バイクに乗っていると、一度は耳にする言葉があります。
「いつか、北海道を走ってみたい」
日本には魅力的なツーリングスポットがたくさんあります。海沿いの道もあれば、山岳道路もある。絶景も、おいしい食べ物も、全国各地にあります。
それなのに、なぜ北海道はライダーにとって特別な場所なのでしょうか。
私自身、これまでたくさんのライダーに話を聞いてきましたが、「北海道」という言葉が出てくるとき、ほんの少しだけ、場の空気が変わるように感じることがあります。
行ったことがある人は、また行きたいと言う。
まだ行ったことがない人は、いつか行きたいと言う。
なぜ、そこまで北海道に惹かれるのでしょう。
とにかく、スケールが違う
北海道の魅力をひと言で表すなら、まずは「広さ」でしょう。
果てまで続くような直線道路。見渡す限りの牧草地。山、海、湖、湿原。そして、やけに大きく感じる空。
もちろん、本州にも雄大な景色はあります。でも北海道を旅していると、どこか違う世界を走っているような感覚になることがあります。
距離感まで変わります。
本州なら「今日はかなり走ったな」と思うような距離でも、北海道ではまだ地図のほんの一部分だったりする。
「目的地まで200km(しかも一般道で)」
「50km先の信号を曲がる」
そんな数字が、だんだん普通に感じてくる。
ツーリングでは普通、目的地へ行くために道を走ります。
けれども北海道では、走っていること自体が目的になる。
そこが大きな魅力のひとつだと思います。

「何もない」が気持ちいい
北海道を走った人の話を聞いていると、面白いことに気づきます。
「何もなかった。でも、それがよかった」
という話が、とても多いのです。
延々と続く畑。
牧草地。
山。
空。
次の交差点すらなかなか現れない道。
普段の生活なら「何もない」と感じてしまいそうな景色なのに、バイクで走っていると、それが気持ちいい。
目的地から目的地へ急ぐ必要もない。
何かを見なければならないわけでもない。ただ走る。風景が流れていく。それだけで楽しい。
北海道は、「何があるか」を楽しむ場所であると同時に、「何もない時間」を楽しめる場所なのかもしれません。

そして、食べ物がうまい
海鮮、ジンギスカン、ラーメン、スープカレー。乳製品やソフトクリーム、ジャガイモ、トウモロコシ、夕張メロン、セイコーマートのホットシェフなど、食べたいものを挙げ始めればキリがありません。
しかも北海道は広いので、場所が変われば食も変わります。
「今日はどこを走ろうか」ではなく、「今日は何を食べようか」からルートを決めてもいい。
ツーリングの楽しみは、走ることだけではないのです。
知らない土地へ行って、その土地のものを食べる。
それも立派な旅の目的です。

北海道に憧れるのは、ライダーだけではない
北海道を旅しているのは、もちろんバイク乗りだけではありません。
自転車で長い距離を走る人もいれば、徒歩で旅をする人もいる。クルマやキャンピングカーで巡る人もいます。
鉄道やレンタカーを使いながら観光する人だって大勢います。
つまり、北海道そのものに、人を旅へ向かわせる力があるのでしょう。
そのなかで、バイクという乗り物は北海道と、相性がいい。
徒歩や自転車よりも、ずっと速く、遠くまで移動できる。
一方で、クルマのように車内に守られているわけではありません。
風を受ける。草や土、海の匂いを感じる。強い日差しを受ける。山へ入れば急に気温が下がる。雨が降れば濡れるし、寒ければ震える。
快適なことばかりではありません。
でも、その不便さも含めて、北海道を身体で感じられる。広い北海道を移動できるスピードと、自然を直接感じられる身体感覚。
その両方を持っていることが、バイクで北海道を走る大きな魅力なのではないでしょうか。

海を渡るところから、もう旅は始まっている
北海道ツーリングには、もうひとつ特別なところがあります。
「海を渡る」ということです。
フェリー乗り場へ向かう。
そこには、北海道を目指す旅人が集まっている。
船に愛車を預け、甲板から港を眺める。
岸が少しずつ遠ざかっていく。
まだ北海道へ着いてすらいないのに、もう旅が始まった気分になる。
日常から少しずつ離れていき、北海道へ向かっていく。
目的地だけでなく、そこへたどり着く過程まで旅になるのです。

知らないライダーと、なぜか話してしまう
北海道を走るライダーの話には、人との出会いもよく登場します。
フェリーで知り合った人。キャンプ場で隣になった人。宿で一緒になった人。道ですれ違っただけなのに、手を振り合ったライダー。
普段の生活なら、まず話しかけないような人と、なぜか自然に会話が始まることがあります。
「どこから来たんですか?」
「今日はどこまで?」
そんな何気ない会話です。
また北海道には、ライダーハウスをはじめ、昔から旅人を受け入れてきた文化もあります。
安く泊まれることだけが魅力ではありません。同じように旅をしている人と出会える。景色や道だけではなく、そこで出会った人まで旅の記憶になる。これも、北海道へ何度も戻りたくなる理由なのかもしれません。

一度行くと、行きたい場所が増える
北海道は広すぎます。
道北、道東、道央、道南。
一度の旅で全部をじっくり回ろうとするのは、なかなか大変です。
だから、最初の北海道ツーリングから帰ってきた人ほど、こうなるのかもしれません。
「あそこへ行けなかった」
「あの道も走りたかった」
「次は道東をゆっくり回ろう」
一度行けば満足するどころか、一度行ったことで、行きたい場所が増えてしまう。
北海道ツーリングのリピーターが多い理由は、そんなところにもありそうです。

北海道ツーリングで一番難しいもの
では、北海道へ行くのに何が必要でしょう。
バイク。お金。装備。体力。
もちろん、どれも必要です。
でも社会人になると、いちばん用意するのが難しいものがあります。
時間です。
北海道まで移動するだけでも時間がかかります。
せっかく北海道まで行ったのなら、できれば数日は走りたい。ところが仕事をしていれば、長い休みを取るのは簡単ではありません。家庭があれば、なおさらでしょう。
「仕事が落ち着いたら」
「子どもが大きくなったら」
「もう少しお金が貯まったら」
「いつか時間ができたら」
そう思っているうちに、時間は、あっという間に過ぎていきます。
そして、その間に自分の環境も変わっていく。
仕事も変わる。
家族も変わる。
体力だって変わる。
バイクとの付き合い方も変わるでしょう。
すべての条件が完璧にそろう日を待っていたら、「いつか」はいつまでも来ないのかもしれません。
行けるうちに、行っておこう!
北海道全部を一度に回る必要なんてありません。
完璧な旅じゃなくてもいい。
雨に降られるかもしれない。
予定どおりに進まないかもしれない。
食べたかった店が休みかもしれない。
それでも、行ったからこそ見える景色があります。
「いつか北海道をバイクで走ってみたい」
そう思っていて、もし今、そのための時間を作れるのなら。
行けるうちに、行っておこう!
今年の夏は、まだ終わっていないのだから。

