既存のホンダ・CRF250L、CRF250ラリーだけでなく、2024年末にはカワサキからKLX230、KLX230シェルパが登場し、スズキからも久々の400ccクラストレールのDR-Z4Sが発表されるなど、にわかに盛り上がりつつあるバイクのジャンルがオフロードだ。ただこのオフロードバイク、いざ始めようとするとちょっとばかし特殊でエントリーユーザーにはわかりにくいことも多い。そこでオフロードバイク遊びをするためのハウツーを毎回少しずつ紹介していく本企画。今回はオフロードビギナー永遠の疑問であるタイヤの空気圧の話。
空気圧を下げることで滑りやすい路面にタイヤがグリップ!

タイヤ空気圧調整には空気圧を測るタイヤゲージが必要不可欠。ただいざ買おうとすると精度が高いが大きく高価なものや、精度はそこそこだが安くて携帯に便利なものなどいろいろあって迷ってしまう。オフロード遊びでは出先で空気圧を調整することが多いので、まずは携行しやすく軽量コンパクト、かつ転倒などで壊してしまっても惜しくない価格帯のものがオススメ。“空気を抜いて調節”するボタンが付いていると便利だ。
オフロード走行をする時、タイヤの空気圧を下げた方が走りやすくなる……、よく聞く話だがコレは本当。空気圧を下げるだけで難しく感じた路面が劇的に走りやすくなったりするのだ。そもそもバイクのタイヤ空気圧にはバイクメーカーが推奨する“車両指定空気圧”というものがあり、一人乗りで走る場合と、二人乗りや高速道路で走る場合に“前後タイヤの空気圧はこの値にしてください”という数値が決まっている。当然、オフロードバイクにも当然“車両指定空気圧”があり、一例がわりに僕が乗っているWR250Rの車両指定空気圧(冷間時)は、
1名乗車時(一般道&高速道路)
前輪:1.25kgf/cm2(125kPa) 後輪:1.75kgf/cm2(175kPa)
2名乗車時(一般道&高速道路)
前輪:1.50kgf/cm2(150kPa) 後輪:2.00kgf/cm2(200kPa)
となっている。僕の場合、二人乗りすることも考えて普段は高めの、前輪:1.50kgf/cm2、後輪:2.00kgf/cm2にしておき、がっつりダート林道などを走る際には“必要に応じて”空気圧を下げるようにしている。
どう“必要に応じて”なのか? これは走っていて「なんだか路面にタイヤがグリップしてないな?、不安だな……」と感じた時だ。この“不安だな?”というのが、いわゆるバイク雑誌などのインプレッションで見かける“グリップ”とか“接地感”というヤツで、タイヤの空気が抜けるとクッション性が上がるとともに接地面積が増え、路面の凹凸を柔らかく包み込むようにグリップするので、タイヤがスリップを起こしにくくなるというわけだ。基本的にタイヤの空気圧を低くすればするほどこの効果は高くなるので、不安を感じたら空気圧を下げればいいと思ってもらって間違いない。

オフロード走行のために空気圧を下げたら、再び舗装路を走る際には空気圧を高める必要がある。最近は充電式のスマートポンプなるものが発売されており、これがとっても便利。ダート林道までのアプローチに高速道路を使うようなツーリングではもはや必需品と言っていい。空気圧が測れ、もしもの場合にはパンク修理にも使える。
ただ、このオフロード走行での空気圧調整は“どれくらい抜くか”のサジ加減を教えるのが難しい。というのもライダーによって体重が異なり、タイヤのチョイスやサスペンションのセッティングでも接地感は大きく変わる。加えてオフロード走行では路面は走る場所や天候で激変し、各々の速度のレンジも千差万別。“これこれコウイウ状況では○○kgf/cm2まで落とそう”なんてことが一概に言い難い。色々試して自分の技術、速度域に合った走りやすい空気圧を肌感覚で身につけるしかない。
これはあくまで僕の場合だけど、チューブタイヤのオフロードバイクで未舗装路の林道に入る際には、まず前後の空気圧を1.25kgf/cm2(125kPa)くらいにする。それで走ってみて“まだちょっと滑り出しそうで不安だな……”なんて場合には前後の空気圧を1.0kgf/cm2(98.0kPa)くらいまで落とす。さらに“ヌタヌタのマディや深砂利でとにかく滑る……”なんて場合には0.8kgf/cm2(78.45kPa)。エンデューロレースやアタックツーリング的な遊びで難所を走る場合にはもっと下げることもある。ただ、これはあくまでビードストッパーを入れた250ccクラスのオフロードバイクの話。

タイヤのバルブ……のように見えるがこれがビードストッパー。リムとチューブの間に入れ、ナットで締め付けることでタイヤ縁であるビードをリムにロックして、リムとタイヤがズレてしまわないようにする。高いオフロード性能を追求したモデルのリムには、あらかじめこのビードストッパーのための穴が開けられているが、ないならバイクショップなどで穴を開けてもらい取り付けることになる。またエンデューロレーサーなど、あらかじめ低い空気圧で走ることを想定しているモデルには1つのリムに2コのビードストッパーが入っていることもある。
僕の個人的な肌感覚としては、ビードストッパーを入れていない250ccのオフロードバイクは、前後の空気圧を1.0kgf/cm2(98.0kPa)くらいまでが限度。またアドベンチャーバイクによくあるチューブレスリムの場合は、空気圧を下げすぎてビードが落ちたり、“リム打ち”するとめんどくさいことになるのでやはり1.0kgf/cm2(98.0kPa)くらいにとどめているという感じだ。
オフロードとはいえタイヤの空気を抜きすぎるとどんな不具合が起こる!?
基本的にタイヤの空気圧は抜けば抜くほどダートでの接地感が増し、スリップダウン転倒の不安がなくなると思っていいが、抜きすぎると今度はまた別のトラブルを誘発することになる。
空気圧が低過ぎた場合に起こるトラブルの代表例が“リム打ち”。岩や水切りの段差などを通過する際に進入速度が高かったり、重量車だったりするとタイヤが荷重に耐えられず大きく変形。文字通り、リムに“ガツン!”と直接衝撃を与えてしまうのが“リム打ち”だ。経験上0.8kgf/cm2(78.45kPa)くらいまでなら問題ないが、それ以上に空気圧を落とすような場合は、“極端に空気圧が低いことを肝に銘じて”穏やかに走るようにしている。なぜなら“リム打ち”が起こるのは主にフロントタイヤで、決まって速度が乗っている時。咄嗟に抜重することでうまく“リム打ち”を回避できることもあるが、それくらいの速度が出せるくらいなら、空気圧はもう少し上げておくべきなのだ。

運が悪いと写真のようにリムが変形してしまったり、チューブを噛み込んでパンクしてしまこともある“リム打ち”。ちなみにリムとビードで気密を保っているチューブレスホイールの場合、“リム打ち”してホイールが歪んでしまうと、そこから一気にエア漏れして修理不能になることもある。

チューブのないチューブレスタイヤは、“リム打ち”によるチューブの破損のしようがないのでより空気圧を落とすことができる……なんて考え方もあるが、強烈な“リム打ち”でリムが歪めてしまったらそもそも空気が入れられないなんて状況に陥る可能性も。後輪にのみチューブレスリムを装備する写真のセロー250ならともかく、フロントタイヤにチューブレスリムを装備しているアドベンチャーバイクの空気圧調整はほどほどにしよう。
前項で、“ビードストッパーを入れているチューブタイヤはさらに空気圧を落とすことができる”と説明させてもらった。では、もしビードストッパーを入れずにタイヤの空気圧を落としすぎると何が起きるか? その答えは“バルブもげ”だ。
空気圧を落とすと、当たり前だがタイヤのビードをリムに押し付けているチューブの圧力も低下する。そんな状態で、路面をかきむしるような強い駆動がかかったり、強いブレーキを行ったりすると?……ビードが落ちないまでも、リムが空転してタイヤが大きくずれてしまう。この時、チューブもタイヤと一緒にズレることになり、バルブまわりに負担がかかるのだ。

オフロードでは斜めになっているタイヤバルブをよく見かける。これはタイヤがずれることでチューブが引っ張られている証拠。少しぐらいずれたところで問題はないのだが(適時組み直して元の位置に戻すこと!)、空気圧を下げすぎてズレ……というか空転がひどいとバルブまわりのゴムが引きちぎれてしまう。また、オフロードバイクの場合、タイヤバルブにハマっているナットはしっかりリムまできっちり締め込まずにある程度緩めておくのが吉。こうすることで多少チューブが引っ張られてもバルブが斜めになることでチューブの負担を減らすことができるし、チューブが引っ張られていることをすぐ発見できるのだ。

先日、スパイクタイヤを履かせたスーパーカブ110PROで蔵王の圧雪路を楽しんできた。より派手なパワースライドするべくスロットルを開けて駆動をかけた瞬間“ポンッ!”と音がして後輪がパンク。“あっ、このバイクにはビードストッパー入れてなかった!!”と思い至ったが時すでに遅し。原因は完全に空気圧の落とし過ぎ。気温はマイナス10度ほどでチューブそのものが低温で硬化しているのを考慮に入れず、いつもの調子で“もっと、もっと!”と空気圧を下げたせいだ。

雪道でパンクさせたタイヤをばらしてみると見事に“バルブもげ”が発生していた。チューブ本体の穴あきとは違い、バルブ周りのパンクは修理ができないので、スペアのチューブを持っていないと走行不能に陥る。
というわけで、オフロードでのタイヤのエア抜きは薬にも毒にもなるということがご理解いただけただろうか? 冒頭でも書いたけど、タイムを競うレースならいざ知らずオフロード遊びでタイヤの空気圧をどれだけ抜くかは、もはや好みの問題。より空気圧を下げて安心したいという人がいる一方で、空気圧など下げなくてもスイスイ走れてしまう上手なライダーもいる。ただ、楽しめないほどの不安を感じるのなら、“リム打ち”や“バルブもげ”を起こすほどの極端なエア抜きはせず、少しずつ空気圧を下げて“安心して走ることができる”セッティングを探ってみるといいだろう。それに、もし極端に空気圧を落とさなければならないような状況に陥っても、“リム打ち”や“バルブもげ”を起こさないよう、手心を加えた走りを行い、路面コンディションがよくなったら面倒がらずに再度空気を入れればいいだけの話なのだ。
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