バイクメディアで20年以上取材してきた私が選ぶバイクは…?

私の二輪業界の第一歩は1998年。『ビッグバイククルージン』に始まり、翌年から『ヤングマシン』編集部で仕事をするようになった。現在はWebikeに所属しており、二輪業界で20年以上の時間を過ごしてきている。その間、どのくらいのバイクを取材しただろうか。そして振り返って「今欲しいな」と思う絶版車とは? 独断と偏見で5台をピックアップしたい。

【1位:バンディット400LTD】ロケットカウルなのにレトロじゃない、エンジンはGSX-Rで速い

いくら業界経験が長いといっても、若い頃の愛車に勝るほどの影響を受けたバイクは結局なかった。今でも特別に格好いいと思えるのが「バンディット400LTD(リミテッド)」だ。1989年に登場したスズキのネイキッド「バンディット400」にロケットカウルが装着された追加バージョンで、発売は1990年末のこと。高校3年の冬に『ミスターバイク』の広告で初めてLTDを見た時、「絶対に買う!」と心に決めたことを今でも覚えている。

そもそもバンディット400自体がエポックな存在で、いかにもバブル時代を象徴していたモデル。ベンツやブランド品など高級志向が極まっていた時代にバンディットは華やかなファッション性を追求していた。まるでイタリア製のバイクのようなフレーム形状やカラーリングで、バブル時代のライフスタイルに溶け込むかのようなデザインはそれまでになかったもの。そこに出たLTDに心を奪われたのだ。

当時の広告をまた見てみたいが叶わず。ロケットカウルはFRP製で当時価格は66万6000円と高嶺の花だったバンディット400LTD。

こちらはバンディット400。GSX-R系のエンジンをネイキッド向けにリファインし独特なパイプフレームに搭載した。

そこまで惚れていたのに今でも乗っていない理由は単純。限定解除をしたら大型に乗りたくなったのだ。LTDを売った時「400じゃなきゃずっと乗っていた」と友人にこぼしたことを、これまた今でも覚えている。時を経て、バイク趣味も一巡してから再びLTDを探したことは何度かある。「程度がいいものがあれば」みたいな軽い気持ちだが、なんと、身近に同じ想いを持つ人物がいたとは……。

「ずっと欲しかった」というのは、Webikeの信濃社長。写真の赤×黒のLTDは、最近購入したもので6月の社員ツーリングに合わせて整備されたばかり。2年ほど前から探してやっと見つけたという。信濃社長は当時LTDが欲しいと思いつつ、限定解除したことでTZR250から大型に乗り換えたので結局所有することはなかった。初めて乗ったLTDについては「それなりに走る」と満足げな様子。私も拝借して試乗&撮影したが、まず軽くてコンパクトなのがいい。そして適度なパワーがちょうどいい感じだ。どうやってもフレームがヒザに当たってしまうその感触が懐かしい…。

1990年前後は、みんなが大型バイクに乗ることを目指していたので、中型バイクは通過点でしかなかった。乗りたかったのに、気に入っていたのに限定解除して所有をあきらめてしまったモデルはライダーそれぞれにあるだろう。今の時代に改めて当時の中型バイクに向き合ってみると、小さい排気量ながら奇跡のような完成度を持っていることに感動する。機械式時計のような世界観に、中高年層の絶版中型車回帰が巻き起こりそうな気がする。

真横のシルエットも秀逸。ロケットカウルだが古くさくなく、エンジンは高性能、ブレーキもフロントダブルディスクと現代的だった。

ヘッドライトとロケットカウルの大きさのバランスも気に入っていた。ミラーやウインカーのマッチングも素晴らしく完璧。

セパハンだがそれほど前傾ではない。タコメーターと水温計がスポンジマウントされているところがいかにもレプリカの流用を物語る。

エンジンは水冷並列4気筒で59PS/12000rpmを発揮。1991年には可変バルブリフト&タイミングのVCエンジンに進化した。

私のLTDはオールペンの全身シルバー。GB400TTマークIIのようなモデルに憧れていたので眺めては「かっこいい」と自画自賛していた。

【2位:KZ1000LTD】カワサキ空冷Zの隠れキャラはジャメリカンの元祖

LTD(リミテッド)好きな私。これも最高にかっこいいと思えるバイクである。正統な空冷Z一族に比べると価格が安かったから買えたというのもあるが、私としてはZ1よりも好きな空冷Zだ。

KZ1000LTDは「ん?」という反応をされる空冷Zで、数多あるZ特集企画でもほとんど扱われることのない隠れた存在。情報が少なく知名度がかなり低いのだが、実はこれが日本製クルーザー(アメリカン)のパイオニアなのだ。このリミテッドが先駆けとなって各メーカーからアメリカンモデルがたくさんデビューした。これらは、ジャメリカン、ジャパメリカンと揶揄される存在になっていったが、一周回って現在の視点で見ると「あり!」なコンセプトと思う。

乗っていたKZ1000LTDは1977年型。初代は1976年のKZ900LTDでこれがカワサキ初のLTDで初のキャストホイール車でもある。

その魅力を一言で表すと「ダサ格好いい」ところ。2段になったキング&クイーンシートやジャーディンのメガホンマフラー、ショートタンク、リア16インチホイールなどZ1000をちょっとカスタムしただけのような内容でも、その中途半端具合がまたたまらないのである。

同様に、LTDはアメリカンスタイルにあってエンジンがスムーズすぎでサウンドも大人しすぎだった。これは空冷Zの優秀性故のミスマッチで、クルージングするというよりもガンガン走りたくなるのがLTDのキャラクターだった。ジャメリカンの元祖だけあって荒削りのコンセプトなのだがそれも含めて魅力の一台だ。

ジャーディンのマフラーが引き立つ後方からのカット。カラーリングもベタなアメリカンの雰囲気が満点で気に入っていた。

【3位:CB750F】CB750フォアに乗り、次はFに乗ろうと候補にしていた

ホンダCB750Fは10年くらい前に気になるタマをバイクショップに買いにまで行ったくらいで、今の価格の高騰を考えるとあの時買っておけば…と後悔している。

なぜCB750Fにこだわるかというと、前身のCB750フォアK4にも乗っていたことがあり、フォアからFへどのように進化したのかを味わってみたかったのだ。KZ1000LTDに乗った経験から私はZよりCBの軽いエンジンフィーリングの方が好みに合うと感じていたので、余計にFに未練がある。

また、CB750フォアや空冷Zに乗りCB750Fへ乗り継ぐということは、日本メーカーの並列4気筒エンジンの歴史を辿ることでもある。私は『ヤングマシン』で新車を取材するのと同時に過去のモデルも体験するように意識していた。現在起こっていることに加え過去もトレースすることで自分の年齢以上の経験が得られる訳で、バイクメディアの仕事をする上でプラスになると考えていたのだ。この空いたパズルのピースを埋める日を、いずれたぐり寄せようと思っている。

写真は初代1979年のCB750FZ。ストリームラインと呼ばれる直線基調のデザインが、来る1980年代に向けた新しさを表現している。掛け値なしで名作だ。

スタイルだけでなく「DOHC16バルブ」はバイクでも車でも1980年代のキーワード。ひたすら高性能を目指していた時代だった。

【4位:XL600Rファラオ】RFVCの600ccシングルはサイコー! 個性的なスタイルもツボ

現在の愛車であるR100GSと天秤にかけたこともあるビッグオフのXL600Rファラオ。以前乗っていたXR600Rのエンジンフィーリングがとても好きだったのに加え、ファラオはセルスターター、チューブレスホイールなど欲しかった装備が全てついているのがその理由。また、個性的なスタイルもツボだ。

XR600Rとファラオはともに1985年に登場したモデルで空冷シングルエンジンの基本設計は共通となる。当時、ホンダのエンデューロモデルはRFVCという放射状に配置されたバルブ機構を採用しており、600はその最大排気量版。私が乗っていたXR600Rは初期のツインキャブレター仕様だったのもあり、軽量かつ高性能ビッグシングルの圧倒的な加速力に終始興奮しっぱなしだった。

その反面、街乗りで使うにはシート高が恐ろしく高くキック始動オンリーと使い勝手が極端に悪いのがネックだった。いろいろ調べた結果、同系エンジンでファラオがあるのを知り、これこそ私の用途に理想的なモデルだと実際に購入を考えたのだ。しかし、限定300台というタマ数の少なさから先にR100GSにチャンスが巡ってきたため購入検討は中断したままだ。

1985年に限定販売されたXL600Rファラオ。マンガのような顔に赤く塗られたエンジンなどとにかく個性的。ロスマンズでなくなぜマールボロカラーなのか謎だ。

【5位:RZ50】私も歳を取り、バイクの原体験に回帰するのだろうか

RZ50は、初代の角目に高校生の時に乗っていた。なんといっても人生初のマイバイクである。「RZ」という響きはライダーにとって特別なもので、マンガの『キラーBOY』を熱心に読んでた影響が車種選択に表れたのだと思う。2ストロークの50ccエンジンはかなり高回転まで引っ張ってクラッチミートしないと発進もままならかったが、60km/hリミッターなしの“規制前”モデルだったので、パワーバンドに入れさえすれば友人のバイクよりも速かったのが自慢だった。

その後、『ヤングマシン』で働くようになり、復活した丸目&スポークホイールのRZ50に乗って久しぶりの2ストに感動し、「余力があれば欲しい!」と本気で考えた。当時は、最初の排ガス規制が適用されたことから2ストモデルが次々に絶版になった頃で、それもそう思わせた要因だろう。まさか2ストが新車で買えなくなる日が来るとは想像もしていなかった2000年代前半のことだ。

それにしても、高校時代には気づかなかった2スト50ccの魅力に経験を積んでから気づくというのは人生そのものという感じがする。今バイクに乗っている瞬間がとても貴重なものだと知ることは、バイクライフをより豊かなものしてくれるだろう。

今買うなら後期のRZ50。1998年型はネオクラを先取りしていたところも趣味性が高くて好み。エンジンはTZM50と同系に進化している。

 

1981年登場の初代RZ50。250と同じように“ゼロハン”にも革命をもたらしたスーパー原チャリだ。50cc初の水冷エンジンは7.2PSを発揮していた。

 

【特集:今欲しい絶版名車5選 一覧を見る】

SHARE IT!

この記事の執筆者

この記事に関連する記事