緊張は悪いだけのものではないけれど
例えば、初めてサーキット走行会に参加したとしましょう。
先輩に誘われ右も左もわからないままピットまで到着したのはいいとして、心臓はバクバク状態になっているはず。すでに周回を開始しているフリー走行のグループは、自分と同じようなバイクとは思えない速度でコース上を爆走中だったりします。
気圧された状態で頭に浮かぶことといえば、やはりネガティブなこと。転倒したらどうしよう、あんまり遅くて他の人の迷惑になったらどうしよう、ケガをして明日から仕事や勉強ができなくなったらどうしよう、いやいやいや、万が一にも昇天してしまったらどうしよう……。
平常心を取り戻す身体側からのアプローチ
もちろん最悪の事態が起こる可能性が絶対にゼロだとは、誰ひとりとして断言はできません。しかし、心がうわずって正常な判断力がつかないままの状態でコースインしてしまうと、普通でいたなら近づいてこないはずのアクシデントまで呼び込んでしまいがちです。まずは、落ち着きましょう。
ツボは体だけでなく心にまでつながる
とはいえ、心の中だけで「落ち着けぇ、落ち着けぇ」と繰り返しとなえても、なかなかうまくはいかないもの。そんなときは心と体がつながっていることを思い出して、まずはゆっくり深呼吸を10数回、かつストレスを軽減することが広く知られている、手の親指の骨と人差し指の骨が合流するところにある万能のツボ「合谷(ごうこく)」をイタ気持ちいい強さでクイクイクイと揉みほぐしていけば、頭にのぼった血もス~ッと引いていきます。
この「合谷」なのですが、少しだけ専門的なことを申しますと「手の陽明大腸経(ようめいだいちょうけい:大腸そして肺と深い関係があるとされる)」という経絡の原穴(原気【元気】が多く集まる重要なツボ)です。
……今、サラッと流しましたが私と同じく北斗の拳に人生の一時期を捧げた人間にとってはピクッとくる言葉があったはず。そう、「経絡」という言葉がここで出てきました。
経絡秘孔……謎めいた響きにメロメロ
ケンシロウ、ラオウ、トキらのキャラクターが何度となく口にした「経絡秘孔(けいらくひこう)」という言葉を意味も分からないまま覚え込み「あたたたたたたた!」と叫びつつ友人に貫き手突きしたあとの決めゼリフとして使った恥ずかしい過去がアナタにもあると信じて書き進めます。「何のこっちゃ?」なヤング諸君は動画サイトなどで確認をしていただけると幸い。いい時代になりましたネ(笑)。
さて「経絡」とは東洋医学にとって非常に重要な概念で、「気」そして「血(けつ)」の通り道とされています。以前の回で「気という生体エネルギーは、バイクで言うとハーネスのようなものを巡っている」と表現しましたが、まさにそちらが経絡だとも言えます。
身体の表面にある皮膚の上から深いところにある臓腑までがつながっており、主なルートは14本だとされています。
それぞれが特定の臓器と密接な関係がありまして、前述のとおり合谷の存在する経路の名前が「手の陽明大腸経」だということ。ちなみに大腸経の道筋は人差し指の先から始まって腕を通っていき、肩と首、唇の上を経て鼻の横までで、かくいう経路の上に合谷を含めて合計20個のツボが存在しています。
体をリモートでコントロールできる!
臓器が不調になったときは、それと関連する経絡上のツボも硬くなったり、押すと痛さを感じたりといった異変を生じるため、この関係を利用して連結している臓腑の調子をチェックしたり、逆に皮膚上のツボに刺激を与えることで、体の奥にある内臓類の不具合改善を目指せたりできるのです。
大ざっぱではありますがセルボタンをツボと考えると、押すことで車両の奥深くにあるバッテリーのエネルギーを利用でき、エンジンの始動まで行えてしまいますよね。同様のツボがアナタの身体にも多数備わっているのです。そう考えると途轍もない面白さを感じてきませんか?
なお、現実には「あたぁ!」と押したからといって「うわらば!」と肉体が破裂してしまうような秘孔は存在しません。ツボ、そして経絡は健康で楽しい生活のために活用いたしましょう(^_^)v
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