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マッチとCBX400Fは1980年代を代表するカリスマ
1980年代といえばバイクの黄金期だが、私は8~17歳の時期でほとんど免許年齢を満たしていない。「80年代バイクブーム狂想曲」というテーマで書くことは無理かな、と思いを巡らせていると意外にたくさんバイクの記憶が出てきて懐かしさに浸れた。私はマンガでバイクを楽しんでいた。
最初に触れたのは『ハイティーン・ブギ』(小学館)。いとこのお姉さんの部屋にピンク色の背表紙がずらっと並んでいたことを覚えている。今回改めて読み返してみてもかなりの面白さ。バイクマンガというよりは完全な恋愛もので、連載初期では主人公の恋人・翔のバイクがきちんと描けておらず、途中からGS400で定着し描写も正確になっていった。
マッチこと近藤真彦さん主演の映画版は1982年に公開され、そこで翔のバイクがCBX400Fに入れ替わっていたのは、1980年代を代表するヒット作・CBXがデビューした時期だったからだろう。82年公開のメジャー映画でGS400を登場させるのは、全然「ナウくない」。当時は流行を先取りするのが当たり前で、マッチのCBXには後のインテグラに先行して、社外のハーフカウルが装着されていた。
ハイティーン・ブギにはマンガ版と映画版で他にも異なる部分があり、翔の親友である重(しげ)は、原作では暴走族からヤクザになってしまったが、映画ではレーシングライダーに転向した。1982年末に角川春樹監督第一作として『汚れた英雄』が公開されるほどのバイクブームになっていた時代背景を考えると、うなずける改編と言える。田原俊彦さん演じる重が筑波サーキット最終コーナーで転倒し、宙を舞うラストシーンとなったのは原作と同じ悲惨な結末を表現したものだ。
そして、私がこのバイクブームを肌で感じることができる年齢になった時に出会ったマンガが『ふたり鷹』(小学館)だった。この作品に登場する車両はごく一部を除いて実在のモデルで、漫画版バイク図鑑でありバイク入門の役割を果たしていたと思う。小学生の私にとってマンガは唯一の情報源で、連載期間の1981~1985年は次々に新型が誕生していた時期だったことから、私はこの作品でバイクを知ることができた。
ふたり鷹で最も印象的だったのは、主役・沢渡鷹が大学の二輪部で経験した過酷な入部テストだ。先輩から行先も告げられないまま東京~下関間を愛車のZ400FXで往復。わずか1日あまりで2000kmを走り抜いたことになり、このロングランになぜか私は大興奮。自分でバイクに乗るようなってからは、京都往復ツーリングなど真似事をするようになった。また、ふたり鷹にもマッチと思しきキャラクターがバイク好きアイドルとして登場。こうした現実との一致が私にバイクを意識させたのだ。
マンガの走りが現実に!? キリコのファーストイン・ファーストアウト走法
私が最初に買ったバイクはRZ50で、マンガ『キラーBOY』(集英社)の影響だった。キラーBOYは天才少年・川崎霧虎(キリコ)が世界GPチャンピオンを目指すストーリー(打倒「バリ伝」!?)だったが、最初のステップであるF3の段階で連載が打ち切られてしまったマイナー作。F3は、4ストローク400cc、2ストローク250ccまでが参戦できるレースで、ここまで紹介してきたCBX400Fが猛威を振ったカテゴリー。そこに2ストのRZ250Rで挑むところに惹かれたのだ。
また、この作品ではファーストイン・ファーストアウトという従来のスローイン・ファーストアウトというコーナリングの常識を打ち破る走法が描かれていて、とにかく「凄い!」と思わされたのも大きい。ホンダRC211Vに乗るバレンティーノ・ロッシが、豪快な進入ドリフトで従来の2ストローク500ccマシンに大差をつけて勝ちまくっていた2002年に、『ヤングマシン』の特集記事を制作する際、霧虎の走法を参考にしたのは、今だから言えることだ。
誌面では霧虎と同じ直角的なコーナリングラインを描いてしまったが、それはまさかあの走りが現実になるとは!? という感激が誌面に現れた結果。実際にロッシのラインを俯瞰すれば霧虎のような極端な向き変えはしていないと思うが、私はマンガ的な表現の面白さが雑誌には必要と考えていて、コマ割りをする感覚でいつも編集作業をしていた。少年時代にマンガの世界でバイクを楽しんでいたことが影響したのかも知れない。
またもや少女マンガに感動! 『ホットロード』は現代でも通じる作品
1980年代で最も好きな作品を挙げると断然『ホットロード』(集英社)だ。ハイティーンブギに続き少女マンガになるが、単純明快な少年マンガの面白さとは異なり物語が緻密に作りこまれているため、年齢を重ねても印象に残るのだろう。印象派絵画のようなイメージが単行本のカバーになっていたり、描き込まない詩的なタッチの絵で進行する物語にも味わいがある。
舞台となった湘南の風景はとても美しく、そこに暴走族少年が登場するミスマッチな感じが作品性を際立たせている。また、ストーリーには1980年代特有の勢い任せなサクセスストーリーがなく、それもあってかホットロードは2014年に映画化もされ、興行収入2位を記録している。実写化が難しそうなマンガの世界観が違和感なく再現されていたのは見事で、特に「あまちゃん」で国民的スターになったばかりの主演・能年玲奈さんの演技は素晴らしかった。
『ホットロード』で登場するバイクは、連載が開始された1985年当時に絶大な人気を誇っていたCBR400F。主人公の恋人・春山の愛車で、ハイティーンブギでマッチが乗っていたCBX400Fの後継機にあたる。ちなみに、春山は暴走族のリーダーになった時に先代からCB400フォアも受け継いでいる。ホンダの4気筒400ccのCB、CBX、CBRは、1980年代を駆け抜けた頂点シリーズで、今でもカリスマだ。
16歳になるとみんなバイクの免許を取りに行っていた
「80年代バイクブーム狂想曲」にギリギリセーフの1989年11月24日、私は17歳の時に原付免許を取得した。1980年代はなぜバイクブームだったのか? 私に分かるのは、当時はみんな当たり前のように16歳になるとバイクの免許を意識していたということ。免許センターは平日でも大勢の受験者で溢れていて、高校をサボって行った先では同級生が何人も受験していた。
個人的には、若い時はバイクくらい乗ったらいいと思う。どこにでも素早く行けるようになるのは、単純に有利。それまでできなかった行動で経験値も増す。友人、彼女、彼氏ができるきっかけになるかも知れない。そのレバレッジが大きく働くのが青年期で、かつ1980年代はバイクという乗り物が発揮する人生へのレバレッジ効果が最大値だったと感じる。
一方、バイクのレバレッジ効果が働く時間は短く、その貴重な瞬間を最も美しく切り取った作品がホットロードだ。14歳だったヒロインの和希が高校生になった時の成長ぶりは、大人時間で換算すると10年分くらいに相当しそうだ。そんな和希と春山の傍らにはバイクがあり、不安定な年頃の人生を不安定なバイクという乗り物が激しく動かし、時には痛めつけながら二人を強くしていた。