-R9」までラインアップを拡充するほどになりました。
クロスプレーン2気筒エンジンを積む「MT-07」シリーズも同様のバリエーション増大を行い大成功。

●ヤマハの誇るアドベンチャーモデル「テネレ700」は「MT-07」、「XSR700」、「YZF-R7」(海外向けには「トレーサー7」シリーズも存在)、と同じクロスプレーン・コンセプトの688㏄並列2気筒エンジン(73馬力)を搭載。高い定評を得ています
さらに認知度の上がった「MT」、「YZF」、「XSR」の各ブランドを小排気量モデルへ下方展開してビギナーやカジュアル層への訴求も忘れない水も漏らさぬ戦略……。

●気が付けば原付二種クラスにヤマハスポーツモデルがテンコ盛り! 写真の「MT-125」もシビれるようなカッコよさですなぁ〜。ココからヤマハ道に分け入った人たちが順調にステップアップしていく未来しか見えません!?
どれもこれも、兄弟車を持たぬ孤高の存在であり、拘り抜いた専用設計&専用パーツで固められたエンジンと車体を誇っていた2台目「VMAX」をある意味で反面教師として得た知見が存分に生かされていると筆者は感じました。

●ヤマハの理想主義が具現化した2代目「VMAX」。その価値は時が経つごとに高まっていく!
もちろん、贅を尽くしたシン・魔神開発で得たアルミパーツ成型技術、FIやABS制御の精度向上、厳しさを増す環境諸規制へ対応してゆく触媒や消音装置の工夫、車重を問わぬヤマハハンドリングの実現方法などなど……。

●2014年型「MT-09」に採用された剛性バランスに優れ、個性的なボディを形作る軽量アルミダイキャスト製フレーム。求められる要件のため自由度の高い形状を実現しつつ、アルミ肉厚を細かく調整してしなりすら実現してゆく匠の技はヤマハ生産技術の真骨頂! 最近ではバイク用アルミホイールにも大いなる技術の進化がありました
バイクをめぐる環境が激変していった過渡期に長い年月をかけて開発されたからこそ培われた有形無形のノウハウが、今ラインアップに並ぶモデル群の高い完成度を下支えしていることは間違いありません。
ヤマハの至宝、2代目「VMAX」は世界金融危機に翻弄され初代のような大ヒットこそ記録できませんでしたが、それ以上の価値をヤマハに遺したと言っても過言ではないでしょう……。

●頂点の高さを引き上げれば引き上げるほど、裾野は大きく広がっていくもの。これからのヤマハにも期待大ですね。このまま業績好調が続いたら新たなる技術の到達点アイコンとして3代目「VMAX」も……!? V4エンジン+超強力モーターによる激烈加速なハイブリッド魔神が爆誕するかもしれません(^^ゞ
あ、というわけで、ヤマハ発動機が当時持てる最新ノウハウを全集中して作り上げた2台目「VMAX」は今こそ乗るべき永遠〈とわ〉のバイク。もちろん荒削りな初代の魅力も格別ですよ! レッドバロンの中古車ならアフターサービスも万全ですので是非お近くの店舗で在庫チェックを~!!