スポーツスターSやナイトスターのルーツ

 水冷の60度Vツインエンジン「レボリューションマックス」を搭載する『スポーツスターS』や『ナイトスター/スペシャル』らが“次世代ハーレー”として話題となっていますが、そのルーツといえるのが、2001年に登場した『VRSCA V-ROD』です。

2002年式VRSCA Vロッド

▲2002年式VRSCA Vロッド

「ハーレーのVツインが、ついに水冷エンジンへ!」と、デビュー当時は大きな話題となり脚光を浴びましたが、大ヒットにはいたらず2017年式をもって絶版となりました。

 バリエーションモデルも登場し「V-RODファミリー」を形成しましたが、時代が追いついていなかったのでしょうか、いま振り返ると、魅力的なモデルがいろいろとあります。

賛否両論あった技術革新

 発売当時、「空冷でなければハーレーではない」と否定的な意見もありましたが、誤解してはならないのはV-RODは数あるラインナップの中に加わったニューカマーであり、この時点でハーレーのエンジンすべてが空冷から水冷へ切り替わるという意味合いではなかったということです。


 伝統のあるブランドで、保守的なファンも多いがゆえの反対意見。ハーレーダビッドソン陣営もそれは重々承知であったはずですから、イノベーションを求め並々ならぬ決意があったことでしょう。

空冷は45度、水冷は60度だ!

 1909年に誕生して以来、V型2気筒=Vツインエンジンはハーレーダビッドソンの代名詞になっていますが、空冷はV字の開き角が45度であるのに対し、水冷は60度に開いています。

『V-ROD』が積むパワーユニットは「レボリューション」と名付けられ、DOHC4バルブ、ボア100×ストローク72mm、1131ccの排気量でデビューしました。

 近未来感のあるアルミ製の外装がセットされた車体は、ドラッグレーサーを思わせる低く長いスタイルを演出。開発コンセプトである“アメリカンマッスル”を具現化したものでした

先進的な技法「ハイドロフォーミング」によってフレームを加工するV-RODファミリー。写真は2002年式VRSCA Vロッド。

▲先進的な技法「ハイドロフォーミング」によってフレームを加工したV-RODファミリー。写真は2002年式VRSCA Vロッド。

 美しい湾曲を描くメインフレームは、水圧を利用して加工する「ハイドロフォーミング」という技法が用いられています。

 燃料タンクはシート下に配置され、従来のタンク位置にはアルミカバーに覆われたエアクリーナーボックスをレイアウトし、ダウンドラフト吸気を採用しています。

 マスの集中化に貢献する燃料タンクのシート下への配置、出力向上に貢献するダウンドラフト吸気などは最新の『ナイトスター/スペシャル』などにも用いられ、Vロッドから受け継がれていることがわかります。

競技専用車も発売

 2004年にはドラッグレース専用に開発された「VRXSEスクリーミンイーグル・デストロイヤー」が発売され、日本でも360万円の価格で売られました。

2004年に発売されたドラッグレース競技専用マシン「VRXSEスクリーミンイーグル・デストロイヤー。

▲2004年に発売されたドラッグレース競技専用マシン「VRXSEスクリーミンイーグル・デストロイヤー。

 ボアを5mm拡げ、ストロークを3mm延長し、排気量を1300ccにスケールアップ。鍛造ピストンやハイカムが組み込まれ、エアシフター、ウイリーバー、前後18インチの足まわりなど即参戦可能な本格派ドラッグレーサーです。0→400メートルを9秒台で走るポテンシャルを持ちます。

 ガチンコのドラッグレーサーにもなってしまうVロッド。いかに性能が高いかを世界中に知らしめたのでした。

走りのポテンシャルが高い!

 2006年モデルでデビューした『VRSCR ストリートロッド』には倒立式のフロントフォークや剛性の高い10本スポークのキャストホイールが与えられ、走りのポテンシャルをより高めています。

VRSCR ストリートロッドは2006年式でラインナップに名を連ねた。

▲VRSCR ストリートロッドは2006年式でラインナップに名を連ねた。

 オレンジのカラーリングはワークスイメージ。フォワードステップをミッドコントロールへ後退させ、よりスポーティなライディングを実現していることも見逃せません。

ビキニカウル付きの2006年式 VRSCD ナイトロッド。

▲2006年式 VRSCD ナイトロッドには、ビキニカウルが備わっていた

 ビキニカウルを備える『VRSCD ナイトロッド』も06年モデルで登場。翌07年式では『VRSCDX ナイトロッドスペシャル』もデビューしました。

2007年モデルとして新登場したVRSCDX ナイトロッドスペシャルはブラックパーツを多用。

▲2007年モデルとして新登場したVRSCDX ナイトロッドスペシャルはブラックパーツを多用。240mm幅の極太リヤタイヤを履く。

 このとき「V-RODファミリー」は全モデルで燃料タンクの容量を14.4→18.9リットルに増加。スタンダードモデルが『VRSCW V-ROD』となり、ナイトロッドスペシャル同様に240mmの極太タイヤを履きます。車名にもワイドタイヤを示す「W」がつきます。

08年式以降は排気量1246cc

 08年式ではボアを100→105mmに拡大し、排気量を1131→1246ccに。スリッパークラッチとABSもこのときから採用しました。

2009年モデルでデビューしたVRSCF V-RODマッスル。

▲2009年モデルでデビューしたVRSCF V-RODマッスル。ハーレーダビッドソンにしかできない無骨なスタイルです。

『VRSCF V-RODマッスル』が2009年式でデビュー。そのネーミングの通り、筋骨隆々なボディでリヤタイヤも240mmと太い。倒立フォークで足回りも強化されています。

2017年式がファイナルとなったVRSCDX ナイトロッドスペシャル。

▲2017年式がファイナルとなったVRSCDX ナイトロッドスペシャル。

 その後は大きな変更点がないまま、ファイナルとなる17年式まで「V-RODファミリー」はラインナップに名を連ねます。ラストイヤーは『VRSCDX ナイトロッドスペシャル』と『VRSCF V-RODマッスル』の2機種でした。

 ちなみにハーレーダビッドソンのエンジン水冷化の歴史は1976年にスタートした「NOVA PROJECT」にまでさかのぼることができます。これはポルシェとの技術提携によるプロジェクトで、このときハーレーダビッドソンはなんと水冷V型4気筒を設計。市販化には至りませんでしたが、発売も間近であったのではないかと想像せずにはいられないモックアップモデルがアメリカ・ミルウォーキーのハーレーダビッドソン・ミュージアムには当時の資料とともに展示されています。

「NOVA PROJECT」水冷V型4気筒のモックアップモデル

▲「NOVA PROJECT」水冷V型4気筒のモックアップモデル


1994年にはワークスレーサー『VR1000』でAMAスーパーバイク選手権にも参戦しているのですが、そのハナシはまた次回以降に。

H-Dレーシング VR1000

▲H-Dレーシング VR1000のハナシはまた次回以降に!!

 今回も最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。V-RODを振り返りましたが、ぜひ中古車選びのご参考に。

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