酷道・旧道といったちょっと険しい道を探検するのが大好きな筆者。(酷道とは、国道なのに道幅が狭かったり荒れていたりと酷い道のこと)
これまでは小心者…いや、慎重な性格であったことから、小型バイク「クロスカブ110」で行くようにしていました。
でもね、ちょっとだけ魔が差しちゃったんです。
「大型バイクで酷道を走ったら、もっとドキドキするような冒険感が楽しめちゃうんじゃないの…!?」
ってなワケで、筆者の所有する大型バイク「ヴェルシス650」に乗って挑戦してみることにしました。
目的地は国道429号。岡山県倉敷市から京都府福知山市を通る道で、今回は岡山―兵庫県境の区間をちょこっとだけ走る「おためし」的なノリです。
果たして無事に県境を越えることはできるのでしょうか?
そして何より、ドキドキの酷道ツーリングを楽しむことはできるのでしょうかっ!?
さっそくですが…寄り道します!
スタート地点はコチラ、兵庫県朝来市にある生野ダムです。
この日は雲ひとつない空が広がるツーリング日和。陽の光に照らされたダムの水が、透明感のある深緑色にキラキラ光っています。
生野ダムは429号沿い、酷道区間で一番激しいと言われている京都―兵庫県境『榎峠(えのきとうげ)』の東側にあります。
本来ならそちらも走破すべきなのかもしれませんが、今回は練習ということでパス。
「それならもっと西側からスタートした方が楽なんじゃないの?」と思う方もいるかもしれませんが、もちろん生野ダムをスタート地点に選んだのには理由があるのです。
…ということで、まだまだ穏やかな2車線道である429号を、東へ向かって走ることわずか3km。
やって来たのは…『生野銀山』です!
生野銀山とは、平安時代から昭和にかけて銀・銅などを算出してきた日本有数の銀山。1973年に閉山した後は観光客向けに史跡が開放され、当時の採掘現場を見学することができるのです。
そしてもうひとつ面白いのが、坑内で採掘現場を再現する人形すべてに名前が付けられており、彼らは鉱山=地下で活動することから、日本初の「超スーパー地下アイドル」、その名も『GINZAN BOYZ(銀山ボーイズ)』として活動をしているのです!
えぇっ、銀山に展示された人形がアイドル? なんで?? どうやって!?!?
銀山×地下アイドルだなんて、珍スポット好きとしては行くしかありません。入場料600円を支払って、レッツゴ~~っ!!!!
超地下アイドルと銀山の世界
入場口から20歩ほど歩いたところで、早速一人目のアイドル(?)と出会いました。
江戸時代末期に手彫りで掘られた洞窟の前で、岩に杭を打っている男性。
えっと…彼の名前は………
「次郎羅茂(じろうらも)! あなた、じろうらもっていうのね!!」
彼は暗い洞窟内での作業に耐えられず、露天掘り(山の外側からの採掘)職人になったのだとか。常にフォトジェニックなポーズを意識しているという可愛い一面を持っています。
その後も全長約1kmの坑道を歩く中で一人一人チェックしていきましたが、噂通り、作業をする人形(アイドル)たちには一人残らず名前・性格といったプロフィールが設定されていたのでした。
例えば、トロッコを運転する彼は駆(かける)くん。トロッコは安全運転なのに、プライベートではスピード狂のドリフト族という意外な一面を持っているのだそう。
そして手作業で採掘しているこの男女は、的外れな鉱脈を掘るおとぼけキャラのひさしと、7人姉妹の長女で一家の生計を支える苦労人あやこ。
はじめは「ノリで設定したのかな?」と軽い気持ちでチェックしていたのですが、こんな調子で細かくプロフィールが設定されているのだから、「これは本気や…!」と驚かずにはいられませんでした。
全員分のプロフィールが書かれたチラシは受付でゲットできます。
過去には総選挙を行い、選抜メンバーでオリジナルソングをリリースしたこともあるという銀山ボーイズ。これからの活動も目が離せません!
──さて、アイドルに気を取られてしまいましたが、もちろん銀山の史跡自体も学びになることばかり。内部には観光用にコンクリート敷のトンネルが整備され、安全に歩けるよう照明も設置されています。
平日に訪れたため筆者の他に観光客はおらず、時折地下水が「ポチャン」と落ちたり、鑿(のみ)を振るアイドルたちから「ウイーン」という機械音が聴こえる以外は、自分の足音が響くのみ。
現実世界と切り離されたような世界観が不気味に見え、平均気温13度というヒンヤリした空間も合わさって、鳥肌が立ってブルッと震えてしまいました。
坑内はほとんどのエリアが素掘りトンネルで、壁と天井は岩が剥き出し。それだけでも迫力があるのですが、通路の他に「狸掘」という、もともと作業員たちが使っていた細い通路を覗けるスポットもありました。
狸掘は大人が屈んでようやく進めるぐらいの細長い道。作業員たちはランプひとつでこの中を掘り進めたというのだから、その胆力には驚かざるを得ません。
その上銀山では粉塵・鉛中毒といった健康被害があったと言われています。最大3000名が働いていたと伝えられる、生野銀山。今はまぶしく輝くアイドル達ですが、現実には厳しい労働環境の中働いていたのでしょう。
──と、その時です。誰かの視線を感じたような気がして、ふっと視線を向けると…
筆者が登っていたハシゴを下から覗き込むように、いつの間にか追いついていた男性観光客がこちらを見ていたのです。
「っぎゃあああぁぁぁ~~~~っ!!!!」
こんなに大きい声を出したのは何年ぶりだろう? それぐらいに腹の底から絶叫してしまいました。
後ろから歩いてきて「このハシゴはなんだろう?」と思って覗き込んだら偶然筆者がいただけのようですが、音もなく気が付けば下に立っている様子が、まさにオバケのよう。
幸いハシゴから転がり落ちることもなく、筆者が叫んだ後も数秒間無言で見つめ合う二人。
彼が人間だと気が付いてからは急に恥ずかしくなり、「すっ、すみませんでした…」と小声で伝えるのが精いっぱいだったのでした。
そんな出来事があったものだから、トンネルの出口が見えた時は心の底からホッとしました。
その後周辺を散歩すると、少し離れた場所にも別のトンネル・レールとトロッコ本体が残されているのを発見しました。
重い鉱物を運ぶために必須だったトロッコ。真っ暗で何も見えない先までずっと続くレールを眺めていると、ふと、向こう側からガタンゴトンと忙しそうに働くトロッコと人々の気配が感じられたような気がしたのでした。
大型バイクで酷道に初挑戦
想像以上に生野銀山を真剣に見てしまい、気が付けば時刻は15時過ぎ。このまま際限なくのんびりしてしまうと、峠越えの頃には陽が落ちてしまいます。
「ヤバいヤバい!!」
慌ててヴェルシスに飛び乗って生野銀山を出発します。そういえば、そうだ。今日の一番の目的は国道429号なんだった!
…ところが、走り始めてすぐに選鉱施設の遺構である『神子畑選鉱場跡』の横を通り、中を見たい気持ちが抑えられずに思わず停車。
そう、生野銀山の他にも朝来市には鉱山関連の施設がたくさん残されており、市内を回るだけでも1日観光できるほど。トロッコ軌道跡が残る生野町の風景や、外国人居住施設や事務所として使われた『ムーセ旧居』など、当時の人々の生活を垣間見れるようなスポットもたくさんありますよ。
…なんて、いけないいけない。のんびり観光をしている時間はもう残されていないんでした!
神子畑選鉱場跡を通り過ぎた後、429号は一旦山の中へ。酷道というほどの酷さはありませんが、3kmほどの峠道へと入りました。
2車線道で路面もそこそこキレイ、まったく問題なく走れるはずのコンディションのはずですが、意外にも苦しめられたのが、スピード抑制のために設置されたハンプ(凸部)でした。
ほどよい距離の峠道なので、かつてはローリングして攻めるライダーやドライバーが多かったのかもしれません。多い場所では約10mごと、カーブの前後でも容赦なく設置されているため、ホニャホニャと車体が上下して接地感を感じにくいことこの上ありません。
「うへぇ」とウンザリしながら山を下り、10kmほど人里を走ったところで…ようやくお目当ての場所が近付いてきました。
道路わきの看板に書かれていたのは「この先高野峠 幅員狭小 大型車通行不能」。ということは、この先に酷道が待ち受けているってコトなのです!
時刻は16時半、ずいぶん遅くなりましたがここからが本番です。グリップを握る手に少し汗が浮かび、身体が若干こわばっているのが自分でもわかります。覚悟はしてきたつもりだけど、目の前にするとやはり緊張してきました!
いよいよ1車線分に道が狭まったら、酷道区間・高野峠のスタート地点です。
ヴェルシスに乗り始めて4年、これまで避けてきたソロ酷道。車両自体は十分乗り慣れているはずだから、あとは気持ちの問題のハズです。負けるな自分、がんばれ自分、奮い立たせていざ突入です!
はじめのうちは「あれっ?」と拍子抜けするほどのイージーモード。
路面は舗装したてで滑らか、穏やかな上り坂は見通しがよく砂利・落ち葉もありません。ただ狭いだけでなんてことはない道です。
ところが500mほど進むと周囲の木々が鬱蒼とし、徐々に路面も荒れ始めました。
さらに500m進めば、もう立派な酷道です。ツギハギだらけの路面には苔が生え、停車もできないような狭いカーブの上り坂が続き、路肩は湧き水や落ち葉で埋まっています。
「国道なのに現役の林道が脇に伸びている」と言ったら、どれほど山深い場所に来たかが伝わるハズ。
そんな中を走行しながら、願うことはただひとつ「対向車が来ませんように…」。走り続けさえすれば転倒することはありませんが、やはり危険なのは咄嗟の瞬間です。
ビックリしてブレーキを強く握ってしまうと、バランスを失って重い車体を支えきれなくなるかもしれません。常に「反対から車が向かってくるかも」という “かもしれない運転” をし続け、余裕を持って停まることを頭の中でシミュレーションしていたのでした。
こんな緊張感で張り詰めていたのは、高野峠の前半部分。後半になると荒道に慣れ始め、筆者的には苦手意識の少ない下り道へと突入したこともあって、初めの頃のような焦りはなくなっていました。(上り坂では思っているよりもブレーキが強く効いてしまい、スムーズな停車が難しいことから苦手意識があるのです…)
最後は「これでもか!」というほどグニャリと曲がったワインディング。丁寧にブレーキをかけてお尻を少し後ろにズラし、旋回する飛行機のような優雅な気持ちでゆっくりとコーナーをクリアします。
うん、思っていたより路面も汚くない。これなら無事に下山できそうです。よかったぁ~~っ!
峠道を抜けて民家が見えた時には、バイク乗りとして一皮むけたような気分。晴れやかにゴールをすることができました!
当たり前のことかもしれませんが、やっぱり「怖い」と思うからこそ身体に力が入ってしまい、本当に怖い経験をしてしまうんですね。運転に油断は禁物ですが、必要以上に緊張せず、常に心の余裕を持って走るのがベストだと実感できた酷道ツーリングでした。
モンゴルディナーをいただきます!
高野峠を走っているうちに県境を越えて、岡山県に入りました。最後に夕ご飯を食べに来たのは、前から筆者が気になっていたモンゴル料理店『ジンギスカン焼肉 友家』です!
友家はモンゴル人の方が経営をされていて、テレビに何度も登場したことから岡山県では有名店です。
特に珍しいのが、モンゴル遊牧民の使用する伝統的なテント『ゲル』が3棟も設置されているところ。予約をすれば、現地さながらゲルの中でジンギスカンなどの食事をとれるのだそう。
今回は一人だったため店内での食事にしましたが、バイクとゲルを並べての記念写真に大はしゃぎ! まるでモンゴルツーリングに来たみたいです!!
入り口の前には羊を丸焼きできるという本物の窯も置かれ、入店前から非日常感が満載。酷道ツーリングの疲れも吹き飛ぶほどにテンションが一気にあがっちゃいました!
ここまで聞くと、上級者向けでハードルが高そうな店に思われるかもしれませんが、友家では本格的なモンゴル料理はもちろん、中華料理・焼肉など、日本人の好みに合わせた料理も提供されています。この日もファミリー層・近所のおじ様の飲み会・若いお一人様の男性など、様々なお客さんが食事を楽しんでいました。
「せっかくだから本場っぽいモンゴル料理が食べてみたい!」ということで筆者が注文したのは、モンゴル風薬膳火鍋と羊肉の串焼きです。
火鍋はラーメンまたはライスとセットで税込950円、串焼きは1本税込180円。配膳された瞬間からスパイスの香りが漂って異国感満載、ボリュームも満点です。おまけに火鍋は固形燃料で温められているので、出来立てアツアツの美味しさがずっと楽しめました。
まずは串焼きからいただきます!
脂身の少ない肉が金属製の串に刺されています。焦げや香りに直火っぽい雰囲気を感じることから、もしかして窯で焼いているのでしょうか…?
カレーのような味付けなのですが、(たぶん)ターメリックが入っていなくて爽やか。塩味がピリッと鋭く効いていて、羊肉の甘い脂とよく合っています。
柔らかい肉質で、噛めば噛むほどに美味しいっ!ビールが飲みたいぃぃっっ!!!! 2本ともペロッと食べてしまいました。
続いては火鍋。実は普段から中国風の火鍋をよく食べている筆者。モンゴルと中国ではどのような違いがあるのでしょうか?
口に運んでみると…カレーと中国風火鍋を合わせたような味で、思いのほか花椒が少なく辛さは控えめ。見た目のガッツリ感に似合わず、サッパリとした味付けです。
ひょっとして…大昔に中国やインドから伝わって来たスパイスとレシピから発展した料理なのでしょうか? 中国の火鍋とインドのカレー、気のせいかもしれませんが、火鍋を通してシルクロードの道筋が垣間見えたような気がしました。
具材は肉・白菜・小松菜・湯葉・きのこ・ウインナーなど。
お肉はスジ肉でしょうか。トロッとしてスープがよくしみ込んで旨みがあります。
…それにしても、不思議なのがこのスープの旨み。薬膳っぽい複雑な味であることはわかるのですが、日本人である筆者には何の出汁かまったくわからないのです。こ、これは異文化だぁ〜〜!!
最後はラーメンを追加して、締めをいただきます!
ツルッとした中華麺にスープがほどよく絡み、もうすぐお腹がいっぱいなのに箸が進みます。しかも「薬膳=身体にいい」という思い込みかもしれませんが、みるみるうちに体力が回復していくような気がするのです。
まさにツーリング後の食事にピッタリ。一気に元気になりました!
おかげで食後のホテルへの道中もやる気100倍。真っ暗な中で狭い道が続いたため気を使う必要がありましたが、無事故・無転倒で最後まで走ることができましたよ!
生野銀山・国道429号・モンゴル料理と、カオスな非日常的スポットを巡った今回のツーリング。無事に1日を終えられたことで、筆者とヴェルシスの絆も一段と深まったように感じたのでした。
きっとこれからは酷道も怖くない。ちょっとずつですが、大型バイク酷道チャレンジを進めていこうと思います!