2013年秋、レース仕様「R25」の鮮烈なアンベールから丸1年以上。プロトタイプに心を撃ち抜かれたライダー諸兄姉を待たせに待たせた「あーるにーごー」(←俗称の平仮名表記がなんだか気に入っちゃいました)は2015年、ついに街を走り出します。その誰にも優しい好性能カッコいいスタイリングは隆盛を極めつつあったSNSにもよく“映え”、高い評価が拡散されていったのです!

YZF-R25モビスター2015

●2015年7月、「YZF-R25 Movistar Yamaha MotoGP  Edition」として限定400台でリリースされた特別仕様車。税込み販売価格は56万7000円と、STDより1万800円しか高くないのにロッシ&ロレンソ気分が味わえるとあっては当然のごとく奪い合い状態に。それを受けてかこのYAMAHAモトGP最新鋭マシンのイメージを再現するシリーズは毎年の恒例行事となり2016年、2017年……2019年10月には「Monster Energy Yamaha MotoGP Edition」が発売されるなど高い人気は続きます。最近では2022年にYZR500をモチーフとした「WGP 60th Anniversary」が設定されましたね

 

YZF-R25という有頂天マシン【前編】はコチラ!

より一層の気合いを入れて臨んだ発表試乗会

市販版「YZF-R25」が初めてマスコミの前に姿を現した2014年秋、某県の某クローズドコースで行われた発表試乗会に筆者は編集スタッフのひとりとして参加いたしました。

真っ暗な朝4時前に家を出てカメラマンと合流し、高速と山道を駆け抜けて朝もやけぶる会場へ。

「よっしゃ、今回こそ一番乗りィ!」と気負って駐車場へ向かうと、いつものとおりモーターマガジン社のオートバイ編集部軍団がとっくに複数箇所で車両撮影をスタートさせており、いつもどおりの敗北感を味わわされたものです。

敗北感イラスト

●いや本当に“オートバイ軍団”の取材にかける意気込みには毎回感服させられました。「先んずれば人を制す」を地でいく早朝会場入りで、いち早く撮影車両を確保すれば意図する写真を撮りやすいですからね〜

 

ガクッとしましたが、気を取り直してこちらも車両の静的撮影を開始

「ほほう、カウリングはこんな構造になっているのか」「タンクの造形、こだわりまくっとるなぁ~」など、感心しながら各部のアップ撮影までこなしていると、9時30分直前に「そろそろプレスブリーフィングを始めますので、皆さまお集まりください」と拡声器を持ったヤマハ広報マンの声が……。

YZF-R25顔

●逆スラントしたつぶらな2眼ヘッドライトの間に存在しているダース・ベイダーの口のような部分は、センターエアダクト“風”な造形。よりYZR-M1イメージに近い大型の“M字ダクト”は2019年以降のマイナーチェンジモデルにて採用されております。人形もバイクも顔が猪木……いや命

 

気が付けば広い空き地に20メディア以上が入り乱れていた正式スケジュール前の車両撮影はここで一旦中止となり、脚立を置いた二輪雑誌関係者やおっつけ来場したバイクジャーナリストのお歴々サザエさんのエンディングよろしく大きなテントの中に飲み込まれたら技術説明会のスタートです。

前方にあるプロジェクターの画像を資料用として撮影しようと、一番前に座ろうとしますが、すでにオートバイ軍団が最前列中央付近を確保完了済み

泣く泣く横にずれた場所に席を取って振る舞われたコーヒーとおやつをひとかじりしていたら、まずはヤマハの偉い人が登壇し説明会のスタートです。

発表試乗会の風景

●写真はYZF-R25……のときではなく、同会場で2017年4月に行われた「MT-10&TMAX発表試乗会」のときのものですが、毎回このような雰囲気でYAMAHAのモデル説明会は進行しました。はい、このときも私はプロジェクター真正面ではなく少しナナメった場所に座っておりますね。そういうことです(笑)

 

全世界の幅広いユーザーへ向けた綿密な作り込み!

「YZF-R25はすべてがゼロから開発され、インドネシアの工場で生産されるグローバルモデルです。多様な仕向け地や幅広い需要に応えるべくプラットフォームを共用しつつバリエーションモデルを順次出していきます……」

それはまさに後のYZF-R3MT-03/MT-25の登場を示唆する言葉。

以降続いたブリーフィングではデザインのコンセプト、ブランニューエンジンが持つ特徴と長所、新開発スチール製ダイヤモンドフレームをまとめあげる苦労話(?)などといった、編集屋がページを作り上げるときに役立つ情報がテンコ盛りなので、一時も集中を切らすことができません

YZF-R25リヤショック

●YZF-R25のリヤサスはリンクを廃したモノクロスサスペンションで、部品点数削減に貢献つつ空いた部分にマフラーチャンバー部を設定できたので軽量化とマスの集中化を実現! ……しかしその分、リヤショックに求められる性能は高いものとなり、開発陣はリヤショックのバネの巻き数やダンパーの内部構造など、最終仕様に落ち着くまで度重なる試行錯誤を繰り返したとか。その努力は見事に結実していました!

 

ひととおりの解説が終わると全体での質疑応答が行われて説明会は終了(個別の開発者インタビューを望むなら、会が終わるや否や速攻で広報マンをつかまえて予約を入れなければイカンのですが、ここでもオートバイ軍団は強かった~)。

そうして、いよいよ試乗がスタートいたします。

緊張が続く走行時間の中、きらめくYZF-R25

走らせるところは本格的なバイク&クルマ用のサーキットではない山あり谷ありの自転車向けクローズドコースですので、カッコイイ写真が撮れるコーナーというのは限られるもの。

すわ、10人以上いるカメラマン同士の激しい位置取りバトルが勃発するのか……と思いきや、皆さん仁義謙譲思いやりにあふれる優しい方々ばかりですので(1970~80年代と現状は知りません)、決められた走行時間内における撮影でタイミングと足の踏み場とアングルを少しずつズラしあい、どのメディアでもバキバキのコーナリング写真が露出できるよう見事なチームワークが発揮されるのです。

カメラマン

●長い長〜い望遠レンズを付けた重た〜いプロ用一眼レフを(場合によっては複数)抱えながらハイスピードで駆け抜けるバイクをジャスピン(死語)で流し撮りしていくカメラマンたち……。技術の向上でいくら機材が進化しようとも最後は人間の力が問われる世界なのです

 

いやぁ、YZF-R25は走る姿も美しかった! 

複雑な面構成を持つレイヤー構造のカウルと燃料タンクが直射日光の当たるハイライト部分を目まぐるしく移動させますので、ちょっと角度が変わっただけで受ける印象は一変! 

YZF-R25の実車撮影

●YZF-R25のデザインコンセプトは「R-DNA」。YZF-R1を頂点とするRシリーズ直系のモデルであることを二眼ヘッドライト、サイドカウルのレイヤー構造、切れ上がったテールカウルなどが主張しつつ、250ccクラスならではの軽快感を“抜け”や“切り込み”を多用して演出。タンク上面をできるだけ高くして相対的にハンドル位置が低くスポーティに見えるようにする……といった小技も満載で、扱いやすさと見た目を巧みに両立しているのです。ホント、いちいちカッコイイなぁ……

 

カメラマンもノリノリで撮影を行ってくれました。編集担当は横に立って、どの雑誌の車両が走ってくるのかを確認しつつ注意喚起

適宜、走行しているライダーへ身振り手振りで指示を出すこともあり、ヘタを打つと大事故につながりかねませんので気を抜くコトは論外です。

コーナーアウト側からマフラーもバッチリ写る“右頭7:3”の走りを押さえたら、イン側へ移動して正面気味のヒザスリカットを。

さらに余裕があれば違うコーナーへ移動して“左頭”や、起伏を生かした“空ヌキ”、車両が駆け抜けた後ろ側から撮影する“リヤ走り”などなど。

いやはや「あーるにーごー」はどんなカットも絵になりました

YZF-R25型録走り

●2015年型YZF-R25カタログより。ギョーカイ的……というかオガワの周辺界隈だけで通用していた撮影指示ワードかもしれませんけれど、列記するなら、上「定点撮影、左コーナー右頭6:4走り、流し撮り、ライトピン(ヘッドライトにピントを合わせて)ブレ強めで」。下左「引っ張り(前を走るクルマから撮影)、直線、正面気味、右バンクに見せる、ライトからヘルメットピンで背景の流れを強調して」。下右「左頭ほぼ真横、夜景の置き、ロゴピンで暗くつぶれないように、背景ボカしつつ車両が浮き上がってくるように」……。言葉はもちろん自筆のラフ画や参考となる雑誌切り抜きなども駆使して、カメラマンに自らの仕上がりイメージを正確に伝えることが編集屋の大切な仕事でした

 

知恵と工夫でコストを抑えつつ高性能を実現

撮影とその後のインプレ取り用フリー走行を終えたジャーナリスト各位の顔はどちらも満足げ

筆者も「いい原稿が速攻で上がってくるだろうから、こりゃスムーズに入稿できそうだ……」とほくそ笑んだのでした。

別の日に不肖オガワも試乗する機会を得たのですが、エンジンを高回転域までブン回すと確かにライバルを凌駕する36馬力というピークパワーを体感できました。しかしながら、さらに特筆すべきは低中回転領域であっても乗りづらさが皆無だということ。

素材や構造の進化により低フリクション化が推し進められ、なおかつキャブレターからの移行期も終わり、フューエルインジェクションのセッティングノウハウが豊富に蓄積されたこそ到達した新境地だと言えるでしょう。

YZF-R25エンジン部

●低中回転域での扱いやすさを増すため混合気が吸気バルブを通って燃焼室へ入るときの“縦渦”を積極的に活用。ほかにもアクセルグリップ内とFI用スロットルボディのプーリーをともに楕円形とし、アクセル開度に対してプログレッシブに空気の量を調整することにより扱いやすさを向上させるなど、電子制御スロットル同等の効果を廉価なアナログ機構で発揮させるためのアイデアが随所に盛り込まれたのです

 

そのパワーユニットを包み込むスチールパイプ製トラスフレーム軽量スリムであることに留意しつつネイキッド化や排気量拡大版登場も見越した要件が盛り込まれており、プロライダーも納得の剛性感と一般ライダーが感じられるしなやかな乗りやすさとを両立

そこへ600㏄クラス並みのインナーチューブφ41㎜正立フロントフォークとロングホイールベースを実現する左右非対称アルミスイングアームが組み合わされ、

YZF-R25足周り

●アルミ製ロングリヤアームはクラスの常識を超える長さ573㎜で機能はもちろん見た目も徹底追求。リヤサスペンションのレイアウト最適化に寄与してストローク全域で作動性が良く、優れた路面追従性と優しい乗り心地を実現していました。コーナリング中はしっかり踏ん張り、スポーツライディングも十分に楽しむことができるセッティングはヤマハの真骨頂。……サイレンサーのエンド部形状ひとつ取ってみても、いちいちカッ(以下略)

 

なおかつヤマハ発動機秘伝のレシピ(精神!?)を受け継ぐ開発陣入魂のセッティングが施された結果、コーナーを一定のバンク角とスピードで安定しながらグイグイと旋回していく“ジェットコースター”のような特徴ある走り味が(日常速度域であっても)楽しめるではないですか! 

ユーザーひとりひとりが発信者となり魅力を拡散

YZF-R25が本格デビューした2015年といえば、東京オリンピックを5年後に控えていながら新国立競技場の建設計画やエンブレムの白紙撤回騒ぎが大きく報道された年で、同時に歴代最高の販売台数を誇るiPhone6日本を席巻していた時期でもあります。

要するに、スマホの所有者が爆発的に増えて世はまさにSNS超成長期へ。

スマホイラスト

●手のひらに収まるツールで世界とつながれる……。昭和時代からすれば夢のような世界が現実化していますね。正しく活用して、バイクライフの楽しみを広げてまいりましょう!

 

YouTube、Instagram、Twitter、Facebookなどが老若男女問わず使えて当たり前なツールとなるなか、同年4月に「YZF-R25 ABS」「YZF-R3 ABS」が、同10月には「MT-25」「MT-03」が発売を開始しました。

YZF-R3

●「YZF-R3 ABS」は最初からノンABS車の設定はなし。当時の税込み価格は63万1800円とYZF-R25のABS仕様(同59万9400円)より3万2400円高いだけ、という点でも大いに注目を集めました。320㏄へ排気量アップされたエンジンは42馬力/3.0㎏mを発揮。軽量、スリム、コンパクトでありつつ、力強さを一段増した“ツウ”なモデルとして現在にいたるまでラインアップされ続けております

mt-25

●モデルイヤー的には2016年型となる「MT-25」。2020年まで続く初代は03ともどもABS仕様の設定はありませんでした。MT-25の税込み価格は52万3800円(MT-03は同55万6200円)。パッと見だとベース車両がYZF-R25/YZF-R3だとは信じがたい作り分けがなされておりますね。バーハンドル化されて、より高く、より近い位置に手を置くライディングポジションとなり、開放的な走りも楽しめました

 

シン・ヤマハ並列2気筒スポーツ群はどのモデルも非常に“映える”……ということに異論の余地はないかと。

つまりSNSとの親和性も高く「カッコイイよ!」「足着くよ!」「乗りやすいよ!」「意外に速いよ!」といったユーザーが気軽に上げる肉声と写真とが気になっている購入予備軍の背中を押し、「買ったよ!」というつぶやきがまた新たなる購入予備軍の背中を押すという“イイネの拡大再生産”状態(?)に突入。

いいね!

●Twitterのみに限る筆者の肌感覚ですけれど、YZF-R25/R3&MT-25/03との充実したバイクライフを発信する方々は群を抜いて多い印象がございます。同ジャンルならニンジャ250R/250、CBR250RRが続いている……という感じでしょうか

 

同年、250㏄クラスにおいては仏恥義理……いやブッチギリの販売台数を獲得して、見事2017年まで3年連続トップセラーの座に君臨いたします[二輪車新聞データより]。次回はそんな有頂天時代を長く経験したシリーズの現在にいたるまでの流れを紹介する予定です。

あ、というわけで平成後期にベストセラー街道を驀進したYZF-R25&MT-25シリーズは、高年式ならではの程度のいい中古車が市場に数多く存在しております。人気モデルの常としてカスタムアイテムや利便性を上げる用品群も星の数ほど! レッドバロンなら自分に適した1台を選べ、購入時には各種パーツ装着の相談も可能ですよ。まずはお近くの店舗へ行ってみましょう!

YZF-R25という有頂天マシン【後編】はコチラ!

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