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タンクが空になってしまったら悲惨……
「オレ、ガソリンのツンとした匂いが嫌いなんだよねぇ~。だから愛車には絶対にガソリンを入れないんだ!」というライダーはいないはずです(笑)。
ごくごく一部の電動バイク&スクーターやディーゼルエンジン搭載車を除き、バイクはガソリンを燃料にして走るもの。燃料タンクが空になってしまったら、さっきまで峠を蝶のごとく走り、自分と大量の荷物とを100km/h以上で高速移動させてくれていた頼もしき相棒も、ただのクソ重たい鉄とアルミと樹脂とゴムのカタマリになってしまうのです。
海の上にあるオイルロードが日本の生命線!?
そんなガソリンは地底深くから苦労して取り出した太古の生物の慣れの果ててある“原油”から作られている……ことは前回述べたとおり。
残念ながら我が国での産出量は微々たるものですので、現在は主に中東地域の国々から主に購入し、載貨重量30万トンクラス!という超巨大なタンカーを何隻も使って日々粛々と運び込んでいるのです。
アラビア湾を出たあとホルムズ海峡やマラッカ海峡といった難所をくぐり抜け、約1万2000kmにも及ぶ海の“オイルロード”を経た原油は北海道から九州まで全国21カ所にある製油所で常圧蒸留されていきます。
その能力は合計で345万7800バレル/日(2020年10月末現在。石油連盟HPより)。ちなみに「バレル」とは原油や石油類を計量する容積の単位で1バレルは約158.9ℓですので、この数値を我々になじみの深いリットルで換算すると、日本にある全製油所では1日当たり原油を54億9444万4200ℓ処理することが可能だということ。……途方もない量なので逆にワケが分からなくなってしまいました(笑)。
蒸留……理科の実験を思い出してみてください
と、いってもガソリンだけが1日約55億ℓ生み出されているわけではありません。先ほどサラリと「常圧蒸留」という言葉を挟み入れましたが、そうなのです。原油は製油所の加熱炉で350℃以上という高温にあたためられ、高さ50mにもなる「常圧蒸留装置」という塔へと送られます。
すると沸点の低い、揮発性の高い物質ほど塔の上のところで取り出されるという仕組み。大まかに言って塔の天井からはLPガスが、35~180℃ラインにある棚には我らがガソリンやナフサが……。
以下、170~250℃ゾーンから灯油やジェット燃料、240~350℃の部分から軽油が抽出され、高温でも気化しないドロドロの部分から重油やアスファルトを回収するという具合。そこからまた様々な装置で硫黄などの不純物を取り除いていかなければならないため、我々がよくテレビなどで目にする製油所の風景には、複雑怪奇に入り組んだパイプや複数の塔、大小のタンクたちが映り込んでいるというわけです。
レギュラーとハイオクの違いとは?
なお、日本で売られているガソリンにはレギュラーとハイオクの2種類があり、国産車でもスーパースポーツモデルなどはハイオク指定されることが増えてきました。
かくいう2つのガソリンの区別は「オクタン価」によって決められています。実のところ常圧蒸留装置で取り出したばかりのピュアなガソリンは非常に燃えたがりで、仮にそのままエンジンに使うとピストンの上昇によって燃焼室内の圧力が高まるだけで、スパークプラグによる点火を待たず勝手に発火してしまい異常燃焼を誘発……俗に言う「ノッキング現象」と起こしてしまうのです。
「カリカリ」や「カラカラ」というドアをノックするような金属音が聞こえてくる状態はエンジンに大変な負荷がかかり、最悪の場合には壊れてしまうこともあります。
それを防ぐための添加剤がガソリンには加えられており、オクタン価とは異常燃焼の起こしにくさを示す値のことで、レギュラーはオクタン価89以上、ハイオクはオクタン価96以上であることが日本工業規格(JIS)で定められています。なお、多くのオーナーにとって気になる疑問、「ハイオク指定車にレギュラーを入れたらどうなる?」またその逆パターンについても、次回にお話することにいたしましょう。
愛車を動かすエネルギーに満ちた液体
誤解されている方もいるかもしれませんが(筆者も以前は……)、ハイオクはレギュラーより“よく燃える”のではなく、逆に“燃えにくい”ガソリンなのです。燃えにくい、つまり混合気になったときギュギュギュギュ~ッと小さく押し込められても異常燃焼を起こさないからこそ、ハイパワーを生み出すために高い圧縮比となっているスーパースポーツモデルなどにも対応できるというわけです。
大気と適切な割合で混ぜられることで,アナタが駆るエンジンのパワーを生み出してくれるガソリン。
自分のバイクやクルマに入れるとき、遠路はるばるやってきて沸騰させられ様々な処理や添加物注入を受けてきた艱難辛苦ぶりに少しは思いを馳せてみてください!