その会社の歴史や製品、哲学などを展示している企業ミュージアム。ホンダには「ホンダコレクションホール」、ヤマハ発動機には「コミュニケーションプラザ」、カワサキには「カワサキワールド」という企業ミュージアムがありますが、静岡県浜松市にある「スズキ歴史館」も見ごたえたっぷりの施設なのです。
「スズキ歴史館」とは
1909年に創業、1920年に織機メーカーとして設立して以来、「価値ある製品を」のことばのもとに“ものづくり”に情熱を注いできたスズキ。そんなスズキ本社の目の前に建つ地上3階建ての大きな建物が、スズキ歴史館。館内には、時代とともに歩んできたスズキのバイク、クルマ、船外機など、さまざまな製品と“ものづくり”の様子を展示しています。
インフォメ-ションカウンターのある1階から長い階段を上っていくと、そこは最上階の3階。ここはスズキの歴代の製品がずらりと展示されているフロア。正面入り口にはスズキの前身である鈴木式織機株式会社の美しい自動織機が鎮座し、私たちを出迎えてくれます。
浜松は、遠州灘の広大な砂地と温暖な気候が綿花の栽培に適していたこともあり、江戸時代から綿花栽培、そして木綿の織物業も盛んだったんですよね。
そして明治に入ると、織機の製造業も発達するようになり、湖西市で生まれたトヨタの創業者・豊田佐吉氏が豊田式木製人力織機を発明。浜松市で生まれたスズキの創業者・鈴木道雄氏が、縦横縞柄を織れる織機を生み出したというわけです。
このふたりの偉大な創業者は、織機の未来に見切りをつけ、織機製造で培った技術力を武器に自動車産業へと打って出ます。それが現在のトヨタ、スズキへとつながっていくのであります。
これは確かに原動機付自転車
画像中央の胸像は、スズキの二代目社長、鈴木俊三氏。この社長が釣り好きだったそうで、「好きな釣りに行くのに、自転車にエンジンが付いていたら楽だな」ということで、昭和27年(1952年)に排気量36㏄の自転車補助エンジンのパワーフリーを完成させます。画像右はその後継機のパワーフリーE2。翌年の昭和28年(1953年)には排気量60ccのダイヤモンドフリーが誕生します。画像左がダイヤモンドフリーで、その年の富士登山レースに優勝。そして北海道~鹿児島間3000kmの無故障走破を達成するなど、大人気モデルに。
どちらもペダル付きの自転車に、エンジンが積まれています。なるほど、これを見ると「原付」(原動機付自転車)の名前の由来が分かるというものです。
製品を通してスズキの社史を知る
3階ではその他、織機メーカーからバイク、そして自動車メーカーへと発展を遂げていったスズキの社史を、歴代の工業製品を通してうかがい知ることができます。
壁には説明パネルもたくさん掲げられていますので、詳細も学べます。
創業者の鈴木道雄氏の口癖は「お客様が欲しがっているものなら、どんなことをしてでも応えろ。頑張ればできるもんだ」だったそうです。それがスズキのものづくりの原点。そうした逸話もパネルには書かれているものですから、興味深く、読むのに足が止まってしまいます。
これはスズキ初の二輪完成車、4サイクルOHV単気筒90㏄エンジンを搭載したコレダCO(1954年製)。ティアドロップ型のタンクをはじめ、車体まわり全体が美しいですね。日本で初めてスピードメーターを装備したバイクだそうです。
オフロード専用の市販モトクロッサーTM400をデチューンし、一般市販モデルとして登場したハスラー400(1976年製)。34馬力を叩き出す空冷2サイクル単気筒エンジンを搭載。これもカッコいいなあ。今の若い方にとっては〈ハスラー=軽自動車〉かも知れませんが、ハスラーはそもそも、じゃじゃ馬のようなオフロードバイクだったのです。
懐かしい愛車との再会も
バイクメーカーの企業ミュージアムは、かつて自分が乗っていた愛車との再会もあったりするから楽しいもの。
このGSX-R(1984年製)は軽量アルミフレームに水冷4サイクルDOHC4バルブ400ccエンジンを搭載し、乾燥重量152kg、最高出力は59馬力。デュアルヘッドランプにフルカウル、当時もっともレーシーなマシンとして注目を集めました。筆者も中古で購入して乗り回していたものですから、スズキ歴史館で再会できたときは感激のあまり頬を濡らしたほど(言い過ぎ)。
とにかくまあ、そんなこんなで胸が熱くなるスズキ歴史館であります。2階では〈現在のクルマづくり〉と題し、企画・デザイン・設計・テストといった「開発」と、実際に工場でクルマをつくる「生産」の過程を紹介していますので、こちらもご見学を。
所在地や営業時間の確認などは、以下の公式サイトからどうぞ。入館は無料ですが、完全予約制ですのでご注意ください。
■スズキ歴史館
https://suzuki-rekishikan.jp/
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