いやはや「峠道の王様」ですよ、“♬湖~上~のけむ~り~”ですよ(それは歌手の「王様」)、“おかしのホームラン王”ですよ(それは「ナボナ」で往年のCMキャラクターは王(貞治)様)……と思わず茶化すノリツッコミをしたくなるほどヨーロッパでは褒めちぎられたヤマハのTDM(Touring Dual purpose&Multi-purposeとの説あり)850/900シリーズ。その出来過ぎなモデルライフを振り返ってみましょう!
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多様な方向性が奇跡的にまとまり、完全無欠の優等生が完成ッ!?
出木杉クン……もちろんご存じですよね?
そう、国民的……いや全世界的に高い人気を誇るSF(Sukoshi ☆ Fushigi)漫画&アニメの作品「ドラえもん」に登場する、出木杉英才(できすぎ・ひでとし ※「えいさい」との説もあり)クンのこと!
ちなみに筆者、今の今まで“出来杉クン”だと勘違いしておりました。訂正してお詫びいたします(←誰に?)。
そんな出木杉クンは作品の主人公、野比のび太のクラスメイトでスポーツ万能、学業優秀、かつ容姿端麗な上に性格もいいという非の打ち所のないパーフェクト小学生。
入浴中に何かしらのハプニングに遭遇しがちなヒロイン、しずか(本名は源 静香!)ちゃんをめぐる、のび太との恋の鞘当てには幼少期からヤキモキし続けたものです……って何のハナシでしたっけ?
そうそう、ヤマハが誇る高汎用二気筒モデル「TDM850/900」のことでした。
初回となる今回は、850にテーマを絞ってまいりましょう。
オン? オフ? 見たこともないスタイルのビッグバイクが現れた!
さて、その優等生「TDM850」クンですけれども、日本市場においては1992年3月から発売が開始されました。
当時、八重洲出版 モーターサイクリスト(以下MC)誌の編集部アルバイトとして日々忙しく働いて(いるフリをして!?)いた24歳の筆者は、任されていたニューモデル関連資料整理の過程でヤマハ発動機株式会社 広報部から送られてきた角2封筒内に収められている「TDM850」のニュースリリースとポジフィルムなどを机の上に広げて内容物を目視確認。
大いなる役得感に包まれながら美しいカタログをパラパラと開いたとき、そこへ躍っていた「ヨーロッパの風を知っている。ビッグツイン・ヨーロピアン TDM850」というキャッチコピーにズッキュ~ンと心を撃ち抜かれたものです。
まんまるな丸目2灯が印象的なその顔は……まるでガチャピン!?
しかし、そのスタイリングには当初、違和感を拭えませんでした。
レーサーレプリカFZ-R/FZRシリーズを彷彿させるギョロっとした丸目2灯ヘッドライト……はいいのですけれど、その下にカウル部分がないため“ガチャピン”さんを真正面から見たような印象が(^^ゞ。
なおかつ今の基準で考えたなら「オンロード寄りのアドベンチャーモデルかなぁ!?」と、すぐにすんなりジャンルの仕分けができるのですが(良くも悪くも)、当時はまだ“アドベンチャー”なんて概念は大部分のライダーにとって一般的なものではなく、「コ……コレハイッタイドウイウバイクダ?」と思考停止に陥ってしまうほど個性的なスタイリングに思えたのです。
すでに登場していたホンダ「アフリカツイン」ほど“ビッグオフ”という雰囲気ではなく(アルミ製のスキッドプレートは標準装備されていましたが……)、かといって純粋な“ロードスポーツ”とも呼べないアップライトなライディングポジション。
まさにヤマハ自身もカタログ内で「ニューカテゴリーマシン」や「これまでの既成概念を打ち破ったオールラウンドのスーパースポーツバイクだ」、「このマシンはおとこの憧憬でもある」などなど、その魅力をどう言語化して表現すればいいものか、ご苦労されているご様子がありありとあり……(笑)。
偉大なる“パリダカ”制覇用モデルがベースにあってこその完成度!
それもそのはず、「TDM850」は前身となる「XTZ750 スーパーテネレ」からの流れを知らないと、理解しづらいモデルでもあったからなのです。
「XTZナナヒャクゴジュウ……ナニソレ?」と小首をかしげる読者の方も非常に多いはず。
1989年に海外向け車両として登場したヤマハ「XTZ750 スーパーテネレ」は、その当時大人気で注目度も高かった“パリダカ(パリ-ダカールラリー)”で必勝を期すため、ヤマハ開発陣が総力を結集して作り上げたビッグオフロードモデル。
砂漠やガレ場といった道なき道を超ハイスピードでぶっ飛ばせるようにするため、水冷化はもちろん、十八番(おはこ)の1気筒当たり5バルブ(吸気3・排気2)を採用した360度クランクの並列2気筒DOHC(+ダウンドラフト吸気の)エンジンを高剛性なスチール製ダブルクレードルフレームへガッチリ搭載!
前後のサスペンション&ブレーキなどにも当時最新かつ最良なアイテムを全投入し、まさしくオフロードのホンダ「VFR750R(RC30)」状態……いや、大変失礼。
ヤマハですので「FZR750R(OW-01)」同様のスペシャルモデル、ということですね。
そんな「XTZ750 スーパーテネレ」をベースにしたパリダカマシンは期待どおりの大活躍を見せ、1990年には2位表彰台、
翌1991年にはヤマハ11年ぶりの優勝を1〜3位、表彰台独占という超特大なオマケ付きで獲得!!
さらにさらにヤマハは結局、1991年の第13回大会から1998年の第20回大会までの8年間でパリダカを実に7回も制し(!)、“アドベンチャーモデルの頂点とは、すなわちヤマハ”という図式を築き上げてしまいます。
当然のことながら「XTZ750 スーパーテネレ」は欧州でヒットモデルとなるのですが、ビッグオフローダー然とした……というか、ビッグオフそのまんまの車体(とタイヤ)では、使用速度域がやたらに高い彼の地のハイウェイや雄大なワインディングだと……
「ちょっち不安な面も出てキマ~ス。5バルブパラツインエンジンはサイコーのマーベラスなので、コチラを使ったオンロード寄り寄りのニューマシンをビッテビッテ!」という変態的な要望がツーリング大陸ヨーロッパから届いたというわけで(!?)、生み出されたのが「TDM850」というモデルなのですね。
ナナハン以上リッター未満だからこその“峠無双マシン”、爆誕!
排気量が749㏄だったXTZのパラツインエンジンはボアとストロークともに拡大され、ちょうど100㏄増量の849㏄となり大幅にパフォーマンスアップ!
骨格は頑丈さとしなやかさを併せ持つ(スチール製)デルタボックスフレームを採用することで、フロント18インチ、リヤ17インチのオンロードタイヤが生み出す高次元のグリップ力も精緻な前後サスペンションを介しつつ難なく受け止めてくれます。
筆者も「TDM850」の単独インプレッション取りやライバル比較試乗の取材に招聘され、車両移動のための人足兼、企画終了後の洗車&満タン仕事までを先輩編集部員に頼まれ、嬉々として遂行……。
いやホント、ゾクゾクと編集部へやって来る魅力的なニューモデルに毎日触って乗れたのですから、夢のようなアルバイト生活でした(遠い目)。
あ、そんなオッサンの懐古な回顧はともかく「TDM850(初代)」はとにかく面白いモデルでしたね~。
不快な振動を2本のバランサーシャフトが打ち消してくれる2軸バランサー付き360度クランクのエンジンは低回転域から右手の操作へグググッとリニアに反応してくれ、とても力強く気持ちのいい吹け上がりをみせてくれるのが特徴的。
なおかつ最高出力72馬力を発生する7500回転より大幅に低回転側となる3000回転~5000回転あたりを使っての淡々とした高速巡航がとても気持ちよかったことも強く印象に残っております。
何と言っても一番笑顔がこぼれたのは、そのライディングポジション!
燃料タンクを広く覆うシート前部がピタッとヒザが収まるニーグリップを実現してくれ、背筋もスッと伸びるアップライトな上半身の姿勢が楽に取れるではあ~りませんか。
これによりリーンウィズを基本にしつつ、状況に応じてリーンインもリーンアウトも思いのままなので、フロント18インチホイールが生み出す落ち着いたハンドリングに自分の意図を乗っけることが超イージーにできるのですね。
さらにビッグオフ系モデルのようにやたらハンドル幅が広いわけでもないため、二の腕へ当たる走行風も最小限で、ちょっと上体を伏せればカウリング内の静謐なスペースへ頭部を避難させることもできます(とにかくアッパーカウル&ウインドシールドの形状が秀逸なので……)。
「こりゃあ、ストレスなくどこまででも走っていけそうじゃぁ……。欧州の旅好きライダーが放っちゃおかんだろうなぁ」と日本海溝より深く感嘆したもの。
果たして「TDM850」は欧州において当のヤマハも驚くほどの大ヒットを記録!
逆に「TDM850」が1991年にヨーロッパデビューを果たした後もしっかり併売されていた「XTZ750 スーパーテネレ」の販売台数は年々減少していき、1990年代中盤にはフェードアウトしてしまうことに(“スーパーテネレ”という偉大な称号は2010年に登場した「XT1200Z スーパーテネレ」まで途切れることとなりました……)。
それだけ彼の地の(変態的)ライダーたちが「TDM850」のコンセプトを支持したということなのでしょう。
駄菓子菓子!
そんな海外市場ではウハウハ状態だった出木杉クンこと「TDM850」なのですけれど、日本においては意外なほど鳴かず飛ばずに……。
ナゼだ!? 5年3組でジャイアンとスネ夫らが共謀した集団いじめでも発生したのでしょうか(←違う)。
次回は日本市場における「TDM850」の苦戦とその理由などについて語らせていただくといたしましょう。
まった観ってね~(←幼児向けアニメっぽく。おまけのジャンケンは割愛)。
あ、というわけで日本では大ヒットこそしなかった「TDM850」も後継機となる「TDM900」も、兄弟車「TRX850」も、趣味人たちに愛されて一定数以上の車両が国内で流通しております。レッドバロンの『5つ星品質』な中古車なら、部品の供給も、それに付随する各種アフターサービスも万全です! 相棒をササッと見つけて出来過ぎバイクライフを存分に楽しみましょう!