バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。今回は、最新の電子制御満載の高性能バイクでよく耳にする『IMU』だ。

BOSCH製の6軸IMU

KTMやBMWをはじめ、ホンダやスズキなども採用するのがドイツのBOSCH社製の6軸IMU。ものすごい装置だが大きさは中心の基盤部分が500円玉くらいと、非常に小さいパーツである。

そもそも『IMU』とは?

読み方はそのままアイ・エム・ユーで、略さず書くならInertial Measurement Unitとなり、読み方はイナーシャル・メジャーメント・ユニット。日本語にすると、そのまま直訳で慣性計測装置となる。

…っていきなり超難しいねぇ。僕流にスーパーざっくり解説させてもらうと、スマートフォンを傾けたときに縦横画面表示を切り替えるセンサー。アレのスーパーハイグレード版みたいなものがバイクに搭載される6軸IMUだと思ってもらって間違いない。でもってその役割は、人間で言うところの三半規管にあたる。

耳の奥にある三半規管は、言うまでもなく平衡感覚を司る器官だ。人間がふらつかずに歩けるのもこの三半規管のおかげ。そもそもバイクという乗り物は、ライダーがバイクの上でバランスをとりながら走る乗り物。三半規管はもちろん、視覚や触覚などをフル動員してバイクの動きをライダーが感じ取り、それを運転にフィードバックしている。そんな三半規管の代わりとなるような装置をバイクに積んでしまったら何が起きたか? これがとてつもない進化を遂げることになったのである。

似たような装置にリーンアングルセンサーがあるが、こちらが計測できるのは“傾き”のみ。バイクがどのくらいの角度まで寝ているかだけで、どう進んでいるかの加速度のセンシングはしていない。つまり、リーンアングルセンサーでは同じ45°バイクが傾いていた状態だとしても、“コーナリング中で前に進んでいるのか”、“カウンタースライドして斜め前に進んでいるのか”の区別は付けられないというわけだ。

V-STROM1050XT

6軸IMUの“6軸”とは前後左右上下の方向と、それぞれの回転軸のピッチとロールとヨー…、まぁ難しいことは考えずに“全方向対応型”のIMUだと思っていれば間違いない。以前は5軸IMUもあったが、6軸目を他の5軸のデータから算出していたので効能は変わらない。ただ5軸IMUには搭載位置や取り付け角度に制限があった。

『IMU』のここがスゴイ!

バイクのリアルタイムの動きを完全把握

…あまりピンとこないかもしれないが、これは実はすごいことなのだ。バイクがどういう姿勢で、どの方向へ、どのくらいの速度で進んでいるか? つまり、バイクがどのくらいの速度で直進しているのか? コーナリングしているのか? どのくらいバイクが寝ているか?といったことが正確に把握できれば、そのリアルタイムの走行状況に合わせた電子制御介入が入れられるようになる。

PAN AMERICA1250Special

IMUは、走行中のバイクの動きをリアルタイムで観測。どのくらいの速度で直進なのか、コーナリング中なのか? はたまたカウンタースライドなのか? を感じ取り、そのデータを電子制御介入に生かしている。ハーレーダビッドソンのパンアメリカ1250スペシャルは、BOSCH社製の6軸IMUを搭載。

 

まだピンとこないよね。そこでブレーキのかけすぎによるロックを防ぐABSを例にあげて説明してみよう。IMUを搭載してないバイクのABSは、直線だろうがコーナリング中だろうが通り一辺倒の介入しか行わない。次にリーンアングルセンサーを搭載したバイクは、バイクが直進しているのか? 曲がっているのか?を判断してABSの介入具合を「直線用」と「コーナリング用」で切り替える。

さてIMU付きのバイクはというと…、バイクが直進しているのか? 曲がっているのか?の判断はもちろんだが、なんとその介入具合を速度やバンク角に合わせて変更してくる。“直線だからがっつり介入させましょう!”とか、“コーナリング中でスピードも結構出てるんで介入はこのくらいにしておきますね!”…なんて具合にバイクが勝手に手心を加えてくれるのだ。

さらにIMUは、前後のタイヤの荷重のかかり具合(ピッチングモーション)や、ABSの作動による姿勢変化までセンシングしているのでその制御のきめ細やかさはものすごいことになる。

ヤマハの新型6軸IMU

BOSCH社やコンチネンタル社など他社製IMUを使うバイクメーカーが多い中で、ヤマハはこの電子制御におけるキーデバイスを2015年のYZF-R1以来自社で開発している。新型MT-09に搭載された6軸IMUは、2015当時のものに比べ50%の小型化と40%の軽量化に成功した。

 

2015年のYZF-R1に搭載されたヤマハの6軸IMU

ヤマハが村田製作所と共同開発して2015年のYZF-R1に搭載した初期型の6軸IMU。BOSCH社製のものより大きく重そうだが、当時はBOSCH社製のIMUがまだ5軸タイプであったこともあり非常に注目を集めた。こんなキーデバイスを自社開発するヤマハの姿勢がすごい。

 

では、どれくらい緻密な制御を行っているか? ここでちょっとコーナリング中にフロントブレーキをかけたときのバイクの挙動を想像して欲しい。もちろんかけすぎれば、フロントタイヤがロックしてスリップダウン転倒してしまうのは容易に想像できるハズだ。

では次にスリップダウンしない程度に強めブレーキをかけた場合はどうだろう? バイク経験の長いライダーなら、フロントブレーキによって寝ていたマシンがクッと立ち上がるような挙動を起こすことを感じたことはないだろうか? これが実際のコーナリング中に起きると、もともとの走行ラインを維持できず、ラインが外側へとふくらむ事になる。そんなところに運悪く対向車がやってきてしまったら…。もう想像するだけで恐ろしい。

ところがである。IMUを搭載し、コーナリング対応のABSを備えたバイクはそうはならない。BOSCH社ではこの機能をMSC(モーターサイクル・スタビリティ・コントロール)と呼んでいるが、コーナリング中にライダーが咄嗟にがっつりブレーキレバーを握ってもバイクが起き上がってしまわないような制御をするようになっている。

『IMU』で高度化するバイクの電子制御 -モーターサイクルスタビリティコントロール(MSC)-

KTMのアドベンチャーシリーズは2014モデルで、市販車としては初めてIMU(5軸)を採用。IMUとABSが連動してマシンの姿勢を制御するBOSCH社製のMSC(モーターサイクルスタビリティコントロール)という機能を搭載した。プレス関係者向けの試乗会がサーキットで行われたことをいいことに、“本当にそんなことがありうるのか?”と、コーナリング中にブレーキガン握り&ガン踏みしてみた。詳しくは当時のレポートを読んでほしいが、タイヤがロックしてスリップダウン転倒することもなければ、マシンが起き上がってラインが膨らむこともなかった。只々、バイクはバンク角をキープしたまま減速していったのである。

しかも、このIMUがセンシングしたデータを活用する電子制御システムはブレーキ系のABSだけにとどまらない。エンジン出力を制御するトラクションコントロールや、車体姿勢を司る電子制御サスペンションも、“バイクのリアルタイムの状況”を把握してそれに合わせた繊細な制御を入れてくるようになっている。IMUを得たことでバイクの電子制御システムは安全技術の枠を超越し、もはや“アクロバティックなアクションのための技術”として成長しつつある。それらの話も長くなりそうなのでまた別の機会に。

 

 

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