バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は、車体のタイヤの構造を表す 『チューブレスタイヤ』だ。

そもそも 『チューブレスタイヤ』とは?

チューブレスタイヤ

チューブタイヤと 『チューブレスタイヤ』では内部構造が異なっており、 『チューブレスタイヤ』はタイヤそのものに密閉性や気密性が求められる。このため、誤用を防ぐ目的で「TUBELESS」仕様であることがサイドウォールに示されている。

 

“チューブ”“レス”、つまり“チューブ”が“無い”タイヤだからチューブレスタイヤ。チューブ入りのタイヤがもともとあって、そこから“チューブレス”化したタイヤという進化の経緯が名前から読み解ける。ちなみに『チューブレスタイヤ』とチューブタイヤを見分けるのは簡単で、ワイヤースポークホイールだったら“たいてい”チューブ式。キャストホイールや切削ホイールなどの金属ホイールだったら“ほぼ100%”『チューブレスタイヤ』だと思っていて間違いない。

キャストホイールや切削ホイールを採用する多くのバイクが『チューブレスタイヤ』仕様なのは、金属の無垢材は内部の気密性が保ちやすいから。つまり、チューブレスタイヤとはホイールのリム部分にタイヤのヘリを押し付けることで内部の気密性を保持。そこに接着剤や留め具などは使用しておらず、内部の圧力だけで圧着し、気密性を保っている。

TENERE700はチューブタイヤ

一方のワイヤースポークホイールは、リムの穴を通してワイヤースポークを固定するという構造から内部の気密性が保ちにくく、チューブレス化は難しい。別途、気密性の高い空気袋(チューブ)を内部に入れ、これを膨らませて空気圧を保持している。

『チューブレスタイヤ』のここがスゴイ!

①パンクに強い!

『チューブレスタイヤ』のバイクに乗っていて受ける最大の恩恵はコレである。決してパンクしにくいというわけではないのだが、よくある“釘の踏み抜き”などをしても『チューブレスタイヤ』なら大事にならないことが多い。というのも『チューブレスタイヤ』は、チューブ式のように別体の空気袋があるわけではないので、釘がタイヤを貫通するように刺さっても内部のチューブが一気に縮むことがなく、総じて空気が抜けにくい。

それどころか『チューブレスタイヤ』の場合、刺さった釘がそのまま“栓”の役割をして内部の気密性を保つようなパターンが多い。一気に空気が抜けないおかげで、むしろ釘が刺さったことすら気づかないことも多いくらいだ。「最近空気が減るのが早いな…」と思いながらガソリンスタンドで空気を補充しつつ点検したら釘が刺さっていた…なんてことはよくあることなのだ。つまり釘を踏んだところで、“抜かなければ”そのまま走れてしまう場合が多く、パンクに気づいた時点でお店に向かい、「パンク修理お願いします!」なんてことも可能なのだ。

ボルトを踏んだチューブレスタイヤ

釘を踏み抜いた『チューブレスタイヤ』。エア漏れが極端に少ない場合が多く、気付かずに走る続けてしまうことが多い。ポイントは釘に気付いてもいきなり抜かないこと。釘が栓の役割をしており、抜くと一気に空気が抜けてしまうことが多い。パンク修理の準備が整ったり、お店に運んでから抜くのが吉だ。

 

ところがチューブ式だとこうはいかない。小さな穴でも一気に空気が抜けてしまうチューブ式は、パンクを起こせばその場で自走が困難になる。レッドバロンユーザーや、ロードサービス付帯の保険加入者ならその場でロードサービスが呼べるので問題ないが、そうでない場合は自分で修理したり、レッカーを呼ぶことになる。なので、チューブ式タイヤのバイクオーナーは出先でのパンクに非常にナーバス。とくに山奥や林道など辺鄙な場所を旅をするオフロードライダーの多くは、“もしものため”にとパンク修理キットを持ち運ぶことが多い。

②パンク応急処置&修理がラク!

チューブレスタイヤはパンクすると一気に空気が抜けてしまう

チューブタイヤはパンクするとその瞬間に一気に空気が抜けてしまう。そのままの状態で走るとズルズル滑って危ないのはもちろんだが、内部のチューブも潰されたりでぼろぼろになってしまうので自走が難しいのだ。写真は、チューブタイヤ化したKTMの1050アドベンチャーで5寸釘を踏み抜いて途方に暮れている筆者。

 

またパンク後に自身で行う応急処置に関しても『チューブレスタイヤ』に大きなアドバンテージがある。応急処置の工程をまとめてみると…、

①ガソリンスタンドなどのエアポンプのある場所まで自走。
②釘を抜いて応急処置(もしくはお店でしてもらう)。
③空気を入れる。

の3ステップで完了する。

チューブレスタイヤの応急処置

『チューブレスタイヤ』の場合、タイヤをバイクから外す必要がなく、釘を抜いてグリグリと施工するだけで、慣れれば作業に5分もかからない。パンク修理キットはエーモン工業のもの。

 

ところがチューブ式の場合そもそも自走できないので、前提条件としてその場で応急処置をする場合には修理道具に加え、エアポンプを持っている必要がある。また応急処置の工程に関しても、内部のチューブを取り出して処置する必要があるため、

①バイクから車輪を外す。
②ホイールとタイヤの間からチューブを取り出す。
③チューブを交換、もしくはパッチを当てて補修。
④チューブを戻して空気を入れる。
⑤バイクに車輪を取り付ける。

…と工程が一気に増える。世の中には「瞬間パンク修理剤」なんてものもあるし、何度も使ったことがあるが、正直ちゃんと修理ができる場所へ騙し騙し移動するための緊急手段といった感じで、応急処置にもならないのが現状だ。

チューブタイヤのパンク修理

チューブタイヤのパンク修理はチューブを取り出す必要があるため工程が多い。写真はヤマハのWR250Rのリヤタイヤ。

 

瞬間パンク修理剤

瞬間パンク修理剤は、使った直後は多少空気圧が上がる。…しかし、走ればすぐに抜けてしまう場合が多い。走っては充填→走っては充填を繰り返してなんとか修理できる場所へたどり着くイメージだ。

 

 あえて言うなら『チューブレスタイヤ』のここがイマイチ

というワケで現代のバイクは“特別な理由”がないかぎり、使い勝手のいいチューブレスタイヤにするのが主流。だが、まだチューブ式のタイヤが現代のバイクにも採用されるのにはそれなりの理由がある。

“特別な理由”の第一はファッション。外見的な要素としてスポークホイールを使いたいということである。クラシカルなモデルには、やっぱりキャストホイールよりもスポークホイールの方がよく似合うもの。ファッションは時として実用性よりも優先されるというわけだ。

“特別な理由”の第二はクッション性。キャストホイールよりも柔軟性が高く衝撃吸収性に優れるスポークホイールを機能パーツとして使いたいオフロードバイクなどは、まだまだチューブ式タイヤを採用することが多い。ただ困ったことに、オフロードバイクが好んで走るようなフィールドは山奥であることが多い。起こるとその場で走れなくなってしまうチューブタイヤのパンクはオフロードライダーにとってかなり悩みの種。なのでオフロードライダーの多くは、パンク修理の技術を身につけ、重たい工具や修理キットを持って走る事になる。

またオフロード走行に関して言えば、チューブタイヤは空気圧をかなり落とすことでタイヤを変形しやすくしてグリップ力を上げることも可能だ。というのも、『チューブレスタイヤ』の場合空気圧を抜いて走っているときに大きな衝撃を受けて“リム打ち”してリムを曲げてしまったら機密性が保てなくなりそこで自走困難となる。しかしチューブタイヤならリムが変形してもチューブさえ無事なら空気が抜けることはない。もし、リム打ちでパンクしたところでパンクさえ直せれば再び走り出せるのだ。『チューブレスタイヤ』の限界が概ね1.8kgf/cm²くらいなのに対して、チューブ式タイヤは1kgf/cm²以下にして走ることもあるくらい。オフロード性能が高いアドベンチャーバイクがチューブタイヤをあえて採用するのは、リム打ちによる自走困難を回避する意味もあったりする。

とはいえパンク修理レベルのトラブルなら、『チューブレスタイヤ』の方が有利と、最近流行りのアドベンチャーバイクの中には、ツーリング性能とオフロード性能アップの観点から、ワイヤースポークホイールでありながらリムの縁にスポークを通したり、内部構造の工夫で『チューブレスタイヤ』化しているモデルもある。これは、パンクに強い『チューブレスタイヤ』と、オフロード性能に優れるワイヤースポークホイールの折衷案というわけである。

スズキのV-STROM650XT

『チューブレスタイヤ』のパンクへの強さと、ワイヤースポークホイールの衝撃吸収性のいいとこ取りするため、リムの内側にフチを設けてそこにスポークを引っ掛けてチューブレス化している。写真はスズキのアドベンチャーバイク・Vストローム650XTのフロントタイヤ。

 

アプリリアのトゥアレグ660

写真は、アドベンチャーモデルの中でも非常に高いオフロード性能を有するアプリリアのトゥアレグ660のリヤタイヤ。「クロススポーク」と呼ばれるチューブレスタイヤ対応のリム構造を採用。ホイールの縁にワイヤースポークを引っ掛けて内部をチューブレス化している。

 

 

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