不肖オガワ、「ここ10年で一番驚いたバイク関連のニュースは?」と問われれば0.0001秒もかからず「250㏄並列4気筒バイクが令和の時代に復活したこと!」と答えます。まさに自分のセイシュン時代に生まれ、盛り上がり、惜しまれながら消えていった珠玉のメカニズム。そんな機構を積むモデルが今、新車で買えるなんていまだに信じられません!!

ニンジャ250という巨魁【後編】はコチラ

●最新ニンジャシリーズ共通のスタイリング文法にのっとった姿で登場した“Ninja ZX-25R”。初めて写真を見た瞬間、「アレ? カウルはニンジャ250のまんま?」と一瞬思ってしまいましたが、ヘッドライト上に設けられた本物ラムエアダクトを筆頭に細部はまるっきり違います。そのあたり差違化の仕上げもウマイなぁ……と

 

「バイクのインラン フォーって何のことッスか?」

今どきのモデルに多少興味のある程度のヤング(死語)たちにとって、ニンジャZX-25Rは数ある250スーパースポーツの中で「なんだか高くてすごそう」なバイクに過ぎない(筆者の周囲にいる若者にリサーチした結果。4気筒といってもピンとこない子まで……)のかもしれませんが、メカ好きオヤジ世代にとっては発売されていることが“奇跡”と言っても過言ではない存在

GS250FW

●ご存じのとおりインラインとは「直列の、一列に並んだ」という意味であり、4つのピストンが直列に並んだエンジンのことをインライン4と言ったりします。直列4気筒……でもいいのですが進行方向に対して横方向にシリンダーが配置されている場合は並列4気筒とも。以降も字面にこだわって“直4”などの表記をすることがありますが、そのあたりはご了承ください。なお、250㏄で世界で初めて水冷並列4気筒DOHCエンジンを搭載したのは、スズキの「GS250FW」。1983年3月に47万9000円で発売されました。詳細についてはまた稿を改めて……(^0^)

 

なまじバイク雑誌の編集部員として、2ストロークや4スト4発レーサーレプリカの大量絶滅間近に見てきたものですから、感慨もひとしおです。

今までこのコラムシリーズでもさんざんっぱら述べてきましたが、20世紀に隆盛を誇った多彩なバイクたちが世紀をまたげずドカスカ姿を消していったのは環境諸規制……主に騒音と排出ガスに関した、厳しくなる一方な課題をクリアできなかったからでした。

騒音イメージ

●過度な騒音は日常生活を脅かすもの。バイクが反感を買ってしまう要因にならぬよう、配慮が不可欠ですね

 

騒音に関しては少々ハードモードすぎた日本独自の規制値から国際基準化に準拠する数値へと変わったため、ある意味で少し緩くなった部分もあるのですけれど、問題は排出ガス規制のほう。

エンジン内で燃焼を終えたガスに含まれる環境に悪い成分、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、NOx(窒素酸化物)の規制値は近年、無慈悲なくらいドンドンと厳しくなっていく一方でして、とてもじゃないけれど“霧吹き”のように原始的な気化器……キャブレターだけではお話になりません。

というわけでエンジン内へ送り込むガソリン量を緻密に制御できるFI(フューエルインジェクション)は必要不可欠なものとなり、さらに燃焼室から飛び出してきた排ガスに含まれている前述のCO、HC、NOxをプラチナ、パラジウム、ロジウムといった高価な貴金属が浄化する三元触媒(キャタライザー)などを組み合わせて、ようやく高いハードル、つまり最新の規制値をクリアできるといった次第なのです。

「嗚呼、とてもじゃないけれど超高回転で高出力を生み出す並列4気筒エンジンを積んだ250モデルなんて未来永劫、現れることなんてないのだろうなぁ……」。誰もがそう思っていました。

遠い目のおばさん

●異常な事態もずっと続くと日常になります。アルバム号で紹介しきれないほど百花繚乱だったバイクラインアップが、みるみるうちにショボくなっていくあの日々。辛かった

 

雌伏の時を経て“扱いやすい”高性能競争が再始動

2007年にレーサーレプリカ時代の末裔、カワサキ・バリオスⅡとホンダ・ホーネットがともに力尽きて以降、スポーツクオーター主役の座は31馬力の並列2気筒エンジンを搭載するニンジャ250Rへと移行し、馬力競争の「バ」の字もない平安な時代が約7年間も続きます。

バリオス2

●2007年最終型のカワサキ バリオスⅡ。1989年に登場した4スト250レーサーレプリカの雄、ZXR250/Rの45馬力エンジンを40馬力に仕立て直して搭載したネイキッドスポーツです。現在の中古車市場でも人気が高いですね〜。高回転域まで回したときの快音がいまだに忘れられません!

 

しかし、ヤマハが2015年型YZF-R25で36馬力を、ホンダが2017年型CBR250RR(MC51)で38馬力を、カワサキは2018年、3代目となる250のニンジャで37馬力を出してきて、250スーパースポーツ界は小粒ながらも1980年代バイクブームのような熱気を帯びてきました(スズキは我関せず)。

中でもCBR250RRは完全新設計の並列2気筒エンジンにスロットル・バイ・ワイヤ……つまりは電子制御式スロットルを採用し、その副産物として3種類のライディングモードまで選べるように! 

CBR250RRエンジン

●CBR250RRは高出力化に対応するためウォーターポンプをRC213Vと同様シリンダーヘッドに配置。カム軸駆動とすることで軽量化とフリクション低減にも寄与。また、ピストンスカート形状の最適化に加え、ピストンに粗条痕やモリブデンコーティングを施すことで高負荷時でも気持ちのいい吹け上がりを実現しているのです

 

足周りも倒立式フロントフォークにリアのアルミ製スイングアームは、お懐かしやの“ガルアーム”形状……。

CBR250RR骨格

●新設計の鋼管トラスフレームにプロリンクを介して装着されるアルミGDC(重力鋳造製法)スイングアーム。右側アームをカモメの片翼のように「への字形状」にした“ガルアーム”とすることで、排気系の取りまわしを最適化!

 

全身が「これでどうだ、文句あるかっ」の塊で、ABS付き車両の価格は驚きの80万円超え!

常識に凝り固まった筆者のようなオッサンは「そんな高価な250㏄バイク、売れるわけないよ」と斜に構えていましたが、予想をくつがえすヒットモデルに成り上がり、“いいモノは支持される”ということに改めて気付かされたものです。

CBR250RR

●イエローの差し色も美しいソードシルバーメタリックのCBR250RR。このカラーリングも人気を集めましたね。写真のABSなしモデルは75万6000円でした

 

そんなわけで、「ニンジャ250もモデルチェンジ時にパワー上乗せ競争を仕掛けてこなかったし、こりゃ250スーパースポーツ界はしばらくCBR250RRの天下が続くのだろうなぁ~」なんて安穏な雰囲気がバイク業界に流れたのもつかの間、またもカ・ワ・サ・キがやってくれました!

日本仕様は何馬力で出てくるのだろう……妄想も全開!

まさかまさかの、よもやよもやの250㏄並列4気筒エンジン大復活です。

ZX-25Rエンジン

●4-2-1に集合していくエキゾーストパイプの途中には連結部分も設けられ、低回転域から立ち上がるトルクの増強をねらっています。三元触媒を最大限効率的に働かせるためにも、エンジンの空燃比(A/F)を精密に制御する必要があり、エキパイ集合部分に設けられた酸素センサーがそのためのデータを細かく拾い出しているのです

 

旧世代250直4マシンがラインアップ落ちしてから10余年、誰もがもう二度と出ることはないと思っていた夢のようなモデルが、まずは2019年晩秋の東京モーターショーに「ニンジャZX-25R」として勇躍登場いたしました。

ショー会場

●いやもう注目度はピカイチ(死語)でしたよ。レーサー仕様で前フリ……なんてまどろっこしいことは一切ナシ。「すぐにでもコレが買えるんだぞぉ!」とグイグイくる夢の具現化が目の前にあるのですから、心のレッドゾーンも振り切れてしまいそうでした

 

数年前からなんとなくのウワサは流れていましたが、1980年代とは比べものにならないほど「ヒジョ~にキビシ~~~ッ!」(by財津一郎さん)環境諸規制を超高回転化が前提となる250㏄並列4気筒エンジンでクリアできるとは、バイク雑誌の編集部員ですら想像できなかったのです。

ショー会場、カワサキブースの壇上でスポットライトを浴びる参考出品車。

カウル内をのぞき込んでみればエンジンから、しっかり4本のエキパイが生えてます。

とはいえ国内仕様が何馬力で登場してくるか当時は不明でした。

ZX-25Rエキパイのぞき込み

●インドネシア仕様では50馬力(ラムエア加圧時51馬力!)とのアナウンスはありましたが……。ともあれ、フルカウルの中にポツ〜ン?とエキパイが2本だけうねっている2気筒モデルとは、見た目からして迫力が違います

 

一時期は45馬力までいったパラレルツインエンジンが環境諸規制に対応するため31馬力でリスタートした歴史背景も鑑みて、「まぁCBRは超えてくるだろうから40馬力……42馬力くらいかな」なんて生ぬるいことを考えていたことを心よりお詫び申し上げます、カワサキ開発陣の皆々様

2020年9月の日本デビュー時、全面新開発の249㏄並列4気筒エンジンは、ぬぁんと1万5500回転で45馬力を発生ラムエア加圧時は46馬力!)とアナウンスされました。

マフラーアオリ写真

●ニンジャZX-25Rのハイライトは車体下部にあり、と言うことができるかもしれません。エキパイ集合部から続く太くて丸い部分には最新技術を反映したハニカムキャタライザーが詰め込まれて排ガスを浄化。続いて連結されている容量4.5ℓ、二重構造の箱型サイレンサーなどによって効果的な消音を実現しているのです。結果としてサイレンサー出口は大胆に小型化され、シャープな外観と低重心化、マスの集中化などの恩恵をライダーへと与えます

 

ニンジャZX-R兄貴分と同等の豪華装備を全力で投入!

さらに最新鋭技術がテンコ盛りでして、3モードのトラクションコントロールシステム、2段階の出力モード切り替え、上級車種の「SE」にはクイックシフターまで標準化……と驚くべき内容だったのです(車体周りもラジアルモノブロックキャリパー、SFF-BP(セパレート・ファンクション・フォーク・ビッグ・ピストン)機構を採用した倒立式フロントフォーク、ホリゾンタルバックリンクリヤサス、アシスト&スリッパークラッチなどなどクラスレスな装備だらけ!)。

メーター

●アナログ式タコメーターに刻まれた“2万回転”の表示を見るだけで目から汗?が流れそうです。キャッチコピーは「SCREAMING IN-LINE4 POWER」……「絶叫する直4の力」とでも訳せばいいのでしょうか。実際のところ、空吹かしをしたら本当に天にまで轟くような甲高い排気音が!

 

そんなニンジャZX-25Rの当時価格はSTDが82万5000円、ニンジャZX-25R SE/SE KRTエディションが91万3000円というもので、ヘタをすると車両本体価格だけで100万円を超えてくるかも!?と身構えていた筆者からすれば、「……安い」と思ってしまったものでした。

しっかりカワサキの戦略に踊らされていますね(汗)。

もはや表面的な値段はどうあれ、そこに価値を見いだせれば大変だろうが対価を支払うという、当たり前と言えば当たり前の正しい流れが250スーパースポーツ業界ではしっかり機能しているようです。

ニンジャZX-25R骨格

●素材はスチール製ながら、形状はしっかり“への字”になっているニンジャZX-25Rのスイングアーム。なお、YZF-R25のスイングアームもCBRやZXのように派手ではありませんがマフラー側に“曲げとエグリ”が入っております。性能を追求していけば自ずと姿も似てくる……非常に興味深いものですね

 

2020年度は販売期間が短かったこともあり、YZF&MTブラザーズの後塵を拝してしまったニンジャZX-25Rですが(それでもCBRは凌駕した)、2021年度は4761台を売り上げて250スーパースポーツジャンルにおいて堂々のトップを獲得いたします。

繰り返しますが、コミコミ価格だと楽勝で100万円を超えるクオーターバイクがですよ! 

ちなみに次点がYZF&MT兄弟で4387台、ジクサー/SFが3464台、GSX250Rが2784台、CBR250RRは2700台と続きました(※販売台数は二輪車新聞様のデータより)。

ニンジャ250 2020KRT

●近年、販売台数の上位には姿を現さなくなってしまったパラレルツインのニンジャ250ですが(写真は2020年型 KRTエディション)、2018年型でこのカタチになったとき、ほぼ同一の車体構成で400モデルを派生させるという超重要な役割を果たしました。おかげでそれまで650モデルがベースで鈍重なイメージがあった400は、名実ともに軽快な400ツインスーパースポーツへと大変身!

 

ニンジャ400 2020 KRT

●本当にサイドカウルの排気量デカールくらいしか250と見分ける手段のない「ニンジャ400」(写真は2020年型 KRTエディション)。しかし、そんなところも支持されて(?)2018年、2019年、2020年と400㏄クラスのベストセラーモデルに輝きます(2021年もスーパースポーツジャンルでは堂々のトップ)。本当にカワサキ、戦略が上手すぎる……

 

次回は風雲急を告げる2022年末、250スーパースポーツ界最新情報とともに、250㏄並列4気筒の過去モデル総ざらえをやってみたいと思います!

あ、というわけで250スーパースポーツに憧れつつも「まだ免許すら持ってない……」という悩めるライダー予備軍の皆さん! レッドバロンで126~400㏄のバイクを購入されることが前提なら、普通二輪免許取得費用の一部として3万円がサポートされる「免許応援キャンペーン」をぜひ活用してみましょう。適用車両は新車でも中古車でも関係ナシ[※一部、キャンペーンの対象とならない車両があります]! 詳細はぜひお近くの店舗にてお聞きくださいませ~。

(つづく)

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