80年代バイク・ブームを後押ししたもの
1980年代に巻き起こった「バイクブーム」。今の40代、50代男性の多くがかつてその洗礼を受けたはずだ。もちろん僕自身もそうである。その後、あのブームについて「なぜみんなあれほどバイクに夢中になったのか?」と振り返ることがある。
ケニー・ロバーツやフレディ・スペンサーなどスターの登場による二輪レース界の盛り上がり、ロードパルやパッソルなどの原付が登場し、バイクが世の中に広く普及したことなど理由はたくさんあるが、とくに僕ら当時の10代の若者に大きな影響を与えたのは小説、映画、マンガなどのメディアだった。
1981年、少年マガジン誌上でゼッツーを乗り回す青年、菱木研二を主人公とした『あいつとララバイ』の連載がスタート。
1982年、大藪春彦の小説『汚れた英雄』が角川書店により映画化された。天才的ライダー・北野晶夫を草刈正雄が演じ、レースの吹き替えシーンは当時、全日本ロードレースで大活躍していた平忠彦がつとめた映画は大ヒット。
1983年、バイク漫画の金字塔となった『バリバリ伝説』が少年マガジン誌上で連載開始、時を同じくして二輪メーカーが “レーサーレプリカ”と呼ばれた高性能マシンを続々と市場に登場させ、バイク人気は一気にヒートアップしたのだ。
『汚れた英雄』や『バリバリ伝説』はレースを題材にした作品であり、スピードに憧れる若者たちを熱狂させた。その影響でレーサーレプリカを手に入れ、峠やサーキットに通う者が激増したいっぽう、街乗りやツーリングなどで、もう少し緩やかにバイクと付き合いたいというライダーもたくさんいた。
そうした言わば“ライフスタイル”志向のバイク好きから支持されたのが片岡義男のバイク小説であり、さらにバイクに乗ることの“カッコよさ”を見事に描いたのが1986年に公開された映画『トップガン』だったろう。ご存知のようにアメリカ海軍パイロットの世界を描いた作品であり、決してバイクが主役の映画ではなかったが、主演のトム・クルーズがカワサキGPZ900R“Ninja”を駆って疾走するシーンはあまりに印象的で、これでバイクの魅力に目覚めた、とどめを刺されたという人(僕のことだ)は多いだろう。
(筆者のTOP GUNへの思い出とGPz900R“Ninja”について書いた記事は「【カワサキGPZ900R】思い出の愛車をプレイバック! トム・クルーズに憧れたあの頃、買えなかったNinja」)
36年の時を超えて帰ってきた「トップガン」
そのトップガンが36年の時を超えて帰ってきた。数年前から製作中だと話題になっていた続編、『トップガン マーヴェリック』がついに公開されたのだ。もちろん主演はトム・クルーズ。今回は作品のプロデューサーも務めている。日本では5月27日から公開されたのだが、その初日から僕のSNSは「観に行った!」「控えめに言っても最高!」「泣けた!」などトップガンの話題で持ちきり。すっかり気分を煽られてしまい、たまらず公開2日目に観に行ってきたのだ。
その感想などをネタバレにならない程度(すでにネットに出ている情報にとどめて)に書こうと思う。まず言えるのは、この『マーヴェリック』は前作『トップガン』の完全なる続編であり、ファンの期待にしっかり応えた作品であるのは間違いないということ。
なにより主役のマーヴェリックを演じるトム・クルーズがカッコいい! 前作での血気盛んなヤンチャさは、歳を重ねたことにより落ち着きと渋みに変わったが、その佇まい(鍛えられた肉体も含め)はまったく衰えを感じさせない。作中での、数々の功績を上げた伝説的存在でありながら昇進を拒み、現役にこだわり続ける孤高のパイロット……という役どころは、50代後半になった今でもスタントマンを使わずに全ての場面を自ら演じきることにこだわっているトム自身の姿とも重なる。
作品から伝わるトム・クルーズの“バイク愛”
後進を育てる教官としてトップガンに帰ってきたマーヴェリックは、その圧倒的な操縦の腕で、鼻息の荒い若き精鋭たちからリスペクトされるようになり、危険なミッションでリーダーとして闘い、彼らを助け、助けられる。一点の曇りもない真っ直ぐなストーリーだが、そのストレートさに心を撃ち抜かれる。前作をリアルタイムで観た世代のファンとしては、この30余年の自分の人生に重ね合わせ、それが肯定されたような気持ちになるのかもしれない。いや、僕はそう思った。
そして何より嬉しかったのは、マーヴェリックが今でもバイクに乗り続けていてくれたこと。映画の中にはあの懐かしいGPZ900R“Ninja”も登場する。そして現在の愛車としてその名を受け継ぐ「Ninja H2」で滑走路を疾走するという胸熱なシーンもある。歳を重ねても、ラグジュアリカーや高級スポーツカーではなく“バイクに乗り続けている”ということが、トム・クルーズ演じるマーヴェリックにとって重要な“原点”なのだろう。同時にトム・クルーズがこの『トップガン』という映画と、バイクという乗りものを愛しているということがひしひしと伝わってくる作品だった。
ともあれ36年前、『トップガン』によってとどめを刺された僕らのバイクへの情熱に、このマーヴェリックが再び火をつけたのは間違いない。単純な僕などは「憧れていたNinja(GPz900R)、やっぱりいつか手に入れよう!」と決意してしまった。そして願わくばかつての僕らのように、このあらたな『トップガン』を観て、バイクのカッコよさに胸を射抜かれる若者がたくさん出てきてほしい、と思うのである。