バイクのインプレッション記事やバイク乗り同士の会話で出てくるバイク専門用語。よく使われる言葉だけど、イマイチよくわからないんだよね…。「そもそもそれって何がどう凄いの? なんでいいの?」…なんてことは今更聞けないし。そんなキーワードをわかりやすく解説していくこのコーナー。数回にわたって電子制御システム『トラクションコントロールシステム』の進化を紹介しており、今回はその2回目。フューエルインジェクション(FI)得て進化した“転倒を防ぐ安全装置としての『トラクションコントロールシステム』”を解説しよう。

雨に濡れたマンホールは滑りやすい

『トラクションコントロールシステム』がその効果を発揮するのは雨に濡れたマンホールなど、滑りやすい路面を通過する時。『トラクションコントロールシステム』を搭載したバイクでスロットルを開けたまま、濡れたマンホールの上を通過しても後輪が急に空転することがないので安心して走ることができるのだ。

点火タイミング&FI連動の『トラクションコントロールシステム』

ホンダのコンパクトスクーターPCXシリーズ

ホンダのコンパクトスクーターPCXシリーズは2020年のモデルチェンジで『トラクションコントロールシステム』を導入。軽二輪クラスのPCX160はともかく、原付二種125ccクラスのPCXまで『トラクションコントロールシステム』が搭載される時代が来るとは…

 

2000年代後半、排出ガス規制の強化でバイクはそれまで多くのモデルが採用していたキャブレター式の燃料供給から、フューエルインジェクションへと一気に切り替わった。フューエルインジェクションはポンプで圧力をかけたガソリンをインジェクターで噴霧して混合気を作る燃料供給装置で、キャブレターとの一番の大きな違いは電子制御式により“必要な量のガソリンを必要な時に吹くことができる”ということだ。

このため気温や標高、エンジン回転数合わせて燃料の濃度(空燃比)を変えたり、エンジンブレーキ使用時にはガソリンの供給をストップするといったことが可能。おかげで負圧でガソリンを吸い出すキャブレターに比べて飛躍的に燃焼効率が良くなり排気ガスがクリーン化。“濃すぎ”、“垂れ流し”といった無駄がなくなったことで燃費も格段によくなっている。

その一方で『トラクションコントロールシステム』も大きく進化することになった。それまでの点火タイミングのコントロールに加えて、燃料の噴射が電子制御になったことで燃料噴射量のコントロールが積極的に行えるようになったからだ。燃料噴射量を減らしたりストップしたりできるようになったことで、点火プラグも点火タイミングを遅らせるだけでなく、そもそも“点火せずにエンジンの駆動を完全に切る”ことができるようになった。

この“点火タイミング”と“燃料噴射量”で制御する方式は、“スロットルの開けすぎによるスリップ転倒を防ぐ”『トラクションコントロールシステム』として現代のバイクでは最も普及しており、大型モデルはもちろんだが小排気量スクーターにまで搭載されるようになってきた。

Hondaセレクタブル トルク コントロール(HSTC)の概念図

ホンダ・PCXの『トラクションコントロールシステム』の概念図。“前後輪の車輪速センサーとスロットルポジションセンサーからの信号をもとに、燃料噴射量制御を行うことでエンジントルクを制御し後輪のスリップを抑制している”ことを表している。 ちなみにホンダでは『トラクションコントロールシステム』を「Honda セレクタブル トルク コントロール(HSTC)」と呼称している。

 

この“スロットルの開けすぎによるスリップ転倒を防ぐ”『トラクションコントロールシステム』が介入したときのフィーリングは、ガス欠時などに起こるエンジンストールやレブリミッターが効いた時の状況とよく似ている。スロットルを開け続けているのに“ハイそこまでっ!”と言わんばかりにエンジンの回転が「ンブブッ…」と抑えられて失速。そしてタイヤのグリップが回復すると再び加速するという感じ。滑りやすい路面でスロットルを開け続けていれば、失速と加速を繰り返してギクシャクするような挙動が出るのが特徴だ。

とは言え、濡れたマンホールや砂の浮いた場所を通過する場合には効果てきめん! 恐る恐る通過していたこれらの滑りやすい場所を普通に通過。慣れてくればスロットルを開けていられるようにすらなる。 『トラクションコントロールシステム』はフューエルインジェクションを得たことでABSと並ぶ安全装置へと進化したのだ。

 

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