俗に「あーるにーごー」……。もうすっかりバイク好きなら老若男女を問わず宇宙人(?)にさえ通用するようなビッグブランドと化したヤマハ渾身の250スポーツ。すでにライバルメーカーが先行してシェアを食い合っていたジャンルに後発で登場しながら、その市場自体を爆発的に大きくした“立役車”でもあるのです。リリース当時の様相もフラッシュバックしながら紹介いたしましょう!

2015YZF-R25カタログ

●2015年型YZF-R25カタログより。「毎日乗れる、スーパーバイク」とはR25の本質を突いた見事なキャッチコピーでした。ビジュアル面でも女性ライダーをフィーチャーして身近さをアピール。肌感覚ではありますがYZF-R25を颯爽と乗りこなす“バイク女子”の比率は、他のライバルモデルより多かった気がいたします。もちろん今でもたくさんいらっしゃることはSNSなどを眺めても一目瞭然ですね。なお、公式な呼び方はワイゼットエフ“アール・ツー・ファイブ”です。念のため

 

バリオスという永遠のジャジャ馬【後編】はコチラ!

ニンジャ250Rを讃えよ! 話はそれからだ (`∀´)

2000年代序盤~中盤。馬力規制排ガス規制騒音規制などなど既成規制が厳しくなる一方で気勢を削がれ、キシェ〜ッ!奇声でも上げたくなるほどショボクレまくっていた250スポーツの世界。

トラッカービッグスクーターアメリカンしか茂っていなかった荒野に突如として降り立った伝説の世紀末(ではないけれど)救世主カワサキ「ニンジャ250R」であったことは、これまで何度も述べてきたとおりです。

ニンジャ250Rブルー

●あえてライムグリーンではなくキャンディプラズマブルーの初代ニンジャ250Rをご紹介。このバイクがあのぉ日あのぉ時あの場所でぇ〜♪……いや、あの15年前に出ていなかったら現在咲き誇っている250スーパースポーツの隆盛はなかったのです。その功績はいくら讃えても讃えすぎということはありません。ZZ-R250の後期型からタイ王国で培われてきた生産ノウハウが全面的に投入されており、仕上がりは上々

 

2008年4月5日、5%の消費税込みで50万円を切る49万8000円という衝撃プライスを引っさげて登場した待望久しいフルカウルスポーツは、瞬く間に大ヒットを記録する“覇車”となり軽二輪マーケットをけん引していきます。

鉄パイプフレームに搭載されたエンジンはZZ-R250向けをベースにした並列2気筒ユニットでインジェクションを初採用最高出力はたったの31馬力……だったのですが、当時としては「こんなカッコいいニューモデルを出してくれただけでもありがたい!」という雰囲気がバイク業界を覆っておりましたので控えめな馬力であっても販売のブレーキとはなりませんでした。

GPZ250Rエンジン

●この写真は八重洲出版のウェブサイト「モーサイ」〜「ZZR250、ニンジャ250R、そしてニンジャ250へ」カワサキ250並列2気筒の系譜【1990〜2020年代編】〜より転載。1985年登場の「GPZ250R」に採用されたカワサキ初の250㏄水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブエンジンで、当時は最高出力43馬力、最大トルク2.4㎏mを発揮。後のGPX250R時代には45馬力までパワーアップをはたしました。その後、数々の改良を受けつつZZ-R250、ニンジャ250R、ニンジャ250(2017年型まで)。そして今なおヴェルシス-X用として使われ続けている希代の名機です

 

かくして、日本はもちろん世界でもドトウの勢いで販売台数を積み上げていったニンジャ250Rに対抗すべく、他の日本3メーカーも動き始めます。

バイク先進国ではエントリーモデルとして、新興国ではフラッグシップとして成立する世界戦略車であり、生産はコスト的に最適な国で行えて、兄弟車も容易に生み出せる多彩な発展性を持つ……

世界のイラスト

●日本のメーカーが日本市場だけに向けたバイクを日本で開発&生産してモトが取れる時代は1990年代で終わりました。エンジン、車体、外装部品を極力共用化しつつモデルを増やし、世界を相手に“トータルで数を出す”ことが企業として至上の命題となっていったのです

 

というカワサキがニンジャ250R&ニンジャ250シリーズで構築した“黄金のルール”をなぞらえることはどのメーカーも大変だったようですが、それを実行しなければリーマンショックでさらに冷え込んだ世界経済のなか、新たに250㏄クラスのニューモデルを生み出すことさえ不可能となっていたのです。

Z250

●後述しますが2013年にカワサキ「ニンジャ250」が登場したとき、同時に写真の「Z250」もリリースされました。スーパースポーツからフルカウルを取り外してネイキッドにする手法は同じプラットフォームを持つ車両の販売台数を増加させる常套手段でもあります。それはYZF-R25でも……

 

ホンダはタイ王国とインドでCBR250Rを生産!

いち早く同様のシステムを作り上げて(といっても3年後の2011年ですけれども)、ニンジャ250R追撃の狼煙を上げたのはホンダで、デュアルパーパスモデルである「CRF250L」と同じ単気筒の心臓を持つ「CBR250R(MC41)を開発し、生産を担当するタイ王国から日本へと上陸させました。

CBR250R

●2011年3月18日、華々しく日本デビューを果たす予定だった「CBR250R」ですが……そうです、東日本大震災の影響を大きく受けてしまい、発表試乗会も中止になるなど(各バイク雑誌は個別に広報車両を借り出して記事を作成)波乱のスタートになってしまったことは残念でした。しかしSTDで44万9000円、写真のABS仕様で49万9800円(ともに税込み)という戦略的な価格設定だったこともあり、地震の影響が落ち着いたころから一気に街で見かけるようになった印象が残っています。なお、日本に入ってきたのはタイ王国製造版ですけれど、インドでも生産されていました。まさにグローバルモデル!

 

スタイリッシュなフルカウルを身にまとうデザインはニンジャといい勝負だったものの単気筒ゆえか最高出力が27馬力(初期型。2014年型以降は29馬力)に抑えられていたこともあり、ニンジャとの本格的なガチンコ勝負は2017年登場の並列2気筒モデル「CBR250RR(MC51)」を待つこととなります。

スズキは中国でGSR250シリーズを製造開始!

スズキは2012年に中国生産のネイキッドスポーツ「GSR250」を日本に投入して好評を博していき、2014年1月にはハーフカウルの「GSR250S」を発売。そしてシリーズ3本目の矢としてフルカウルを装備した「GSR250F」同年9月にリリースいたしました。

GSR250F

●モデルイヤー的には2015年型となる「GSR250F」。ハーフカウルのGSR250Sと比べてウインドスクリーンの高さを49㎜下げて傾斜も10度後傾。ハンドルバーの高さも24㎜ダウンするなど、きめ細かい仕様変更が施されていました。何度となくツーリング取材の相棒になってもらいましたが、一般道、高速、ワインディング……どこでも非常に高い快適性を発揮してくれて感動しましたね〜

 

エンジン形式はニンジャ250シリーズと同じ並列2気筒ながらDOHCではなくOHCヘッドを採用して最高出力は24馬力に設定。

高出力化をあえて追わず低中回転域でのトルクを充実させることにより実用域での使い勝手を最優先したことが、一定の評価を受けました

……とまぁ、そんなこんなで2008年のニンジャショックから丸6年が経過した2014年

カワサキは2013年代替わりの「ニンジャ250」を登場させて(最高出力は31馬力のまま変わらず)250フルカウルスポーツの王座を守り続け

ニンジャ250ABS SE

●2013年にモデルチェンジを受け、車名から“R”が消えた「ニンジャ250」。そのABSスペシャルエディションが上写真です。この時代はまだABS……アンチロックブレーキシステムが装着されない仕様を選ぶこともできました。う〜ん、こちらが今から10年前の車両ですか……。古さは感じないなぁ

 

ホンダとスズキが攻めあぐねていたという状況下において、ヤマハは2014年12月にいよいよ「YZF-R25」をリリースしたのです。

YZF-R25 青

●まずはごゆるりと初代「YZF-R25」のスタイリングをご堪能ください(笑)。製造はインドネシアで稼働するヤマハ発動機のグループ会社、PT Yamaha Indonesia Motor Manufacturing(YIMM)が担当。全てがゼロから開発されたブランニューモデルで水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力36馬力/1万2000回転、最大トルク2.3㎏m/1万回転を発揮。最新の環境諸規制に対応しつつニンジャ250の31馬力を5馬力も凌駕していたことにギョーカイ関係者は大興奮。読者アンケートの反応も抜群でした

 

ライバルとの切磋琢磨こそがバイク市場を盛り上げる

1980年代における狂乱バイクブーム時ほどではないにせよ、やはり同ジャンルの後発モデルならば先行車に対して何かしら性能的に凌駕している部分を欲するのがライダーというもの

その点、CBR250RにしてもGSR250Fにしても“後出しジャンケンなのに最高出力値がニンジャシリーズへ追いついてない”というところが、浮動票を取り込みきれなかった最大の要因と言えるかもしれません。

後出しジャンケン

●「アイツが20馬力ならこっちは25馬力だ」「そうきたか、じゃあ30馬力だ」「えっ、ならば35馬力!」「負けるかぁ、40馬力ッ!!」「43馬力ィ!!!」「コノヤロぉ45馬力でどうだ!!!!」といった大人げない意地の張り合いに、ライダーも燃えた1980年代。その熱気が2010年代半ば、若干でも復活したのは嬉しいかぎり

 

しかしながらヤマハは用意周到でした。

結果的に発売開始の丸々1年前となる2013年晩秋の第43回東京モーターショーにおいて、サプライズモデル「R25」をアンベール! 

ロッシとR25

●モトGP界のスーパースター、バレンティーノ・ロッシ選手が駆るYZR-M1イメージをうまく受け継いだ「R25」のスタイリングはどこをとっても文句なし! その市販版である250スポーツがもうすぐ出ますよ〜と言われてしまっては、琴線に触れるライダー全員もう辛抱タマラン状態です。なお、ロッシ選手は市販版の雑誌広告などでも大活躍。レジェンドへの憧れがYZF-R25の販売に直結したことは間違いありません

 

「R25」が鎮座するひな壇を取り巻いていたヤマハ関係者はまだ公式見解ではないよ、と前置きを入れつつ「新規に開発したエンジンのパワーが先行するライバルに負けるとお思いですか?」と匂わせ発言を振りまいてマスコミをあおってきました(笑)。

火の無いところでも煙を立てるのが雑誌屋稼業。

タネ火までもらってしまったらガンガンに焚きつけるしかありません。

たき火

●1970年代、大先輩の編集者&カメラマンはメーカー本社やテストコース、工場などに張り付いて開発中の車両をスクープしたとか。一刻でも早く確実な情報を読者へ届けたい!という雑誌屋の想いは今でも変わっていないはずです

 

東京モーターショー直後の市販版予想CG合戦から有名カスタマーに聞く新エンジン考察チューニングの可能性、各部スペックはもちろん販売価格の大胆予想や期待する一般ライダーの肉声取材などなど。

毎月毎月なにかしら「R25」に関する企画が会議を通過して東奔西走した記憶がございます。

待たされただけのことはあった驚きの完成度

いよいよ生産工場のあるインドネシアで開発中の車両がスクープされたり、日本に先行して現地仕様が発売を開始したりすると期待値も最高潮に……! 

事あるごとに取材陣をインドネシアへ送り込んで詳細レポートを誌面展開するライバル誌をうらやましく思いながらも月日は流れ、

ついに2014年の秋、某県某所にて国内仕様「YZF-R25」の発表試乗会が行われました。

YZF-R25カタログ

●2015年型YZF-R25カタログより。表紙には真正面からのカットがどーん! 「YZF-RシリーズのDNAを受け継ぐスタイリング」であることを強烈に訴求しておりました。前述のとおり新開発エンジンは36馬力を発揮し、鉄製ダイヤモンド型フレームも最新技術で解析された形状を導入。車両重量は166㎏(STD)と軽量で780㎜のシート高ながら太もも部分の形状が適切で足着き性も良好と、細部に至るまで練り込まれていることが実車からビンビンに伝わってきたものです

 

会場にズラリと並べられた車両をひと目見るなりタメ息が出ましたね。

まさに「いちいちカッコいいヤマハ」の本領発揮です。

スリム&コンパクトで取っつきやすさがありつつ優美さと精悍さもたっぷり。

カラーリングもグラフィックもロゴの書体や配置に至るまで完の璧ではありませんか。

YZF-R25 ABS

●写真は2015年4月20日から発売が開始されたYZF-R25のABS仕様車「YZF-R25A」。車両重量は2㎏しか増えてない168㎏を実現。価格は59万9400円。なおABSの付かないSTDは55万6200円(ともに8%の消費税込み)となっておりました。レイヤー構造のカウルデザインがよくわかります。左右非対称のリヤアームは長さ573㎜とロングで、独特な“ヤマハハンドリング”の実現に大きく寄与したのです

 

アナログ式タコメーターと多彩な情報を伝えるデジタル表示部との組み合わせも文句なし

YZF-R25メーター

●多彩な情報を分かりやすく乗り手へ伝える初代YZF-R25のマルチファンクションメーター。うーん、やはり個人的に回転計は令和の標準となりつつあるバーグラフタイプより写真のようなアナログ式がいいなぁ……。このデザインは本当に秀逸だったと思います

 

ほっほ~、ほっほ~、こりゃ売れない理由がないなぁ~と無駄にうなずきつつ見惚れているうちに取材時間がスタート

雑誌ごと割り当てられた撮影用車両を押し歩いてカメラマンが指定した場所へ安置し、より誌面映えする写真を撮るべく光量を調整するレフ板を微調整します。

風が強いとあおられて角度が変わる=明るさが変化してしまうので握る手にも力が入るというもの。

カメラマンのオッケーが出るたび車両へ近づいて細かく向きを変え、再びレフ板を持って光量の調整をするという行為を繰り返して撮るべきカットを積み重ねていきます。

バイクの顔……ヘッドライトが見えて全体のイメージがつかみやすいこのコラムでも多用している広報写真のようなアングルは「右頭7:3」といって、どんな取材でも必ず撮影するカット。

左頭7:3

●はいコレが「右頭7:3」ですね。車両紹介に1枚しか使えない!となったら、ほぼ例外なくこのアングルが誌面を飾ることになります。実際の撮影ではサイドスタンドを使いますので、車体の傾きを極力減らすため地面とサイドスタンドとの間に小さなゴム板をかませることがしばしば。あまり直立させすぎるとちょっとした強風で倒れてしまうことも……。俗に言う「物撮り」も、なかなかに神経を遣うオシゴトなのです

 

要注目モデルでページ数を多く確保した車種であるほど右頭真横、左頭真横、真正面、真後ろ、左頭7:3、リヤ7:3(その反対向きも)、脚立を立てて俯瞰、カメラマンが寝そべってアオリ、偏光フィルターやストロボも適宜活用するタイトル用イメージ……とシャッターを押す内容は増えていきます

撮影を撮影

●写真はYZF-R25とは違う車両を取材したときのものですが、狙ったイメージどおりの“画”を撮影するためなら相当にアクロバティックな体勢を取ることすらいとわないカメラマンの方々には感謝しかありません。彼らが積み上げてきたノウハウと現場で時間をかけた試行錯誤の結果が、誌面を美しく飾ってくれるのです

 

さらにメーター、ブレーキ、タンク、シート、マフラー、灯火類ほか部分カットや試乗するライター氏にお願いしての足着き性、ライディングポジションなどなど、注目度の高いYZF-R25では当然ながら山ほど撮影をいたしました。

もちろん限られた誌面の関係上、使われないものもあるのですけれど、将来違う企画で活用することを見越した多彩なアングルを押さえておくことも大切なので“置き写真”を撮るだけで数時間コースになる場合もあり、複数台の撮影が終わるころにはヘトヘトになったものです……。

おっと、長くなりました。では次回も知られざる発表試乗会の裏側エピソードも挟みつつ、大ヒットモデルとなったYZF-R25の魅力について語っていく予定です。

あ、というわけで本格的なデリバリーは2015年から。つまり初代でも8年前のモデルとなるYZF-R25は中古車市場にある台数も非常に多く、ビギナーのファーストバイクとしてもベテランのセカンドバイクとしても高い満足を得ることができる奥深さを誇っています。とはいえ1台ごとに程度が全く異なるのも中古車の常。レッドバロンなら希望に添った車種選びから購入後のメンテナンス、カスタムや旅の相談に至るまで万全の体制でバックアップ! まずはお近くの店舗へレッツゴー、ですよ!

YZF-R25という有頂天マシン【中編】はコチラ!

 

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