マッチとCBX400Fは1980年代を代表するカリスマ

1980年代といえばバイクの黄金期だが、私は8~17歳の時期でほとんど免許年齢を満たしていない。「80年代バイクブーム狂想曲」というテーマで書くことは無理かな、と思いを巡らせていると意外にたくさんバイクの記憶が出てきて懐かしさに浸れた。私はマンガでバイクを楽しんでいた。

最初に触れたのは『ハイティーン・ブギ』(小学館)。いとこのお姉さんの部屋にピンク色の背表紙がずらっと並んでいたことを覚えている。今回改めて読み返してみてもかなりの面白さ。バイクマンガというよりは完全な恋愛もので、連載初期では主人公の恋人・翔のバイクがきちんと描けておらず、途中からGS400で定着し描写も正確になっていった。

マッチこと近藤真彦さん主演の映画版は1982年に公開され、そこで翔のバイクがCBX400Fに入れ替わっていたのは、1980年代を代表するヒット作・CBXがデビューした時期だったからだろう。82年公開のメジャー映画でGS400を登場させるのは、全然「ナウくない」。当時は流行を先取りするのが当たり前で、マッチのCBXには後のインテグラに先行して、社外のハーフカウルが装着されていた。

マンガ版『ハイティーン・ブギ』で藤丸翔の愛車として描かれたのがGS400。タンクやカウルにラインが入っていたことから1978年発売の2型だと思われる。連載は1977年から開始されていたので、時代的にも一致するが、映画公開の1982年は4気筒全盛の時代だった。

4気筒400ccモデルの決定版がCBX400F。1981年11月発売なので1982年夏公開の映画に登場させるには、ギリギリのタイミングだっと思われる。同車は圧倒的な高性能で他社モデルを駆逐したが、大ヒットした要因として「ハイティーン・ブギ」の影響もありそう。

少女マンガ誌『プチコミック』(小学館)で1977年から10年に渡り連載された『ハイティーン・ブギ』。作者は牧野和子氏で原作の後藤ゆきお氏は夫でもある。ヒロインの桃子は憧れのシンデレラで悲劇のヒロインでもある、少女マンガの必須要素が凝縮された作品。

ハイティーン・ブギにはマンガ版と映画版で他にも異なる部分があり、翔の親友である重(しげ)は、原作では暴走族からヤクザになってしまったが、映画ではレーシングライダーに転向した。1982年末に角川春樹監督第一作として『汚れた英雄』が公開されるほどのバイクブームになっていた時代背景を考えると、うなずける改編と言える。田原俊彦さん演じる重が筑波サーキット最終コーナーで転倒し、宙を舞うラストシーンとなったのは原作と同じ悲惨な結末を表現したものだ。

そして、私がこのバイクブームを肌で感じることができる年齢になった時に出会ったマンガが『ふたり鷹』(小学館)だった。この作品に登場する車両はごく一部を除いて実在のモデルで、漫画版バイク図鑑でありバイク入門の役割を果たしていたと思う。小学生の私にとってマンガは唯一の情報源で、連載期間の1981~1985年は次々に新型が誕生していた時期だったことから、私はこの作品でバイクを知ることができた。

ふたり鷹で最も印象的だったのは、主役・沢渡鷹が大学の二輪部で経験した過酷な入部テストだ。先輩から行先も告げられないまま東京~下関間を愛車のZ400FXで往復。わずか1日あまりで2000kmを走り抜いたことになり、このロングランになぜか私は大興奮。自分でバイクに乗るようなってからは、京都往復ツーリングなど真似事をするようになった。また、ふたり鷹にもマッチと思しきキャラクターがバイク好きアイドルとして登場。こうした現実との一致が私にバイクを意識させたのだ。

沢渡鷹の愛車はZ400FX。1981年の連載スタート時に絶大な人気を誇っていたために描かれたと思われるが、後に鈴鹿4耐に参戦する際は、“マッチ”を事故から救った対価で手に入れたCBX400Fにスイッチ。新しいバイクがタイムリーに投入されるのもふたり鷹の見どころ。

『少年サンデー』(小学館)で連載された作品で作者は新谷かおる氏。鈴鹿8耐やボルドール24時間など世界耐久選手権での勝利を目指したものでヨシムラ創業者の「ポップ吉村」こと吉村秀雄氏も登場する。世界グランプリを舞台にした『バリバリ伝説』(講談社)と好みが分かれる。

マンガの走りが現実に!? キリコのファーストイン・ファーストアウト走法

私が最初に買ったバイクはRZ50で、マンガ『キラーBOY』(集英社)の影響だった。キラーBOYは天才少年・川崎霧虎(キリコ)が世界GPチャンピオンを目指すストーリー(打倒「バリ伝」!?)だったが、最初のステップであるF3の段階で連載が打ち切られてしまったマイナー作。F3は、4ストローク400cc、2ストローク250ccまでが参戦できるレースで、ここまで紹介してきたCBX400Fが猛威を振ったカテゴリー。そこに2ストのRZ250Rで挑むところに惹かれたのだ。

また、この作品ではファーストイン・ファーストアウトという従来のスローイン・ファーストアウトというコーナリングの常識を打ち破る走法が描かれていて、とにかく「凄い!」と思わされたのも大きい。ホンダRC211Vに乗るバレンティーノ・ロッシが、豪快な進入ドリフトで従来の2ストローク500ccマシンに大差をつけて勝ちまくっていた2002年に、『ヤングマシン』の特集記事を制作する際、霧虎の走法を参考にしたのは、今だから言えることだ。

誌面では霧虎と同じ直角的なコーナリングラインを描いてしまったが、それはまさかあの走りが現実になるとは!? という感激が誌面に現れた結果。実際にロッシのラインを俯瞰すれば霧虎のような極端な向き変えはしていないと思うが、私はマンガ的な表現の面白さが雑誌には必要と考えていて、コマ割りをする感覚でいつも編集作業をしていた。少年時代にマンガの世界でバイクを楽しんでいたことが影響したのかも知れない。

1983年のRZ250Rはエンジン回転数などに応じて作動するYPVSを排気ポートに設置し、高回転でのパワーと低中回転域のトルクを増強。ピーキーな出力特性となる2ストロークの弱点を補うことに成功した。

天下の『少年ジャンプ』(集英社)に異色のバイクもの。連載は1984年の28~43号で終了した。当時のジャンプは北斗の拳やキン肉マンなどファンタジーものに強く、レースや暴走族などリアル路線に向くバイクマンガとは色が合わなかったと思われる。

私が担当した『ヤングマシン』2002年12月号のMotoGP特集。黄色で描かれたのがロッシのライン取り。他にも日本の天才・原田哲也選手が自身の走りを「早寝早起き」と表現していたのは類似例だ。資料提供:内外出版社

またもや少女マンガに感動! 『ホットロード』は現代でも通じる作品

1980年代で最も好きな作品を挙げると断然『ホットロード』(集英社)だ。ハイティーンブギに続き少女マンガになるが、単純明快な少年マンガの面白さとは異なり物語が緻密に作りこまれているため、年齢を重ねても印象に残るのだろう。印象派絵画のようなイメージが単行本のカバーになっていたり、描き込まない詩的なタッチの絵で進行する物語にも味わいがある。

舞台となった湘南の風景はとても美しく、そこに暴走族少年が登場するミスマッチな感じが作品性を際立たせている。また、ストーリーには1980年代特有の勢い任せなサクセスストーリーがなく、それもあってかホットロードは2014年に映画化もされ、興行収入2位を記録している。実写化が難しそうなマンガの世界観が違和感なく再現されていたのは見事で、特に「あまちゃん」で国民的スターになったばかりの主演・能年玲奈さんの演技は素晴らしかった。

『ホットロード』で登場するバイクは、連載が開始された1985年当時に絶大な人気を誇っていたCBR400F。主人公の恋人・春山の愛車で、ハイティーンブギでマッチが乗っていたCBX400Fの後継機にあたる。ちなみに、春山は暴走族のリーダーになった時に先代からCB400フォアも受け継いでいる。ホンダの4気筒400ccのCB、CBX、CBRは、1980年代を駆け抜けた頂点シリーズで、今でもカリスマだ。

1984年のCBR400Fはホンダが初めて車名に「CBR」を名を冠したレーサーレプリカブーム黎明期のモデル。CBXのエンジンをベースに2←→4バルブを切り替えるREVを装備しており、当時最高の58PSを発揮していた。

1974年12月に408ccで発売したもののすぐに免許制度が改正され、1976年に中型免許対応の398ccで発売されたCB400フォア-I。1990年代を代表するバイクマンガ『疾風伝説 特攻の拓』(講談社)でも重要人物の愛車としても登場した別格モデル。

16歳になるとみんなバイクの免許を取りに行っていた

「80年代バイクブーム狂想曲」にギリギリセーフの1989年11月24日、私は17歳の時に原付免許を取得した。1980年代はなぜバイクブームだったのか? 私に分かるのは、当時はみんな当たり前のように16歳になるとバイクの免許を意識していたということ。免許センターは平日でも大勢の受験者で溢れていて、高校をサボって行った先では同級生が何人も受験していた。

個人的には、若い時はバイクくらい乗ったらいいと思う。どこにでも素早く行けるようになるのは、単純に有利。それまでできなかった行動で経験値も増す。友人、彼女、彼氏ができるきっかけになるかも知れない。そのレバレッジが大きく働くのが青年期で、かつ1980年代はバイクという乗り物が発揮する人生へのレバレッジ効果が最大値だったと感じる。

一方、バイクのレバレッジ効果が働く時間は短く、その貴重な瞬間を最も美しく切り取った作品がホットロードだ。14歳だったヒロインの和希が高校生になった時の成長ぶりは、大人時間で換算すると10年分くらいに相当しそうだ。そんな和希と春山の傍らにはバイクがあり、不安定な年頃の人生を不安定なバイクという乗り物が激しく動かし、時には痛めつけながら二人を強くしていた。

映画『ホットロード』で絶版車専門店が車両協力した2台。春山のCBRはモリワキフォーサイトとビート製テールカウル(マッチのCBXと同じ)でカスタムされたストリート仕様。CB400フォアはマンガで描かれたタンクの傷も再現されている。

少女マンガ誌『別冊マーガレット』(集英社)で1986~1987年に連載された『ホットロード』。作者の紡木たく氏は2014年公開の映画版監修にも携わっている。作者の性別は不明だが女性目線が感じられるストーリーだ。

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