カリブ・ラテンアメリカのムード強まる
街の様相は南下する次第に、カリブ・ラテンアメリカの香りが強くなってきます。歴史を紐解けば、フロリダはそもそも「French and Indian War/フレンチ・アンド・インディアン戦争」(1754〜63年)までスペインの統治下にありました。
キューバ革命(1953年)以来、中南米から移民や難民が押し寄せるなど、建築物や音楽、フード、葉巻などの嗜好品などカルチャーをはじめ、潮騒を感じる湿った空気と強い日射しも中南米に近いものがあります。
こんにちは、青木タカオです。前回から、アメリカ本土最南端「Key West/キーウエスト」を目指すフロリダ半島一周ツーリングのレポートをスタートしました。今回はその第2話となります。
10年ほど前、ハーレーダビッドソンジャパンのご協力をいただいたもと、本国現地ディーラーであるオーランド・ハーレーダビッドソンにて車両をレンタルし、出発しました。
専門誌や一般大衆メディア、H.O.G.(ハーレーダビッドソン・オーナーズ・グループ)会報誌、WEBを含めてさまざまなメディアに寄稿するため、撮影をしながらのツーリングでした。
デビューしたばかりのブレイクアウト
どんなモデルで走ったのか、今回から少しずつ紹介していこうと思っています。いずれも2014年式で、当時の注目株のひとつが『FXSBブレイクアウト』でした。
ブレイクアウトはデビューしたばかりの新型で、前年(2013年式)に『FXSBSE CVOブレイクアウト』が登場。流麗なロー&ロングスタイルに、フロント21/リア18インチの足まわりを組み合わせ、後輪には240mmのワイドタイヤを履き、迫力のテールエンドを演出しています。
心臓部はこの頃、本国仕様では一足先にツインカム103B(排気量1689cc)が積まれ、日本仕様ではまだツインカム96B(排気量1584cc)。
広大なアメリカを走ると、ゆったりとクルージングするのを得意とするロングストローク設計の大排気量Vツインが、より味わい深く、その魅力を存分に味わえるのでした。
まさにライダーズパラダイス!
42の島々に橋を架け、その名の通り海上を駆け抜けるルートとなっている「Overseas Highway/オーバーシーズ・ハイウェイ」。フロリダツーリングのハイライトのひとつですが、その距離なんと181.9kmと長い。
ハイライトって、悲しいかな一瞬だったりしがちですよね。たとえばオフロードを求めて、高速道路を走ってお目当ての林道にようやくたどり着いたものの、ダートはわずか数キロしかなかったとか、絶景ルートと聞いて行ったら、たしかに素晴らしい眺望だったが、その区間はほんの少しだったとか……。
アメリカはダイナミックで、ケチケチしません。オーバーシーズハイウェイもまた、ずっとずっと海の上を走っている。さまざまな映画やCMにも登場しているセブンマイルブリッジを経て、フロリダ特有のマリンブルーの空と海に向かって、ひたすら走り続けます。
夢心地とはこのことを言うのでしょうか、まさにバイク乗りにとってパラダイス。アメリカって、いいや地球って、素晴らしい。心の底から、そう思えるのですっ!!
海外で味わうイチバン“先っちょ”
辿り着くのが、合衆国の最果て「SOUTHRN MOST POINT(最南端)」、ついにKey West/キーウェストです。
“最果て”
この言葉にボクらはとても弱い。オートバイに乗る人間の習性は、いろいろとあると思いますが、最北端とか最南端、つまりイチバン“先っちょ”に行きたい気持ちを我々ライダーは抑えきれません!
それは、子どもの頃から強く感じていた気がします。思い返せば、補助輪が外れたばかりの自転車で、見ず知らずの場所へとペダルを漕ぎ出した、幼い頃から抱く冒険心にそのルーツがあるように思います。
東京の下町、川の手で生まれ育ったボクは、身近に川がいくつもありました。小学生高学年になると、その上流へ意味もなく遡ってみたり、あるいは海に流れ出る結末を見たくなったりとか、その終着点であったり、始まりはどこなのかを無性に突き止めたくなるのでした。
意味なんか、ありません。何もなくたっていい。イチバン“先っちょ”がどうなっているのか、ただ見たい、ただ行きたい。ワクワクさせられる思いに駆られるのです。
海外で味わう最果ては、また格別なものでした。フロリダ・キーズ(島々)の西端に位置し、キューバまでわずか90マイル(約140km)しかありません。
合衆国本土の最南端、アメリカで最も長いルート1の始点であり終着点を示す標識もロードサイドにはありました。ここからニューヨーク、ボストンを経て、カナダとの国境沿いのメイン州フォートケントまで続くのかと思うと、それだけでまた胸がときめきます。
甘く危険な南国の夜
街はもうラテンアメリカと言えるムードで、どこからともなく中米のリズムを基調としたアフロ・キューバン・ジャズが流れ、カリビアンの美女たちが大きなお尻を揺らして闊歩しているではありませんか。
1年を通して気候が温暖で、ビーチを有し、観光・保養都市としても人気が高いのは昔から。文豪アーネスト・ヘミングウェイはこの地をこよなく愛し、目抜き通りには彼の愛した「SLOPPY JOE'S BAR」があり、ホテルにハーレーを置くと、ボクたちもまたそこでお酒を楽しみました。
南国の夜はどうしてこんなにもエキサイティングで、危ういのでしょうか。生バンドがアップテンポの曲を立て続けに演奏し、文豪が愛したバーはCLUBのようになっています。
ヘミングウェイが愛飲したというライムとグレープフルーツ、ホワイトラムをミックスしたカクテルは「ダイキリ」といい、ほどよい酸味と甘みで魅了されてやみません。
独自文化根付く街で
ラテンの言葉が飛び交うキーウエストは、アメリカであってカリブの国。そう、キーウエストはかつて“国”として独立しようとしたこともありました。
その名は「コンチ共和国」。そこには痛烈な批判精神とユーモアが込められています。
1982年4月23日、アメリカ国境警備隊と税関はこの地域の密輸業者、不法入国者らを逮捕するためルート1の途中に検問所を設けました。
島から本土を結ぶ唯一のハイウェーを遮断し、通過するクルマをすべて停車させ、麻薬等の取締りをおこなったのです。
道路は渋滞し、街は混乱、観光産業は大打撃を受けることに。そこで当時の市長と憤慨した住人がとった行動が、「コンク共和国」としてのアメリカからの独立宣言でした。
もちろん独立はできません。しかし、それ以来、キーウェストの人たちは毎年4月23日をコンク共和国独立記念日にし、およそ1週間、島を挙げてのパレードやパーティを催し、お祭り騒ぎをします。
“独立できなかった日”を記念日にしてしまうなんて、なんともユーモアたっぷり、ラテンの街ならではの陽気なジョークといえます。
そのとき、コンク共和国の国旗までつくられ、そこにある“貝”こそが、島の名物「コンク貝」です。フライにしたり、シチューにしたり、ステーキにしたりしていただきます。
この島ではとてもポピュラーな食材。貝が行き止まりの共和国を表現していたという説もあり、今なお街ではこのフラッグが誇らしげに掲げられていました。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。フロリダ半島には、まだまだハイライトがたくさんあります。次回以降もどうぞお楽しみに!!