既存のホンダ・CRF250LCRF250ラリーだけでなく、2024年末にはカワサキからKLX230KLX230シェルパが登場し、スズキからも久々の400ccクラストレールのDR-Z4Sが発表されるなど、にわかに盛り上がりつつあるバイクのジャンルがオフロードだ。ただこのオフロードバイク、いざ始めようとするとちょっとばかし特殊でエントリーユーザーにはわかりにくいことも多い。そこでオフロードバイク遊びをするためのハウツーを毎回少しずつ紹介していく本企画。今回はオフロードバイクの多くが採用する湿式エアクリーナーフィルター(エアクリーナーエレメント)を深掘りしてみよう!

KTMのエンデューロバイクのエアクリーナーボックスを開けてみたところ。スポンジのようなパーツが湿式のエアクリーナーフィルターで、緑色に見えるのは緑色のフィルターオイルが塗布されているからだ。

KTMのエンデューロバイクのエアクリーナーボックスを開けてみたところ。写真中央のスポンジ状のパーツが湿式のエアクリーナーフィルター。緑色に見えるのは緑色のフィルターオイルがまんべんなく塗布されているからで、このオイルが大気中のホコリや砂を絡め取る。エアクリーナーボックスは言ってみればヒトの肺にあたり、その容量やフレッシュエアの供給量がエンジンの出力特性を左右する重要なパーツだ。

オフロードバイクのエアクリーナーフィルターにはなぜ湿式が多いの!?

空気にガソリンを気化させた混合気を作り、それをシリンダーで燃焼させるエンジン。走行するバイクが取り込む大気にはホコリや砂、羽虫、植物の種などが混ざっており、それらをそのままエンジンが吸い込んでしまったら具合がよろしくなさそう……なんてことはなんとなく予想できるだろう。クリーンなフレッシュエアを作るために、大気中の雨や異物を濾し取るのがエアクリーナーフィルターであり、フレッシュエアを作る場所がエアクリーナーボックスというわけだ。

このエアクリーナーフィルターの様式にはいくつかの種類があり、現代のバイクで主流となっているのは“ビスカス式”と“湿式”だ。

ロードバイクによく使われる、不織布にオイルを染み込ませた“ビスカス式エアフィルター”。写真はスーパーカブ110のエアフィルターで、右が新品で左が使用済み。“ビスカス式エアフィルター”の場合、汚れたら交換するのが一般的だ。

ロードスポーツバイクによく使われる、不織布にオイルを染み込ませた“ビスカス式エアクリーナーフィルター”。写真はスーパーカブ110系のフィルターで、右が新品で左が使用済み。“ビスカス式エアクリーナーフィルター”は汚れたら交換する使い捨てタイプだがメンテナンスサイクルは湿式に比べて長い。また吸気抵抗に関してはスポンジフォームの湿式に比べると悪くなるというのが通説だ。

オフロードバイクにはスポンジフォームにオイルを染み込ませて使う“湿式エアフィルター”が多い。“湿式エアフィルター”はクリーニングして繰り返し使えるのが特徴。

オフロードバイクにはスポンジフォームにオイルを染み込ませて使う“湿式エアクリーナーフィルター”を採用するモデルが多い。“湿式エアフィルター”はビスカス式に比べるとメンテナンスサイクルは短くなるものの、吸気効率が良く、汚れてもクリーニングすれば繰り返し使うことができる。手前がKTM・フリーライド250R、左がヤマハ・テネレ700、奥がヤマハ・WR250Rのエアクリーナーフィルターで、クリーニングはそこそこ手間なのでいっぺんに洗うようにしている。

ロイヤルエンフィールドのディーゼルエンジンを積んだTURUS(タウラス)のエアクリーナーボックス(筒?)。ベースが汎用エンジンのためか、ブクブクと水タバコのようにオイルの中に空気を送り込むオイル濾過方式だったがこれも湿式といえば湿式か?

ちなみに、こちらはディーゼルエンジンを積んだロイヤルエンフィールド・TAURUS(タウラス)のエアクリーナーフィルター。ベースエンジンが発電機などに使う汎用エンジンだからなのか、エアクリーナーフィルターは水タバコのようにブクブクとオイルの中に空気を送り込むオイル濾過方式を採用していた。清掃はスチールウールに浸したオイルを取り替えるだけなので簡単そうだが、インドってそんなに空気が悪いの? とも思った。当然吸気効率はかなり悪いようでエンジンの吹け上がり方はかな〜りゆっくり。タウラス(牡牛座)の名前のとおり速くはないが中低回転域がものすごく力強い印象だった。

 

……と、ちょっと脱線気味ではじめてしまったがオフロードバイクに“湿式エアクリーナーフィルター”が多いのは、 端的に言えば“空気の汚れた場所をよく走るから”だ。舗装路ではないオフロードでは砂塵や砂埃が舞い、レースともなれば前走車が巻き上げた砂煙の中を走ることになる。当然、エアクリーナーフィルターには多くの異物が付着することになり目詰まりを起こす確率も高くなる。メンテナンスサイクルに関しても、ロードバイクのように走った距離で管理するというよりは走行状況に左右される。このため、オフロードバイクのエアクリーナーフィルターには“吸気効率がよくてパワーが出しやすく”、“任意のタイミングでクリーニングできる”湿式が多く採用されるというわけだ。

“多く”なんてまどろっこしい書き方をしたのは、ホンダのCRF250L/ラリーシリーズなど、同じオフロードバイクの中でもナンバー付きのトレールモデルの中には“ビスカス式エアクリーナーフィルター”を採用するモデルもあるから。誤解を恐れずに言えば、ビスカス式エアクリーナーフィルターを純正採用している時点で、“レーサーのような高いオフロード性能を追求していない”ということも読み取れてしまう。

“湿式エアクリーナーフィルター”はオイルの塗布具合でエンジン特性が激変する!?

筆者の所有しているヤマハのテネレ700はオフロードキャラ寄りのアドベンチャーバイク。日本仕様は“ビスカス式エアフィルター(左)”を採用している。社外品には“湿式エアフィルター”化するキットも多く出ており、汚れたら洗えるよう“湿式エアフィルター(右)”交換してみた。

筆者が乗っているヤマハのテネレ700はオフロードキャラ寄りのアドベンチャーバイク。日本仕様は“ビスカス式エアフィルター(左)”が純正採用されている。社外品には“湿式エアフィルター”化するキットも多く出ており、汚れたら自分で洗えるようUNI製“湿式エアフィルター(右)”に交換してみることにした。

 

仕事柄オフロードを走ることが多い僕のテネレ700。“汚れたら交換しなければならないビスカス式エアクリーナーフィルターではやってられん!”と、社外品の“湿式エアフィルター”に換装してみたのだが、面白いほどエンジンのキャラクターが変わったのだ。

個人的な感想で言えば交換した“湿式エアフィルター”にしたら明らかにエンジン特性がつまらなくなってしまった。スロットル操作に対するエンジンの吹け上がりは良くなったのだが、中低速域のエンジンの鼓動感が著しく減ってしまったのだ。これがレース車両であれば吹け上がりが鋭くパワフルな方が適解なのかもしれないが、僕にとってのアドベンチャーバイクはあくまで旅の道具。多少吹け上がりが悪くとも中低速域や巡航走行からの再加速では“ダハダハダハッ…”と強い鼓動を感じながら楽しく走らせたいのだ。

すぐに純正の“ビスカス式エアクリーナーフィルター”に戻そうかとも思ったのだが、よくよくフィルター観察してみると底面にフタがされている純正ビスカス式エアフィルターと全面がスポンジフォームの社外品の“湿式エアフィルター”では見るからに社外品の“湿式エアフィルター”の方が抵抗が少なくて吸気効率が良さそう。この吸気抵抗の違いがこのエンジンの過渡特性に大きく影響しているのが明白だったので、この際色々と試してみることにしたのだ。

底面にフタがされている純正パーツのビスカス式エアフィルター(左)、全面がスポンジフォームの社外品の湿式エアフィルター(右)。

底面にフタがされている純正ビスカス式エアクリーナーフィルター(左)、全面がスポンジフォームの社外品の湿式エアクリーナーフィルター(右)。明らかにビスカス式の方が空気抵抗が大きそうだ。

 

ならば!?  湿式エアクリーナーフィルターにオイルをさらに塗布して吸気抵抗を上げてみたらどうなるだろう!? 好奇心のおもむくままに試してみたところこれが僕的には大正解。フィルターオイルの塗布量を増やしていくと明らかに好みのエンジン特性に変わっていく。スロットルに対する吹け上がりは若干緩やかにはなるものの、極低速でのトルク感が増し、再加速時などで感じる“ダハダハ”というエンジン鼓動が強まったのだ。

調子に乗って始動時にエンジンのかかりが悪くなるくらいまでオイルを塗布してみたりしたが、結局エンジンのかかりが悪くならないギリギリのところが僕の好みということがわかった。具体的には、エンジンの過渡特性がマイルドになり、鼓動感が増したことでフロントアップやパワースライドする際のタイミングも掴みやすくなった。既に何度かフィルターのクリーニングをするくらい走っているが、エアクリーナーボックスがエンジンオイルを吸い上げている様子もなければ、極端に燃費が変化することもない。最近のフューエルインジェクションシステムの対応能力に驚くばかり。

とはいえ意図的にエアフィルターを詰まらせ気味にして吸気効率を悪くしているわけだから、この辺りはもはや好みの問題で推奨するつもりもない(笑)。ただ乗っているバイクが“湿式エアクリーナーフィルター”なら、フィルターオイルの塗布具合である程度スロットル操作に対する過渡特性が変わるということを覚えておいて損はないだろう。フィルターオイルの粘性によっても特性が変わったりするのでなかなか沼るのがエアクリーナーフィルターなのだ。次回はオフロードバイク乗りのスキルとして欠かせない“湿式エアクリーナーフィルター”のクリーニング方法を見ていこう!

 


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