三ない運動と駐車問題という二輪・モビリティ市場の2大課題があります。この2つを改善すれば業界・市場内の多くの問題が根底から改善されるんですね。

私自身、コンサルタントとしての立場のほかジャーナリストとしても執筆することが多いテーマなんですが、今回はこうした既知の問題と将来課題である地球温暖化に備えるためのカーボンニュートラルを掛け合わせた取り組みについて紹介します。

カーボンニュートラルとモビリティの潮流

▲Ninja H2用スーパーチャージドエンジンがベースの水素エンジンを搭載した「HySE(ハイス)-X1」。ダカールラリー2024“Mission 1000”カテゴリーに参戦し最終日まで走りぬいてクラス4位を獲得


電動化やハイブリッド化、合成燃料や水素の活用など、いまモビリティのCASE対応や脱炭素化が盛んです。クルマやバイクに限らずバス、電車、船、飛行機などもカーボンニュートラル(以降、CN)の概念に基づいた開発が行われています。

国連で世界的な枠組みを作り、各地の経済圏でもまた枠組みを作り、各国が国家さらには地域や自治体としての対応を定めてCN実現のために活発に動いています。その枠組みによっては法律や条例が強制力を持って経済活動に携わる企業はもちろんのこと国民の日常生活にも及ぶわけです。

さらには、政治経済上の利害関係など様々な要因により経済圏ごとに規制や決め事があって、圏外や外国の企業がその土地で製造販売などの企業活用を行う場合にも大きな影響を受けます。投資家らもこうした枠組みの中でどう立ち回っているのかで企業活動を評価しています。

▲自工会の二輪車委員会も電動バイクの普及、交換式バッテリーの国際標準化などに向けて精力的に活動しています ※第8回自工会二輪車委員会メディアミーティング配布資料12ページより引用


「いま売れないから作らない」というのはメーカーとしては簡単な理屈ですが、そうはいかないのがCN推進下のグローバル市場です。現在、市場(売上)の大半が海外という国内二輪メーカーもこうした世界の潮流から逃れることはできません。

とは言え、いきなりすべての製品を脱炭素化するわけにはいきませんし、原料調達から製造・販売・使用・廃棄・リサイクルまでというライフサイクルアセスメント(LCA)という観点で見れば、CNの実現にはまだまだ長い年月が必要です。

▲ジャパンモビリティショーでのホンダブース。交換式バッテリー「Honda モバイルパワーパック」はバイク以外の建設機械や海外市場でのローカル・モビリティ、小口配送用の軽自動車にも採用されています(開発・実証中)


そして、製品を購入・使用する側であるユーザーもいま電動車両など脱炭素モビリティを求めているのかといえば、まだまだです。世界に目を向ければ、国策による規制などで電動車以外は走行禁止、補助金・助成金も大盤振る舞いなんてところもありますが大半の国はそうではありません。

電動コミューターが改善できる社会課題

▲トヨタのプリウスと同じく、ストロングハイブリッドを採用した世界初の市販二輪車「カワサキ Ninja 7 Hybrid」は2024年6月15日発売予定。税込価格184万8,000円


では、日本ではどうかといえば、先行している普通車カテゴリーでは電動車(BEV)よりもハイブリッド車(HEV・PHEV)が普及しています。エコカー補助金(HEVではなくPHEVが対象)のほかエコカー減税も延長されて長期にわたって行われていますね。

バイクの場合だと、型式認証を取得したモデルに国や自治体からの購入補助金が用意されているくらいです。該当するバイクがまだ少ないので身近に感じることは少ないかもしれません。

▲第51回東京モーターサイクルショー(2024年)のホンダブースで展示されていた交換式バッテリー採用の電動コミューター。型式認証モデルであれば国や自治体からの購入補助金が受けられます


現段階で、脱炭素化モビリティとしてのバイクは、車体の動力や走行性能がガソリン車に及ばないこともあって「こりゃダメだな~」というのが、国内二輪市場・企業・ユーザーのマインドです。ノンユーザー(バイク無関心層)」にしても某充電旅番組のおかげ(せい)もあって「電動バイクは長距離を走れない、坂を上らない、使えない」という認識が大勢ではないでしょうか。
しかしですね、多くの二輪メーカーもすでに発表しているように電動バイクの開発・販売は続けていかなければならないのです。内燃機関と違いコモディティ化(一般標準化)が早く異業種参入もしやすい電動モビリティ市場では、開発を先行させ充電規格や特許も含めて包括的なビジネスリーダーになることが求められます。

では、何をどこからやればいいのか? 国内二輪市場の電動化でまず注力してほしいのが、CNと三ない運動がクロスする、中山間地の若年層市場です。その理由は電動バイク(特にコミューター)が次のような社会課題を改善する可能性を秘めているからです。

電動コミューターが改善に寄与できる社会課題

1. 電車やバスなど公共交通の衰退
2. 2024年問題による人手不足と交通・物流の減退
3. 学校の統廃合と通学距離の延伸(労力・時間・家計の負担増)
4. ガソリンスタンドの廃業(SS過疎地)
5. 若年層のモビリティ利用の足かせになっている三ない運動
6. 国、自治体、企業など国民全体で取り組むべきCNの推進

電動バイクはコミューター(スクーター)の活用について、これまでも各社が実証実験を重ねてきました。国内二輪4社により仕様統一された交換式バッテリーの有用性についても「eやんOSAKA」などの実証実験が行われ、バッテリーシェアリング企業「Gachaco(ガチャコ)」も大阪・東京という大都市部からの社会実装を進めています。

▲国内二輪4社で仕様統一された交換式バッテリーを採用するGachacoのバッテリーシェアリングサービスは大阪・東京圏から展開中。写真は都内のGachacoステーション


しかし、ことバイクの脱炭素化で言えば、上記課題にさらされている中山間地のほうが相性がよいのです。特に、原付免許を取得できる16歳以上の高校生の移動課題を改善できる可能性が高いんですね。しかも、カーボンニュートラルの推進に貢献しながらです。
中山間地では、電車やバスの廃線が相次いでいます。こうした公共交通の衰退に、2024年問題が追い打ち(減便など)をかけていくなか、学校の統廃合により通学距離や時間が延びて高校生の生活の質(QOL)が圧迫されています。また、遠くの学校に行くために山や川を越えることになり、バスの利用路線数が増えて定期代が高騰し家計を直撃するという問題も起きています。

雨天や冬場になると保護者がマイカー送迎を行うことも多く、家族の労力や家庭の負担はさらに重くなりますが、SS(サービスステーション)過疎地ではガソリンスタンドの廃業が重なって居住地では気軽に給油もできないなんて状況もあります。

▲首都圏でも中山間地であればマイカーによる送迎は普通に行われています。子供たちを学校まで送迎した後に年老いた親を施設や病院まで送迎し、それからパートに出ている保護者も少なくありません。大変な労力と負担がかかっています


学生本人や保護者はバイク通学を始めたい、始めさせたいけれど、安心安全の担保ができず学校側も解禁に踏み切れない。こんな問題が日本全国の中山間地(国土の7割)で起こっているんです。

▲ジャパンモビリティショーでも社会課題関連の出展ブースが奥まったところに小さなコマスペースで配置されていました。本来はこちらがメインなんですよね、一般の人にとっては。こうした課題があるからモノが生まれているわけですから

三ない運動が移動の課題改善をはばんでいる

▲電車、バス、バイク、自転車、今後は特定原付に属するマイクロモビリティも通学手段となるかもしれません。それができるかどうかは安全教育への取り組みにかかっています


中山間地に住んでいる高校生とその保護者はこのような移動に関する課題を常態的に抱えています。いまこそ、パーソナルモビリティが力を発揮すべきときなのですが、それを阻害しているのが“校則に残されてしまった三ない運動”です。
2017年、全国高等学校PTA連合会静岡大会において全国的な活動を終了した三ない運動ですが、だからと言って現在すべての都道府県の高校生が16歳になったら免許が取れるというわけではありません。全県的にOKになったところ、山間部にある高校など一部地域だけOKなところ、生徒の居住地や通学環境など条件によりOKとしているところ、全県的にダメなところなど様々です。

中山間地に届けたいCN×電動コミューターのある生活

一方で、前述したように現在多くの自治体が2050年CN実現という政府目標にならってCN宣言自治体として再生可能エネルギーの導入や省エネルギー化、域内リサイクルなどの施策を進めています。バイクはとても少ないのですが、電気自動車(BEV)などの購入補助金、充電設備の新設・改修のための助成金を設置する自治体も増えています。
バイクはCO2の排出量で言えば、日本全体の中では0.074%、運輸部門に限定しても0.4%ほどしかありません(2021年)。ならば、バイクは脱炭素化しなくてもよいのでは?という意見があります。数字だけ見ればその通りです。少なくともクルマよりは優先順位は高くはないでしょう。でも脱炭素化はやるべきですし、少しずつでも製品を世の中に送り出すべきです。

なぜなら、前述したようにバイクはグローバル市場メインの製品だからです。電動バイク市場の87%を占める(2022年)中国ですが、その都市部のように電動モビリティしか走ってはいけないという規制もあるのです。また、レアメタルなどの資源を持つグローバルサウスの国々もモビリティ脱炭素化の波に乗って次代の産業を起こそうとしています。これが理由のひとつ。

【参考記事】ホンダが二輪の電動化を加速! グローバルへの本格参入、その戦略とは?

もう一つの理由はマインドの醸成です。数十年という長い年月の中で目指していくCNと100年に一度のモビリティ革命が併走する時代で、CASEへの対応やMaaSのような新しい概念が社会の様々な場面で変革を促していきます。人々は5GやDXの恩恵を受けて、IoTを備えたデジタル機器に囲まれる生活となり、電子的に親和性の高いものを自ずと選択し、その選択が地球環境にとっても良いこと、安心安全を高めていくことを体験していきます。
内燃機関が必要ない、合成燃料や水素エンジンなどいらないということではありません。各国、各社、各自治体が様々な思惑も抱えながらCNに向かわざるをえないなか、マルチパスウェイの中で醸成すべきひとつの選択肢として電動化も必要で、中山間地の貴重な資源である水力・風力・太陽光などの再生可能エネルギーによる発電と、高校生が生活の足として利用し保護者も安心しやすいコミューター、少なくともこの2点を掛け合わせられる電動コミューターは最適ではないでしょうかという提案なのです。

後編・実践論では、電動コミューター利用に関するメリット、2024年3月に行われた施策イベントなどについて紹介します。

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