3月23日に発表されたばかりのヤマハの二輪車用ステアリングサポートシステム「Electric Power Steering(EPS)」を実装したワークスモトクロッサーが、東京モーターサイクルショーに展示された。なにをどうサポートし、ライダーにどんなメリットがあるのか、市販車にも装備されるのか? そんな疑問をMCショー現地で開発者に聞いてみた!
●文:ヤングマシン編集部(伊藤康司) ●写真: ヤングマシン編集部 ●外部リンク:ヤマハ
ネガティブ、アクティブ、両方のシーンでライダーを自然にアシスト
EPSの開発を担当したMS統括部MS戦略部レース支援グループ主査の澁谷悠さん。
ヤマハが独自に開発した『Electric Power Steering(EPS)』。直訳すれば「電気式パワーステアリング」となるが、同名の装置はすでに四輪車では実用化されているし、そもそもバイクは押し引きや極低速時を除けばハンドルを切って曲がる乗り物ではない。するとイメージするのが電子制御式ステアリングダンパーだが、それも既出の技術だ。
そこで開発を担当したヤマハの澁谷悠さんに、EPSとは何か? を直球で質問すると「ライダーの意思を汲みとってサポートするシステム」との答えが返ってきた。ステアリングステム部に備えた磁歪式センサー(電動アシスト自転車で実績のあるヤマハならではの技術)でハンドルへの外乱やライダーの操作を検出し、電気式アクチュエータでステアリングダンパーとしての機能と、パワーステアリング的なアシスト機能を発揮するという。
EPSを実装するのは、ダートコースを走るモトクロッサー。荒れた路面やギャップ、石などに前輪を取られたりはじかれるような外乱に対し、ステアリングダンパーとして機能。またコーナーでわだちに入った時などには、ライダーが行きたい方に向かうためにハンドルを保持・コントロールする力をEPSがアシストする。狙ったラインを取りやすくなるのはもちろん、長丁場のレースでも腕があがらず疲れにくくなるのだ。簡単に言えば、突然ハンドルが取られるような「ネガティブ」なシーンではステアリングダンパーになり、積極的に攻める「ポジティブ」なシーンではパワーステアリングになるわけだ。
とはいえ、なぜ一番最初にワークスモトクロッサーにEPSを搭載したのか?
「モトクロスコースは様々なシチュエーションが存在し、そこを非常に敏感なプロライダーが走るので、EPSの効果をしっかり検証し、大量のデータを短い期間で取得できるからです。それに過酷な環境なので、耐久性や信頼性もテストできます。EPSにはワークスマシンとしてライダーに合わせて専用のチューニングを施しています」。これは昔から“レースは最高の実験室”と言われているので納得できる。とはいえ本格モトクロスレースに役立つとしても、一般ライダーの使用状況とは大きく異なるように感じる。はたして公道(街乗りやツーリング)でも、EPSのメリットはあるのだろうか?
「たとえば道路脇のコンビニに入る時など、ハンドルを切りながら路肩の段差を越えたりしますよね。そんな時にハンドルが揺れるのを抑えながら意図した方向に不安なく進めます。またツーリングで長時間走り続けた時の疲労度も変わると思います。EPSは自立運転するモトボットやクルマでいうところの自動運転とは異なり、あくまで支援技術。『操るのは人間』という大前提の下で開発しています。だから特に市販車の場合は、EPSが作動していることを気づかせずに『このバイク、怖くないな、疲れないな』と思って乗ってもらえることが目標です」と澁谷さん。
ちなみに東京モーターサイクルショーで展示されたYZF450FMは、EPSを装備していることを意識して見なければ、装置の存在に気づかないほどコンパクトだ。モトクロッサーが軽量・コンパクトこだわるのは当然だが、これも様々な車種に装備しやすいよう、市販化を目指しているからに他ならない。
「すでにレースに投入できるだけの完成度を持っていますから!」。そんな自信ある言葉から、市販バイクに装備される日は近いかもしれない。このEPSの様なサポートシステムが、(ライダーは気づかなくても)バイクライフの安心や快適度を高めてくれることは間違いない。
装備に気づかないほどコンパクト!
東京モーターサイクルショーでヤマハブースに展示されたYAMAHA FACTORY RACING TEAMのYZF450FMは、2022年シーズン全日本モトクロス選手権に参戦(♯2 富田俊樹選手)。EPSシステムのセンサーやアクチュエータはフロントゼッケンの内側、メインフレームのステアリングステムに装備され、非常にコンパクト。このサイズ感なら多様な市販バイクに重量やデザインの制限なく装備可能だろう。
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