5月31日、ホンダ創業者の出身地である浜松市天竜区の「本田宗一郎ものづくり伝承館」にて、「ホンダ学園 Cubチャレンジ 浜松・天竜 交流&報告会」(以降、報告会)が開催されました。前編では報告会の模様を、後編では学生たちが巡った浜松市内の本田宗一郎氏ゆかりの地について紹介します。

ホンダ学園と「Cubチャレンジ」とは?

▲報告会の会場となった「本田宗一郎ものづくり伝承館」(入館無料、10:00~16:30、月・火曜休 ※祝日なら開館し水曜休館)

 

報告会をレポートする前に「ホンダ学園」について説明しておきましょう。学校法人ホンダ学園は本田宗一郎氏が1976年に設立した自動車整備士やエンジニアを育成する自動車大学校で、関東校と関西校の2つのキャンパスがあります。

Cubチャレンジはホンダ学園創立50周年を記念したチャレンジ企画の第2弾で、両校の学生たちがそれぞれに初代スーパーカブをレストアして日本全国を行脚、走破するというプロジェクト。

その目的は歴史的名車のレストアを通して学生の技術力を向上すること、行脚先の人々とのふれあいを通じて人間力を向上すること、さらには応援してくれる方々へ感謝を伝えることです。

▲ホンダ学園の関東校「ホンダテクニカルカレッジ関東」の校舎。関西校は「ホンダテクニカルカレッジ関西」

報告会は両校が集まった合同イベント

▲ スーパーカブC100(1958年式)のレストアには2つのテーマが設けられ、工場出荷時の状態に近づけたのが「リボーン号」、錆や退色など当時の使用感(やれ感)を再現したのが「ビンテージ号」とされました。右から関東校のビンテージ号、リボーン号、関西校のリボーン号、ビンテージ号。※関西校のリボーン号のみ1961年式スーパーカブC105

 

4月下旬、両校の学生たちはそれぞれに全国行脚をスタートしました。全国12のラウンドを両校で分担し、分割日本一周のように各ラウンドを数日で終えては学校に戻り、また出発するという形で進めています。

関東校(埼玉県ふじみ野市)は同じ県内の秩父地域から、関西校(大阪府大阪狭山市)は和歌山・奈良エリアから始められ、今年9月までの走行が計画されています。

行脚先でカブを走らせるのはサポート役も務めているホンダ学園の卒業生たちで、旅の途中では各地の観光名所やホンダのカーディーラー(卒業生の就職先でもある)なども訪問し、現地の方々やOBらと交流を深めています。

今回の報告会はこの旅のちょうど中間点に当たり、両校の学生や先生・スタッフが本田宗一郎ものづくり伝承館に集まってイベントを行うほか、市内に点在する本田宗一郎氏ゆかりの地をレストアカブ4台でツーリングしようというものです。

レストアすることの大変さと人生の学び

▲報告会でのメインイベントのひとつ、両校の学生が登壇してのトークショーの様子

 

報告会は、Cubチャレンジの紹介、学生を交えたトークショー、ホンダOBによるレストアカブの完成検査、エンジン始動のデモンストレーションといった内容です。当日はさわやかな晴天となり、伝承館前の特設ステージには多くのカブ愛好家や地域の方々が観覧に訪れました。

●開会の辞で挨拶をしたホンダ学園・高橋常務理事

「レストアの過程では予期せぬトラブルが出るなどその道のりは平たんではありませんでしたが、そのたびに学生たちは立ち止まり、考え、仲間と支え合いながら前へ進んできました。この経験こそが大きな価値だと思います。彼らが得たのは単なる技術ではなくあきらめずにやり抜くことへの自信と挑戦し続ける力です」

 

学生トークショーには関東・関西の両校から2名ずつが登壇してプロジェクトに参加した動機やレストア作業で苦労した点などが語られました。また生徒と一緒にレストア作業を指導・担当してくれた両校の先生がたも感想を述べました。

●関西校のビンテージ号を担当した宮本さん

「(ボロボロのカブを見て)4月までに完成するんかなと…。正直ちょっと途中であきらめそうになりました(笑)。エンジン系を担当したんですが一番難しかったのはオイル漏れを直すところで、新しいガスケットを組んでもまた漏れてきて難しかったですね」

 

●関東校のリボーン号を担当した橋本さん

「関西校と同じようにリボーン号は見つけた時にボロボロだったので、そこからのサビ取りと下地づくりで苦労しました。夏休み明けから12月くらいまでずっとやっていたんですが、最後は塗装担当がキレイに仕上げてくれたので感謝しています」

 

橋本さんはレストア車両に試乗した際、ビンテージ号(スーパーカブC100/50cc)とリボーン号(スーパーカブC105/54cc)の排気量のわずかな違いが生み出すパワー感について「スタート直後はビンテージ号と同じでもリボーン号の高回転時の伸び方がかなり違うことが印象的でした」とエンジンフィールの違いについても語りました。

●関東校の木野内先生

「学生と同じ時間を共有して、ある時には夜の9時くらいまで手を汚しながらやったというのはすごくいい思い出になりましたし、学生たちの今後の人生を考えてもすごく大事な過程になるんじゃないかと思っています」

 

●関西校の尾崎先生

「(青色から赤色に塗りかえたリボーン号について)最初に車両を見た時は本当にサビサビで、率直に言って大丈夫かなというイメージでしたが、学生と一緒にきれいに仕上げることができて良かったです」

 

さらにCubチャレンジのロゴマークをデザインした卒業生の奥野谷(おくのや)さんも登壇しました。ロゴマークのステッカーも制作され、行脚旅の道中で配布することでプロジェクトのPRにひと役買っています。

▲ロゴマークをデザインした奥野谷さんは今年の3月にホンダ学園を卒業して本田技研工業に就職、いま研修を受けているところだそうです。今回なんと東京・江戸川区の実家からカブで自走(!)で参加、会場が沸きました

 

▲ステッカーはカブの車体カラーをモチーフに6種類つくられました。道中のスタッフに声をかければもらえますよ!

現行カブのLPL、亀水さんらが完成検査

▲組立ラインから完成検査まで、ホンダOBの皆さんが順番に並んでカブ4台を検査しました

 

トークショーの後は、ホンダのOBがレストアカブ4台の完成検査を行いました。完成検査とは組み立てライン(サブとメインの2本)のあとに行われる出荷前検査のことで、外観や動的なチェックが行われる工程です。

OBの皆さんは、実際にホンダの工場内で行われていた完成検査を再現するように以下手順で行いました。

①組立作業(サブライン)
 ↓
②組立作業(メインライン)
 ↓
③中検検査(ラインオフ前)
 ↓
④中検・完検(不具合修理)
 ↓
⑤完成検査(中検・完検・修理内容再検)
 ↓
⑥完成検査(ベンチで灯火類・制動など動的機能を確認)

組立作業では決められた時間(秒単位)の中で部品を取り付けていくそうです。組立ライン上での不具合は当然出るものと考えられていて、成績表に不具合がある場合は中検・完検の修理で直します。その後、最終的な完成検査で合格すればトラックに積み込んで出荷するという流れです。

▲1台ずつ完成検査を受けていきます。それまでニコニコしていたOBの皆さんも一転して真剣な表情に

 

両校の学生らがレストアした4台のカブもそれぞれ検査を受けました。うち3台は不具合もなく合格できましたが、関西校のビンテージ号だけはスロットルの戻りが少し悪く、エンジンのヘッドカバー部でオイルがにじんでいるなど計4点の指摘を受けて修理・再検査を受けることになりました。

総評を行ったのは現行スーパーカブの最後のLPL(開発責任者)を務め、中国製だったカブを周囲の反対を押し切って日本製に戻した亀水さんで、学生たちに社会人、技術者として生きていくうえでの薫陶を授けました。

亀水さんは穏やかな印象の方ですが、言葉の一つひとつに元ホンダ技術者としての誇りと重み、学生たちの成長への願いが込められていて、胸が熱くなるシーンでした。

●現行スーパーカブのLPL・亀水さんの総評

「68年前のバイクをここまでちゃんとやったのは素晴らしいです。自分が何かをやろうと思ったら本当にやりたいことだけをやってください。誰かに言われたからやるというのは必ず失敗します。自分の意思で仲間を集めてやりたいことをやっていく。カブは本田宗一郎という偉人がつくったものですが、必ずそれを超えられるという信念を持ち続けてください。そうすれば必ず達成できます」

 

▲握手をしたあと学生を抱きしめる亀水さん。私も思わず泣けてしまいました…

 

▲最後に両校のリーダーがそれぞれに完成検査成績書をもらって完成検査が終了しました

 

ホンダのふるさとにエンジン音が響き渡る

▲赤く塗られたリボーン号のキックペダルを踏む関西校の学生

 

報告会の最後は、レストアカブのエンジン始動で締めくくられました。1台ずつ順番にエンジンがかけられるとそのたびに会場からは拍手と歓声が上がり、4台ともに快調なエンジン音を響かせました。

また、有志により会場に展示されていた1952年のカブF型と大変貴重なカブスター(カブF型をオリジナルフレームに載せてスクーター化した車両)のエンジンもかけられ、めったに見られない車両とあって来場者の注目を集めました。

▲1952年頃に日研工業株式会社(名古屋市熱田区)が製作した緑色のボディが美しいカブスター号。現存車両はこの1台だけと言われています

 

こうして報告会は無事終了となりました。後編では、レストアカブ4台と行く浜松市内の本田宗一郎氏ゆかりのスポットを紹介いたします。お楽しみに!

 

 

 

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