誤解を恐れず言えばとても“ゼファー(χ)ライク”なGSX400インパルスを1994年2月に登場させたスズキ。すでにバブルも崩壊しており、売れ筋モデルを絞っていくのだな……と思いきや! 1995年初頭にバンディット400/250をフルモデルチェンジさせて“走りのネイキッド”を再び世に問います。しかも珠玉のVCエンジンを250へも新たに導入。その顛末やいかに!?

バンディット250Vカタログ

●1995年型「バンディット250V・250」カタログの表紙です。当初、“250V”の訴求色ともなったフロリーナイエローは本当にいい発色をしていましたね。エンジンヘッド、ブレーキのインナーローター、そして車名ロゴの「V」に導入された赤い差し色ともベストマッチ! 取材に使った広報車を手洗いするときは各部の複雑な曲面が造り出す陰影に惚れ惚れとしてしまい、何度となくスポンジを握る手が止まってしまったものです(←サボっていたわけではない)

 

バンディットという美学【中編】はコチラ!

なんとも重苦しいムードが世の中を覆うなか……

時は1995年。

阪神・淡路大震災やオウムによる地下鉄サリン事件が発生し、金融機関の破綻が相次ぎ、野茂英雄投手が米大リーグで新人賞に輝き、円が1ドル79.75円を記録し、Windows 95が発売され、ホンダNSR500を駆るミック・ドゥーハンが2年連続でタイトルを獲得し、『フォレスト・ガンプ 一期一会』が日本公開、SEGAをメインスポンサーに『新世紀エヴァンゲリオン』が放映開始され、土屋大鳳さん、川口春奈さんが生まれた平成7年。

エヴァDVD

●写真は「新世紀エヴァンゲリオン DVD STANDARD EDITION Vol3」(販売元:キングレコード)。このビジュアルの巻を選んだのは400%私の趣味です。……もはや説明は不要かと思われますが筆者もハマりまくった庵野秀明監督の代表作。モーターサイクリストの誌面でも「GSF1200S補完計画」とかやっていた黒、いや輝かしい歴史が脳裏に浮かびます。まさに1995年から呪縛に捕らわれつづけ、2021年の「シン・エヴァンゲリオン劇場版」でようやく解放されました。「♪セ〜ガ〜」のCMとともにテレビ放映がスタートしたのは28年も前なのか……その年に2代目となる“中型二輪免許”バンディットシリーズが“新生”したのです

 

二輪業界もまた、大激変の時期を迎えていました。

バンディットという美学【前編】【中編】でもさりげなく触れてきましたけれど、馬力……つまり最高出力の“自主規制値”が1992年から大幅に引き下げられた影響はジワリジワリと確実に……いや二次曲線的にライダーの意識を変化させていったのです。

この俗にいう“馬力自主規制”が、な~んとなく始まったのは1981年ごろ

水冷システムの本格導入、2スト排気デバイスの進化、4スト並列4気筒DOHC4バルブの一般化などメカニズム的なブレイクスルーが次々と行われ、いくらでもパワーアップできる方法を手にしつつあった国産メーカーは自らの行為に恐怖したのか、画期的に馬力をアップさせたモデルが登場した時点で、「ちょ、待って。以降しばらくはカタログに表記される数値くらいは横並びにしていきましょうヨ」という同調圧力……いや慣例(自主規制)が生まれたようです。

1981年RZ50

標準ヤクルトより16㏄も少ない、たった49㏄の排気量から7.2馬力、最高速度90㎞/hオーバーのパフォーマンスを引き出すに至った1981年6月発売の“スーパーゼロハン”ヤマハ「RZ50」。原付クラス初採用の水冷システム+吸気デバイスYEIS+ピストンリードバルブなどが組み合わさった2ストエンジンは、従来のモデル群とは別次元の高性能ぶりを発揮。他メーカーもすぐに追従しました……その顛末はコチラ!

 

仁義なきハイパワーバトルの反動がやってきた!

「原付(一種)は7.2馬力、125は22馬力、250は45馬力でヨンヒャクが59馬力でしょ!」と当時を生きたバイク好きなら誰でも自主規制値をそらんじて言えたもの(ちなみに750は77馬力で1000㏄超は100馬力でしたね)。

スズキGSX-R

●400㏄クラスで最初に馬力自主規制値59馬力に到達したのは、ご存知“突破者”スズキの「GSX-R」(1984年)でした。ちなみに250は同じくスズキの「RG250Γ」(1983年)が45馬力へ初登頂。125はホンダ「MBX125F」(1983年)、750はホンダ「CBX750F」(1983年)だったと記憶しております。しっかし写真のGSX-R……。デビューしたとき筆者は高校2年生で、正直スペックには驚いても「スタイリングはイマイチだなぁ」と感じておりました。ところが今眺めると何と趣きのあるカッコイイデザインなのでしょう。タヌキ顔も細いMR-ALBOXフレームもチャームポ(以下自主規制)

 

ところが1980年代中盤から後半にかけて登場してきたレーサーレプリカ軍団は、最新型=ライバルより速くて当たり前という血で血を洗う戦闘潮流に飲み込まれており、カタログに表記される数値はどんどん形骸化していきました。

例えばバイク雑誌が抜き打ちで1988年型ホ○ダNSR25○Rをパワーチェックしてみると、チョチョイのチョイで45馬力をはるかに上回るウマ娘たちが飛び出してきてしまい、誌面に掲載していいものかスッタモンダ……ということが日常茶飯事だったと聞いております。

1988_NSR250R

伝説がひとり歩きしている感も多少はございますが、1988年型……通称“ハチハチ”NSR250Rが圧倒的なパフォーマンスを誇っていたのは事実で、いまだ強く憧れる人が後を絶たないのもよ〜く分かります。筆者が大学時代の友人も所有しており、少しだけ乗らせてもらったときには心臓が口から出てくるかと思いました。のちに経験するリッタースーパースポーツとも全くフィーリングが異なる圧倒的な加速力&操安性! できるうることならば、この銀河にいる全ライダーに一度はソレを体験してもらいたいものです〜(^_^)v

 

ヤタベ最高速や筑波タイムアタックも上がりまくり削られまくりで、暫定トップに立ったバイクは即バカ売れが確定! 

かくいう過熱ぶりをどうにかせねばならんナという機運も高まり、1989年に馬力の自主規制は“明文化”され、な~んとなくの横並びはより厳密なものへと変化。

それでも馬力を計測してみて10%以内の誤差ならいいよ、といったユルさも残っていたのです……がっ、まだ多少ながらも優しかった世界線は1992年におしまいっ! 

“明文化”してもバイクの公道事故が一向に減らないことなどへ業を煮やした関係省庁のお怒りがあった……のかどうかは知りませんが、「250は40馬力、400は53馬力にせよ。誤差は絶対に認めん!」という天の声が聞こえ、「ははぁ~っ」と国産各メーカーはあくまで“自主的”に、従来のパワーアップ競争とは真逆の努力を推し進めていくことになったのです。

目的未達成

●つい最近まで馬力を上げろ、もっと上げろ!と言われていたのに、ある日突然パワーを下げろ、もっと下げろ!のシュプレヒコール。開発陣はもちろん、企画&営業担当者もさぞや頭を抱えたことでしょう……

 

SP(Sports Production)レース……つまり一般市販車をベースに闘うカテゴリーでの勝利を目指すため、骨格も足周りもブレーキも延々とグレードアップをし続けた結果、50万円→60万円→70万円→80万円……いや90万円にも手が届こうかという高価格化が進んでいた250&400レーサーレプリカ。

1994年FZR400RR SP

●1994年2月に500台限定で発売されたヤマハ「FZR400RR SP Version」。もうレーサーレプリカ開発陣、最後の意地としか言えない内容で、FCRキャブレター、大型ラジエター、新概念アルミデルタボックスフレーム、6速クロスミッション、強化クラッチ、フルアジャスタブルタイプの高剛性前後サス、シングルシートなどなど……やれること全部突っ込んで価格は89万円。エンジンの出力は前年に空冷エンジンを搭載して登場した大ヒット作「XJR400」(57万9000円と同じ53馬力でありました

 

その心臓……エンジンだけが突然10年以上前の出力レベルで封印されてしまったのですから、魅力は半減するどころの騒ぎではありません。

ネオレトロな外観でなければ売れない時代に!?

反比例するかのように40馬力、53馬力でも「ま、いっか!」と許されてしまうネイキッド戦線には注目を集める車種が次々と投入されていき、特に400㏄市場では丸型一眼ヘッドライトかつスチール製フレームに伝統的な魅力を加味したフォルムリヤ2本サスという、カワサキ ゼファーが確立した“ネイキッド黄金の法則”へ沿ったモデルたちが1992~1994年にかけて次々と輩出されていきました。

すでにバンディットを出していたスズキまで、1994年登場の「GSX400インパルス」で、その法則をなぞっていくことに……。

GSX400インパルス

●スズキがこよなく愛する“衝撃”、“推進力”を意味する言葉「インパルス」。サイクロンタイプの4into1マフラー採用が話題になった「GSX400FSインパルス」(1982年)、ご存じ!?“東京タワー”とも揶揄された強烈デザインが特徴の「GSX-400Xインパルス」(1986年)に引き続き、3度目の正直となったヒット作が1994年3月にデビューした写真の「GSX400インパルス」でした。1992年に登場した「GSX400Sカタナ」向けに作られたロングストローク寄りのエンジンを採用し、バンディットとは異なるフィーリングを獲得……。う〜ん、ごめんなさい。個人的にはやっぱり「スズキのゼファー」という感想しか出てきません(汗)

 

八重洲出版モーターサイクリスト誌のアルバイトから裏口入学(?)で編集部員となっていた筆者は、1994年4月号での「日本列島縦断! スズキ・インパルス2000㎞激走テスト!!」企画の裏方として大先輩に命じられた雑用をこなしながら、「やっぱり今の売れ筋はこっちだよなぁ、カタナはともかくバンディットは一代限りで終わるのかぁ……」と少しセンチメンタルになりつつ、会社が導入したばかりのAppleマッキントッシュ クアドラ800で、入稿寸前のライター様の原稿や大切な表計算データを何度となく吹き飛ばしたりしていました(←オイオイ)。

デスクトップパソコン

●イラストはあくまでイメージ。あのころマックとウインドウズの互換性は最悪で、Wordで送られてきた原稿を文字化けなく変換するだけでも大騒ぎでした。フリーズ→再起動に費やした時間だけでトータル何日分になったかなぁ?

 

インパルスタイプS

●先ほど素の「GSX400インパルス」に対してはキツいことを言いましたが、同年6月に追加された「GSX400インパルス タイプS」は大好物です。これぞスズキ!のカラーリングとビキニカウルの武骨さがタマリマセンな〜(笑)。なおGSX400インパルスは2000年末にいったんラインアップ落ちしたものの、2004年にまさかの復活を果たして2008年の最終型まで安定した人気を保ちました

GS1000S

●GSX400インパルス タイプSの元ネタは写真のスズキ「GS1000S」ですね。1979年と1980年のみに設定されていた輸出モデル「GS1000」のビキニカウル装着モデル。こちらをベースにしたレーサーにレジェンド、ウエス・クーリー選手が乗り、AMAスーパーバイクレースで大活躍をしたことから、のちにこの仕様を「クーリーレプリカ」と呼ぶようになったとか。いやはや、なんと魅力的なのでしょう……

 

さらにさらに美しさへ磨きをかけてBANDIT is BACK!

駄菓子菓子!(←しつこいですね、以降はもう使いません……たぶん)

筆者のタメ息から約1年後の1995年初旬、新型バンディット400/250が突然のデビューを果たしたのです。

バンディット400V

●1995年1月30日発売「バンディット400V」63万9000円。写真はディープパープルメタリック……いやもう完成度の高さに身震いがしますな。どこからどう見てもバンディットなのに明らかに新型であることが分かります。走行性能や利便性のアップグレードも凄まじく前後タイヤはラジアル化、スイングアームは鉄パイプからアルミへ、メーターには燃料計も追加され、マフラーはスリップオン化、ハザードスイッチも標準装備、シート下には小物入れまで新設定。シート高も745㎜とライバルより低めで文句なし(上記全て250も同様)。それでいて従来型からの価格上昇は同じ“V”比で3000円のみという大バーゲン状態!

 

バンディット250

●1995年2月28日発売「バンディット250V」53万8000円。250は400よりもアップライトなポジションを得るため採用されたコンチネンタルハンドルのグリップ位置が高く、ゆえに燃料タンクとフルロックしたハンドルとで指が挟まるのを回避する“エグリ”も存在していません。下でも書いてますが諸元上は全幅で10㎜、ホイールべースで5㎜、250のほうが400より大きいのですけれど、ハンドルの違いがある全幅はともかくホイールベースが違う理由は全く分からない。あ、そうだ残念ながら両車ともセンタースタンドが消えました(涙)

 

いやもうバンディットがバンディットであるための特徴的な部分はそのままに、全てを洗練させて拡大するばかりのネイキッド市場へ再登場してきたのですから、驚き度はマックス・ビアッジ、いやマックス・フェルスタッペン、いやジャンボマックスくんです。

ど~ですか、お客さん! この言葉を失うほど美しいスタイリングは! 

バンディット400

●艶やかなキャンディアカデミーマルーンも決まっている「バンディット400」。リヤコンビネーションランプはテールランプ1灯と、独特な光を放つステップリフレクター採用のストップランプ2灯とが分割して輝く方式でした。リヤ1本サスの良さを徹底追求したハンドリングは、安定性と扱いやすさを高い次元でバランスさせたもので、特に400はバンク中の安定感が抜群でした。250は軽快ながらトラクションが常に感じられる味付けで峠道もリラックスしてヒラリヒラリ……。面白かったですねぇ〜

 

ウソ誇張偽りなくスズキのネイキッドバイクで、歴史上一番流麗なデザインだと筆者は考えております。

そして従来型よりさらに寄せられていった400と250のスタイリングがタマリマセン

全長・全高・シート高はともに2050㎜・1055㎜・745㎜で、全幅とホイールベースに至ってはなぜか250のほうが5~10㎜大きいという摩訶不思議な世界(笑)。

バンディット400V

●1996年型「バンディット400」カタログより。下からアオっても上から俯瞰してもカッコイイというスズキ車にあるまじき(?)スタイリングの完成度。燃料タンク下のエアクリーナーカバーにはベロアメッキが施され、デザイン上のアクセントにもなっています。マフラーは質感も高いオールステンレス製の4into1方式でサイレンサー部がスリップオンタイプに変更されたため市販パーツでのカスタムも容易に……ともう至れり尽くせりのサービス満点っぷりでありました

 

「ああ、それじゃぁ、フレームや外装類は同じものを流用しているのか」と思いきや、ダイヤモンドタイプの鋼管フレームは完全にそれぞれ専用の設計が施されたもの

さらにワケが分からないのが、パッと見では同一に見えるフューエルタンクながら目を凝らすと、グリップ位置が低い400はハンドルフルロック時にハンドルとタンクの間に指が挟まれないよう“エグリ”が設けられているのですね(ちょいとアップライトなポジションの250にはなし ※後日例外あり)。

バンディット400v

●SUZUKIロゴの下にある“エグリ”がハンドルをフルロックしたときに指を挟まないための工夫。ガソリンタンクの容量は400/250とも15ℓを確保しており、バンディットがツーリング派にも愛されたゆえんのひとつです。なお、2代目のハンドル切れ角は初代より大きな35度に設定されていました

 

それこそ燃料タンクなんて製造コストのかさむ大きなパーツなのに、あえて共用化をヨシとしなかったスズキ開発陣の変態……いや、こだわりぶりには脱帽するしかありません。

スズキGSF1200

●……ちなみに、全く同時期に発売された「GSF1200」にもタンクに大きな“エグリ”があるのですけれど、ハンドルの位置がはるかに高いためフルロックしてもグリップとタンクとの干渉はゼロで完全に意味をなしていません。これ、開発の途中でコンセプトが変わり急遽アップライトなライポジにしたけれど、「“エグリ”はカッコいいからこのまま出しちゃおう」となったからなのだとか。そんなアバウトさもある開発陣の姿勢、大好きです(笑)。

 

求めやすい価格で精緻かつ有益なメカニズムを提供

そして1995年のフルモデルチェンジで大きなトピックとなったのは、250にもVCエンジンが搭載されたことでした。

詳細は初代、400Vのコチラの記事、中ほどのカタログ部分などを熟読していただきたいのですが、400のエンジンでも十分キツキツに思える精密な機構を、さらに40%近く小さい排気量のパワーユニットに採用するというのですから正気の沙汰ではございません。

250用VCエンジン図版

●1995年型「バンディット250V・250」カタログより図版を抜粋。回転数に応じて吸気バルブのタイミングとリフト量を低回転用・高回転用に切り替える可変バルブタイミング・リフト機構VC(Variable valve Control)がついに250㏄の並列4気筒エンジンへ(採用車両は後にも先にもバンディット250Vのみ!)。スペック数値では推し量れない出力特性を実現していました。赤い結晶(ちぢみ)塗装が施されたシリンダーヘッドカバーもカッコよかったなぁ〜。なお、初代400のVCエンジンは吸気だけでなく排気バルブも制御していましたが、2台目の400&250のVCエンジンは吸気バルブのみのコントロールになっています。それでも十分効果アリとの知見がフィードバックされた結果なのでしょう

 

それでいてSTDと“V”との価格差は、税抜きで3万9000円ポッキリ(ちなみに400は同4万円)。

……とまぁ、メカニズムのうんちくを知るだけでゴハン20杯はイケる筆者のような変人にとって、バンディット兄弟が採用したVCエンジンは何から何までアンビリーバボーな圧倒的存在だったのですけれど、一般人に近いレベルのユーザーに対して訴求力がイマイチ薄かったことは非常に残念なポイントとなりました。

バンディット250V

●最終型(1997年〜)バンディット250Vのフラッシュシルバーメタリック。ホントにバンディットがまとっていたカラーリングは、どれもボディの凹凸を美しく浮かび上がらせてくれる鮮やかさを持っていましたね。赤い差し色も秀逸。なお、タンク上の車名ロゴ立体エンブレムは最終型のみの特権です。ちなみに60㎞/h定地燃費はSTDと“V”とで差はなく、ともに41.0㎞/ℓでした(400も36.0㎞/ℓで変わらず)

 

だって最高出力40馬力/1万4000回転も、最大トルク2.5㎏m/1万回転もSTDと“V”とで全く一緒

重量を比較すると乾燥重量でSTDは144㎏“V”が146㎏と、VC機構分が2㎏加算されてしまうわけで……。

いくら「理想的なエンジン過渡特性が~」、「切り替え時の心地良い作動音が~」と雑誌の活字力でアピールしたところで、大規模なメーカー試乗会もレンタルバイクもYouTubeもない時代では、乗って動かしてみて初めて深く分かるその魅力を伝えるのはとても難しいことでした。

ライダーイメージ

逆に考えれば現在は興味を持った現行車両に関する情報をネット動画で調べたり、各種試乗会で体験する機会が山ほどあるということ。ぜひ活用してまいりましょう。取り急ぎ、那須モータースポーツランドで開催されている試乗会などどうでしょう?

 

実際に走り比べてみると、確かに“V”のほうがSTDより一枚上手の低速トルクを絞りだしており、発進時やトロトロ走りなどがとても楽チン

なおかつスロットルを開けていくと9500回転で「パシュッ!」と400版より軽やかな作動音がして高速カムへと切り替わり、1万5000回転から始まるレッドゾーンまで力感を伴いつつスッキリ気持ちよく吹け上がっていった印象が強く脳裏に残っております。

バンディット250Vメーター

●クロームメッキの砲弾型スピード&タコ2連メーターの間にフューエルメーターまで装備される2代目バンディットの豪華なメーターまわり(写真は250V)。なお、2台目バンディット兄弟に従来型「リミテッド」のようなロケットカウル仕様は用意されませんでした。その代わり……(後述)

 

馬力自主規制なんてない世が世なら「ヨンヒャク並みの低中速トルクと250クラストップの48馬力を実現するVCエンジン!」……なんて、STDと明確に差違化できるスペックの実現すら夢物語ではなかったのでしょうけれど……。

時代の巡り合わせというのはイカンともし難いものでございます。

しかしながら、「どうせ買うなら特別なものを」という意識が働くのも日本人の良き国民性ともいえ、バンディットは250、そして400ともどもVC付きエンジンの“V”が人気を集めていきました

特に400では1996年型からノーマルエンジンのモデルは姿を消してしまうほど!

1996年型バンディット400V

●1996年2月にカラー変更を受けるとともにSTDがラインアップ落ちした400。写真はそのときに登場した「バンディット400V」のマーブルイタリアンレッドで、フレームが黒く塗られたことにより受ける印象は大きく変わりました。価格は63万9000円で変化なし。しつこいですが、う〜ん、ブチ美しいのう〜(山口弁)

 

250では1996年の色変更+色追加でもSTDは健在

STDモデルの50万円を切る49万9000円という価格に、やはり強いアピール力があったからなのでしょう。

バンディット250灰

●1996年の1月にはSTDと“V”のカラーリングが共通化され、同年5月には写真のアーバンミディアムグレーメタリックがSTDと“V”の両方に追加され、価格は49万9000円、53万8000円で変わりませんでした。この1ヵ月後にはあのホンダ「ホーネット」が登場! 1991年4月に登場してすでに人気モデルとなっていたカワサキ「バリオス」、そしてバンディットとでネオレトロ……ではないな、250市場ならではの並列4気筒スポーツネイキッド三つ巴バトルが始まるのです!!

 

走りと優美さに特化したネイキッドとして孤軍奮闘

さて、「リヤ2本サスなんて技術の退化じゃん、レトロなスタイリングってただの懐古趣味じゃん!」とまだ血気盛んだった筆者の率直なネイキッドブームへの想いは、当時の世相では見事なくらいに少数派……。

特にゼファーが切り拓いた400ネイキッドの世界では、「CB400SF」、「XJR400/R」、「ゼファーχ」、「ZRX」がいずれもリヤ2本サス&ネオレトロスタイル大人気御礼状態に。

スズキの「GSX400インパルス」も大型ビキニカウル(これまた懐古趣味の結晶)を装着した“タイプS”のスマッシュヒットもあって好調な販売をキープしていきます。

結果的にモダン&エレガンスバンディット400の市場における地位は低下の一途……。

仲間外れ

●250はともかく400の市場は(もっと言えば大排気量クラスも)、リヤ2本サスにあらずんばネイキッドにあらずという雰囲気が色濃く漂っていました。仲間だった?カワサキ「ザンザス」も大苦戦。そんな中、「バンディット400/V」は非常に健闘したとも言えるでしょう

 

本当に現在、この原稿を書いている瞬間も激オコなのですが、なんで当時のライダーたちはバンディットの完成度を不当に低く見積もっていたのか?

まぁ、転倒したらフレームが傷つきやすいなどのネガは多少ありましたけれど、美しさと走行性能の高次元でのバランスという点で言ったら今もってピカイチな存在であると強く思っております。

フレームスライダー

●初代のときから指摘されていた「大転倒したらフレームがイッちゃうよ問題」。2代目の「バンディット400/V」は要所に着脱式のフレームプロテクターを標準装備することで、立ちゴケくらいなら問題なく衝撃をやり過ごせるように対策を取ってきました。もちろん転倒しないことが一番なのですけれど……。なお、バンディットならずとも苦しめられた(?)馬力自主規制は2007年7月にサクッと廃止されました。なんだかなぁ!(by阿藤 快さん)

 

そんなバンディット兄弟は1997年2月に両車とも最後のテコ入れを実施。

カラーバリエーションが再構築され、タンクの車名エンブレムが立体化、エアクリーナーカバーの表面がクロームメッキ処理されるなど商品力向上の方策がコマゴマと実施された上に……、

ビキニカウルにゴールドチェーンを装備した“VZ”がバリエーションに加わったのです。

バンディット250VZ

●タンクに“エグリ”がありますから、これはバンディット400VZ……ではないのです! フロントのシングルブレーキやエンジンなどの部分をよく見ていただければ分かるように、こちらは250、「バンディット250VZ」なのです! というのも2代目バンディット250の歴史上で始めて、VZはコンチネンタルハンドル……つまりパイプハンドルではなく、400と同じセパレートハンドルを採用したのですね。すると当然、400と同じく“エグリ”の入った燃料タンクを採用するのは必然=400と同じ部品が使えるのでスケールメリットが出てコストダウンにもつながる……という一石二鳥なうまい手

 

これで400は「バンディット400V」と「バンディット400VZ」の2車種に、250は「バンディット250」「バンディット250V」「バンディット250VZ」の3種類となりますが、ここで進化はストップ

以降、販売は続けられるものの、両車とも2000年に生産が終了いたします。

ともあれ、都合10年以上も激しいシェア争いを繰り広げる市場でセールスが継続されたのですから、400&250のバンディットシリーズは十分すぎるほどに成功作だと言っても過言ではありません。

ですけれども、タイミングと時代背景に恵まれていたなら、もっと引く手あまただったのではないか。結果として中古車市場にもっと多くの車両が残っていたのではないか……と夢想してしまいます。

スズキ イナズマ400

●……と、バンディットシリーズが最後のテコ入れをした1ヵ月後の1997年の3月に「INAZUMA(イナズマ)」を登場させていますからねぇ、スズキは(苦笑)。1998年4月デビューの「イナズマ1200」とほぼ共通の車体に、なんとGSF750用をスケールダウンした“油冷”エンジンを搭載した驚きのモデル。これで同時期スズキはビッグバイクブームの影響で縮小し続けていた400市場へ、インパルス、バンディット、イナズマというネイキッド3本の矢、そしてZZ-R400対抗(?)としてツアラー「RF400R/RV」まで投入するという“シンジラレナ〜イ”攻勢を見せました

 

それでも「バンディット」の名は残っていく……

ただ、1995年にスタートした新しい運転免許制度のおかけで、一発試験のみで非常に難関だったビッグバイク免許が教習所でも取得できるようになり、大排気量モデルの人気がとても盛り上がっていきます。

それを受けて“BANDIT”ブランドも上方展開へ。

“中免”バンディットが消えていくのと入れ替わりに、2000年3月「バンディット1200/S」が市場へ投入されることになったのです。

バンディット1200

●1156㏄油冷4スト並列4気筒DOHC4バルブエンジン(100馬力/9.5㎏m)を前身となったGSF1200とは異なる直線基調の鋼管ダブルクレードルフレームに搭載した「バンディット1200」。当然リヤは1本サス。今見ると400/250バンディットのデザインを意識しつつ作られたのだなぁ、と感じますね、流麗……ではありませんけれど(汗)。なお、81万9000円という低価格っぷりもセールスポイントでありました

 

バンディット1200S

●以降、大排気量バンディットのメインモデルとなっていくハーフカウル付きの「バンディット1200S」もネイキッドと同じタイミングでデビューいたしました(84万8000円)。デザイン的なまとまりも、こちらのほうがいいですね〜。というわけで、リヤ2本サス&懐古的スタイリングが跋扈するビッグネイキッド界へ、「一般公道ならスーパースポーツモデルさえカモれる」(関係者談)潜在能力を備えた“走る”マシンを送り込んだスズキ。……まぁ、2本サスの「GSX1400」も翌2001年3月には出してくるワケですが(笑)

 

こちらの大排気量バンディットもエンジンがモデル途中で油冷1200から水冷1250に変更される(!?)などドラマチックが過ぎるストーリーがテンコ盛りですので、また別の機会に語らせていただきましょう。

今回も長らくのお付き合い、まことにありがとうございました。次回は……とりあえずスズキからは離れる予定です(^^ゞ

バンディット250Vカタログ

●1997年型「バンディット250/V/VZ」のカタログラストページ……。3機種で12カラーバリエーションをシレッと紹介しておりますが、企画面でも開発面でも生産面でも宣伝面でも物流面でも販売面でも整備面でも部品在庫面でもとんでもないことですよ、コレ。当時のスズキはホントにインクレディブル!

 

あ、というわけで美麗が過ぎる1995年型以降のバンディット400/250は、令和の今だからこそ見直されるべきスズキデザインひとつの頂点(←個人の感想)です。度重なる規制強化へ真摯に対応していった並列4気筒エンジンの実力を楽しみつつ、デビュー30周年を自宅ガレージで祝ってあげませんか? レッドバロンの良質な中古車なら、それが問題なく可能です。ぜひお近くの店舗へ足を運んで、スタッフとご相談ください!

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