生産終了したバイクの純正パーツは年を追うごとに入手しにくくなっている……。そこで大手バイク販売店のレッドバロンでは、本社工場に中古バイクを分解&リビルドする施設と、膨大なパーツをストックする専用スペースを設置。高品質な中古パーツを生み出すため、効率的に稼働している。本社工場に潜入して、その仕組みを解説してみた!

取材協力:ヤングマシン

3700車種超、76万点超の膨大なパーツはどのようにストックされているのか?

前編では、'07年に生産終了し、純正パーツの調達が困難になっているホーネットを試乗。部品が入手できず不調な車両と、レッドバロンで整備した完調車を乗り比べしてみた。

部品が生産終了した不調バイクに乗ってみた【レッドバロン「パーツ保証」の秘密を探る! 前編】

なぜ、新品の純正パーツが手に入りづらくなっているのに、レッドバロンはホーネットのコンディションを維持できるのか? それは愛知県岡崎市にある本社工場に高品質な中古パーツをストックしているからだ。同社では、様々な理由で販売が困難な中古バイクを集めてパーツごとに分解。それらのパーツを検品・クリーニングして、さらに部品の状態によっては修理や再生を施す「加修」によって高品質な中古パーツとして甦らせている。

年式など仕様別でカウントすると3700車種超。76万点超の膨大なパーツ数をストックしている。前述のホーネットは、これらのパーツを使って完調を維持。ホーネットのパーツはなんと5665個も在庫しており、過去1年間で1万374個出荷してユーザーを支えているという(在庫数は'23年3月現在)。

↑こちらがレッドバロン本社工場! 某大河ドラマで有名な愛知県岡崎市にあり、敷地面積は東京ドームのグラウンド約3個分=1万坪と広大だ。解体ラインのほか、「加修」工場、独自パーツの研究開発、全国の店舗から技術情報を集約している。■愛知県岡崎市藤川町字境松西1番地

綿密なチェック体制で的確にパーツを分解&収集!

どんな順番でパーツがストックされているのか見ていこう。

1 全国からバイクが集結

全国各地のレッドバロン店舗から、新旧国内外を問わず様々なダメージ車や不動車、パーツ単体が輸送されてくる。パーツを確保するために集められるバイクの数は膨大。筆者が見たところレアな車両やまだまだ走行できそうな車両もあって驚いた。

2 車両の状態をチェック

続いて点検を行う。修理や再生が必要なパーツと、そのまま使用可能なパーツを判別する。エンジンが始動する場合は、全店に設置される「コンピュータ総合診断機ACIDM(アシダム)」も活用される。

3 解体ラインで分解

各パーツの状態を判別してから解体。熟練サービスマンが専用機器を使い、たった50分で1台のバイクをパーツリストに掲載されている状態にまで解体する。

以前は年間1500台だったが、効率化によって年間3000台もの分解が可能になった。解体時間は現在50分だが、昔ながらの手法で作業した場合、3時間かかるというから、いかに効率的かわかる。エンジンの取り外しもレッドバロンが独自開発したロボットアームで楽々だ。

4 検品し、状態を判断

解体された部品は検品場へ。加修が必要な部品は加修工場(後述)に回される。ここで重要なのが品番の調査。同機種でも年式や仕向地で仕様が異なるので、40年以上にわたって同社が蓄積したパーツ情報を元に厳重にチェックしている。

5 パーツパレットで出番を待つ

パーツは車種ごとにパレットに保管される。その数は、年式など仕様別でカウントすると3700車種超。Z2のようなプレミア価格のメジャー旧車から、マイナーな絶版車までストックされており、パーツ点数は76万点超と膨大だ。ここにある部品だけで1台のバイクが再生できるほどの充実度で、将来は1万車種を目指すという。25年以上かけて中古パーツの確保に努めた結果、最長3年間、中古車にパーツ供給を含む修理体制を有償で維持する「パーツ保証」を付帯できる体制が整ったのだ。

なお、「パーツ保証」には、それぞれの車種固有のパーツ情報や整備情報が整っていることも重要。年間103万台('23年3月現在)もの整備実績から収集される情報を40年以上にわたって蓄積し、「US(ユニットサービス)データ」として全店に還元している。

↑車種ごとに分類してバーコードで管理されるため、在庫管理も容易。在庫情報は全国のレッドバロンと共有され、注文があれば最短で即日発送される。

職人技の加修でパーツをリビルド、修理費も抑えられる

入手困難なパーツは、貴重なだけに修理&再生することも大事。本社工場内にはパーツを再生する専門の部署を設置し、高い技術力と設備の数々によって、破損&劣化した部品でも修復可能なものは極力再生している。破損した部品をメーカー基準に沿って加修している。

加修は、ユーザーにとって修理費を安く抑えられるメリットもある。近頃は、車両の一部に破損がある場合、ユニットを丸ごと換える「アッセンブリー」での交換が常識。問題ない部分も含めての交換となるため、高額な部品代がかかってしまう。しかし同社の加修技術があれば、一部修理で済むのでコストダウンが可能。結果的に廃棄する部品が減り、エコでもあるのだ。

様々な技術や設備を駆使することで加修できるパーツは多々あるが、その一端を見学できた。

1 サスペンション:ダンパー効果を回復する!

まずはサスペンション。ある程度は分解可能なフロントフォークはまだしも、純正のリアサスは基本的に分解不可。しかし同社では高度な技術と独自設備でオーバーホールを実現している。車種によって構造は違うが、熟練したプロなら3分で完全に分解。ダンパーロッドの点サビなどは、再メッキ処理で対応する。

↑純正のリアサスは基本的に分解が困難だが、同社では高度な技術と独自の設備によりオーバーホールを可能としている。独自設計の治具でスプリングを外し、リザーバータンクのキャップを開口。圧入されたキャップを外す。

↑ハンマーで叩いてサークリップを除去し、ダンパーロッドを分離。本体のオイルを抜く。次はリザーバータンクのサークリップを取り、バンプラバーとオイルを抜く。

↑ダンパーロッドからピストンを外したら、エンド部にあるカシメをサンダーで削り、ピストンを抜き出す。

↑リアサスを分解した状態。続いてシールやオイルを交換した後、分解の逆行程で組み付け、最後に窒素ガスで加圧する。ほぼ新品の性能に回復可能だ。

↑レッドバロンでは独自のダンパーテスターまで開発している。これでダンパーの性能がきちんと出ているかチェック可能。伸縮のスピードを5回測定し、バラつきがなく、所定のデータ内に収まれば合格だ。


前編で試乗したNG車のホーネットはダンパーがスカスカだったが、その状態をサス単体でも体感できた。

スプリングを外し、ダンパーが抜けた状態のサスと、OH済みの正常な減衰力のサスが並べられ、体感できるコーナーが用意されていたのだ! 両者の違いは明白で、不具合のあるサスは腰がなく、スカスカ。単純にオイル漏れを修理するのではなく、ダンパー効果を回復することが重要と実感した。

↑こちらが本社工場内に用意されたサスの体験コーナー。

↑正常な方は入力初期から手応えがあるが、ダンパーが抜けた方はスカスカな押し心地だった。

2 キャブレター:摩耗する部品を独自に作製!

'90年代までのバイクの大半に採用される燃料供給システムがキャブレター。現行車はポンプで電気的に燃料を噴射するFIが主流で、不具合が発生したとしてもキャブの調整や修理ができるショップは激減している。

特に吸入空気量を調整するバタフライバルブが偏摩耗しやすく、すき間ができるとNG車のホーネットのようにエンジン不調の原因になる。しかしながら一般的に交換用の純正部品は存在しない。

そこでレッドバロンはバタフライバルブを自他で作製。車種ごとに口径が異なるため、修理依頼の多いモデルはあらかじめ作製してストックしたり、材質を摩耗しやすいアルミから頑丈な真鍮に置き換えたりするケースもある。

↑負圧を利用して混合気を作り、霧吹きのように燃焼室に送り込む装置がキャブレターだ。

↑薄い円形の金属板がバタフライバルブ。

↑ライトを照らして確認すると、右側の正常なバルブは密閉されているが、左側の摩耗したバルブは右横から光が漏れており、すき間がある。実際、微差圧計で測定すると、正常なバルブはほぼ密閉されているが、NGの方は空気を吸入していた。

 

↑キャブの一部が破損した場合、普通なら丸ごと交換になるが、同社なら再生可能。破損しやすい樹脂製の燃料吸入口を金属製に作り替えるなど、純正より耐久性を上げることも可能だ。

3 シート:表皮を貼り替え可能、カスタムもOKだ

シートは経年劣化などで表面が裂けてしまい、そこから水を含んでスポンジがダメになる場合も。レッドバロンでは表皮から製作しており、純正品と同様の見た目に再生可能だ。表皮を貼るのは難しく、職人ワザが光る。また、タックロール加工は高周波溶着機を用いるため、仕上げが美しく、浸水もない。

なお、筆者もシートの表皮張り付けを体験させてもらった。体重を乗せるようにエアタッカーをシートに押し付け、等間隔にステープル(針)を打ち込んでいくのだが、針が曲がったり、間隔がまばらになったり、表皮にシワが寄ったり・・・・・。これは難しい!

↑ホーネットのシート。表皮は均等にシワが寄らないよう中心を出しながら貼っていくのがプロだ。左側はNG、右側の加修品はほぼオリジナルの出来映え。

↑店舗に要望すれば、多彩な色や素材からカスタムOK。足着きを向上させるアンコ抜き、ゲルザブの内蔵なども可能だ。

↑カスタムの定番で旧車風の雰囲気を醸し出すタックロールシートも高周波溶着機で作成できる。表皮を溶かして段差をつくるため、縫製の穴が開かず、防水性が優秀。同様にダイヤ柄も作成可能だ。

4 塗装:キャンディなどの複雑なカラーも職人の技術で再現!

レッドバロンには全国に4つの塗装工場があり、本社工場もその1つ。店舗で販売する中古車向けと、一般ユーザーからの依頼で外装塗装を行う。

4輪と違い、2輪は純正色の配合データが公開されていないが、近頃は配合データを分析してくれるAI調色が普及し、精度も高くなった。しかし特定の塗装の再現は苦手。そこで専任の職人が自分の経験や技術に基づいて調色し、純正と同様のカラーを見事に再現している。

↑キャンディ色やメタリック、ラメを使った塗装は、AI調色では出せない。技術者が目で見て色やラメを足しながら、実際の色に近づける。中古車が経年で色褪せしていた場合、その車両に合う色味に調整するというからスゴイ。

↑カワサキおなじみのライムグリーンは、年式や車種によってこれだけの違いが。これらは全てデータとして残され、必要な際に活用される。

 

↑AI調色は、スキャンして色味を分析。ソリッドカラーなら90%ほどの精度で調色できるが、キャンディなどの塗装は苦手だ。

これほどのシステムがなければ絶版車を安心して乗れないかも・・・

パーツ保証における部品は、極力メーカー純正品を使用。同社でも欠品の場合は互換品や代替品を使う。これも確保できない場合、リサイクルパーツを使用し、ユーザーの要望に近付ける努力をしてくれる。

使えるパーツをムダにせず、再利用できる体制。そしてバイクが故障しても修理できる技術や設備を持つこと。どちらが欠けてもパーツ保証は実現できないと思った。

それにしても凄い体制だ。これだけのシステム構築と維持には、莫大な費用や手間が必要となる。しかし逆に言えば、これほどのシステムでなければ、絶版車に安心して乗り続けられないのが現状なのだ。

また、目先の売り上利益主義なら、どんな状態のバイクでも修理して販売するのがセオリー。しかし、レッドバロンでは「パーツ保証」体制を構築するべく、まだ走行できるバイクであってもパーツ確保のために敢えて分解することがあるという心意気がうれしい。

――さて、次回「後編」では、今回のシステムで完調状態を維持している様々な絶版車を試乗したい!

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