その店を知ったのは、私が住む埼玉のグルメスポットを探していた時のことだ。
世にも珍しい、そば&うどんの自動販売機(?)があるという。店のたたずまいにも心惹かれた。一言で言えば「昭和」。昔ながらのゲームセンターとドライブインが合体したような店舗で、40年以上も時が止まったかのようだ。どこか、くすぐったいような懐かしさを昭和46年生まれの私は感じた。

その名もオートパーラー、40年前へイザ!

スッキリ晴れたある日の朝。気になっていたアソコに行く絶好のタイミングではないか……。私はバイクにまたがって「オートパーラー上尾」に向けて出発した。

ツーリング出発

愛車のD-トラッカーで出発(出勤前の忙しい妻に頼んで撮影)。停まっていると暑いが、走り出せばとても気分がいい。

大ケヤキ

自宅のある埼玉県川口市から上尾市へ北上。さいたま市緑区役所から北へ約3km、県道1号(第2産業道路)の中央分離帯に大木が立っている。「山崎の大ケヤキ」と呼ばれる、さいたま市の指定天然記念物だ。道路の真ん中に、わざわざ一本だけ木を残した事例は珍しいのではないだろうか? 高さは30mもあり、ここを通るたびになぜか厳粛な気持ちになる。

見沼風景

幹線道路の風景は、全国チェーンの店が並ぶ典型的な郊外のロードサイドだが、少し道を外れると、こんな景色が待っている。

一気にタイムスリップ、商談にも使える不思議スポット!

埼玉県上尾市までは、幹線道路の県道1号や国道17号をほぼ真っ直ぐ北上する単純なルート。途中、印象的な景色を撮影しながら小1時間でオートパーラー上尾に到着した!
田舎にポツンと建っているイメージだったが、かなりの都会だ。道路向かいには巨大なケーズ電気がある。

オートパーラー上尾

なんともシブイ外観の「オートパーラー上尾」(埼玉県上尾市久保70-2)。道路側の看板は新しいものの、建物のピンクは色褪せており年季を感じさせる。

オートパーラー入り口

入口のトビラは開いているが、何やら暗い。営業しているのか?



ネットで調べたところ「24時間営業」のハズなのに、店内は暗い。「またやっちゃったか?」と一人呟く。というのも、自分は“引き”が弱く、開いているハズの店に行っても「臨時休業」の札が架かっている、なんてケースが多い。
恐る恐る入ってみると、薄暗いが、何台かのゲーム機が光と音を放っている。どうやら営業中のようだ。薄暗いのは、奥の方だけまばらに蛍光灯が点いているのが理由だった。

オートパーラー店内

店内は結構広く、古いゲーム機がズラリと並ぶ。一気にタイムスリップした気分。ただし稼動しているゲーム機はごく少数だ。


ウロウロすると、左奧に自販機とテーブルのあるスペースを発見。おや、先客がいらっしゃる! ビジネスマンらしき方が向かい合って、何やら商談している雰囲気だ。
貸し切りだろうと思っていたのだが意外や意外(取材日は平日)。地元ではビジネスの社交場として認知されているのか? 凄いぞオートパーラー!

食事スペース

店内の一角にある食事スペースでは、先客が商談中? テーブルは4つある。左手にトースト、正面にそば&うどんの自販機が鎮座。写真では明るく見えるが、灯りは最小限だ。

「電気代がかかるんです!」 偶然、店の方に遭遇

私がイスに座って数分もすると商談は終了。若いスーツ姿の男は店を後にする。残ったのは70歳ぐらいと見受けられる白髪の男性だ。
もしや? と思い、「お店の方ですか?」と声をかけると、「そうです」との返答。
あまりの幸運に気が動転してしまったが、少しお話を聞くことができた。
現在は24時間営業ではなく、人がいれば午前4時ぐらいまでやることもあるが、いなければ午前0時ごろ閉めてしまうという(判断は従業員に任せているようだ)。
「電気代がかかるからね」とのこと。

ゲーム機のほとんどは電源が入っていないが、動くのかどうか伺ったところ、「言ってくれればできるものはできる」との御回答。これも「電気代がバカにならない」のが理由だそうで、トースト自販機の隣におかしの自販機もあったが、これも「売れないし、電気代がかかるから今は止めてる」とのことだった。

もっとお話を聞きたかったが、ここで店の方は奥へ。
さて、ようやくメシだ。自販機では、そばとうどんが選べるが、埼玉名物の一つが「うどん」らしいので、うどん一択だ。

うどん自販機

これがそば&うどんの自販機。映画『トラック野郎』にも登場していたとか。左横はカップ麺の販売機で、日清カップヌードルが180円と定価で販売されていた。


おカネを投入しようとしたら、「500円玉は使えません」との張り紙が。まさか500円玉が登場する前のマシーンなのか……? ならば、1982年(昭和57年)以前に製造されたことになる。
って、あいにく500円玉しかないヨ! 横にあるジュースの自販機を見ると、コッチは500円玉が使えるので一安心。アレ? 瓶コーラがあると聞いていたのだが、缶しかない。代わりにHI-Cの瓶があったので購入。コレまた懐かしいな! まだ売ってるんだ、と感動。

HI-Cと栓抜き

瓶ジュース。ホントは瓶コーラが飲みたかったがナシ。備え付けの栓抜きがまたカンロクあり!


無事両替できたので、ようやくうどんを購入だ。料金を投入し、待つこと約25秒。取り出し口を開けると……おお、カップに入ったうどんが!

投入口

料金はうどんもそばも250円。500円玉は使えません!

 

ニキシー管

“ニキシー管”と呼ばれる放電管を使ったカウントダウンがたまらない。自販機の仕組みは、麺と具が入ったカップが中に並べられ、オカネを投入するとお湯が注入。カップを中で回転させ湯切りしてから、スープが投入されるというハイテクだ!

 

うどん取り出し口

取り出し口にうどんが登場! 「このフラッパーには、絶対にさわらないで下さい」と書いてある。私が買った後、うどんは売り切れになっていた。ラッキー。

 

うどん

本日の朝食。わりばしと唐辛子は自販機本体に内蔵されていた。一説によると、麺は手作りらしい。

うずらの玉子もコンニチワ、想像以上にウマい

よくかきまぜてからパクリ。麺はソフトだけど、コシが残っていてなかなかイケる。スープはハッキリ言って濃い、濃ゆい。甘みもあって塩辛くはないが、オッサンの私が飲み干すのはちょっとキビシイ。
天ぷらは冷め切ってシナシナだったけど、スープを染み込ませてクタクタにすれば悪くない。食べ進むと、カップの底からわかめとウズラの玉子が登場し、思わずリッチな気分に。これはニクい仕掛けだ。いや、想像していたよりずっと美味い。

うずらとうどん

カップの底から、隠しキャラのうずらとわかめが登場!

 


調子に乗って、トースト自販機にもチャレンジしてみた。これもレトロだなぁ。しかしコンビーフは珍しい。一説では、全国で唯一とか。
オカネを入れて1分程度すると、ガコンと大きな音がして、アルミホイルに包まれたトーストが出てくる。

トースト自販機

トースト料金

チーズハムとコンビーフの2種類。200円とこれまた安い。コンビーフは珍しい!

 

トースト

なぜかマジックでマルが。コンビーフとチーズハムを見分ける目印? 出来立てでアツいが、親切にアルミの耳がついていて、持ちやすい。

 

コンビーフサンド

コンビーフがしっかり詰まっている。トーストも手作りのようだ。


カリカリで、中にコンビーフがみっちり。マーガリンと若干からしの風味があって、これもウマイ。
それにしても……店内は暑い。エアコンはあるけど、稼動していないのだ。やはり電気代が問題なのだろう。

食器置き場に、食べ終えたカップなどを片づける。先客が2人いたようで、なんとスープを完食(飲)していた。オートパーラーの上級者、黒帯に違いない。

ストリートファイターⅡ

食べ終えたので店内をうろつく。「SUPERストリートファイターⅡ」をプレイしてみた。SUPERが付かないストファイⅡは昔よくやったが、これは初めて。キャラはチュンリーを選択。おっと……ストレート負けだぁ!

 

ゲーム機

アーケード格闘ゲームやテトリスのほか、マージャンやパチンコ、メダルゲームなど昔懐かしいゲームが70機ぐらい並んでいる。だが、稼動しているのはごくわずかだ。

 

UFOキャッチャー

UFOキャッチャー。ツッコミどころ満載だが、とにかくシュールだ!

 

両替機

実は自動両替機が別の場所にあったのでした。なんとタッチパネル採用。この両替機が店内で一番最新かも?

消えゆく時代の子守唄、ちょっぴり切ない

ビジネスマンが帰った後はずっと貸し切り状態だった。腹が満たされ、ボーッと座っていると、薄暗い空間に遠くからゲーム機の電子音がこだまする。何とも落ち着く空間だが、気温が上がって暑いので長居する気になれず、帰路についた。

もし昭和時代に私が地元のツッパリ君だったら、入り浸っていただろうなぁ。うらぶれていはいるけど、それほど自由で開放的な空間だ。しかし、昭和から平成、令和へと時代は移り変わった。時を止めた店の弱い灯火は時代の風にさらされ、消え入りそうなところをぎりぎり踏み止まっている気配があった。現に、同じく埼玉県の行田市にあったオートレストラン「鉄剣タロー」が前年に閉店したという。
商売は厳しいと思うが、少しでも長く続けて欲しいと願うばかりだ。

帰路

帰路。強烈なノスタルジーに身を焦がしながら国道17号線を南進する。無性にファミコンやりてぇ!(笑)


帰りに、国道17号沿いにある大宮市場の横を通った際、「旨辛肉汁うどん」なるカンバンが目に入った。自販機のうどんより間違いなく美味に違いない。だが、あの何とも言えない雰囲気込みの味はオートパーラーにしか存在しないよな、と思った。

 

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