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吸排気がスムーズだとゼッコーチョー!
バイクの吸排気系トラブルは地味に、しかし確実に進行していきます。
ふた昔以上前のように抜けの良すぎるマフラーでかえって不調となったり、シリンダーヘッドとキャブレターを連結するインシュレーター(インテークマニホールド)にヒビが入ったり……といった不具合は近ごろめっきり聞く機会も減ってきましたが、昔も今も変わらず存在するのがエアクリーナーエレメントの汚れや目詰まりですね。

●写真のGSX-R1000Rのように、200馬力に届こうかというハイパワーを引き出すにはエアマネジメントが非常に重要。走行風をダクトからエアクリーナーボックスへ導入してラム圧を発生させ、混合気を勢いよく燃焼室へと送り込む「ラムエアシステム」は、多くのスーパースポーツモデルが採用しています。とんでもない量の空気を濾過しているわけですから、エアクリーナーエレメントは小まめに点検することが不可欠ですね
空気中のゴミやホコリをエンジン内へ紛れ込ませないためのフィルターを通過する空気が、汚れの蓄積による抵抗増で大幅に減ってしまうと、燃焼のバランス(空燃比)が崩れてエンジンが思うように回らなくなったり、燃費が悪化してしまったり……。
マスクを徐々に重ねて分厚くしながらジョギングをしているようなもので、そりゃぁドンドン苦しくなっていくのは当然のことです。

●コロナ禍の収まらない世界では当たり前の姿になりつつあるマスクをしてのジョギング。当然ながら、心肺機能には相当な負担がかかります。エアクリーナーエレメントが汚れて詰まったバイクも同様……!
無意識で健康な呼吸を支える「肺胞」
幸いにして健康な人間の場合、バイクではエアクリーナーエレメントとも言える部分……大気中のゴミやホコリが肺に入ることを防ぐ鼻腔や口、気管などにある毛や粘液に包まれた粘膜が、蓄積していく異物で一杯になることはありません。適宜せきやくしゃみ、たんなどで排出されますので。
問題は気管の枝が分かれた先の先にある「肺胞(はいほう)」の不具合です。

●肺胞は何度も枝分かれした最後の気管支につながる外気と血液のガス交換を行う器官。全身から心臓の右心房に集められたヘロヘロの静脈血が右心室から肺へ送り出され、この肺胞を通過することでガス交換を実施。赤血球のヘモグロビンがガッツリ酸素を抱え込み、37兆個の細胞へ向けて拍出される動脈血へ変貌するのです
まだ平気、まだ平気、まだ平気……
3億個から6億個はあるとされる、血液とガス交換(酸素を渡して二酸化炭素を受け取る)をする場所ではありますが、大量に壊れていってしまうと言うまでもなく体全体に酸素が行き渡りづらくなり、安静にしているときでさえ息苦しくなっていくのです。なお、一度破壊された肺胞は再生しません。
……例えば物心ついたとき手元に6億円あったお金。最初のうちは度重なる散財をしても痛くもかゆくもありませんが、長い年月が経てば湯水のように使い続けた人と最低限の出費で頑張ってきた人との差は驚くほど大きなものとなります。

●6億円もあれば、そりゃぁ幸せが永遠に続くような気にもなります。でも、宝くじの高額当選者で、仕事を辞めたり豪遊したりと浮かれたパターンに陥った人は、たった数年で落ちぶれていく例も少なくないのだとか……。私も当たったら気をつけます

●お金の問題なら、また宝くじが当たることもあるでしょうし、再び働き出せば収入を得ることができます。しかし、肺胞は一度完全に壊れてしまうと機能は再生しません。肺胞再生の切り札ともされるiPS細胞へ望みを掛ける前に「まず壊さない」という選択をいたしましょう
怖いのは前者が「アレ、何だか苦しいぞ」と気付いたときに、もうどうしようもないということ。
いつかは簡単に再生できる……!?
お察しのとおり、ここで言うお金は肺胞を比喩したものですけれど、そちらをガツンと減らす“散財”とはズバリ、タバコのことです。嗜好品ですし、日本は自己責任の国(!?)ですから吸う吸わないはアナタの自由……なのですけれど、120歳現役ライダーを目指すのであれば、今この瞬間から禁煙することをオススメいたします。
その害についての詳細をここで列記することはいたしません。少し検索すればいくらでも出てきますので……。ただ、「どうせ禁煙しても肺が元に戻らないなら吸い続けるぞぉ」と開き直るのも早計です。吸わない期間が長くなればなるほど、肺がんの発症率が吸わない人の数値に近づいていくという研究結果も出ているのですから。
デタラメになっていた空燃比が適切な割合に戻って、気持ちよくエンジンが吹け上がるような快感を自分の体でも体感いたしましょう!

●エンジンの求める理想的な混合気が滞りなく供給され、燃焼後はスムーズに排出される……。それら一連の流れに問題がないバイクは操っていて本当に気持ちのいいものです!
もちろん、非喫煙者でも油断は禁物
なお、たとえタバコを吸わない人でも生活をしていくなかで肺をおかしくしてしまうことは少なくありません。呼吸を通して外気とダイレクトに接する器官でもありますので、細菌やウイルスなどの病因に侵されることもしばしば……。
肺を出入りする空気の量は1分間で約8ℓ、一日でおよそ1万2000ℓにもおよぶとか。その中に、いったい何億個の病原体が含まれていることでしょう……。免疫の力に感謝するほかありませんね。
あと肺は寒気や乾燥にも弱いため、秋から冬にかけて全体的な性能が低下する場合もあるのです。まさにそのころ風邪やインフルエンザが流行するのも必然ですね。
異物を排出するために「ブワッショイ!」と出てくるくしゃみの速度は、なんと160~320km/h。新型ハヤブサもビックリのスピードで口から飛び出す汚れた気体は、マスクでしっかり受け止めることといたしましょう。

●マスクもせず、手で口を覆うこともせず盛大に射出されたくしゃみの飛沫は、最大8mほどの距離まで拡散されることもあるとか……
ノーマスクで吐き散らかすことはキャタライザー(排ガスを清浄する触媒)やサイレンサー(消音器)のない状態でバイクを走らすようなもの。大迷惑なことは間違いなく、セチガライこのご時世、無用なトラブルに巻き込まれてしまいかねませんよ……。
ゆっくりとした深い息でリラックス!
前回でも述べましたが心臓の拍動と違って、肺の呼吸は自らの意思である程度コントロールができます。息の吸い方、吐き方を変える健康法も星の数ほどございますが、総じてゆ~ったりとしたロ~ングな呼吸が肺を活性化させ、ひいては身体はもちろん精神まで元気になるとされています。

●鬼すら倒す「全集中の呼吸」ほか(?)世の中には多種多様な呼吸法がありますが、しなやかな筋肉の実現も同時に行いたいならオススメなのが太極拳。ゆったりとした動作や体重移動は足腰を鍛錬するとともにバランス感覚まで養ってくれるのです
長い息は長生きの秘訣!
このことを忘れず健康を維持し、いつまでもライディングを楽しみましょう。(肺編:終わり)

●前編で紹介した手の太陰肺経の中でも「尺沢(しゃくたく)」は、せきや鼻水、口の渇きなど風邪の症状をやわらげ、気分を整えつつ、ヒジの関節痛にまで効くとされる効果の高いツボ。手のひらを上にして腕を曲げたときヒジの内側にできる横ジワの上、外側の凹みがそれです。気が向いたら揉んだりセルフ灸をしてみてくださいね!
> 120歳まで乗り続けるために〈第16話〉「体の吸排気システム:肺(前編)」
> 120歳まで乗り続けるために〈第18話〉「体のメインフレーム:骨(前編)」
> 120歳まで乗り続けるために〈第19話〉「体のメインフレーム:骨(後編)」