バイクの始動方式について

 突然ですが、バイクのエンジンって、みなさんはどのようにして始動しますか? ほとんどの人の場合、メインスイッチでイグニッションをON(電源を入れ)にし、ハンドル右にあるスターターボタンを押すという流れではないでしょうか。


 旧いオートバイやヤマハ『SR』のような単気筒モデル、あるいはオフロード車などではキックスタートというのもあると思います。

エンジン始動はキックのみ。カワサキW1SA(1971年式)。

▲エンジン始動はキックのみ。カワサキW1SA(1971年式)。

 ボクの愛車の1台、カワサキ『W1SA』(1971年式)もまたセルスターターは搭載しておらず、エンジン始動はキックスタートのみです。また、長らく所有してきた競技用モトクロッサーたちも、2ストロークモデルはもちろん、4ストロークエンジンになってからもキックオンリーでした。

キックスターターに方式の違いがある!?

 じつはあまり知られていないかもしれませんが、『SR』と『W1』のキック式スタートには異なる点があります。『SR』は“プライマリーキック”、『W1』や『W3』は“セカンダリー式”なのです。

キックスタート。写真はカワサキ650RS(1973年)。

▲キックスタート。写真はカワサキ650RS(1973年)。

 というハナシはさておき、キックスタートとは無縁のライダーの中には苦手意識があったり、そもそもよくわからないという人も少なからずいるようです。

 というわけで、今回はキックスタートのハナシをしたいと思います。

目的はクランキング!

 電動モーターを用いるセルスターターにせよ、キック始動にせよ、いずれもエンジンのクランクシャフトを強制的に回転させて、シリンダー内のピストンを上下運動させる「クランキング」が目的です。

エンジンスターターに、セルフ/キック併用式を採用するホンダ スーパーカブ50。

▲エンジンスターターに、セル/キック併用式を採用するホンダ スーパーカブ50。画像提供:ホンダモーターサイクルジャパン

 小排気量エンジンでのクランキングは容易く、軽くキックすれば拍子抜けするほど、すぐにエンジンがかかります。しかし大きな排気量、ビッグボアになるとそれなりの要領、コツが必要だったりします。

 手順を追って説明すると、ギヤはニュートラル。イグニッションがONであるかを確認することは欠かせません。

 キックペダルを軽く踏み、重くなる位置が圧縮上死点ですので、そこで一旦ペダルを戻し、上から体重をかけて一気にペダルを踏み下ろします。

 というのがキホンで、圧縮比の高いエンジンでは、排気弁を少しだけ開けて圧縮空気を抜くデコンプ機構が備わります。

デコンプってナンダ?

 ビッグボアエンジンなど圧縮比の高いエンジンでは、キックペダルを踏み降ろす際に圧縮空気が大きな抵抗となってしまいます。その圧縮空気を抜き、抵抗を減らすのがデコンプの役割です。

 そのデコンプには、バルブリフターというカムをカムシャフトの横に設け、レバーと連動するワイヤーで作動させる手動式、キックアームの動きと連動する“オートデコンプ”の2種があります。


 よく知られているところでは、やはりロングセラーの人気モデル『SR』でしょう。デコンプレバーがハンドル左に備わり、そのレバーを引くと排気バルブが少し開き燃焼室の圧縮が弱まり、キックペダルが軽く動き、ピストン位置を“最適な位置”にもっていけます。

“最適な位置”を知らせてくれるのが、エンジン右にあるインジケーターの窓から見えるマークで、銀色の目印が見えます。

 こうしたデコンプ機構のおかげで『SR』のキック始動はとても簡単。“ケッチン”をくらうことなく、非力な女性も「えいやっ!」と躊躇せず目一杯キックメダルを踏み降ろせばエンジンが始動できます。

始動手順が面倒なセカンダリー・キックスターター

惜しまれつつ生産終了となったヤマハSR400。オーナーにとって、キック始動は“目覚めの儀式”として、楽しみのうちのひとつと言えるでしょう。

▲惜しまれつつ生産終了となったヤマハSR400。オーナーにとって、キック始動は“目覚めの儀式”として、楽しみのうちのひとつと言えるでしょう。画像提供:ヤマハ発動機

『SR』などでは「プライマリー・キックスターター」という方式が用いられています。キックペダルを踏み降ろすとドライブギアが回り、クラッチアウターに付いたプライマリードリブンギアに回転が伝わり、直接クランクシャフトを回します。

 一方で、より旧式のモデルでは「セカンダリー・キックスターター」方式が用いられています。キックペダルの回転力がトランスミッションのメインシャフトを経由してクランク側に伝わりますが、その時クラッチが繋がっている必要があります。クラッチが繋がっているということは、トランスミッションのギアが入っているとタイヤまで回転しますので、エンジン始動時はニュートラルでなければなりません。

 これが厄介でして、もし路上でエンストしたとき、ギヤをわざわざニュートラルへ入れ、それからキックしなければならないのです!(←オーナー悲痛の叫び)

ヤマハYA-1(1955年)画像提供:ヤマハ発動機

▲ヤマハYA-1(1955年)画像提供:ヤマハ発動機

「プライマリー・キックスターター」の優れる点は、ギヤが何速であろうがクラッチを切ればエンジンをすぐに始動させられることです。国産車で最初に採用したのは、1955年のヤマハ『YA-1』でした。ボクのカワサキ・W1シリーズは70年代半ばまで販売されていましたから、やはりかなり設計が旧かったと言わざる得ません。なんせ、ルーツはメグロにありますからね。

 もし興味がありましたらは、ボクの著書である『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』をご覧ください。(←宣伝かいっ!) 

 そして最後に、衝撃映像をどうぞ。なんとびっくり、カワサキ『650RS W3』のエンジンを“お尻”でスタートさせてしまう“名人芸”です。ぜひお見逃しなく!!

 

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